【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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拷問シーンがあります。



34話 拷問すらも機会へと

少年は1人、光1つ刺さない地下牢で厳重に十字架に掛けられていた。いくらこういった状況からのメール脱出法を学んでいると言っても人間には限界がある。無脊椎動物能力ならばまだしも人間は脊椎動物である故関節を外そうとも脱出できなければ拘束から抜け出す事は諦める他ない。骨を折るという選択肢も無くはないが折ってしまうと治るのにも時間がかかる。それに、逃げた後に当然予想される戦闘にも支障をきたす事は間違いない。まだ、能力が使えればまだ希望があったが、サードアイは目隠しをされ、この鎖の影響か何かだとは思うが能力による変更も出来ない。

もう既にさとりに連絡した約束どうりに帰るというのはもう実行不可能だろう。地底に帰る際に天狗に追われたままでは、正義の名の下地底に襲撃をかけるのが目に見えている。それでは俺が自分で決めた守護者の役割を自ら放棄することになる。だが、もし俺がここから脱走し、逃げ地底が襲われた場合、何も出来ずにやられるか?言われれば恐らく撃退はできるだろう。

だが、それで奴らを撃退した所で奴らは覚妖怪の俺が今回の異変の元凶と言い覚妖怪が更に居場所を失いかねない。さとりが読心を使い俺の無実を証明しようとしても同族を守ろうとしていると考えられ、意味はないのは目に見えている。

「時間だ。起きろ」

 

十字架に架けられた少年と闇のいた場所に光と何者かが入ってきた。

 

「安心しろ、起きている」

 

全く、サードアイだけで無く俺にまで目隠しをする必要は無いだろうに。念には念を入れているんだろうが、無駄な警戒だろう。

 

「貴様は証言してくれる気はあるか?」

 

恐らく正面に立っているのであろう天狗が低めの声で話しかけてきた。

 

「何をだ?」

 

「しらばっくれるな、貴様があの竜を連れてきたと言うか聞いているんだ」

 

「ああ?言うわけないだろう、俺は嘘が嫌いなんだ」

 

こいつらは証人を取る為にも俺を殺す事は恐らく出来ない。なら、俺は黙っていれば良いだけだ。こいつら程度の拷問ならきっと問題はない。

 

「そうか、残念だ。こいつを部屋に移動させろ」

 

どうやらこいつらの他にも天狗は居たようで俺の掛けられた十字架が持ち上げられ、何処かへ移動させられて行った。道中階段を登るのにかかった時間と、部屋までの時間をカウントし覚えておく。恐らくはここも尋常でなく広い。逃走することがあれば役にはたつだろう。

こいつらに連れて行かれる事数分、どうやら目的の場所に到着したようで俺は十字架から外され、椅子に座らされた。

 

「おお、やっと座れるのか」

 

少年に対する返答はなく、無言で手錠と足枷を嵌められた上で、胴体を椅子に固定され、1人の天狗を残し部屋から退出した。

 

「ヤァ、初めまして。秦 空」

 

「顔が見えないから初めましてかもわからないんだが?」

 

「そうか」と一言言ったその男は何の躊躇いもなく少年の目隠しを外し、ご丁寧に猿轡まで外して顔を見せた。正直、猿轡は緩かった為にほぼ役割を果たしていなかったが。

 

「ああ、初めましてだな」

 

相手の顔を確認し、少年は事実を告げる。

確かに、一度もあったことがない男の顔だ。顔はそれなりに整っている。恐らくは古傷か何かがあるんだろうが顔以外は包帯が巻かれており、身長はそれ程高くないように見える。ただ、このタイミングで出てきたと言う事は、こいつが何をする奴なのかと言うのは安易に想像できる。それに、喋り方からしても少し狂っているような感じがある。まるで、これから始めることが楽しみであるかのような雰囲気だ。まぁ、拷問する奴が拷問が好きと言うのは基本ではあるが。

 

「始めようか。これが何だか分かる?」

 

