【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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44話 異形

 さとりの手を引き地底への穴を下降していく。空が遠くなり、地底の生暖かい光が勢力を増していく。

 

 

「さとり......大丈夫か?」

 

 

 先程の爆殺現場からここまでの間、やはりさとりは気を失ってはいないものの、自我を失っている。此方が語りかけても返事はなく。何処かを虚ろな目で見つめている。

 今考えると。あの爆殺の影響だろうと思う。もし、異形になることで生命力も見た目の生物レベルになるというなら。虫によく似たあの異形達はあの爆撃で即死しなかった可能性はある。まだあの体に人間だったか妖怪だったかの意識があれば、自らの行動に対し激しい嫌悪を覚えるだろう。例え意識がなかったとしても、走馬燈が流れればその情報量は計り知れない。そう考えるとサードアイを閉じられていないだけまだ状況は悪くないだろうか。

 なんにせよ、さとりを庇いながら地霊殿に向かう他ない事は確実だ。地底が襲われていなければベストだが、最悪の事態を想定しなければならない。地底はすでに陥落、勇儀が異形になっている可能性もあり得なくはないだろう。

 穴を降りきり、地面に着地、これからは飛ばず歩いて向かう方が得策だろう。空中ではもしも飛行が可能な異形がいた場合。地面の異形と空中の両方に襲われかねない。一人ならまだしも、今はさとりを庇いながらの戦闘。あまり過激な動きはできない。

 うつろは足を止め、さとりを背負い、ロープで固定。なすがままにされるさとりはあっという間に彼の背に負ぶわれ、しっかりと固定される。さとりを背負ううつろの両の手には二丁のデザートイーグル、弾の装填は能力で行われる為、必要はない。左右の腰には短剣を皮製の鞘に入れて納める。右の太腿にはSMG11というサブマシンガン。それなりの重装備をし、その場で軽くジャンプ。重量を感じない事を確認すると地面から約5センチ浮上。能力でさとりを覆い隠せる大きさの薄茶色の迷彩柄のフード羽織り、息つく間もなく最高速で地底の街へ向かう。

 遠目からでも黒煙が上がっているのが見えるあたり、既に状況は良いとは思えない。

 

 

「ねぇ?」

 

 

 声をかけられ、背後を振り向くと。そこには闇があった。第六感が危険を伝え、瞬間的に銃口を向け闇に発砲。奇声をあげながら倒れる異形の足元から無数の針が飛び出す。上空へ飛ぶ事でそれを間一髪のところで躱すが、空中も安全ではない。黒煙が上がる町から黒い塊の様な異形の集団が向かってきている。

 まさか既に町は異形に食われ尽くされたのかとも思えるような量の異形。これだけの量が一体何処から沸いたのか。このまま、町に帰っても既に異形の手に落ちていれば。ただ餌を連れて肉食獣の巣に入る事と変わらない。

 

 

(地底に帰ってきたのは失敗だったか?)

 

 

 もし地上にいれば、まだ生きている妖怪もいた。そいつらと手を組めば抵抗のしようはあったはず。

 だが、俺の様な最近来たばかりの顔の広くない覚妖怪が来たところで信用はされず。騙されて餌にすらされかねない。となれば、やはり。まだ住民が生きていることを信じるしかない。

 デザートイーグルを腰に納め、RPG7を肩に構え前方に見える異形の群れに標準。弾頭は対戦車弾。それだけの威力があれば確実に殺しきれるだろう。

 

 

「ファイア」

 

 

 引き金を引く事により、強烈な反動と共に弾頭が射出。硝煙を吹き上げ、空を切りながら異形の群れに衝突。大規模な爆発と共に砂漠に様々な色の花が咲き乱れる。

 しかし、全てを殺しきるには至らず、殺しきることのできなかったものが一斉に飛来。各々が何処かを損傷、欠損しているがそれでもなお。眼前の抵抗する餌に襲い来る。

 だが、その料理にありつく事はなく全ての異形は頭部に穴を掘られ地面に落下。その振動に反応し、大量の針が異形を貫き絶命させていく。

 うつろは周りを見回し、一通りの異形の殺害を確認すると、再度街へと飛行。本来ならば全滅を狙いたいが今は妖力の温存が最重要事項だ。もし、妖力が切れればさとりを連れて逃げ切る事は限りなく不可能に近くなる。飛ぶ事は出来ず、武器を作ることも出来ない。あの異形の群れに短剣1本では太刀打ち出来ないだろう。

 

 

「邪魔だ」

 

 

 街から異形が一匹。飛んでくる。ただ、小山かと作家薬ほどの巨体には一切の羽毛は生えず。その代わりに羽の様に人間の指が生え並び、眼球からは腕が生え、その腕の先についた指に眼球が並ぶ。嘴は無く、開け続けられた口の中は人間の顔面が限界まで引き伸ばされた状態でひしめき合い、各々が怨嗟の声をあげながら涙を流し、口内に残る肉片を貪っていた。足は不恰好にも2本の人間の足。

 

 

「ああああああああああああアアアアアァァァァァァァァ!」

 

 

 咆哮により、大地が震撼し口内から食べカスが地面に撒き散らされる。その揺れを餌と勘違いしたのか砂漠のあちらこちらで棘がまるで芸術の様に生え並ぶ。

 

 

「全滅が見えて来たな」

 

 

 手元にあったRPG7を通称スティンガーと呼ばれる対空ロケットに変更。独特な左側についたサイトを覗き込み、狙いを定める。引き金を引き、即座に装填された2発目も続けざまに射出。異常なほどの速度で接近していた異形の口内に2発の着弾を確認すると同時に、砂を偏向する事で作った簡易的な防壁を正面に作り。正面から四方へ飛び散る爆炎と爆風、肉片を防ぐと変更を残したままその壁の横を抜け町へと飛行。

 

 

(残り半分、と言ったところか......)

