【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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22話 罪人は罪状を想起する

「じゃあ、死んでくれると嬉しい。」

 

 俺は笑みを浮かべながら短剣を振り、近くに居た男の喉を切り裂く。

 男は悲鳴をあげることも出来ず、鮮血を噴き上げながら倒れた。

 周囲のその状況を見た数人は驚いたのか一瞬固まる。

 その隙に俺はもう一人切り裂く。

 

「くそっ。所詮は1人!殺すぞ!」

 

 一斉に襲い掛かって来ようという魂胆だろう。

 にしては人数が少ない。

 ある程度手慣れという事だろうか?

 まぁ、そこまで気にする事でも無いだろう。

 子供の危険もある、早々と終わらせよう。

 能力で弾性の高い糸を空気から生成。

 俺は短剣の持ち手にその糸をくくりつける。

 

「今だ。一斉に掛かれ!」

 

 4方からの同時攻撃。

 あの羅刹よりは頭は良い様だ。

 四人がほぼ同時に攻撃し、逃げ場を無くしつつ?一撃を入れ、すぐに後退。

 ほぼ同時にまた四人の攻撃といった具合だろうか?

 この作戦ならば間違いなく普通の人間なら逃げ場は無いだろう。

 だが、俺は人間ではない。

 妖怪なのだ、空にも逃げ場はある。

 しかし、今回はこの相手への賞賛の意を込め、飛ばずに戦おうか。

 俺は前方に短剣を投擲する。

 非常に避けやすいコースだ。

 勿論相手は上手く避けた。

 やはり、多少はやり手らしい。

 俺は短剣につながる糸が伸びきったタイミングで糸を引く。

 俺のところに戻ってくる短剣を逆手で受け取り、背後から斬りかかろうとしていた妖怪の喉を斬る。

 俺は身体を捻り、そのまま右の妖怪の腹を蹴り、左の妖怪の腹に短剣を突き刺す。

 そのまま突き刺した妖怪の体を盾に距離を取り、その妖怪の腹を横に切り裂く。

 腹を切られたと言うことで臓物と大量の血液が噴き出し、彼の凶器を、彼の身体を、紅く染めていく。

 

「汚い。」

 

「なっ?!此奴.........撤退だ!逃げるぞ!」

 

 いい判断だ。

 だが、俺には今回飛び道具がある、さっき作っておいてやはり正解だった。

 まぁ、この状況は想定していなかったが。

 俺は逃げようと背中を向けた妖怪達の頭部をを撃ち抜き、殺していく。

 弾切れは起こらない。

 俺が打った直後に空気を弾に変更しそれを撃っているからなのだが。

 周りを全員射殺した後そのボスの様な奴に銃を向ける。

 

「殺せ、早く殺せ。ここで生き恥を晒す気は無い。」

 

「そうか。」

 

 俺はそう言ってその妖怪の頭部を撃ち抜く。

 これで子供が連れ出せる。

 今のうちに上空から自分の位置を探るか。

 俺はそう思い、上空へと上昇し周囲を見渡す。

 どうやら、かなり遠くに来てしまったらしい。

 

「村は見えるが、距離がある。」

 

 2、3キロと言ったところだろう。

 まぁ、出来るだけ早く戻るべきか。

 さぁ、子供を連れて行かなくては。

 だが、その前に服を変更しておくか。

 こんなにも血塗れでは、子供が警戒してしまう。

 それは避けなければならない。

 俺は服を白いフードにし子供の所に向かう。

 その他に色は入れない、ただ白一色。

 

「大丈夫だったか?村に帰ろう。」

 

「おっきい音がしたけど大丈夫?」

 

「ああ、全く問題ない。」

 

 俺は子供を落ち着かせる為に笑みを浮かべ会話する。

 ただ、俺の笑顔がどんな物かは分からない。

 それは、作った笑顔であって、俺の無意識に出たものではないからだ。

 

「じゃあ、行くか。しっかりついて来い。」

 

 そう言って俺は子どもを連れ、村のあった方向へと進む。

 

「その必要はないわよ。私が送るわ。」

 

 聞き覚えのある声だ、確か八雲 紫などと言っていたか。

 俺に能力を教えた奴だった筈だ。

 

「俺も送ってくれるか?」

 

「ええ、良いわよ。」

 

「助かる。」

 

 俺は紫によって開かれたスキマに入る。

 子供は突然現れた女性に少々怯えていたが、仲間だという事を伝えるとすんなりと入ってくれた。

 

「到着だ。」

 

「凄い!すぐに着いた!」

 

 まぁ、驚くのも無理はないだろう。

 おれも正直、こいつを敵に回すことはあまり良くないだろうと思った。

 村では未だに祭りが行われていた。

 どうやら花火は終わった様だ。

 

「空!?」

 

 突然背後から飛びつかれた。

 何の前触れもなく、背後からだったこともあり。

 俺は軽く体制を崩した。

 声的にはさとりだろうか。

 

「何だ?余り人前でやる事とは思えないが?」

 

 返事が無い。

 一体何なんだ?

