【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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32話 全ては理解のできた事

「ここはね、昔4人の鬼に統治されていたのよ」

 

少年は手で弄んでいたみかんを掌に乗せ正面の少女を上目遣いに見上げる。

 

「ああ、どうでもいいな。さっさと契約の事を教えてくれ。全く、何故歴史を語ろうとする。俺が聞いたのは歴史ではなく契約の内容だ。あちらの世界でも多いが正直時間の無駄だ」

 

それに対し、少女。大天狗と呼ばれる少女は上から見下ろすように少年を見ながら言い放った。

 

「ここを知らないと誤解を招くのよ」

「そうか、悪かったな。なら続けてくれ」

 

炬燵の上に身を任せ、目だけでこちらを見ている少年に少し呆れなから少女は話を続行した。

 

「4人の鬼は非常に良い人達だった。けどある日4人のうちの1人が狂ってしまったのよ」

 

炬燵から上目使いに見ていた少年が体を起こした。

 

「狂った?」

 

「そうよ、狂ってしまったの。突然鬼の力を使ってこの山を破壊し始めたの」

 

「何故だ?」

 

体を起こし、頬杖をついている少年がやはり上目使いに少女に聞いた。

 

「何故って、狂ったからよ」

 

少女のその当然のように思える回答に少年は無表情で応答する。

 

「そう言う意味ではなくだな。なんで狂ったかと聞いてるんだ」

 

全ての事柄には起きる理由がある。それは彼にとって当然の事だ。どの程度狂ったかはわからないが。何も無意味に狂う事はないだろう。

 

「さぁね。わからないわ。私も子供だったからすぐに逃がされたのよ」

 

言わせて貰えば正面のこの少女。今いくつかわからない。見た目は幼いとまではいかないものの妖怪なのだから俺の想像は到底あてにならない。そんな状況で子供の頃と言われても分かるわけがない。

 

「一体どれくらい前だ?元人間なもんでな。正直感覚がわからないんだ」

 

「そうね、確か2、300年前だったかしら」

 

「とんでもないな、妖怪は」

 

少年は口角を上げ少し笑った。

そんな少年に大天狗は現実を告げて笑う。

 

「そういう貴方ももう妖怪だけれどね」

 

少年はその言葉を軽く受け流し、自らの顔に被せた笑顔を剥がして大天狗に問いかける。

 

「ところでだ、お前の姿はあの老人の姿なのか?それとも今の少女の姿が本来の姿なんだ?」

 

僅かな静寂、その間大天狗は品定めでもするように正面に座る少年を眺める。

 

「そうね、世間的に言えばあの姿が正しいわ。でも、私自体はこの姿よ。妖怪はただの人間の抱いた畏れの塊のようなもの。姿なんて簡単に変わるわ」

 

「それは俺でも可能なのか?」

 

「無理でしょうね。私は人間から恐れられてこういうものだと思われていたのがあの厳つい老人だった訳よ。姿を自在に変えるには狸や狐のように変身用の妖術に長けていないと無理ね」

 

妖術...知ってはいたが信じてなどいなかった言葉が出てきた。確かゲームなどでは妖力を消費して使う所謂魔法のようなものだったか。そういったゲームに基づく考えは今の所外れていないのでそう考えてもいいだろう。

 

「妖術か。俺には使えると思うか?」

 

大天狗はそうねと言った後に暫く少年を眺めてから口を開く。

 

「きっとできると思うわ。まぁ、貴方も今は妖怪だしね。妖力も少しは感じるし」

 

少年はその答えを聞き、みかんの皮をむきながら、そうか。とだけ答えみかんを口に放り込んだ。

 

「にしても随分と覚らしくないわね。覚なら態々話すまでもなく会話できると思ったのだけど」

 

大天狗はまるで馬鹿にするかのように正面の少年を笑いながら言い放つ。

 

「まずまず、さっき隠す術があると言ってなかったか?」

 

少年も馬鹿にするように笑みを浮かべながら言い放った。

対する大天狗は特にどうも思っていないようで少年から目をそらすと話を続けた。

 

「そう言えばそうだったわね。話を戻すわ、その鬼が暴れた所為で妖怪の山は壊滅状態、結果的にかなりの数の天狗と妖怪が死んだわ」

 

鬼は勇儀としか戦ったことは無いが、あれは戦いを楽しむ為の勝負であって本気ではなかった事はわかっている。なら、狂った状態......力に制御がかかっていない状況ならば。

あの時よりも強大な力がぶつかってくるわけか。

 

「その責任を取って残った3人の鬼は妖怪の山の四天王を辞めそれぞれの道を歩んだの」

 

いや、違うだろう。おそらくその事件があった後周囲が鬼の存在を危険視し良いように言えば圧力を掛けたのだろう。

何故それを自分達は悪く無いとでも言いたげに言うんだ?

