「あら、何時から気付いていたのかしら?」
「さぁな。いつからだろうな。まぁ、見られた物は仕方ない。勝手に見た事に関しては特に咎めないでおく。その代わり、俺の頼みを聞いて貰おうか」
八雲 紫、幻想郷の賢者であり、恐らく幻想郷の内部でもそれなりの力がある人物。能力は空間を操るだっただろうか?
「あら、あなたの事だから消されるのかと思っていたわ」
「悪いが、俺は戦闘狂では無いからな。それにお前を消すのは苦労しそうだ」
全く、俺に対しどんな印象を持っているのやら。まぁ、それもどうでもいいことだ。正直、紫が見に来るのは想定内だ。ここの強者であるならば突然入ってきた謎の覚妖怪の力量を確認しておくこともするだろう。
「で、そのお願いは何かしら?」
「俺は今、1人で考える時間が欲しい。3日間、外の俺の家に飛ばしてくれ。そしてその最終日にさとりを送ってくれ。それだけだ。」
少々、自分の周りで起きたことに対して整理が必要だ。流石に情報が乱れすぎている。
「それは無理ね。」
「は?」
俺は外から入ってきたのだから、自動的に外に出ることも可能だろうと思っていたが。
何か特殊な理由でもあるのか?
「貴方は今、妖怪なのよ。今は幻想郷の中にいるから存在出来ているのであって。外に出たら消えてしまうわ。」
「消える?それはまた物騒だな。何故だ?」
「妖怪は人間の畏れの感情から生まれたというのは知っているかしら?」
確かにあちらの世界でも妖怪は人間の畏れから生まれると言われていた気がする。その畏れも抱けない事もあり気にしていなかったが。
「知っているようね、なら話は早いわ。外の人間はその畏れを科学で解明したの。これが何を意味するのかわかるかしら?」
「成る程、人間は畏れなくなり。妖怪の存在意義が薄くなっていると。」
それならば村の発展の遅れも理由がわかる。科学などで色々と学ばれると妖怪の存在理由が消え妖怪が消えてしまうからなのだろう。
「話が早くて助かるわ。という事で外に行くのは厳しいわ。その代わりと言っては何だけど、妖怪含め誰も近づかない場所ならあるわ。そこなら直ぐに案内できるのだけど」
パルスィかヤマメに助言を求めようかと思ったが勇儀の看病でそれどころでは無いらしい。こんな事なら関節破壊程度に抑えるべきだったろうか?まぁ、それぐらいでは筋肉でなんとかされていただろう。仕方の無い事だ。
「いったい何が居るんだ?何の理由もなく誰も近づかないわけが無いだろう」
人間が近づかないならまだ、妖怪に警戒しているという事だろうと思えるが、妖怪までも避けているという事は何か妖怪が恐れるレベルのものがいるという事だ。
「そうね、強いて言うなら。花が大好きな妖怪と言ったところかしら、どちらにしても貴方ほどの戦力があれば死ぬ事は無いわ」
「素晴らしいくらいに物騒だな。笑えない。まぁ、それでも良い。送ってくれ」
花が好きで他の者が近寄らないという事はそこまで花を溺愛しているという事だろう。そして、その花を傷つけようとすればそれに対し防衛手段と称した一方的な攻撃を放つという事だろうと予測できる。
ただ、それでも誰も近寄らないというのは少しおかしいだろう。まずまず花に危害を加えなければ良いのだから。恐らく過剰防衛が行われている可能性が高い。
範囲としてはその花のある場所に入った瞬間だろうか?
