【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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21話 作られた命

俺は1人森の中を進んでいく。

暗い、ただ人間は野生動物に比べれば弱いが、暗視がある程度は出来る。

まぁ、俺はこうなってしまうと野生動物に近いのかもしれない。

ただ、俺は人間だ。

感情は無いが、人間だ。

 

「坊や、大丈夫か?迷子だろう?」

 

「えっ、おじさん誰?」

 

そんな事はいい、いまは突然現れたこいつらをなんとかしなければいけない。

恐らくこいつらが誘拐犯だ。

読心をしても敵意が見える。

俺の身長からして幼く見えたんだろう。

適当に幼い声でも出しておけば連れて行ってくれそうだ。

 

「俺は慧音さんの知り合いでね。迷子を見つけたら届けて欲しいと言われてるんだ」

 

「本当?ありがとう!」

 

成る程、あの村に教師は1人しかいない。

だからこそそれを逆に利用しているのか。

家族の名は知らなくても、教師の名は知っている。

さらにあの村には寺子屋が1つ、教師も恐らくは1人。

まぁ、見たことがあるのは1人というだけだが。

子供は知っている人の名を出されれば信用しやすい。

だが、この目的はここでは無いだろう。

恐らく直に子供は見つけられる。

紫が少し探せばすぐに見つかるだろう。

その時に、子供が「慧音先生の知り合いだって言っていた」と言ったとしよう。

恐らく、嘘だとわかっても信頼は無くなる。

無くならずとも少しは失われることになる。

 

「じゃあこっちにおいで」

 

「うん!」

 

教師の信頼を落とす。

それが真の目的だろう。

そうすれば最悪、慧音は村から出て行くことも想定できるだろう。

そこを集団で叩くという事なのだろうか?

しばらく歩いたところで異変に気付いたフリをする。

 

「こっちは言っちゃダメって言われてた方じゃ無い?」

 

「そうだよ、おやすみ」

 

そう言ってハンカチを俺の顔に押し当てて来る。

軽い睡眠薬のようだ。

正直な全く効かないが効いているフリをしておこう。

俺は体の力を抜きその誘拐犯に身を委ねる。

このあとこいつらから子供を奪還して、逃げるわけだが、逃げるのが速いか。

それとも全員殺してから子供を連れて行った方が良いか?

俺をさらったこいつは馬鹿だが、他の奴らも馬鹿とは限らないし、子供の前で殺しなどすれば、子供が腰を抜かすなどの可能性があった。

そうなると俺が背負うかどうにかしなくてはいけないわけだ。

だが、逃げるとなると、相手の人数によっては1人では守りきれない可能性もある。

安全なのは全員殺し、その後すべての子供を救うという手だが、子供に俺の様にはなって欲しく無い。

多少の負担が俺に掛かるだろうがそれでも逃げた方が良いだろう。

その答えが出た所で俺は何かに括りつけられた。

それから周囲から物音がしなくなるのを待つ。

拘束具は鎖だろうか、そして体の固定された状況からして十字架に架けられている事がわかる。

目が開けずに、周囲の人気を探す。

周囲に人気は無い。

一人一人違うところに拘束してあるという事か。

俺はゆっくりと目を開ける。

 

「地下か」

 

どうやら場所は地下の様だ。

正面にも同じ様に十字架があり子供が拘束されている。

然し、鉄格子で仕切られており、一筋縄ではあちらに行けなそうだ。

 

「動くか」

 

俺は自らの拘束具を砂にする事で十字架から免れ地面に降りる。

子供を守るに当たり、遠距離の武器が必要なので足元に転がっていた石を拳銃に変える。

 

「サイレンサーは、要らないか」

 

