【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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19話 罪人は日常を謳歌する

俺はゆっくりと目をさます。

急かされることもなく起こされることもなく。

寝台から身を起そうとする。

しかしそこで一つの異常に気付いた。

何かに身体が押さえられている。

 

「何だ?」

 

手と足が動くことからどうやら手枷などの拘束器具では無いだろう。

俺は首を回し、状況を確認する。

部屋は変わっていない。

恐らく、俺の部屋だろう。

寝台は何か変化した様子は無い。

そして横にはさとり。

そうか、そういうことか。

手足が動くわけだ。

と言っても、いや正確には、と思ってもだろうか?

まぁどちらでも良いだろう。

体はあの華奢な腕とは思えない力で抱きつかれ、左足は上手く絡まれてしまっている。

手は上ではなく、下に置いていたので片腕はさとりの体にに挟まれ、もう片方の腕は丁度肘のあたりと、手首のあたりに手を回されている。

要は実際に動かすのが可能なのが右の手首と、右足、そして頭のみという事だ。

左手首はさとりに挟まれている。

恐らくさとりの頭の位置からして股であろう位置にあるだろう。

動かせない。

実際には動かせるのだが、動かすと妙な疑惑が生じかねない。

今日は祭りがあるものの、それは夜だ。

それまでは暇なわけだ、今が何時なのかわからないのだが。

まぁ、夜では無いだろう。

そんな十数時間も寝ていた実感は無い。

時計も陽の光も無いので、確認のしようも無いのだが。

どちらにしてもさとりが起きるまで待つしか無いようだ。

にしてもなぜさとりが俺に抱きつくというような行動に至ったのか。

普段の行動を見てもそんな事をする奴には見えなかったが。

可能性としては、これが裏の顔だったという事、酒が入った、他者の陰謀この三点が有力だろう。

 

「あっ、おねーちゃんここにいたの!」

 

こいしか、なぜこのタイミングで来たんだろうか。

どちらにしてもチャンスだ、

 

「さとりを起こしてくれないか?」

 

「あれ、おにーちゃんもいたの?」

 

気づいていなかったのか......。

まぁ、良いだろう。

この状況の打開策が見つかったという事だけでも良しとしよう。

 

「おねーちゃんに抱き枕にされてるね〜。」

 

「枕にしては硬すぎると思うんだがな。」

 

俺は、正直贅肉も多くないと思う。

間違いなく、枕よりも硬い。

まぁ、物によるだろうが。

そんな俺を枕にしても心地よくは無いだろう。

 

「これがおねーちゃんの無意識が望んでいたことなんだ。」

 

「は?」

 

この状況にしたのはこいしということか。

俺はこいしの能力について勘違いをしていたようだ。

こいしの能力は、俺の前で消えるだけだったことから無意識になる程度の能力だと思っていた。

これが大きな勘違いだったようだ。

恐らくこいしの能力は無意識を操る程度の能力だったということだろう。

だから今回さとりの無意識を操り、この状況を作ったのだろう。

もしこいしの能力を使用された場合、自らの意思なしで無意識に体が動いてしまうということか。

非常に使い勝手の良さそうな能力だ。

あっちの世界にいた時に持っていたらどれだけ良かったか。

 

「こいし.............居ない?」

 

いや、無意識に入ったのだろう。

ドアは開かれているのでこいしが外に出ても気付けない。

 

「おにーちゃんはあったかいね。」

 

「は?」

 

どうしたものか、さっきから状況がまた一段階悪化した。

さとりと逆、詰まり右側からこいしが抱きついていた。

位置はさとりとほぼ同じ、足もさとりと同じように絡めている。

にしても、手を回され、足も絡められていたのにも関わらず、全く気づけなかった。

まさか俺の無意識も操られていたということだろうか。

そう思えば、こいしが無意識に入った時にやけに警戒していた。

恐らくは俺の無意識を操り、警戒させ俺の意識を奪っていたということだろう。

いや、今はこんなことを考えていても仕方ない。

現状を打破しなければ。

と言ってももう頭しか動かせないのだが。

右手首が無事かとも思ったが、こいしはさとりと身長がほぼ同じだ。

という事は手の位置もさとりと同じ場所になる。

これで完全に頭しか動かせなくなったわけだ。

正直そこらの拘束具よりもタチが悪い。

しかも、他の妖怪と比べて力は弱いとはいえ妖怪なのだ。

俺が鬼だったならまだしも残念ながら覚妖怪なのだ。

多少は普通の覚妖怪より力が多少強いといえ片腕、片足のみで覚妖怪1人の拘束を解くほどの力はない。

もう一度寝てしまおうか。

しかし、寝ようにも2人の寝息が首元を擽るのだ。

というか、こいしが寝付くのが異常に早い。

寝れない、動けない。

どうしようもない。

やはり起きるのを待つしかないか。

一層の事声でも出して起こそうか。

いや、止めておこうか。

何故俺に抱きつきながらそんなにも安眠できるのかは謎だが、心地よさそうに眠っている。

いや、俺が能力を使えば良いんじゃ無いだろうか?