 顔を胸に埋められているため表情も理解できない。

 サードアイを使うべきか。

 俺は自らのネックレスになっているサードアイをさとりに向ける。

 何故だろうか、凄く心配されていた様だ。

 基本的にあの程度の奴らなら死ななかったと思うが。

 胸が濡れた様な感覚がし出した。

 泣いている様だ。

 静かに泣いている、声を上げて泣くわけでも無い。

 ただ、俺の胸に顔を埋めて泣いていた。

 

「あー、悪い。紫、適当な所に飛ばしてくれ。」

 

「わかったわ。」

 

 紫は覚妖怪では無いが俺の思っていることをさとってくれたいた様だ。

 俺たちは紫のスキマに落ちた。

 落とされたのはさとりの部屋だ。

 これまた随分な所に飛ばしてくれたものだ。

 にしても、甘い匂いがするな。

 お燐が何かを作っているのか?

 

「おい、大丈夫か?」

 

「何で1人で行ったんですか?」

 

 何故か?

 決まっている、俺1人で終わらせる為だ。

 

「俺1人で終わらせれる量だったからだ。」

 

「嘘ですね。」

 

 嘘?

 ついた覚えは無いんだが。

 

「何故、相手の量が分かってるんですか?」

 

「ああ、確かにそうだな。」

 

 バレるのが早くなっている。

 まぁ、今回の俺の嘘がかなり酷かった為だろうが。

 

「本当は、私に戦っているところを見られたく無かったんでしょう?」

 

 ああ、確かにそうだ。

 わざわざ、もう使うことの無かった筈の技術など見せたく無い。

 それに、血水泥になる俺を見たところで良いことも起きないだろう。

 

「そうかもな。」

 

「空.....。」

 

 何故だか、抱きしめる力が強くなる。

 正直な苦しい。

 だが、今回は俺に非がある。

 今は好きにさせておくか。

 こういった所は本当に子供の様だ。

 いや、これは普通の反応なのか?

 よく分からないな。

 もう少し、あっちでも他人の心理のことを学ぶべきだっただろうか?

 まぁ、今更考えても意味の無いことだ、過去は変えれない。

 変えれるならば変えたいものだ。

 

「さとり、座って話さないか?」

 

 徐々に、俺を抱きしめる力が上がっていて痛い領域まで達し出した。

 別に、骨が折れるほどでは無いが一応はさとりも妖怪という事でその域に達しかねない。

 それは避けておくべきだろう。

 

「良いですよ。でも何故ですか?」

 

「少々疲れているからな。」

 

 まぁ、これも真実だ。

 俺はあの戦闘で多少なり疲れた。

 嘘は吐いていない。

 まぁ、こんな事が読まれないうちに早く座っておこう。

 

「明日は紅魔館と言う所に行きましょう!」

 

 これは泣いていた事を忘れようとしているのだろうか?

 やけに興奮している。

 そして、泣いていたからだろうが顔が赤い。

 

「元気だな。」

 

「空はどうなんですか?」

 

「そうだな、まぁまぁだ。」

 

 さとりはその言葉を聴いたからなのか、何か策があるのは分からないが笑みを浮かべている。

 少々、おかしい気がしてきた。

 俺の前にいるさとりがさとりでは無いような気がする。

 いや、流石に杞憂か?

 

「じゃあ、元気にしてあげます!」

 

「は?」

 

 押し倒された。

 俺はこの世界に来てから押し倒されすぎてはないか?

 まぁ、ほぼさとりかこいしだが。

 

「何がしたいんだ?俺に感情が無いことは分かっているはずだが?」

 

 もう1度俺の感情の有無を確かめようとしたのだろうか?

 いや、わかっている事を2度もするか?

