【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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29話 罪人に教えを請うとは如何なものか

気付けば太陽の畑まで数100メートルになっていた。風は向かい風だったけれど思ったよりは早く着けた。

ただ、問題はここから。この眼下に広がる広大な畑からここの管理人である風見 幽香か目的の秦 空を探さなければいけない。

ただ、私は双方にも会ったことが無いので顔で判断することは出来ない。ただ、ここにわざわざ訪れる妖怪なんて居ないだろうから人影が見えれば何方かで確定だと思っても良い筈。

そんな事を考えていた彼女地上から突然レーザーが放たれる。

 

「冗談でしょ...?」

 

地上には向日葵しか無い。だだ、その向日葵は意思を持つかの様に茎を伸ばし、侵入者と判断した彼女に向けてレーザーを放っている。

最初は数本のレーザーだったため気にもしていなかった彼女だったが、段々と現状の厳しさを認識しだす。

眼下には大量の花、その中で向日葵のみではあるがそれが彼女を見つける度にレーザーを撃ち込んでくる。また、距離を取ればターゲットが外れるならば良いが、一度認識されると恐らくこの畑を出るまで狙い続ける様に式が組まれている。

数本なら簡単に避けれてもそれが何本も集まれば絶対不可避のものへと変化していく。

 

「こんな所で落ちるわけには...!いかない!」

 

現状を悟り、飛び続ければ蜘蛛の巣にかかる様になることを認識した彼女は、レーザーに被弾するのは覚悟の上で真下に急速降下、眼下の畑へと飛び込んでいく。

彼女はレーザーに狙われている間に1つの仮定を立てていた。ここの妖怪はこよなく花を愛していると聞いたことがある。なら、あえて自分の花畑にレーザーを撃ち汚す様なことはしない筈。

それならば、一層の事わざと花畑に突っ込みレーザーの照射できない位置に行ければいい。ただ、それは自らレーザーの放たれる場所へ行くということも示していた。

 

「参る...!」

 

彼女は大きく一度息を吸いレーザーの放たれる地上へと一気に降下する。ただ、向日葵もそう簡単に行かせるわけもなくレーザーで彼女を執拗に狙い続ける。

大量の向日葵から放たれるレーザーが彼女を行かせまいと前方から襲いかかる。

ただ、彼女は狼の身体能力を駆使しその全てをギリギリで躱していく。

そして、地上まであと少しという所で正面の向日葵からレーザーが放たれた。

彼女はそれを背中に背負った盾で受け流し、花畑に降り立った。

 

「あら、犬臭いと思ったら。一体ここに何の用かしら?」

 

花畑に降りた彼女の前に日傘を持った赤いドレスが特徴的な女性が歩み寄る。

 

「貴方は、風見 幽香ですね。私は上の命令でここに居る秦 空に会いに来ました」

 

「そう......残念だけど。彼はあなたの求めているものは教えてくれないと思うわよ」

 

それはそうだ。そんなに簡単に自分の戦い方を教えてくれるとは思っていない。でも、天狗社会は上の命令は絶対。

 

「何となくわかってます。ただ、上の命令なので、逆らえないんですよ」

 

「あら、それは失礼。取り敢えず彼はじきに帰ってくるでしょうしそれまでゆっくりしてると良いわ」

 

向日葵は私に攻撃してくる気配はもうない。彼女の命令なのか畑に入ったからなのかはわからないけれど。まぁ、秦 空が来るまではゆっくりと花でも見てようか。

 

「花は好きかしら?」

 

そんな彼女に突然幽香が話しかける。

 

「ええ、そうですね。嫌いではないですよ」

 

「随分と......曖昧な回答ね」

 

「匂いが強いと少し辛いんですよ。全ての花を愛せるわけでは無いですしね」

 

それは彼女が白狼天狗であるから。それは言わずとも理解できる常識だ。

だからこそ、彼女達は匂いの少ない紅葉樹を愛した。銀杏など例外はあるが。まぁ、気にするほどのことでも無い。

一部の家系は紅葉樹を家紋や、子供の名前に付けることもある。事実、彼女地彼女に親友は共に紅葉樹の名が付いている、

 

「それもそうね。少し、お茶でもいかがかしら?」

 

「頂きます」

 

お茶を飲むと告げられた幽香は茶を作るため、自分の家に入って行った。

こうして接してみると意外にも悪い人ではない。話に聞いていたような戦闘狂では無いし、普通に話が通じる。やはり、百聞は一見にしかずという事か。

そうなると、秦 空という人間も実は非常に柔和で、優しいのかもしれない。

 

