【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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20話 人々は溢れ、金魚は泳ぐ

地上へと繋がる巨大な穴を飛ぶことにより登っていく。

どうやら想像以上に寝ていた様だ。

上から差し込む光の色の様子から日が暮れかけているということがわかる。

 

「毎回思ってはいたが、割と深いな」

 

そう、彼処は地底というだけあって非常に深い。

と言っても深過ぎれば暑いわけだが、そうでもないことから絶妙な深さにあるのだろう。

 

「そうですね、でもこれしか道がないんです」

 

一層の事俺が能力を使って何か作るのも良のかもしれない。

ただ、この距離の移動となるとエレベーターなどになるわけだが、どんなに飛ばしたところで飛んだ方が早いだろう。

 

「そういえば、あの博麗という奴が撃ってきた光弾は何だ?」

 

「ああ、あれですか。あれは弾幕です」

 

弾幕?

俺の知っている弾幕とはかなり違ったが。

と言っても俺の知っている弾で弾幕などはられたら普通躱せないだろう。

状況によってはだが。

 

「弾幕?俺の世界のものとは違う様だが」

 

「この幻想郷は弾幕ごっこと言うもので物事の決着を着けるんです。人間は魔理沙さんと霊夢さんぐらいしか弾幕は出せませんが」

 

ごっこ遊びで物事の決着を着けるということか。

一応ここで暮らしていくためには必要な物だろう。

 

「ルールはあるのか?」

 

「ええ、相手が躱せないものはダメです。そして被弾回数に制限があります。後はルールとは言えないですがどれだけ綺麗に見せれるかも大切ですね」

 

なるほど、要は相手にその光弾を被弾させれば良いのだろう。

 

「所で、さとりもできるのか?」

 

「はい、何度か戦った事もありますよ」

 

ふむ、外にでても日が沈むまでは時間がある。

折角なら、

さとりと一戦交えても良いだろう。

こういうものは聞くよりもやった方が慣れる。

いや、祭りの前にやる事ではないな。

 

「いつか教えてくれ」

 

「はい、教えて欲しくなったら言ってください」

 

「ああ」

 

取り敢えず村に向かう前にさとりと俺のサードアイをネックレス状に変更する。

 

「心配か?」

 

この質問は今すれば、さとりが祭りに行きたくないという可能性もあった。

だが、聞かずに連れて行き何かが起きれば面倒なことになる。

一応は俺が目を離さなければ大丈夫だとは思うが俺も完璧ではない。

俺の不意をつかれる可能性もあれば俺が殺されるというケースもあり得る。

外ではどんなにありえなさそうな物でも此処では起こる可能性があると考えた方が良いだろう。

 

「...........はい」

 

「行きたくなければ引き返しても良いが」

 

「いいえ、大丈夫です」

 

サードアイを警戒した上で嘘をつくか、それでは本心が掴めない。

ただ、本人が大丈夫だと言ったのだ。

そこで何度も問答することは無意味だ。

 

「わかった。行くぞ」

 

そう言って村のある方角へと進んでいく。

少し飛ぶと祭囃子が聞こえ出した。

子供の笑い声や、太鼓の音、様々な騒音が入り混じっている。

そんな時、眼下に4人組の人影が見えた。

確認しようかと考えたがその隙に木の陰に隠れたのか見えなくなってしまったので気には止めないでおく。

そしてそのまま村の入り口へと降り立つ。

 

「凄い混みようだな」

 

テレビで見た外の祭りほど人はいないがそれでも人が多い。

俺もさとりもお互い小さい為、すぐに見失いそうだ。

それの対策を考えているとさとりが俺の袖を掴んできた。

浴衣がはだけるので正直引っ張らないで欲しいのだが。

 

「何だ?」

 

「手を............繋いでくれませんか?」

 

成る程、手をつなぐという手があったか。

盲点だった。

確かに一番お互いに楽で、逸れる前に気づけるだろう。

 

「良い考えだな」

 

俺はそう言ってさとりの手を取る。

思っていたよりも小さい。

力を少し加えただけでも壊れてしまいそうだ。

 

「何か食べたいものあるか?」

 

「お金持ってるんですか?」

 

「そこら辺のものを変更すればつくれる」

 

多少なり犯罪のようなことではあるがまぁ、俺が渡すのは確実に金であるから問題ないだろう。

偽物ではないわけだ。

ただ、原材料が違うだけで。

そして地面に落ちていた石を彼らが使っている金に変更する。

 

「何が食べたい?」

 

さとりは少し黙っていたが口を開く。

 

「私、祭り初めてで.........」

 

何ということだ、さとりもか。

俺も祭りに来るのは初めてという事もありどうやって楽しめば良いのかわからない。

祭りの様な人の多い所でも暗殺は出来るが、俺にはそんな依頼は来なかった。

基本的にそういった人の目がある中での暗殺は集団で行うものだ。

常に単独行動だった俺にはその依頼は向かない。

 

「俺も初めてでよくわからないが、取り敢えず見た感じ美味そうなのを買おう」

 

「じゃあ、あれなんてどうですか?」

 

さとりは繋がれていない左手でとある屋台を指差す。

そこには金魚すくいと書かれていた。

いや、金魚が美味しいわけないだろ。

違った、そういえば金魚すくいとは娯楽の名前で食べ物の名では無い。

だが、金魚すくいとは何だったか、名前の通り金魚を救うのか?