 

 

 妖怪の山での一件の後から多少は妖力の使用可能量もわかって来た。だが、まだ町までは半分もいっていない。このペースで敵と遭遇するとなると妖力が持たないだろう。敵を引きつけながら逃げる事も念頭に置かなければならないだろう。いざとなれば、異形の感情を読むのもありだが、さとりの状況を見るに極力避けた方が良い。

 そんな時だった、突然足になにかが絡みつき、地面に引き摺り下ろされ、足が砂に埋められる。地面に足が埋まる一歩手前で状況を判断し、さとりとの接続部分の変更を切り、人1人入れる大きさの鉄製のボールでさとりを防衛。砂の中に手を入れ足に絡んだ何かを切断しに掛かる、切断しようとした瞬間待っていたかの様に、一気に胸まで砂に埋められる。ここに棘を生やしている異形がいなかった事を幸運に思うのもつかの間、太腿になにかが刺される感覚。針は大きく無く、外の注射器程度の太さだろうか。地上で刺された時とは何かが違った。直後、なにかが流し込まれたかと思うと体が痺れ始め、危うく頭まで砂に飲み込まれかける。それをとっさの判断で開いた腕で回避するが、それでも良いと判断したのか下半身に大量の針が刺される感覚。

 奴らの今わかっている性質上、この後なにが起こるのか。それを予想した瞬間抵抗を強めるが。麻酔と思われるものが差し込まれた身体は無様にも全く力が入らず。次の瞬間流し込まれた大量のナニカを受け入れてしまう。

 

 

「お.....い.......」

 

 

「じ..ょ...うだ....ん...じゃ....ねぇ...」

 

 

 30秒が過ぎたあたりだろうか。抵抗を嘲笑う様に流し込まれた大量のナニカが身体を回り始める。心臓か狂ったようにリズムを奏で、体が熱を持つ。通常の熱さを通り越したそれは悪寒となり襲いかかる。いまだに体に力は入らない。さとりを入れた鉄製のボールは砂漠で転がっている。さとりは無事だろう。

 

 

「お兄様ッ!」

 

 

 さとりが無事だっただけでもまだ良かったとかんがえはじめたそんな時だった、確実に終わったと確信した瞬間うつろ以外の周囲の砂が突然消滅、足元に現れた異形が姿を見る事もなく突然無残にも爆発。砂の上に投げ出された下半身は真っ赤に染まり、注入途中だったのだろうナニカが溢れ、砂を濡らしている。

 だが、助けられたのは良かったが。身体は異常を告げ続け、視界が紅く染まり始める。身体中の血管が浮き出し、体がむず痒くなり始める。次々と始める異常にもう長くは持たないという確信を得た。

 

 

「さとりを連れて逃げろ。フラン」

 

 

「間に合わなかった...?」

 

 

 そこにいたのは服を真紅に染め、不安そうに目には大粒の涙を浮かべる吸血鬼の少女、フランドール。所々が破け、出血しているところを見るとあちらも状況は良くないらしい。今、かなりの戦力であるはずの彼女が居なくても持っているという事は勇儀や他の地底の主要メンバーも無事と考えても良いだろう。

 

 

「さとりを連れて戻ってくれ!」

 

 

 能力を解き、鉄製のボールからさとりを外に出し、フランがそれを抱える。先程よりも幾らかマシになった身体を起こし。デザートイーグルを両手に持ち、立ち上がる。

 

 

「でも...それじゃあお兄様が!」

 

 

「踏ん張って見せる。早く行け」

 

 

 不安そうではあったが、それ程危篤では無いのでは?と思う程の彼の言動と行動にフランは騙されさとりを連れて妖力を一気に解放、瞳が真紅に染まったかと思うと一瞬にして赤い残光を残し、姿が消える。

 前方には、既に異形が群れを成し未だに抵抗する傷ついた餌を喰らわんとゆっくりと距離を縮めている。目につくものだけでも、100はいるだろう。この量がそのまま町に流れ込めばすでに疲労している町の住民が処理しきれるとは考えにくい。そのうえ、いま目の前にいるものだけで全てでは無いはず。妖力も足の回復で既に2割あれば良いほうだろう。

 状況は絶望的としか言いようがない。だが、彼に与えられた命令は、【自らがどうなろうと】幻想郷を護り抜くこと。

 うつろに空を見上げるが、そこに空はない。月もない。太陽もない。星もない。視線を下ろし、漆黒の外套を纏い。腰から下げた銃を地面に置き、左手に銃、右手に短剣を持つ。当然今、この瞬間もナニカによる浸食は進んでいる。長くは戦えないだろう。

 

 

「約束は、命令よりは弱い」

 

 

 まるで、自らに言い聞かせるように囁くと。短剣を逆手に持ち直し、異形の群れに歩み寄る。

 身体中に悪寒が走り、動くなと脳が危険信号を出すが。それを無視。視界が常に赤く染まる。砂漠はいつしか赤土の様に染まり。異形の目は色を失う。体から流れ落ちる血は、赤土を湿らせるのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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