【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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51話 ?????

 目を開くと、何も無い。純白の部屋。風もなく。景色もなく、際限なく広がるセカイ。そこに一人、漆黒のフードを被った少年が一人。呆然と立っていた。

 

 

「こんばんは、こんにちは、おはよう。傍観者諸君。私は、キミ達にとってはアザーズ。彼にとってはユウだ。おや...傍観者と呼ばれるのは癪に触る?すまない、なにも責めるつもりはないのさ。挨拶は基本だからな。しようかと、そう思っただけだ。それにしても....既にこの物語はかなり進行している。もう、この物語を変えることは出来ないだろう。取り敢えず、主人公である。彼が居るうちは。

 だが、考えた事はないか?余りにも都合が良すぎると、こんな奇遇は現実ではあり得ないと。例えば、真っ暗で、光一つ刺さない洞窟の中で偶然歩いた方向に出口がある事。洞窟だぞ?当然、いくつもの道があったはず。しかし、彼は出口に到達した。もうしつこいほど見たと思うが、これは英雄の物語では無く、罪人の贖罪の物語。まるで神に守られているかのようなあんな偶然、起きると思うか?

 

 

 答えを教えよう。

 

 

 あり得ない。

 

 

 神の加護などある訳が無い。君たちが傍観して居るのはただ、運良く当たりくじを弾き続けている少年。もしかすると、どこかでは洞窟で死んだものが、あの百足の餌になったものが、勇儀に敵対と判断され殺された者がいたかも知れない。

 失礼、余談だったな。彼は遂に贖罪が果たせるかもしれないところまで来たラッキーな少年だ。

 しかし、一つ考えて見てほしい。

 英雄譚はハッピーエンドであるのが基本だ。いや、そうであるべきだ。当然だろう。何せ、英雄と呼ばれるものはそれだけの善行を積んでいるはずだからな。都合よく物語が進んでも、神の加護を受けているのだろうさ。だが、贖罪譚はどうだ...?ハッピーエンドを迎えられるとそう思うか?

 答えは恐らくノーだ。神は罪人には微笑まない。とれだけ罪を償おうと、どれだけ善行を積もうと、どれだけあがこうと。神はすべてを見ていらっしゃる。だがもしも、彼以外の全てが幸せに終わりを迎え。彼だけが不幸に終わったなら?」

 

 

 突然、フードの男は壊れた人形のように笑い出すと。咳払いをし、何事もなかったかのように何処からか現れた椅子に腰をかける。

 

 

「まぁ、神など。元からいない訳だが」

 

 

 男は苦笑すると手を合わせ、目を細める。

 

 

「失礼、神がいると信じている者がいたなら申し訳ない。だが、これまで一度でも神が人を救ったのを見た事があるだろうか?おっと、これ以上は様々な方面から攻撃を受けかねないのでね。やめておこう。私も敵はそう作りたくない。早く本題に移ろうか。

 

 昔話をするとしよう。

 あるところに、善良な市民の少年がいた。裕福な家庭で生まれ、妹と弟がいた。だがある日、その家に強盗が押し入り、友人と遊んでいて外出していた彼以外の家族を惨殺、それも机に臓器を並べ、風呂場に首を並べ、腕と足を縫い合わせるなどした果ての猟奇的殺人だった。幸運だったのは、彼が帰った時には家にはもう犯人はいなかった事。ただ、並べられ、結われ、食卓に飾られた家族の臓器を見ることになった。当然、少年の心は音も立てずに崩壊。発狂。視界が真紅に染まり、これまで抱いたことの無い感情が彼の脳を走る。

 殺したい。ころしたい。ころしたい。ころしたい。

 だが、彼は善人であった。心の何処かで、そんな事はしてはいけないと思っていた。罪人は法廷で裁かれるべきだと、そう考えていた。だが、机の上に「見てね♪」という添え書きと共にスマートフォンに録音されていた映像をみた後にそんな理性すら崩壊する。

 画面には宙に四肢を吊るされた妹と弟。どちらも恐怖に顔が歪み、泣き叫んでいる。その後ろでは腹を割かれ、真紅の体液を流し、動かない父親。犯人の足元には猿轡を被せられた母親が座らされている。そこからは惨劇だった。妹の服を破り、未だに小学生であった妹の身体を数人の男達が貪るように吸い、弄り、汚物を挿入。最後には弟を脅迫し、妹を犯させ。それを笑いながら鑑賞していた男達は最後に弟と妹の皮膚を生きたまま剥ぎ、四肢を切断、弟と妹の体をデタラメに縫い付けた。その一部始終を見せられた母親は発狂し、男達に暴言を吐き続けるが、その母親も男達に犯された末に殺害された。

 そして動画の最後に、4人の男達は画面に並び、笑顔で

 

 

「おにーさん見てる?どんな気持ち?」

 

 

 と言い、豚のように笑ったところで終わっていた。

 少年の中で完全になにかが壊れる音がした。スマートフォンを全力で叩きつけ、叫ぶ。それは既に獣の咆哮に近かった。その尋常では無い声を聞いた近隣住民の通報によって警察に拾われた後も、彼はただ犯人への呪詛を唱えるのみ。そして犯人は見つからない。顔は割れていたが、巧妙に逃げているらしい。そんな状態で、行き場を失った彼は孤児院に入れられるが、当然呪詛を吐き続けるような者に寄ろうとするような物好きは居ない。そんなものがいるのは、どこかのファンタジーだけだ。だが、彼の前にある日、白衣のドクターが現れこう言った。

 

 

「君の身体、記憶、その全てを私にくれるなら犯人を君の手で殺させてやる」と。

 

