【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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24話 戦い

  俺は館から抜け出し、1人地底の街を歩く。今は取り敢えず勇儀を探さなくてはいけないだろう。

  闘うという約束をしていた。俺自身も鬼の戦闘力に興味はある、それに約束は破りたくない。

  ただ、勇儀とお俺が闘うとなるとそれなりに観衆が集まることが容易に想像できる。

  それは避けたい。俺が強いという事はもう既に隠す事は出来ないが、俺の戦闘時の動きは見られていない。

  それに......見せる気はない。俺が闘ってきた奴らは基本的に皆殺しにしてある。なぜかと言われれば、俺の戦闘方法が自らを守る為ではなく、全てが相手を確実に殺す為に出来ているからと言っておこうか。

  要は、俺がその戦闘方法を使うことは相手の死に直結するという事になる。まぁ、多少の手加減は出来るが、したところで元が殺人を目的として作られている為手加減をした場合。相手が四肢の何本か、感覚の幾つかが無くなることは間違いない。そんな事をし、一生苦しませるぐらいならばいっそ殺したほうが良い。それは相手にとってもそうだろう。

  ただ、稀に異常な程に生にすがるものもいるのだった。まぁ、どちらにせよ。死んだ相手には。喧嘩を売った相手を大きく間違えたと言っておこうか。

 

「ああ、違う。今考えるべきはそれじゃない。勇儀を探さないとな。」

 

  俺は初めて勇儀に会い、酒を飲まされた店へと向かう。

  確信も、証拠もないが。ただ、そこにいる気がした。要は、ただの勘という事だ。

  周囲が俺を見ているのが分かる。まぁ、殺意を込めた目線よりか、好奇の目線が多い。そんな事よりも今は、勇儀に会い、闘いを早めてもらいよう頼むべきだろう。

  俺は少し歩いたところで店を見つけることができた。居てくれれば良いのだが、居なかった場合探さなくてはいけない。俺は地霊殿に住んでいるとは言え。街を散策したことは少なく、店の場所などは把握しきれていない。

  俺はドアを開け店内を見回す。店長が俺にいらっしゃいと言うが俺は愛想だけし店内を見直す。

 

「おお!どうした?夫婦喧嘩でもしたか?」

 

  俺がその声の方に目を向けると、パルスィと勇儀が2人で酒を飲んでいた。

  まだ入って間も無いようで余り酒を飲んでいないようだ。と言っても周囲に酒瓶や酒樽が無いというだけだが。

 

「夫婦?俺に妻はいないぞ?」

 

「気付けない貴方の鈍感さが妬ましいわ。」

 

  パルスィが後ろを向いて俺を軽く睨見ながら言い放つ。サードアイで見るまでもなくその瞳には悪意というよりか呆れが籠っていた。

  1方その後ろから俺を見る勇儀は何か面白いショーでも見ているかのように笑っていた。

  全く、感情というのは理解しがたいな。別にそこまで理解したいというわけでも無いが。

  何方にしても早く本題に移そうか。酒もまだそこまで入っていないようだし話にはなるだろう。

 

「明日の決闘の件だが、今日に早めてくれないか?」

 

「ほう?何故だい?」

 

  いきなり話題を振るのは危険かとは思ったが、当たり障りは悪く無い。

 

「俺は、観衆の前で闘いたく無い。出来れば俺と勇儀、2人だけでやりたい。」

 

  勇儀はその案を少し考えているようだったが、その前に座るパルスィが俺を見ずに言い放つ。

 

「貴方は、それで大怪我をしたらどうするつもりかしら?勇儀は貴方が怪我をしたとしても何も出来ないわよ。そんな事も分からない貴方が妬ましい。」

 

  確かに、御尤もな意見だ。だが、それでは一体誰にその役をして貰おうか?俺の戦闘を見られる以上、約束を確実に守ってくれる者が望ましいが。さとりはありえない。こいしは......何処にいるのかがわからない。お燐も選択肢にはあるが、恐らくさとりに許可を得なければ動かないだろうし。許可を取る際に嘘は通用しないので真実を話すしかない。この時点で俺の信頼できる者を当たるのは厳しくなった。