あっても良いのだが、無くても構わない様なものだろう。

俺は自らの浴衣を黒いフードに変え、長いズボンに変更する。

そして鉄格子を砂に変えることで通路へと出て周囲の状況を確認する。

通路は手を広げた人が5人分ぐらいだろうか。

広さは十分だ。

だが、風を感じない。

という事は、外からかなり遠いか、入り口を完全に閉じられているかだ。

後者の場合、急がなければ窒息死に至る。

少々探索をすべきだろう。

これだけの広さがあればまず、そんなすぐに窒息する危険性は無い。

子供も今は寝ているので、もし、敵と遭遇し殺しても死体を隠せば良い。

取り敢えず、この空間を把握しようか。

少し歩こう。

敵の気配は無い、壁は石だろうか。

そう簡単には壊れないだろう。

牢屋の数は左右に5個ずつ、すべての檻には1人の子供が入っていた。

ただ、俺は脱出しているので数は9か。

さらってきた奴がどこにもいないという事はどこかに出口がある筈なのだが。

全く見つからない。

隠し扉の様なものだったならサードアイで見ておくべきだったな。

俺とした事が迂闊だった。

1人で探すぐらいならば一層の事、子供も出すか?

いや、それだともし彼奴らが帰ってきた場合に俺が対応できなくなる。

 

「ここの壁にも無し、か」

 

すべての壁は見たが、何もなかった。

ならば残っているのは檻の中だ。

面倒ではあるがひとつひとつ確認していくか。

まずは左端だ。

 

「あった」

 

まさかこんな簡単に見つかるとは、取り敢えず先に行って外を確認すべきか。

階段の壁には一定の間隔で松明が設置されていた。

そのお陰でまぁ、暗くは無い。

だが、置かれている間隔が広いため十分な明るさとは到底言えないだろう。

俺は階段を上っていく、ただこの状況から敵に見つかればすぐに報告される事は免れないだろう。

更に、罠にも警戒する必要がある。

 

「階段まで石で出来ているとは」

 

手間がかかっているんだと思う。

ただ、通常より段差が大きい。

子供を連れて逃げるには辛いかもしれないな。

俺はいいとして普通の子供には走れない高さだろう。

一段が50センチ程あるだろうか。

逃げにくい様にということだろう。

要は最初から子供を誘拐し、監禁する施設だったというわけだ。

だが、何のためだ?

何のために逃げにくくする?

そして、何故見張りがいない?

あの十字架から逃げられるわけが無いということか?

にしても甘すぎる、多少は隠すべきだ。

さっき探したときには何もなかった。

いや、待て。

俺は、床は探していない。

となると.......

やってしまった。

俺は登ってきた階段を段ではなく、壁を蹴って下へと高速で降りる。

こちらの方が着地が難しくなる以外は効率がいい。

俺は子供達の監禁されているスペースへと戻った。

 

「やはりか」

 

地面の一部が上がり中からは妙な物が覗いている。

何かはわからない。

しかし、俺にとっていいものでは無いだろう。

ならば処分するしか無い。

邪魔なのだから。

躊躇なく、拳銃を構えその何かに1発打ちこむ。

しかし、その何かは微動だにせず、徐々に上がってくる。

その後も数発撃ったが無駄な様だ。

この拳銃では火力不足ということだろう。

身体の半分程が出た所でその正体が明らかになる。

ライオンとヤギの頭のを持ち、蛇の尻尾を持つ物。

所謂キメラだろう。

にしても、あの程度の科学の技術でキメラを作ることは可能なのか?

それとも元からこういった個体があるのだろうか?

正直、バカ丁寧に闘ってやる気は全く無い。

それは明日の鬼の戦闘で十分だ。

俺はそのキメラの上がってきた檻を即刻硫酸に変えキメラを自らが上ってきた穴へと落とす。

穴がどれだけ深いかはわからないが、時間は稼げるだろう。

事実、しっかりと硫酸に苦しめられている様で獣の吠え声がこだましている。

 

「ここは、どこ?」

 

どうやらこの声で子供達は起きた様だ。

いちいち起こす手間が省けてラッキーだ。

 

「逃げるぞ。走れ」

 

俺は静かに、だが確実に聞こえる声で子供達に指示を出し同時に拘束を解く。

一応階段を上がる前に人数を確認する。

2.4.6.8.9いるな。

 

「俺が先頭に行く、何があっても勝手に逃げるな。俺の近くにいてくれ」

 

そうでもしなければ守りきれる自信が無い。

これだけあのキメラが騒いでいれば何かがあったことに気付くだろう。

後ろから来る可能性もあるが、その場合は拳銃で撃ち抜く。

前から来ても同じだが。

まぁ、来ないでくれることほど有難いことは無い。

正直この子供を置いて先を見に行きたいが、その場合後ろから来られてしまうと何もできなくなってしまう。

 

「お兄さん待って」

 

少し早かったか。

 

「ああ、悪いな」

 

だが、このままのペースで登るとかなりの時間がかかる。

何せまだ上に光が見えない。

光と言っても夜ということもあり。

星や、月のものだが。

一層の事、能力を使うか?