 

 答えなど、既に決まっていた。少年は即答し、誓約書を書き、時々うざったく思うこともあったが、心の底では尊敬していた親を、時々生意気だったが仲の良かった弟を、可愛げの残っていた妹を殺し、汚した犯人に会うことになった。

 

 

「おいおい、なんの真似だよ!」

 

 

 潜伏していた古びた廃屋をドクターの部下が取り囲み、中から四人の男達を連れ出してくる。確かに、動画で見た男達だった。連れ出されるまでは驚いたような素振りをしていたが。外で待っていたドクターの横に並んでいた、屈強そうな男達の中に顔色の悪い少年が立っているのを見つけると反応が変わった。

 

 

「あー、なるほど。そういう事か。ねぇ、どうだった?あの動画、母親は興味ないだろうけど、君の妹のナカ、気持ちよかったぜ?」

 

 

 体つきの良い男が、そういうと、周囲に取り押さえられた男達が豚の様に笑う。

 

 

「口を開くなよ。お前の声なんて聞きたく無い」

 

 

 冷たく、色すらない瞳。ただ、そこには殺意を通り越した黒い感情が渦巻いていた。

 

 

「別でやるんだろ?連れて行ってくれ」

 

 

 笑い続ける男達を気にも留めず、色の死んだ目でドクターに向き直ると、車に乗り込む。

 

 

「聡明だね。それに以外と冷静だ」

 

 

 そんな少年の背を見て、ドクターが笑いながら男達に指示を下し、犯人を車に乗せ。山奥の小屋の地下に連れて行き、彼と犯人四人を残し、立ち去る。

 

 

「こっわーい。ここどこだよ」

 

 

 主犯格であろう男が少し苛立った様子で口を開く。

 

 

「もうお前には関係ない」

 

 

 手始めに四人の寝台に横に並べられ、拘束された男の腹を全力で一発ずつ殴る。

 

 

「ククク、いやぁ、甘いなぁ。あの時の快楽と比べたら全くだよ」

 

 

やはり主犯格の男が、拘束された状態で笑い出し、それに共鳴するように周囲の男も笑い出す。

 

 

「なにを言ってるんだ。簡単に殺すわけがないだろ?いくらでも時間をかけて、お前らが壊れるまで、狂うまで続ける」

 

 

 四人の男は気づくことはできなかった。この少年は、もうすでにおかしくなっている事に。壊れ果ててしまっていることに、心をすでに失ってしまっていることに。

 

 

 手始めに少年は、男たちの全ての爪を剥がし、何故殺したのかを吐くまで顔にタオルを当てた状態で水を当て続ける拷問を繰り返し、足と手の指をペンチで潰し、気絶すれば水に頭をつけさせ強制的に目を覚まさせた。終始、その行為の最中、少年に感情という感情はなく、表情もない。その余興を終えたあと、最初に、主犯格の男を薬物で発狂させたうえで、麻酔を刺し込み生きたまま皮膚をはがし。臓器を掻き出した。それを見た共犯者は、命乞いを始めたが、全員目隠しをしたうえで、体のいたるところにダーツを刺し、麻酔をかけて目玉をダーツの矢で抉り取った。それでも、未だに生きていたので、四肢をひとつづつ切り落とした。

 全てが終わった後静かになった小屋の地下の薄暗い光の中、少年は自らの血に染まった手を眺め。血の湖に映った自分の顔を見てしまった。

 笑っていた。醜悪に、劣悪に、凶悪に。

だが、初めて自分のそんな表情をみたが不思議と、何も感じることはなかった。

 

 

「これで君は私の物だ。来い」

 

 

 少年は左右から屈強な男二人に抱えられ、肉塊を残し連れ去られた。

 

 

 これが、彼の真の過去であり。彼の原罪。彼が感情的になり、明確な殺意を持って殺した最初で最期の殺人だった。

 

 

 彼は間違いなく罪人だ。だが、彼はそれを記憶していない。そして彼は人類の始祖であるアダムとイブの犯した禁断の果実を食べたという罪の先にあった感情もまた忘れている。

 となれば彼こそは、人類というものの原型。神の求めた人のカタチ。

 

 感情がある故に、物事を面倒だ、などと感じ。

 その果てに、人は怠惰に落ちて行く。

 

 感情がある故に、他人を妬み。

 感情がある故に、他人を恨む。

 その果てに争いは起き、人が権力者の欲によって殺される。

 

 感情がある故に、人は恋をし。

 感情がある故に、独占しようと願ってしまう。

 その果てに、強姦が起きる。

 

 感情がある故に、力を欲し。

 感情がある故に、優越感に浸る。

 その果てに、奴隷は生まれた。

 

 人とは、自分以外のなにかを供物に捧げることでしか生きていけない余りに愚かな生物だ。おぞましい事に人はそれを疑問に思うことはない。

 何故なら、人類は自分たちが生態系の頂点のその上にいると勘違いしているからだ。そこにはなにも存在してはいけない。あるべきなのは神や悪魔といった形を持たない者。

 人とは進化しているようで進化していない。進化するのは技術と他の種とは違うという意識のみ。

 

 

 故に、人は神に背負わされた罪を償う気の無い、生粋の罪人である。

 

 

 真っ白い部屋、一人立ち竦む貴方の前で少年は立ち上がり、右手に握った銃口を無言でこちらに向け。笑った。

 

 

「まぁ、ここまでで良いかな?私は去ろう。君も傍観に戻れ。これはたった一人の罪人の罪を贖う物語」

 

 

銃声が、何もないセカイに響いて消えた。

 


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