少年が座っている椅子を指差し、座席部分から背もたれ、さらには少年が腕を固定されているところにまで無数に開いた奇妙な穴を指差す。

 

「知らないな」

 

少年がそう言った次の瞬間どこからか出したのか男の手にある黒いリモコンのボタンが押され、その穴から2センチほどの針が一斉に飛び出し、少年を貫いた。身体中に鋭い痛みが走り、刺された部分から鮮血が滲み出る。

 

「なるほど?審問椅子か」

 

審問椅子、中世から今まで使われる非常に有名な拷問器具だ。対象を椅子に座らせ、椅子に着けた大量の針に突き刺すといったものだ。この器具の利点は、すぐに殺さないと言う点だろう。拷問にはもってこいと言うわけだ。針が突き刺さった影響ででた血が椅子から垂れ、床を赤く染めている。一瞬この勢いでは死ぬなとも思った少年だったが、その考えは直ぐに否定された。

 

「こんな勢いでやったら死ぬとか思う?ダイジョウブ、君はもう妖怪だから」

 

「成る程、そう言う事か」

 

男がリモコンを押した瞬間今度は電撃が走った。これも人間であれば死ぬレベルの物だ。更に、先程の針の影響で出た血で電気が通りやすくなっており、身体中を電流が駆け抜け続ける。

 

「喋っちゃダメ。君は拷問されているんだからね?」

 

電気を止める事はなく、正面の男は醜い笑みを浮かべる。流されるづける電流によって遂には少年の体から出た血液が沸騰しだし、少年の体は更に針に突き刺さるのも御構い無しに痙攣し体に刺さった針が肉を裂き、木製の椅子を真っ赤に染め上げて行く。その拷問は数十分間に及び、少年の意識が遠のくところまで来た。だが、少年への拷問はこの程度で終わる事は無い。

 

「ここでおしまい」

 

あともう少しで意識が飛ぶ。その瞬間を見切ったかのように男は電流を止めた。電流を止められ、痙攣の治った少年は男に声をかける。

 

「流石に死ぬんじゃないか?」

 

「ダイジョウブだよ。君はもう妖怪なんだからネ」

 

今、ここまでされて死んでいないと言うのも中々不思議ではあるが。これが妖怪の生命力ということか。

いや、それ以前に死ぬことはあるのか。紫は俺に妖怪は人間からの恐れで出来ているといった。それが真実ならば妖怪は歳をとらず、人間からの恐れがなくならない限り消滅も死ぬことも無いんではないだろうか。それならばこの男が俺が意識を失う直前に拷問を止めたのも分かる。

死なないのなら、拷問に適切なのは相手の気を狂わす事だ。気絶しないギリギリを攻め、相手の気を滅入らせ狂わせる。一度狂ってしまえば正常な判断は出来ない為、そこで嘘であろうが情報を言わせ、後は正義の名の下殺してしまえば証拠も残らない。これが恐らくこいつらの目的だろう。

 

「怖い?」

 

「そうだな。怖いな」

 

まさか、こんなにも死が眼前に迫って来ているというのに全く何も思えないとは。感情を学んで少し無意識に出るようになったかと思ったが、どうやら全くダメなようだ。酷い話だ、これでは拷問する側が怯えるなんていう事態が起きかねない。

 

「すごいね。俺がやる時はこれでもう喋ってくれる奴が多いんだけど」

 

「そうか、残念だったな」

 

「まぁ、俺が聞き出せなくてモ。あと2日で悪魔の妹が来るから、さっさと言った方が楽だ?」

 

悪魔の妹?初めて聞く単語だ。こいしである可能性は万に1つもない。何故なら、こいしは無意識を操る程度の能力を持っている。こいつらが制御できるわけがないし、俺とこいしは顔を合わせている。それにこいしは既に読めないが覚妖怪であったことに間違いはない。

