【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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31話 植えつけられた常識は消にくく

高さは約2.5メートルといったところか。そこから火炎球が飛んでくる。ただ、高さがそれだけあれば下を潜ることができるはず。火炎球の大きさはそこまで大きくはない。

空はそう確信し火炎球に走り出す。そして火炎球の下に滑り込む。流石に超高温なだけあるようで、少し皮膚が焼けた気がしたが、戦闘に支障が出るほどではない。火炎球を潜り終えると直ぐさま立ち上がり、背後で爆裂した火炎球の爆風を追い風に加速し、そのままの勢いで竜の眼前に飛び込み、右足で地面を蹴ることで身体を捻り、残った左の眼球を左手に持ったデザートイーグルで撃ち抜いた。

両目を撃ち抜かれ、光を完全に失った竜は血涙を流しながら咆哮。腕を振るい、見えなくなった敵を殺しにかかる。

恐らく、回避は難しい。ならば同速で後ろに飛ぶ。

一瞬の判断で空は大きく後ろへ飛び、竜による一撃のダメージを極力抑える。ただ、彼の体は吹き飛び、後ろの木に直撃した。

 

「全く、無駄に暴れるなよ」

 

にしても、本当に信じられない力だ。かなり力を入れて飛んだにも関わらず十数メートル飛んだ。その上、今の衝撃で右の肩が外れた。まぁ、それぐらいで済んでで良かっただろう。肩の関節程度、直ぐに直せる。

彼は左の手で右肩を抑え強制的に関節をはめ直し、その場で軽く腕を回す。

骨は折れていないようで良かった。折れていると戦闘している上で色々面倒になる。

 

「もう楽にしてやるよ」

 

デザートイーグルは先程飛ばされた際に手から離れてしまったようだ。一応、能力を解除したうえで、右に長剣、左に短剣を地面の土から生成し構え竜へと向かう。

未だに竜は暴れており、腕を振り回し、火炎球を吐いていた。ただ、それは何も見えない暗闇の中で行われている。それは非常に単純で困ることもなく避けれる。的を絞れていない攻撃ほど適当で単純な物はない。まるで赤子がまだ開かない目で親の乳を探すようで非常に滑稽だ。そんな攻撃を避けながら竜の眼前に立つ。

 

「さようなら」

 

その声に気づき、目と鼻の先に居る少年に火炎球を放とうとするが、開いた口に短剣を差し込まれ、激痛で身体を上げた瞬間に腹部をを長剣で深々と裂かれ、血と臓物を腹から零しながら絶命した。その正面で地を浴び真っ赤に染まった空は体の血や汚れを窒素に変更した。

「逝ったか」

 

全く、やはり初めて戦う生物というのは殺りにくい。弱点も何も分からないというのが難点だ。

にしても、キメラといい今回の竜といい伝説上の物と戦う事になるとは。人生は全く予想のできないものだな。

取り敢えず、逝った様だし体でもバラして弱点を探すか。

彼は右に持っていた長剣を短剣に変更し竜の身体を解体していく。

 

「な......何をしてるんですか?」

 

後ろから幽香に投擲をした白狼天狗の声がした。

 

「見て分からないか?解体してるんだ」

 

「何故です?」

 

どうやら、怯えられているようだ。何故だ?弱点を探るというのは大切な事だろう。それにこの白狼天狗も初めての事態と言っていたし、弱点も知らないんだろうから必要な事だとは思うが。

 

「何故って、こいつの弱点を探るためだ。流石に腹だけなんて事は無いだろうしな」

 

「ですが......」

 

ああ、成る程。私達にやらせろという事か。確かに被害を被ったのはこの天狗なのだから俺がやるというのは少々傲慢とも思われるな。

 

「そうか、悪かったな。じゃあ、俺には弱点だけ教えてくれれば良いからやると良い」

 

そう言い、空は後ろに立つ白狼天狗2人に地面に倒れ、臓器と血を地面に散らし眼を向けるのも憚られる様な状態となった竜から離れた。目は見開かれ、色を無くし、鮮やかだった鱗も輝きを失い、地面に臓物と血が広がり池を作っている。

 

「......」

 

そうだ、サードアイを使えば良いだけの話だったな。

彼がサードアイを使い読心をした結果見えたのは怯えと、畏れ、それとある1つの疑いだった。

 

【何故こうも残酷な事を何の躊躇もなくできるのか】

 

残酷?

 

残酷なのはこの竜の方では無いだろうか?

 

仲間が焼かれたのでは無いのか?