 

「じゃあ、パルスィとヤマメにしよう。それで良いな?」

 

  勇儀の突然の提案、確かに勇儀にとって信用に値する者達だろう。

  それに勇儀に約束を取り付けれれば何とか隠すことは可能だろう。

 

「全く、そんな風に人を扱える貴方が妬ましいわ。」

 

  パルスィはそんな風に答えてはいるが、嫌だなどと拒否はしない。正直、そういう所が勇儀に気に入られる理由になっているんだろう。

 

「そういうことだ、悪いな店長。勝って戻ってくるよ。」

 

  勇儀は既に勝利は決まっているかのような、発言をし店を出て行く。俺はその後ろを追った。

  その後、ヤマメを見つけ出し、決闘の事を伝え同行させた。そろそろ、約束を取り付けれればならない。

 

「なぁ、悪いんだが。1つ約束してほしいことがある。」

 

  俺は3人に連れられ決闘の場所に向かう道中で口を開く。

 

「これから闘うわけだが、俺の闘い方を絶対に口外しないで欲しい。伝えるのは勝敗だけにしてくれ。」

 

「ああ、私は構わない。」

 

  勇儀が即答する。勇儀がそう言うのは分かっていた。何せ勇儀の目的は俺と闘うことであり俺の闘い方を見る事では無い。

  ただ、問題は後の2人だ。

 

「私も構わないわ。」

 

「あたしも別に良いよ。」

 

「ああ、助かる。」

 

  意外にもあっさりと事が進んだが。取り敢えずは、これで俺の戦闘方法が流出することは防げた。だが、問題はさとりの読心をどの様にして避けるかだ。だが、それはさとりの性格からして勇儀が約束したと、読心される前に言えば読むことは無いだろう。

 

「ここだ。ここなら人目にもつかない。」

 

  そこは砂漠だった。多少なり足が取られるが。まぁ、そこまでの事では無いだろう。

 

「ああ、確かにここなら人目にもつかなそうだな。助かる。」

 

「私の目的はあんたと闘う事だからね。それに観衆の中でやったら私も本気が出せないしな。」

 

  ああ、周囲への被害を恐れてという事か。まぁ、その程度の破壊力は予想していた。それほどの力が無ければあの百足の甲殻にヒビをいれることはできないだろう。

  ただ、予想出来ていたとは言えその攻撃の威力は減らない。あれだけ硬いものを砕く拳を受ければただでは済まない事は容易に想像できる。

 

「じゃあ、そろそろ始めよう。大百足すら倒す戦闘力......見せてもらおうか。」

 

「ああ、来いよ。」

 

  俺は長剣と短剣を精製し、両手に握る。所謂、二刀流というものだ。俺自身の短剣は地霊殿に置いてきているので今は無い。まぁ、置いてきた目的がないというと嘘になるが。3割程度は俺がただ忘れて来たと思っても良いだろう。

 

「そら、行くぞ?」

 

  勇儀が右足を踏み込み、俺との距離を縮める。5メートルほどあった距離が一瞬で詰められ目の前の勇儀が右の拳を振るう。

 

「速いな。驚いた。」

 

  正直、予想通りだった。俺はその拳の軌道と向かい合うように長剣を振り下ろす。肉が裂ける感触、噴き出す血が俺を紅く染めていく。

 

「なっ?!」

 

  距離を取ったところで俺と勇儀の闘いを見ていたパルスィの悲鳴が聞こえる。まぁ、どうでも良い。

  ただ、長剣を振り下ろしただけ。それだけの動作でこれだけのダメージが入った。正直な所、剣の刃が通らなかった場合はどうしようか?などとも思っていたが気鬱だったようだ。

 

「想像以上だ。やるね。こいつは久しぶりに楽しめそうだ!」

 

  一度勇儀は俺から距離をとる。すでに右の拳からの出血が止まっているあたりから。筋肉を膨張させ強制的に止血したか、自然治癒したと考えれる。

  ただ、後者の場合は寸止めの加減が狂えば相手を殺しかねないので少々面倒になる。

 