同族同士にやらせるというのも中々ではあるが、どちらにしてもあの能力は拷問向きではない。やれた所で、無意識に何か言わせると言った所だ。だが、それは無意識から出てくるのであって何をいうかまではコントロール出来ないはずだ。無意識というのは心の何処かでやりたいと思った事を意識せずに行動に移すと言うのもの。俺は微塵もその供述をしたいと思っていない。ならばいくら無意識を操られようが言わせる事はできない。

 

「そんなにそいつはエグいのか?」

 

「今の百倍は」

 

「どんな能力なんだ?」

 

ここで能力を聞き出せればある程度対策ができる可能性がある。まぁ、物によっては無理だが。

 

「教えない。さあ、拷問を続けよう。今度はここに手を置いてもらおうか」

 

手の前に出されたのは手がちょうど入るような鉄の板。そこに梃子の原理で浮き上がるように設置されたシーソーのような物が五つ。そこに男は強引に少年の手を乗せ、爪にシーソーの下がっている部分が引っかかるように設置する。左右の手に全く同じものが取り付けられ、手首を鉄の板の下から回したロープで固定し、指もゴムでしっかりと固定された。

 

「もうわかるよネ?一枚目〜!」

 

男はどこからか出した木槌でシーソーの上がっている方を思い切り叩く。無論、爪と皮膚の間に入った鉄が強引に上に持ち上がり。右の親指の爪が少年の後方に飛んで行った。爪を剥がされた右の親指は根元から出血している。

 

「ちっ」

 

「あれ、それだけ〜?じゃあ、もっといけるネ。右の爪もう全部行こうか!」

 

男が醜い笑みを浮かべたかと思うと返しを一箇所に集め、無情にも木槌で思い切り良く。叩いた。

 

「クッ」

 

「本当に反応が薄いね」

 

右手の爪は全て剥がれ。全ての指からゆっくりと血が滲み出し、見るも無残な状況になっていた。

 

「君。こう言うことに耐えれる様に訓練されたことがあるでしょ?」

 

急に男が落ち着き、少年の耳元で囁く。

 

「どうだかな」

 

「でも、流石にこれは厳しいんじゃないかな?」

 

また男が醜い笑みを浮かべる。そのまま、左手に設置された物にも木槌を振り下ろす。左手も同じ様に爪が剥がされ根元から血がゆっくりと滲み出す。

 

「そうでもないぞ?」

 

「誰も終わりだなんて言ってない?」

 

男はそう言い残し、部屋から出て行った。

それを確認した少年は息を吐き力を抜く。

 

「全く、酷いな」

 

少年は爪の剥がされた自らの指を見る。先程よりも血が滲み、見るに耐えない様な状況なっていた。爪のあるべき場所に爪がなく。その代わりにグロテスクな皮膚が見えていた。強引に剥かれた所為もあってか所々肉ごと持っていかれ根元以外からも血が滲んでいた。

 

「待たせたね」

 

男が今度は清々しいまでの笑みを浮かべて入ってきた。その手には鉄製のバケツ。それには水と思われる液体が入っていた。どうやら、血を洗い流す気らしい。

 

「行くよー」

 

その液体が頭からかけられた瞬間少年の身体中にこれまででも受けたことのない様な激痛が走る。これまでは声を一切出さなかった少年はそこで初めて獣の様な絶叫を上げた。ただ、その声は正面の男以外に届く事はなく。部屋の中を木霊する。

 

「初めて反応した!まぁ、無理もないよ、何と言ってもその傷に塩水かけてるんだもんね。おっと、ちょっと残ってる」

 

そう言って男はバケツに残っていた塩を特に傷の酷い少年の背中に躊躇いもなく塗りつける。

あるはずの無い感情。ただ、痛みは感情では無い。痛覚をある程度は飛ばす事は出来てもある一定ラインを越えれば脳が危険と判断し、強制的に体をシャットダウンする。さもなければ許容量を超えた痛みの所為で脳がいかれてしまう。

 

「さぁ、ここからが本当に楽しいんだよ?」

 