 

こんな事が2度と起こらないように対策を探し、講じる事が最も優先されるべきだろう......

 

「ああ、そうか。単純なことじゃないか【常識】が違うだけだ」

 

そっと彼の口から溢れて結論は誰の耳に届くこともなく。消えていった。

 

「じゃあこの死体の処理は任せる。取り敢えず俺は帰らないといけないんでな」

 

俺は死ななかった。と言う事は、幽香の待っている花畑に帰らなくてはいけない。

 

「常識...か」

 

彼は空へと浮かび、花畑へと向かっていく。

彼女たちにもあったように俺にも常識がある。ただ、それは血塗られた過去の物であって。他人と同じであるわけがない。そんなものは誰も理解できないだろう。それに、してもらう必要も無い。された所で、きっとどうとも思えない。

 

「貴様が、秦 空だな??」

 

突然背後から声を掛けられた。声的にはあの白狼天狗たちでは無い。

 

「何の用だ?」

 

空は後ろを振り返り、声をかけてきた者を確認する。

黒い羽、見た目はいつかの新聞記者に似ている。

 

「お前を拘束しに来た」

 

「ほぉ......何故だ?」

 

「お前が、今回の事件の首謀者である可能性が高いからだ」

 

何故だ?俺はただ、助けてやっただけなのに。

 

「反抗しようなどと思わない事だ、反抗すればあの忌まわしい覚妖怪を処刑する」

 

どうやら、さとりを拘束している訳ではなく。いつでも殺せるという意思表示のようだ。とりあえず、ここは従うべきか。

 

「お前が拘束しようとしている俺も忌まわしい覚だが?」

 

「外来人で元人間の覚妖怪だろう?もちろん知らされている」

情報源は紫か、一応幻想郷の権力者には俺の事を説明したんだろう。

 

「見た目は鳥でも結局犬という事か」

彼は皮肉った笑みを浮かべながらそう言い放つ。知ったのではなく知らされたのならこいつは1番上の者ではなくその指示に従うことしか出来ない犬だ。

 

「私は鴉天狗だ、覚えておけ」

 

鴉天狗はそうとだけ言って俺の手を麻縄で強引に縛り、数名の仲間を呼んだ後山の頂上へと向かった。

「どこに連れて行くんだ?」

 

「我々の頭領の元だ、そこでお前を審判してもらう」

 

「審判ねぇ、閻魔か何かなのか?」

 

閻魔であればさっさと裁かれて罪を償いたいのだが。まぁ、閻魔ではないだろう。

 

「閻魔では無い」

 

「それは残念だ」

 

手には麻縄、周囲には4人の鴉天狗。能力を使うまでもなく、こんな包囲も縄も抜けれるがここでそれをするとさとりに危害が及ぶ可能性がある。

一応はあそこを護ると決めたのだからわざわざ自分から危害が及ぶような事はしたく無い。

少し飛んでから鴉天狗が口を開けた。

 

「あれだ」

 

「ほぉ」

 

先程までは何も見えなかったが、山の頂上の雲の上に巨大な赤い扉が現れた。特殊迷彩が施されていたのだろう。

 

「随分と大きいな。巨人でも居るのか?」

 

「居ないな」

 

ここの建物はどれも無駄に大きい。フルメタルアルケミスト的な力を持っている奴が居るのか?

巨大な扉がこちら側に開き、鴉天狗に連れられ中へと入っていく。そこには青々と茂った芝と巨大な寝殿造りの屋敷があった。

 

「拘束を解く、無駄な抵抗はするな」

 

「結構だ」

そう言って彼は手首をひねり、麻縄から抜ける。

 

「貴様...!」

 

「最初からこんなもの外せた」

 

空の手が空いた事に警戒してか周囲の4人の鴉天狗が扇を構えた。成る程、この扇が武器になる訳か。見た所、刃物では無い様だが。

 

「素晴らしい!」

 

突然目の前に白髭を胸まで生やした、緑の着物の老いた白髪の天狗が現れた。暴力的なまでの威圧感、少し見える手や、顔にある傷からからして歴戦の強者である事が容易に想像できる。そして恐らくこの天狗がこいつらの頭領だろう。

 

「何故呼んだ?」

 

「貴様っ!我等が大天狗様に向かってなんて口を...!」

 

自分らの長であるものに威圧的なまでな態度をとった彼が許せないのか彼を連行して来た天狗が声を上げる。

 

「構わん、何故呼んだか?だったか」

 

「ああ、そうだ」

 