しかし、この状況から俺の能力で抜け出すと事は出来るだろうか?

無理だろう、俺が何を変更してもこの2人の拘束は解けなそうだ。

少しあの時の技術を使うことも考えたが、2人を傷つけかねないので止めておこうと言う考えに至った。

 

「あれ?ドアが開いてる。」

 

声から判断するにお燐だろう。

お燐であれば助けてくれるだろうか?

足跡も近づいて来ている。

これでやっと動けるな。

 

「お燐、ん?ん?」

 

突然口をこいしの手で覆われる。

加減はしているがそれなりに強い力で押さえられているので声を出す事が出来なくなる。

 

「あれ?呼ばれた気がしたけど気のせいだったかな。」

 

そう言ってお燐はドアを閉めて歩いて行った。

畜生、せっかく助けてもらえると思ったのだが。

人生そんなに甘く無いということか。

全く、やはり起きるまでは待てということか。

もう一層の事無理にでも寝てしまおうか。

まぁ、時期にさとりも起きるだろう。

 

「おにーちゃんの口の中ってあったかいの?」

 

「ん?んーん。」

 

いや、口を押さえられた状態で聞かれても答えられない。

答えてほしいなら手を退けてほしいものだ。

 

「確かめてみるね。」

 

は?

突然口の中にこいしの指が入ってくる。

指の一本一本が俺の歯や舌を弄る。

正直、気持ちの良いものでは無い。

 

「おにーちゃんの中とってもあったかいよ。」

 

歯を弄っても面白く無いと判断したのか、舌を弄る。

口の中の全権がこいしに行ってしまっている。

舌の裏、横、表面、全てを指で弄られる。

 

「こいひ、ひゃへろ!」

 

指が口の中にあるせいで上手く話せない。

 

「えー、わかったよ〜。」

 

こいしが俺の口から指を抜くと、こいしの指に付いた俺の唾液が糸を引いていた。

 

「あはは、ベタベタだ〜!気持ちよかった?」

 

「そんなわけがあるか。」

 

まぁ、気持ちが良いとかその程度の感情はあるわけだが、今回ので気持ち良いと思うほど狂ってはいない。

 

「えー、残念だな〜。」

 

そう言ってこいしは俺の唾液を舐めとる。

俺はこのタイミングである事に気付き、サードアイをこいしに向ける。

やはりか。

 

「おにーちゃんの味がする!」

 

これまでの行動は無意識の状態で行われていたようだ。

証拠に今サードアイで見てもなんの感情も読めない。

 

「それはそうだ、俺のだからな。」

 

これを無意識で無い状況でやっていたとしたらこいしの見方がだいぶ変わっていた。

 

「それじゃあね、おにーちゃん。」

 

そう言ってこいしは無意識に入っていった。

全く、それよりもはやくさとりに目を覚ましてほしいものだ。

 

「空?」

 

起きたようだ。

一体この状況に気付いた時どんな反応をするのだろうか?

サードアイを向けておこうか。

 

「え?え?!」

 

焦ったかと思うと、状況を理解したようで顔が真っ赤になる。

さとりの反応は何時も興味深い。

やはり、感情のあるものの感情を読むというのは、自身の感情の勉強になる。

やはり、周りと普通に接するようになるには感情をもう少し覚えたほうがいいだろう。

 

「俺の体はそんなに抱きやすかったか?」

 

折角だ、もう少し虐めてみようか。

そうすればさらにいろいろな感情が読めるかも知れない。

 

「そ、そんなことは...」

 

今は、照れと後悔、更に疑問を抱いているようだ。

疑問は何故こんな状況になっていたのか?

で間違い無いだろう。

読心をするまでも無い。

一体どんな結論を出すのか。

いや、考えるまでもなかったようだ。

即刻、こいしの名前が浮かんでいた。

 

「こいし.........」

 

どうやら、かなり心配なようだ。

だが、これはさとりの問題だ。

わざわざ話をする必要は無いだろう。

俺にも兄弟がいたというなら別だが、1人だった。

俺には恐らく分からないことだ、それをわざわざ聴くというのは相手への侮辱だ。

経験は無いのに相手に同情するという事は、経験したことがなくても想像できる程度という意味にも取れる。

それは失礼だ。

戦場で友を失った事がある者が同じく戦場に行って友を失ったものに同情するのは可能だろう。

また、病、事故、そのような事で友を失った者が同情するのも可能だ。

状況がどうであれ結局は友を失うという経験をしているのだから、だが友を失ったことの無いものに同情されたらどうだろうか?

まず、それは同情なのだろうか?