階段の一段の一部を気体に変更すれば、恐らくは今よりはペースが上がるはずだが。

このどれだけあるかもわからない階段を一斉に気体に変更などすれば俺の体力が子供を救うまでもたない可能性がある。

体力を考慮して液体に変えるという選択肢もあるにはあるが、一般的な大人でも膝の高さに水が流れてきた場合、流されてしまう。

この段差を50センチと仮定し、その半分、25センチ×25センチ×横幅分の水が段数分流れてくることになる。

それが一斉に流れてくれば俺は耐えれたとしても子供が間違いなく流れてしまうだろう。

更にその水が下に流れるとすれば落としたキメラの穴に水が集中する。

それにより硫酸が薄くなり、穴の深さによってはあのキメラが脱出し、子供を食われると言う事態があり得る。

 

「ごめん、誰か踏んだかも。あれ、誰でも無いの?」

 

こういった場合に何か踏んだとすると。

正面から丸い岩が転がってきた。

 

「そうだよな」

 

俺はすぐさま手をかざし、岩を気体に変更する。

 

「急がないとな。少し先を見てくる。何かあったら大声を上げてくれ」

 

俺は一言だけ言い少し先に登る。

声を上げてくれれば早く気付けるだろう。

だが、そこまで遠くに行く事は出来ない。

俺が拳銃を持っているとはいえ、俺の射撃は

百発百中では無い。

距離が延びればそれだけ当てにくくなる。

後ろから来られては厳しくなる事は確かだ。

 

「あった。そういうことだったか」

 

光は見えなかったわけでは無い。

差し込んでいなかったということか。

大きな石の塊のようなものが邪魔をしている。

蓋のようなものだろうか?

この状況では判断できないだろう。

巨大な石の塊という可能性あり得る。

まぁ、今のうちに変更しておくか。

そうすれば子供達が上がって来るまでに敵の人数によってはだが殲滅できるだろう。

俺はその石を気体に変え、外の様子をうかがう。

近くに焚き火が見える。

周囲には何人だ?

いや、暗い、更に頭を出しただけでは幼樹や草が邪魔で見えない。

上に出るか?

いや、それだと子供が勝手に出てきてしまう、静止しなければいけない。

いや、出てくる前に殺れるか?

駄目だ、念には念を入れておくべきだろう。

俺は一度階段を降り、子供に命令をする。

 

「おい、そこで待っててくれ。周りを警戒してくる」

 

「わかった、おにいさん!」

 

声が大きい、まぁ気づかれていないようだが。

サイレンサーは使うべきか?

いや、サイレンサーは使えば命中精度や、誤作動の可能性が増える。

ならば音がなったとしても、命中精度や誤作動の可能性が上がる可能性があるならば使わないほうがいいだろう。

まぁ、子供を守る意味が薄れた今の状況では銃を使う事は先ず無いだろう。

まだ子供の後ろから敵が来る可能性も否定できないこともあり、銃は片手に持っておく必要があるが。

準備は出来た、行くしか無いだろう。

 

「すまない、ここらで子供が誘拐されたらしいんだが知らないか?」

 

覚の読心を活かした戦いというのも試してみるか。

それに、誘拐犯では無いという可能性もある。

出来るだけ、関係の無いものは殺したく無い。

これ以上罪は増やしたく無い。

まぁ、正直なところ今更と言った感じが否めないが。

百足やら羅刹やらは正当防衛と言っても良いだろう。

 

「探してるのか?手伝うぞ?」

 

「それは本当か?!そうなら非常に助かるな」

 

ああ、非常に滑稽だな。

嘘をついているのがばれていないと思っている者は。

いつでも滑稽に思える。

 


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