「想像以上、か。全く、お前は俺の戦闘力を想像できるほど闘ったのか?構えろ、行くぞ?」

 

  俺は長剣を短剣に変え、勇儀へと突っ込んで行く。足場は悪いのでいざという時にステップは踏みにくいがそれは立っていても変わらない。

  勇儀はそれを迎え撃つ様に蹴りを放つ。恐らく、あの速度で俺に当たらない距離で振るうという事は衝撃波が飛んでくる。

  俺はそれを見越し、左の短剣を長剣にし地面に突き刺すことでそれを軸にし姿勢を落として回転。上を何かが通ったのを確認したのち、その回転力を利用し右の短剣を投擲する。

 

「ああ、最高だ!私よりも圧倒的な強者に会ったのはいつ振りだ!」

 

  俺の投擲した短剣はガードしたのであろう腕に突き刺さり血が流れている。だが、それで何故か興奮し自らを昂ぶらせている。完全に狂人の類だろう。戦闘に身を沈めてきた者の末路とでも言いたいところだが、俺は勇儀が過去に戦闘に身を沈めていたのかはわからない。よって、ただ単に戦闘が好きなだけだと解釈するのが妥当だろう。

  勇儀は笑いながら、自らに刺さる短剣を抜いた。無論、血は吹き出し砂漠の地面を紅く染めるがすぐに止血される。

  次からは先端が抜きにくい武器を使用すべきだろう。そうでもなければすぐに止血されてしまう。

 

「悪いな空。あんたを見くびっていたよ。此処からが、私の本気だ。楽しめよ!」

 

「悪いが、俺は闘いを楽しいと思わない側でな。残念ながら楽しめなそうだ。だが、勇儀に負ける気は無いな。」

 

「ああ、良いねぇ!最高だ!」

 

  そう言ったのを最後に勇儀の四肢が、胴体が、腫れる様に膨れ上がった。大きさが約1.5倍程度になっている。その分が全て筋肉だとすれば。これまでの情報は意味をなさないだろう。

  戦闘するにあたり、情報を取ることは大切ではあるが、それよりも恐ろしいのはその情報が間違っていた場合だ。その場合それまでに立てた全ての作戦が狂うと言っても過言ではない。作戦には柔軟さが必要だ。まぁ、今回に関しては俺が大した作戦を練っていないのでそこまで影響は無いとは思うが。

  ただ、距離が取れなくなる可能性があるのはそれなりに危険だろう。

 

「構えろ!行くぞ?」

 

  体の膨張をし終えたのであろう勇儀がこちらへ向き一歩を踏み出す。刹那、消え瞬間的に俺の眼の前へ。距離は10メートルはあったはず。それを助走なしで詰められるとすると。

  距離が取れなくなった。眼前に現れた勇儀が膨張し、幹の様になった左腕を振るう。おそらく当たれば即死で良いとこだろう。

 

「hart rate accelerate.」

 

  使わずとも躱せただろうが俺はそんなにゆっくりと勇儀と闘う気は無い。心拍数を一時的に2倍にする事で一瞬にして勇儀の背後に回り。ガラ空きの背中に握っている長剣を突き刺し、刺された勇儀が行動を起こす前に身体を蹴り飛ばすことで、強制的に長剣を抜く。更に蹴りによって体制を崩した勇儀の背中を長剣の一部を砂に変えることで創り出した短剣をで深々と大量の傷をつけ大きく一歩離れる。

 

「ああ、ダメだ。あんたには敵わないな。」

 

  勇儀はそうとだけ言いのこし砂漠に身体を倒した。

  案外強くもなかったな。正直もっと何かあることを期待していたんだが。まぁ、こんなもんだったということだろう。

  パルスィ達を呼ぼうか。だが、その必要は無い様だ。もう既に走ってこっちに向かってきている。

 

「終わった。それと紫、お前に観戦の許可を与えた覚えは無いが?」

 

  俺は《何も無いはず》の虚空を睨む。するとその空間が裂け、その中から幻想郷の賢者である。八雲 紫が現れた。




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