意識が飛ぶ、そう少年が確信すると同時に、突然流された電流が少年の意識を強引に引き戻す。意識が戻ったということは無論あの痛みを再度味わうことになる。

ただ、少年は痛いとは思えても、感情が無いのだから辛いとは思えない。喉だけは狂った獣の様な絶叫を上げているが、それは脳からの指示であり、感情ではない。大声を出すことで少しでも痛みを緩和しようと言う生物の本能的な部分からくるものだ。

その状態で十分程度放置され、痛みで体を痙攣させている少年に男は勝ち誇ったかの様な表情で語りかける。

 

「どう?言う気になった?」

男は事前に用意してあったと思われる水を少年に掛け塩を洗い流す。しかし、傷口に塗り込まれた塩までは取れず、少年には多少は楽になったものの十分過ぎるほどの激痛が全身に走り続けている。

 

「馬鹿にするな」

 

セリフの対して状況は完全に絶望的だが。そのセリフを言った少年の表情に男は戦慄し、寒くもないのに関わらず身震いし、決して暑くもないのに関わらず汗をかいた。

 

「お前....本当に元人間か?」

 

少年の表情には何もなかった、悲しみも喜びも怒りも絶望も、まるで自分の身には何も無かった、たとえあったとしても興味がないとでも言いたげな無表情。その表情と裏腹に傷だらけになり、痙攣し、身体から出血した血が地面を染めている。それが少年の異常性を物語っていた。

 

「なんで、痛いのならもっと苦痛に歪んだ顔をしろ!辛いのなら泣きわめけ。何故だ、何故無表情でいられるッ!そんなのおかしいだろ?!」

 

そんな男の様子を見た少年は無表情のまま顔を上げ、男を見つめる。

 

「何故、何故そう思う、お前はすべての人間に、全ての意思ある生物に同じ事をやったのか?やってないだろ?ならお前が出したその結論は正しいのか?この世界には貴様の知らない世界がある。要は貴様の勉強不足だ。と言う事で少し体感してみろ」

 

少年が胸元のサードアイを軽く動かすとサードアイをにかけられていた目隠しが外れ読心という少年の知る中では最強能力を持つ瞳が男を見据える。

 

「想起」

 

「何故外れているんだ!だが、外れたところで能力は封印されている、意味はない!」

 

はらりと落ちた焦げた布を見て男は一瞬焦ったように見えたが、すぐ様落ち着きを取り戻し勝ち誇った様な表情をした。

 

「どうだろうな」

 

少年が淡白に言い放った刹那、男の体が跳ねたかと思うと絶叫とともに泡を吹き、目の前で痙攣し動かなくなってしまった。死んでいるのかなどは正直どうでも良い。

 

「おいおい、そんな早く気絶したら勉強にもならないじゃないか」

 

少年は1人、そう呟くと審問椅子にゆったりと座る。その為少年の身体に針が食い込み座る位置を変えた事により肉が裂ける。しかし、少年は気にもせずサードアイで目の前の気絶した男に次の想起を掛ける。

 

「想起」

 

気絶したはずの男がまた狂ったように声を上げ、暴れ始める。

 

「拷問というのは楽しむというのも大事だが、本来は相手に絶望を与えるという事がメインだ。相手がいつしか絶望に押し潰され、服従するまでやるのが本来の拷問、服従させれば後はなんでも聞いてくれる良い人形になってくれる。お前のように気を狂わせたりするよりもこっちの方がずっと拷問した後が楽になる」

 

少年はまるで教師の様に目の前で狂った様に転がり、叫ぶ男にゆっくりと語りかけるが無論男の耳には届かない。

 

「おいおい、ちゃんと聞いとけよ。まぁ、良い。俺も聞きたい事があるんだ。しっかり答えてくれよ」

 

そう言った少年は聖母の様な笑みを浮かべ。胸元に浮かべている第3の目で正面に倒れ痙攣している男をしっかりと見据えた。


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