「ねぇ、あなた誰?」

 

「...誰ですか?」

 

突然後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには黒いドレスに赤いリボンの映える。まるで人形のように可憐な少女が立っていた。

「私はメディスン」

 

「私は楓です」

 

簡単な自己紹介をする。メディスン......一度文様の新聞で見た気もするけど。よく覚えてない。

 

「ここに何しに来たの?」

 

「秦 空に用があるんですよ」

 

「そう......私はアレ嫌いよ」

 

そう言って少女はまた花畑の中に入って行ってしまった。

 

「今日まだ見てないと思ったら、彼から隠れてた訳ね」

 

いつの間にやら家から出て来ていた幽香が湯気を立ち昇らせるティーカップを持ち歩いて来ていた。

 

「お知り合いですか?」

 

「ええ、一応一緒に暮らしてるのよ」

 

そう言って差し出されたティーカップを受け取り、匂いを嗅ぐ。

 

「ハーブティーですか」

 

「お口に合わないかしら?」

 

「いいえ、お茶は好きですから」

 

そう言って彼女はティーカップに入ったハーブティーを啜る。

 

「美味しいですね。種類は何を使ってるんですか?」

 

「自家製にジンジャーよ」

 

「自家製ですか...良いですね」

 

一時期、家庭菜園をしていたこともあるけれど。結局仕事が忙しくて辞めた。これを機に再開するのも良いかもしれない。

 

「どうやら帰って来た様よ」

 

そう言って幽香は森の上空を見据える。

 

「それは良かったです。あの人ですか?」

 

確かに幽香さんの見据えた先には人影が見える。それは森の上からこちらへゆっくりと飛んで来ていた。ただ、まだ距離が遠く情報はあまり手に入れれない。

 

「私が話を通すから後から来て」

 

そう言い残し、幽香はコップを蔦を伸ばした向日葵に渡し、空の元へと飛んでいく。

人影で見る限りはただの少年に見える。年齢も外来人ということも考慮すれば体相応だろう。それで鬼を倒したとなると、やはり非常に強力な能力持ちと考えるのが妥当。

だけれど、幻想郷の常識では能力は1つというのが一般的な筈。彼は覚妖怪という時点で既に相手の心を読む程度の能力を所持している、という事は能力の2つ持ちは考え難い。

という事は読心をフルに使い鬼の攻撃を回避......いや、それも考え難い。読めたところで鬼のあのスピードは心を読んだ刹那に飛んで来るはず。読心してから躱すのでは遅い。なら一体どうやって勝ったのか。やはり能力の2つ持ちという線が有力だけれど。

取り敢えず会ってみれば分かるだろう。取り敢えず、幽香さんの後を追おう。

気づかぬ間に幽香は既に空に接触していた。先ほどの幽香の指示通り、彼女は空の元へと飛んでいく。それほどの距離もなく、彼女はすぐにかれの元に着くことができた。

 

「貴方が秦 空ですね」

 

見た目は本当にただの少年。特になんの変哲も無い。

 

「そうだが、何の用でここまで来た?」

 

言葉使いが妙に威圧的だけれど。本当にそれだけ、特に強者の威圧といった物も何も感じない。

 

「貴方にお願いがありまして」

 

さて、本題に移行しよう。どうまとめるべきか、いかにしてこの覚妖怪を納得させるか。やはりここは一度シンプルに行ってみよう。

 

「是非、私に戦闘を教えてくださいませんか?」

 

非常にシンプル、恐らくこれ以上は無いほどにシンプル。

 

「ほぉ......では俺の質問に答えてくれ、それだけで良い」

 

質問...?一体何を、今のうちに想定をして回答を考えておかないと。

 

「俺から戦闘を学ぶのはわかった。だが、それを何に使う?」

 

一見非常に簡単に見えるこの質問だけれど。少しでも回答を間違えれば教えないという一点張りに成りかねない。これは彼の使い方が分かっていれば非常に簡単だが。それを知らない者からすれば難しい。

 

「それは......」

 

「私は、仲間を守りたい。同族の皆を!」

 

「そうか。なら......教えることは出来ないな」

 

間違えた...?

 

「な......何故です?!」

 

当然の驚き。非常に一般的な模範解答であって、常識的な解答だった筈。それに私の知る外の世界でも力は人を守るためにある。がポリシー。

 

「何故か?簡単な事だ、用途が違う。お前は体を温めるのに氷を使うか?体を冷ますのに熱湯を使うのか?」

 

用途が違う...?じゃあ、この少年の力の用途は一体?