結局のところその鬼を止める力のない所為だ。

それに鬼が何故狂ったのか話を変えてくる辺りそれも此奴らが原因だろう。

 

「そうか、で。それがどうして地底に閉じ込める理由になるんだ?」

 

少年は本題に踏み込んだ。鬼が狂った理由などどうでも良い。故に話を逸らされても何も言わないが地底に閉じ込める訳は聞かなければならない。

大天狗は少しの間目を瞑りこれは話さざるおえないと思ったのか口を開いた。

それと同時に少年はサードアイに神経を集中させる。

 

「勇儀は知っているわね。彼女がその時嫌われていた妖怪達を自ら引き連れたのよ。その際地上に出さないと契約したの」

 

「自らか?」

 

少年は左目を瞑り自らの左胸元にあるサードアイを右手に乗せる。

それは無意識な行為であって、相手に読心をしたと言う現実を伝えるものだった。

 

「騙したのかしら?」

大天狗の言葉は怒気を帯び、彼女の周りに突如現れた風が唸る。

 

「一体どうしたんだ?俺はお前を読心できないと言った筈だが、その反応はさっきの発言が嘘だったと言う事で良いよな?」

 

嘘をつくのは罪だ。なら、相手に現実を誤認させれば良い。それならば罪ではない。

 

「貴様...騙したな?」

 

発せられたのは暴力的なまでの怒気、それと共に大天狗の周りの風も呼応するかのように唸りを上げる。

それに対し少年は無表情で大天狗を見ていた。

 

「騙した...?違うだろ?お前が勝手に読心されたと勘違いしただけだ。自分の失態を他人の所為にするなよ」

 

これだけの状況、一歩間違えれば死ぬ状況においても表情1つ変えないこの少年に大天狗は恐怖を覚えていた。

言うなれば、まるで少年の皮を被った化け物と話しているような感じだ。八雲紫から少々異常な奴とは聞いていたが少々どころでは無い。そういった奴は早々と処理をした方が良い。

 

「殺せ、此奴は危険だ」

 

こう言い放った瞬間、扉から彼を捕らえるために数十人の天狗が流れ込み、目の前の少年を抑え込む。

 

「最初からこのつもりだったのか」

 

四肢を抑えられ、身体には妖怪としての力を封じる護符が貼られている。この状況にまでなっても少年からは何の焦りも感じない。

押さえ込まれた少年はその状態で問いかける。

「で、捕まえてどうしようというんだ?」

 

少年の態度に舐められていると思ったのか彼を抑える天狗の1人が目的を告げた。

 

「貴様があの竜を連れてきたと認めさせ覚妖怪を抹殺するためだ」

 

その言葉を聞いた少年は疑問を持った。何故、俺が助けた奴らに捕まり。さとりを殺す口実を吐かされそうになっているのか?俺はただ、助けただけなのに。

「そうか」

 

やはり俺の常識はズレているらしい。俺の常識がズレているから他人と考えが合わない。これは相手では無く俺が悪い。全く、そんな簡単なことじゃないか。

 

「連れて行け」

 

少年の正面でじっと状況を見ていた大天狗は少年が抵抗する気がないのをわかると。早々と天狗たちに命令を下す。

 

「拷問か?」

 

少年の口から出たこれから行われるのであろう行為。ただ、その言葉では無くその時の表情に大天狗は戦慄した。

 

彼はまるで仮面でも付けられた道化師のように笑っていた。焦るわけでも無く、恐怖するわけでも無く、ただ笑っている。

 

「それはお前の常識だ」

 

少年の吐いたこの言葉は誰に聞こえることはなかった。ただ少年は天狗たちに目隠しと猿轡をかけられた上で引きずられていく。

少年を捕らえた天狗も彼のあの表情に恐怖を覚えたようで一瞬怯え、疑問に思った。だが、それは一瞬にして【覚妖怪】だからという理不尽な理由によって肯定される。

少年は廊下を引き摺られ、その後その館の地下にある牢獄に建てられた十字架に架けられた。

 

「拷問か、久しぶりに受けるな」

 

少年は1人残された密室の中で呟く。少年の手足は鉄製と思われる鎖が何重にも縛られており胴体もばつ印を描くように鎖が巻かれていた。

それと時を同じくして異なる2つの場所に場所に一報が行った。

地底にある館では少年は死んだと伝えられ、それを聞いた桃色の髪の少女が笑みを浮かべ、地上のある館では少女の力を借りたいと、1匹の天狗が吸血鬼に話を持ちかけた。

 

そんな事が起きているとは全く知らず、少年は眠りについた。

 


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