「少々貴様と話してみたかったのだよ。それだけだ」

 

全く、我儘な気もするが。おそらく本当の狙いは俺の危険性の確認だろう。

 

「そうか、それなら態々拘束しないで欲しかったな」

 

「それはすまないと思っている。ただ、そうでもしないと下が従わんのだよ。わかってくれ」

 

「最初からそこまで気にはして無い」

 

「では、ゆっくりと話をしようじゃ無いか」

 

そうして彼は大天狗と呼ばれる老天狗に着いて行く。ただ、周囲の天狗は全く警戒を解く気配はなく純粋に敵意を抱いていた。それは屋敷に入ってからも変わらず、すれ違う度に睨まれ、心で悪態を吐かれた。

にしてもさっきから。この老天狗の読心が上手く出来ない。感情は読めるが何を考えているのか全く分からない。何かしらの攻撃をされた覚えも無い。いや、純粋に読心に対する対抗策を知っていると取るのが妥当だろうか。

 

「そんなに警戒せんでもいいだろう?」

 

「周囲からこんなにも殺意向けられてまったり出来るほど肝が座ってないんでな」

 

相変わらず、すれ違う度に睨む、心中で読まれるとわかっていて悪態を吐く天狗達に空は警戒していた。今、目の前に居るこの老天狗も読心が上手くいかないため、信用することは出来ない。それでも、この老天狗は彼を屋敷の奥へ奥へと連れ込んで行く。

 

「随分と遠いんだな」

 

「そういう作りなのだよ。少々周囲が煩いかもしれんが我慢してくれ」

 

どうやら、この老天狗は俺がよく言われていないことに気づいていた様だ。

 

「まぁ、無理もないだろう。何せ、忌み嫌われている覚妖怪を自分らの家に招いてる様なものだからな。嫌っている奴が家に来て嬉しいやつはいないだろう?」

 

「それもそうだな。ただ、覚の読心は心に読まれたくない物があるから怖いのであってそれが無ければ怖くないのだよ」

 

そう、空も気付いてはいた。何故、人や妖怪が覚のことを嫌うか。それは純粋に気味が悪いという綺麗な理由ではなく。

ただ、自分の心の闇を見られたくないからという事だ。嫉妬、怠惰、暴虐、高慢、自分の醜いところ、他人から隠しているところを見られるのが嫌なだけだ。

 

「それはそうだろう、だがお前の感情も見えないんだが?」

 

「これでもかなり生きているのでな。隠し方を覚えているのだよ。到着だ、入ってくれ」

 

そう言って、老天狗は鳥獣戯画であろう物が描かれた扉を開け、中へ入って行った。

その後を空が少し遅れて入って行く。そこにあったのはかなりの広さがある広間、床には畳が敷かれている。そこに何故か炬燵が置かれ、その上にみかんが置かれていた。

扉から入ったところで、左右に女の鴉天狗が2人おり。その扉を閉めた。それ以外には天狗らしき姿は見えない。

 

「座ってくれ」

 

「ああ」

 

空は老天狗の前に座りみかんに目を向ける。毒は入っているだろうか?少量なら特に意味はないが多いと効果が出る可能性もある。

 

「何故、みかんなんだ?」

 

「炬燵と言ったらみかんじゃないの?」

 

「それはそうだが......」

 

空はみかんから目を離し、正面にいる少女を見た。

 

「......は?」

 

白髪という事は変わっていないが、正面いるのは老天狗では無く幼い少女、たださとりよりは年が高く見える。

いまのところは。

 

「どーも、こんにちは。私は大天狗、ちょっとお話ししようか」

 

「ああ、何を話す?」

 

訂正だ、こいつはさとりよりは精神年齢的に幼さそうだ。

 

「そんなに驚かないのね。なんで、地上に出て来た?」

 

本当になんなんだこいつは、さっきから威圧感を出したり消したりと。

空はその目の前の少女雰囲気の変わりようを見ながらみかんに手を伸ばし、手の上で弄びながら返答した。

 

「理由がいるのか?」

 

「いるわよ。地底と地上とで結ばれた契約があるからね」

 

そう言って目の前の少女はみかんの皮を剥き、みかんの1切れを口に放り込む。

 

「どんな契約か聞いても良いか?」

 

「まぁ、今回は知らなかったのでしょうしこれからの為に教えてあげるわ」

 

ここで少女はまた1切れのみかんを口に放り込み。ゆっくりと咀嚼してからまた、口を開く。

 

「昔はね、この妖怪の山は4人の鬼が統治していたのよ」


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