 

「しかし、力とは弱者を守る為の物だと!」

 

これが私の常識。そして、社会一般の常識でもある。ただ、常識なんてものは......

「それが、お前の常識か?」

 

「ええ、強者は弱者を守らなくてはいけない。それが私の常識であって、生きる意味です!」

 

「いい事を教えてやろう。常識なんて言うものは若い時に身につけた偏見のコレクションだ」

 

その時、彼女の耳にのみ。白狼天狗特有の咆哮が聞こえた。意味は、緊急事態至急帰れ。この咆哮が使用されたのは私の知る中では2度目。確か、最初に使用されたのはかつて鬼の四天王の一角であった今は亡き方が狂ってしまった時。

 

「何が言いたいんですか?」

 

何かを言ったいたみたいだけれど、正直聞いてなかった。取り敢えず、今は早く戻りたい。ただ、鬼の四天王の暴走レベルともなると私1人が帰った所で状況は変わらない。その状況を打破するには協力な助っ人が必要になる。恐らく、博麗の巫女、森の魔法使いには誰かが伝えるだろう。

 

「お前は守る為に力を使うのが常識だと言ったな。なら、お前は力を何に行使する気だ?」

 

「それは我々を攻撃する者達に......」

 

なら、私は何とかしてこの2人を妖怪の山に連れて行こう。

ただ、この状況から来てくださいと言った所で説得をしやすくするために連れて行くのだろうと思われるのは間違いない。それに私には関係ないわねなどと言って風見 幽香を連れて行くことが恐らく出来ない。

 

「そうか、じゃあその対象は何故お前らを攻撃する?お前の常識だと力を相手を傷つける為に使うのはダメなんだろう?」

 

今は何とかしてこの2人ともをどんな手を使ってでも連れて行きたい。たった1つだけ、頭に策が浮かんだ。それはわざとこの花畑でこの少年と戦闘に持ち込もうとする事。

 

「そ......それは」

 

「常識が違うんだよ。相手からすればお前らは憎むべき相手、滅ぼすべき対象。相手はそれを実行に移す。それこそが相手にとっての常識。もう一度言おう、やはり用途が違う。だから教えられない」

 

結論は出た。ただ、少し彼について疑問が残る。彼は用途が違うと言った。ならば、彼の力の用途は何か?

 

「それなら貴方のその力の用途は何なんですか?!一体、大百足を1人で殺す程の力の使い道は何ですか?!」

 

彼の力は【守るため】にあるのでは無い。ならば答えは必然的に決まる。

それは守るという行為の対局であるということを示していた。

 

「俺のこれは、守る為にあるんじゃ無い。その逆だ、もう分かってるんだろ?俺はこれでも覚妖怪だ。お前の中ではもう気付きかけてるだろ?」

 

ただ、それは今は重要では無い。

 

「なら、見せて下さい」

 

彼女は白狼剣を抜き、構える。

 

「は?」

 

強引にでも戦闘に持ち込む。それしか、この2人を妖怪の山に連れて行く策は思いつかない。

「ほら、早く剣を抜きなさい!」

 

そう言って彼女は彼に向かって行く、片手に構えた白狼剣を握りしめできる限りの速度で。

ただ、その剣が彼に届く事はなく。背後に現れた風見 幽香の強烈な一撃を受け、一瞬意識を失い地上へと落下していた。

 

「こんな所で、落ちるわけには...!」

 

彼女には強固な意志があった。私の同族を傷つけさせる事はしないという。彼女は常識と言っていたが、それは常識ではなく意志であった。

彼女は意識を取り戻し、片手に握っていた白狼剣を風見 幽香に投擲する。落下しながらの投擲ではあったが、彼女の理解している覚妖怪などでは止めることなど到底出来ない速度。投擲された白狼剣に秦 空の視線を移し、瞬時に空中で体制を立て直し、妖怪の山へと全力で飛行する。その直後、背後から何かが空を切ってくる音がした。本能的に振り向くと既に白狼剣が目前まで迫っていた。彼女はそれを回転しながら取ることで勢いを殺し何とか受け止める。

 

「投げ返された...?」

 

私の知っている覚妖怪では無理なはず。けれど、死角から投げたのだから風見 幽香が受け止めたというのは考えにくい。

という事は非常に考えにくいものではあるけれど、彼が受け止め、投げ返して来たという事だろう。どうやら噂は本当だった様だ。彼は覚妖怪のレベルを遥かに凌駕している。これなら、妖怪の山で起きている何かを解決してくれるかもしれない。

 

彼女はそんな期待をしながら妖怪の山へと急いだ。


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