そうなると状況としては空中に吊り下げられた金魚を吊り下げている糸を切ることによって助けるというものだろうか?

 

「金魚すくいを知らないんですか?」

 

どうやら俺の心を読んだようだ。

まぁ、読まれてどうにかなることでは無いので気にもしないが。

 

「祭りにきたのは初めてだからな」

 

今更かもしれないが、お互いが覚妖怪と言っても心は読める。

確か、さとりが読めないと言ってはいたが事実読めている。

ただ、覚妖怪同士では読心を警戒していれば読まれることは無い様だ。

では何故さとりはそれを知らなかったか?

それは恐らく、読心をされたく無い場合が無い程幼い時にこいしがサードアイを閉じてしまったからだろう。

その為に、そこに気付くことができなかった。

その為、間違った知識を持っている。

 

「空も初めてなんですか?」

 

さっき俺もと言ったはずなんだが、まぁ良い。

 

「ああ、来る意味が無かったからな」

 

国に雇われた時からは何度か行く機会はあったが、あまり人混みが好きでは無いし、何せ花火の音が聞きたく無い事もあり、行くことは無かった。

 

「そうですか。色々教えてあげますね」

 

いや、さとりも行ったことは無いだろうと思ったが、そんな事は経験を読めば行かずともわかるか。

 

「ああ、頼む」

 

そしてさとりは人混みの中俺の手を引いて金魚すくいと書かれた屋台へと向かう。

人がいると言っても結局はこの村の住人しかいないので活気はあるが、人にぶつかりそうになる事は無い。

 

「ヘイいらっしゃい!お二人かい?」

 

いつの間にか店の前まで来ていた。

屋台の下には浅めの水槽があり、その中で色とりどりの金魚が優雅に泳いでいた。

 

「やってもいいか?」

 

「二回かい?」

 

俺もやってみるか?

正直、どちらでも良いんだが。

さとりはやるだろうから別に見ているだけでも良いだろう。

 

「二回でお願いします。」

 

「お嬢さんの彼氏かい?」

 

「えっ...?」

 

彼氏?確か仲の良い男女一組の男側の呼び名だったか?

なら俺は違うだろう。

俺は何かと言われればボディーガードだ。

にしてもさとりは随分と顔が赤くなっているが何かあったのだろうか?

 

「残n「そうかそうか!言わなくて良いよ。特別に今回はまけてやるよ!」......」

 

いや、違うんだが。

まぁ、無料になったのなら別に良いだろう。

さとりは顔を赤らめている。

他人から見れば可愛いと思われるのかもしれない。

事実、先程から俺を羨む声が読め、聞こえる。

あんな可愛い彼女がいて良いな。

が主な内容であるがまず彼女ではない。

しかし、何故さとりが俺の彼女だと誤解されるのか。

 

「ありがとうございます!」

 

「ああ、助かる」

 

ここは乗っておくか。

下手に否定して妙な疑念を持たれるのも面倒だ。

 

「じゃあ、これ使ってくれ!」

 

そう言って店主は俺たちに持ち手があり、その先に輪っかの付いている何かを渡してきた。

何だ、これは。

さらにその輪っかには薄い紙が貼られていた。

これで金魚をすくえということか?

それ以外には考えつかないが。

まぁ、これだけ薄い紙を濡らした状態で金魚をすくうのだ、ある程度は難しいだろう。

 

「すくえたらこの桶に入れてくれ。」

 

そう言って一つの桶をすっと流してきた。

 

「よし、やるか。」

 

「空は上手いんですか?」

 

いや、さっききたこと無いと言ったばかりだが。

 

「わからないな、やってみないことには」

 

「そうですか、なら私からで良いですか?」

 

「ああ、お手本がてら見せてくれ」

 

そう言ってさとりは桶を手元に近付け、水の中に先程渡された物を入れ近付いてきた金魚をすくおうとする。

が、紙が破れ金魚は落ちてしまった。

やはりなかなかに難しいようだ。

さとりは周囲のやっている奴らの経験を読みそれを真似ているようだが。

それは理想であり、現実では無い。

そう現実はうまくいくものじゃ無いだろう。

相手は生物だ、救われたいわけが無い。

例え周囲の奴らの経験を読み、それを完全に真似れたとして金魚がまったく同じように動くわけが無い。

 

「残念だねお嬢ちゃん、次は彼だよ」

 