 今、この状況に成ってもさとりは笑みを浮かべている。

 にしても、この甘い匂いには覚えがあるような気がする。

 そう思い、押し倒された状態で天井を見るとスキマが開いていた。

 そこから、煙が出されている

 そして部屋の隅にはカメラが置いてあった。

 成る程、そういう事か。

 成る程な。

 どうやらあの妖怪共につづき処刑すべき対象が現れたようだ。

 

「空は私が好き?」

 

 どうやらあの時の病院らしき所にあったものよりも効果が強烈らしい。

 とんでも無い事を言い出した。

 感情が無い人が他人に恋心を抱くと思うのだろうか?

 まぁ、今はカメラを壊さなくてはいけない。

 ただ、四肢が拘束されたこの状況ではとても破壊などできないので体を捻り、さとりと体制を逆にする。

 

「空?!」

 

 俺はベットに寝ているさとりを置いて、立ち上がり、カメラに歩み寄り短剣を突き刺して破壊する。

 そしてそのカメラをスキマに投げ返し、能力を使う事で爆発させる。

 どうやらしっかりとダメージは行ったようでスキマが閉じるとともに小さな悲鳴が聞こえた。

 と言っても爆発はそこまで大規模なものでは無い。

 あの烏天狗が焼き鳥になる程度だろう。

 

「全く、面倒な事を。盗撮は犯罪だぞ?」

 

 まぁ、これでひと仕事終えたわけだ。

 

「空...........?」

 

 訂正だ、終えていない。

 あの質問にはどう答えるべきだろうか?

 ここで想もしないのにもかかわらず、嘘を言うべきだろうか?

 いいや、それでは時期にバレる。

 それに罪人は罪を償うまでは幸せになってはいけない。

 ただ、好きと想えないと言うのも残酷すぎるだろうか?

 ただ、それは真実だ。

 何時もとは逆の趣向をしてみようか。

 嘘で真実を隠蔽するべきだろう。

 それがこの状態でのベストだろう。

 

「きっと、さとりなら俺よりも適した男が現れる。その時まで待つと良い。」

 

 俺は結局暗殺者、血に塗れ、他人を殺し、戦いの中でしか生を見いだせない。

 たとえどんなに贖罪意識に苛まれようとも、後悔するとわかっていても結局は俺は殺しをしている。

 あっちでも、こっちでも変わらないんだ。

 そんな俺が幸せになる権利は無い。

【幸せにならない事】これが俺の選択していた自らへの枷であり錠だ。

 まぁ、見合わせになったとしても実感は出来ないんだろうが。

 自分で決めておいてあれではあるが、甘すぎるのかも知れない。

 

 

「私の事は嫌いですか?」

 

「悪い、嫌いという感情も好きという感情も。分からないんだ。」

 

 俺はそう言ってその部屋を出て自分の部屋へと向かう。

 ああ言うしか、なかった。

 ああ言う以外の選択肢が俺には与えられていなかった。

 さとりが俯き、泣いていても結局何も感じていなかった俺が憎いと思いたい。

 他人の血を浴び、身体を裂いても何も思えない自分が憎いと思いたい。

 俺は自分が大嫌いだと思いたい。

 だが、俺は感情が無い。

 憎いという感情も、嫌いだという感情も、好きだという感情も。

 外の学校で覚えた。

 だが、それは結局俺の中では思えるだけで。

 感じれてはいなかった。

 

 何故、俺は感情を持っていないのか。

 何故、俺は暗殺者などやっていたのか。

 何故、俺は生まれてきてしまったのか。

 この事をずっと考えていた。

 だが、分からない。

 何故こんなにも俺を苦しませる?

 ああ、そうだ。

 

 そういえば、俺は苦しいのかも感じれない。

 これは、苦しみなのか?

 それすらも分からない。

 そうか、そういうことか。

 結局、俺は何も分かっていなかった。

 

「ああ。」

 

 全てが結局は理解したフリであって、本当に理解などは全く出来ていなかったと言うことか。

 それは覚妖怪になっても変わらない事実。

 これからも俺は感情を感じれない。

 そして、此処にも、どの世界にも馴染めない。

 それこそがが俺に与えられた罪であって。

 本当の外せない枷であり、錠だった。

 罪を自分で償おうとするなど。

 結局は虚しい行為であり、それも罪だったのかも知れない。

 罪は結局、神に与えていただくものだ。

 そして、神はもう俺に罪を与えていた。

 生まれ、暗殺者として育てられていく過程で。

 すでに罪など決まっていた訳だ。

 何故気付けなかったのだろうか?

 どちらにしても、俺は自分がやはり大嫌いだと思いたい。

 

 少年はその夜。

 

 

 

 

 

 姿を消した。

 


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