「考は固まったかしら?送るわね」
俺がその返事をするよりも先に足元に出現した、不気味な目のようなものが覗いている気味が悪いと形容せざるおえないような裂け目に落ちた。
「やはり紫は敵にすべきでは無いな」
周囲には大量の花。気付けばその中に立っていた。風が吹けば花が揺れ花弁が宙を舞っている。
そのまま地面に落とす事なく俺を送ったのは恐らく紫も例の花が大好きな妖怪を怒らせたくなかったという事だろう。
にしても、こんな花畑があるとは。空があるという時点で地上だという事は分かるが。外にこんな花畑は無いだろう、いや、あるのかもしれないがゆっくりと見て回ることは出来なかったろう。
まぁ、そんなに花の知識があるわけでも、花が好きと思えるわけでも無いが。
「あら、貴方どこから来たのかしら?私が侵入に気付けなかったという事は紫に送られたのでしょうけど」
「俺の能力という線が頭に浮かばないところからしてそれなりに同じ事があったみたいだな」
「まぁね、それはそうと何の用かしら?」
紫から聞いた印象では話など通じなそうだったが、想定外だ。割と普通、いやこれまで俺の会ってきた人間......いや、妖怪たちと比べればかなり話が通じる部類だ。恐らくさとりの次程度には話が通じそうな気がする。
まぁ、まだ今のところではあるし、仮面を被っているという可能性を除けばの話だが。
「実際、ここの花畑には用はなかったんだが。此処なら、静かに物事を考えれると聞いてな。それより聞いていたよりも話が通じそうで何よりだ」
「話が通じそう、ねぇ。一体どんな風に聞いていたのかしら?」
「聞きたいか?オススメはしないが」
「大方検討は付くし良いわ。それよりも此処で考え事だったかしら?此処で良いならご自由に、ご飯になれば呼ぶわ」
思ったよりも簡単に此処での滞在を認められた。それに俺のサードアイを見ても何も言わないところからして、覚妖怪を恐れている風も無い。恐らくはかなりの戦闘力を持っている。
「流石にご飯までは大丈夫だ。3日程度、何も食わずに生きれる」
「いいえ、それではこっちの気がすま無いのよ。久々の客人なのよ、それぐらいはさせて貰うわ」
これは、譲ってもらう事は出来なそうだ。此処は諦めて従うとしようか。恐らく此処で無理に断るより従った方が後々の事が円滑に進みそうだ。
「成る程、そこまで言うならお言葉に甘えよう」
「あっさり了承するのね。毒殺されるかもしれないわよ?」
「残念だが、毒では死なないだろうし俺は覚妖怪だ。そう簡単には逝け無いだろうな」
そう。とだけ言ってその花大好き妖怪は俺を見つめる。一体何を考えているのやら、サードアイを使うか迷いどころだがまぁ、使わなくても良いだろう。
「そう言えば名前は何て言うんだ?紫からはお花大好き妖怪と聞いているが」
「お花大好き妖怪......ねぇ。まぁ間違ってはいないけどね、私の名前は風見 幽香よ」
「俺は秦 空だ。まぁ、3日だけだがよろしく頼む」
どうやら今のところはやはり一般的という感じだろう。何故此処に来るというだけで死ぬ事は無いとまで言われなくてはいけないのか。
可能性としては、幽香自体は危険でなかったという事か、まだ幽香が本性を現していないという事の2つが上がるだろう。
いや、紫の性格からすれば俺を警戒させ戦わせる事も目的だったのかもしれないが。
「じゃあ私は花を見て回るわ、一緒に来るかしら?3日でも道程度は覚えたほうが良いでしょう?」
「確かにそうだな、一緒に行かせてもらおう」
それに、それで幽香の本性が覚れるならばそれに越した事は無いだろう。
「じゃあ、少し私のお花達の紹介でもしようかしら?」
「お花大好き妖怪という事は間違ってはいない様だな」
「そうね、否定しないし。私は花が大好きよ」
やはりそれだけしか分からない、何かもう少し情報が欲しいものだが。そんなにも考える必要は無いだろう。この3日は俺が自分の事を考えるためにあるのであって他人の事を考える為にあるのでは無いのだから。
「ああ、ところで此処はどれくらい広いんだ?身長が高く無いもんでな、あまり見えないんだが」
「どう表せば良いかわからないけど、取り敢えず飛べばわかるわ」
そう言って幽香が空へと飛んでいく。俺は慌ててそのあとを追った。
気のせいだろうか?此処にきてから他人の背を見る事が多い気がする、まぁ、どうでも良いことか。
「取り敢えず範囲はこれくらいね」
「かなり広いという事はわかった」
東京ドームと言われるものがあるがそれが収まる程度には大きいと思う。
そんなことよりも衝撃的なのは恐らくこの範囲の花の世話を幽香が1人でやっているということだ。それだけすれば1日のほぼ全てを花に使っていると言っても過言では無いだろう。
使用している時間で考えれば親が子供を見る時間とほぼ同等レベル。それだけすれば、愛着が沸くのも、花に対する危険を極力排除したくなるというのも、まぁ、理解は出来る。親心と言うものが働くのだろう。
「せっかく飛んだことだから、このまま家へと飛ぶわ、出来れば場所を覚えて」
「ああ、努力しよう」
此処までは普通に良い奴と言う印象が強い。だが、良い奴なら他人に、他の妖怪に避けられ、恐れられる理由が無い。全ての事象には何かしらの理由があるものだ。
ただ、これは紫のあの発言が真実であると言う仮定の元成り立っている。あの発言が嘘であれば俺の考え全てがひっくり返るだろう。だが、紫の言っていた花好きの妖怪と言うのは間違っていなかった。
「此処が私の家よ、後は好きに考え事なりしてなさい。私は花を見てくるわ」
そう言って日傘をさし、歩いて行く幽香の後ろ姿を見ても何も感じ無い、特に悪意も読め無い。なら、今は良い奴と言うことにしておこう。
事実は違ったとしてもその時はその時だ。今は来たるべき3日後に向けて、自分の考えを纏めなければ。
そうして少年は自らを思想の海に沈めた。