そんなことを考えているうちにさとりの紙は破れて無くなってしまったようだ。

金魚をすくえるほどの紙がなくなれば交代というシステムか、効率的だな。

 

「お、お手本になりましたか?」

 

「まぁな」

 

そう言って俺はさとりと場所を変わる。

実際、周りの奴らの経験を読むより、アドバイスを受けた方が良いだろう。

 

「なにかコツとか教えてくれないか?」

 

「金魚の動きを見ることだな」

 

「助かる」

 

俺は桶を近付け、紙の貼り付けられた方を上にし、金魚を待つ、紙を貼り付けた方を下にすると接着面が溶け、紙ごと剥がれるリスクがあるからだ。

そこに一匹の金魚が寄ってきた。

こいつで良いな。

俺は素早く金魚の下に紙をくぐらせ、金魚を桶に移した。

そこまで考えるほど難しくなかった。

俺はその後数匹の金魚をすくい、紙は残っていたがそこで終了した。

 

「楽しかったか?」

 

「空はすごいですね!簡単でしたか?」

 

「ああ、想像よりは、だが」

 

さとりは今さっき取った金魚が入った袋を下げ、俺と手を繋ぎ屋台を歩いている。

 

「何か食べるか?」

 

「そうですね。あれが食べたいです!」

 

そう言ってさとりが指をさしたのは白い雲の様な固まりだった。

確か、綿飴だったか。

仕組みまでは覚えていないが、原材料は砂糖だったはずだ。

にしてもいきなり甘いものに行くのか?

普通ならばたこ焼きなどを食べてからだと思うが。

 

「でもその前にあれを食べましょう!」

 

さとりが次にさしたのはりんご飴と書かれた屋台だった。

これはなかなかに独特なものだった筈だ、林檎を丸々一つ濃度の高い砂糖水などに漬け込み、固めたものだったか。

にしても、また甘いものか。

まぁ、別に良いか。

 

「じゃあ、行くか」

 

そう言ってその屋台に向かう。

店頭には幾つかのリンゴが並べられていた。

 

「あら、いらっしゃい!」

 

「りんご飴をくれるか?」

 

「特別なのがあるけどそれにするかい?」

 

特別なりんご飴?

りんご飴に特別も何もあるのか。

にしても俺の知らないものだ、今のうちに知識を仕入れよう。

 

「ああ、それで頼む」

 

「500円だよ。」

 

円の単位は同じか、なら通貨も同じだろう。

俺は手早くポケットに入れていた元石の金を店主に差し出す。

 

「これで良いか?」

 

「ほら、仲良く食べな」

 

そう言って渡されたのはハート型のリンゴが一つ。

これが、特別なもの?

ただ、林檎をハート型に切っただけじゃ無いか。

 

「まぁ、食うか」

 

そう言って俺はさとりにりんご飴を差し出す。

しかし、さとりは食べるのを赤面しながら躊躇していた。

 

「食べないのか?」

 

「食べますよ」

 

そう言ったさとりは俺繋いでいた手を離し、りんご飴を食べる。

 

「美味しいですよ?食べますか?」

 

「そうだな、貰おうか」

 

そう言って差し出されたりんご飴を囓る。

味も特別というわけでは無いと思うが、何か仕掛けでもあるのだろうか?

まぁ、りんご飴自体食べるのが初めてということもあり結局それが普通なのか異常なのか分からないが。

 

「美味しいな」

 

美味しい、確かに美味しいんだろう。

取り敢えずはこれで良いだろう。

後はゆっくりとしていたい。

ただ、花火だけは上がって欲しく無い。

あれは、駄目だ。

あれだけは、感覚を思い出してしまう。

忘れていたあの感覚が。

 

「来ていたのか!」

 

俺はりんご飴を食べているさとりのそばにいたのだが、前から声をかけながら近づいてくるものがいた。

どうやら焦っているようだ。

サードアイを使うまでもなく見れば分かる。

 

「ああ、教師と妹紅か。何かあったのか?」

 

「子供が数人行方不明になっていてな」

 

「迷子じゃ無いのか?」

 

普通に考えても迷子という線が妥当では無いだろうか?

祭りでは大抵迷子が出るものだ。

読心するべきだろう、迷子が出ることは想定済みの筈だ。

それで焦るというのはおかしな事だ。

ふむ。

どうやら、妖怪に森に連れて行かれるのを見たという情報があったようだ。

そんな時だった、なにかが上がる音がし、爆発した。

振り向くと、そこには夜空に輝く火があった。

花火だ。

幾つもの花火が夜空に絵を描いている。

 

「その子供を探してくる。さとりを見ててくれ」

 

俺はそう言って屋台から離れ、森に少し入る。

花火の爆発音が身体に響く。

身体が震える程の音だ。

この感覚だ。

思い出したくなかったモノ。

その感覚に酔わされながら俺は森の中に入っていく。

 


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