結局その同情は相手の情況の推察を行い、その結果に同情しているのだ。

それが本当に相手と同じ情がわかっているということになるのか?

それは否だ。

わかるはずも無いだろう。

そういうことなのだ。

 

「今日は祭だ、準備をしよう」

 

「あっ、時間大丈夫ですか?」

 

いや、正直わからないのだが。

これほどの地下で地上の時間を判断するには時計などを持っていなければ厳しいだろう。

 

「取り敢えず浴衣に着替えて地上に登ろう」

 

「ゆ、浴衣ですか?」

 

夏祭りと言ったら浴衣では無いだろうか?

さとりに言ってはいないが夏祭り自体行くのが始めてだ。

よって、何を着て行くのが良いのかが分からない。

ただ、あちらの世界のニュースでは皆一様に浴衣を着ていた。

 

「浴衣を着るものじゃ無いのか?」

 

やはり、娯楽といえど知識は知識だ知っておこうか。

 

「いえ、浴衣の着付け方が....」

 

着方がわからないのか、おしえようか、それとも服を変更して浴衣にしてしまうか。

いや、それは俺ではなく本人が決める事だ。

 

「着付け方を知りたいか?」

 

俺は着付けは潜入暗殺用に習った事もあり知ってはいる。

まぁ、簡易なものではあるが。

しかし問題は教えるとなると下着姿になってもらわなければならないという事だ。

俺はどうとも思わないが、さとりがどう思うか。

 

「知りたいです...!」

 

「取り敢えず、浴衣を見せてくれ」

 

「わかりました」

 

そうしてさとりは浴衣を取りに出て行った。

それを見てからだ。

それによっては下着姿に成らずとも教えられるかもしれない。

全く、着物であれば長襦袢か半襦袢を着て貰えば良いのだが、浴衣にはそれが無い。

まぁ、昔は夏季の寝間着だったという事もあり仕方ないが。

 

「これです」

 

中々帰ってくるのが早かった。

持ってきたのはどうやら浴衣のようだ、内心着物と間違えている可能性もあると思っていたがそれは無いようだ。

まぁ、見ただけで繊維がわかるほどの目は持っていないので触らないとわからないが。

 

「見せてくれ」

 

俺はさとりから受け取った浴衣を自らのベットに広げ、大きさを確認する。

ふむ、大きさは大きくもなく小さくもなくという感じだろうか。

触って確認したが生地は恐らく木綿だろう。

浴衣の生地としてはごくごく一般的だ。

色合いは薄いピンクといったところか、詳しく言えばさとりの髪よりは少々薄い程度だろう。

柄は赤い薔薇、確か意味は愛と美だったか。

赤い薔薇自体はその赤の種類、咲き方、本数によってかなりの量の花言葉がある。

例を挙げるとすれば、色で言うと真紅であれば内気、恥ずかしさ、真紅は灼熱の恋、情事。

咲き方であればトゲのない蕾であれば初心で怖い、満開の薔薇は私は人妻という意味。

本数で言えば999本で何度生まれ変わってもあなたを愛するという意味がある。

度々花言葉で暗殺の予告をした事があった。

まぁ、何時もは送られないような花を贈る事もあり気づく奴は気付いていたが。

中には全く気付かない奴もいた。

流石にスノードロップやハナズオウを送ったにもかかわらず、油断していた奴はバカだろうかと思ったが。

 

「愛か、それとも美なのか?」

 

「えっ?」

 

ああ、わからないのか。

どちらも という意味で捉えておこうか。

 

「浴衣の意味だったんだがまぁ、良いか。着方教えるから下着姿になってくれ」

 

「え?」

 

まぁ、こうなるだろう、予想済みだ。

 

「浴衣は下着の上に着るものだ。嫌ならその服を変更するが」

 

「わ、わかりました。服を脱ぐのであっち向いててください」

 

俺は特に返事をせずに後ろを向く、別にさとりの体など見ても何も思えないが。

というかどんなに美しいと言われる女をみてもどうとも思えないだろう。

まずまず、感情が無ければ下心はないのだが。

いや、男としての本能は残っているのだろうか?

 

「脱ぎました」

 

俺はそっと後ろを向く。

そこには赤面し、白いレースの下着を着たさとりがいた。

肌も真っ白とは言えないが白い。

下着を着ているにもかかわらず体を腕で隠している。

 

「隠されると着せれないんだが」

 

さとりは顔をさらに赤く染め、腕を退ける、何かを言っていたがよく聞こえなかった。

おれはさとりの後ろに回りこむ。

 

「じゃあ腕をを上げてくれ」

 

さとりはゆっくりと俺の指示に従い腕を上げる。

俺は力を掛ければ直ぐにでも折れてしまいそうな腕に浴衣の袖を通していく。

そしてベットの上に置いておいた帯を取り、両端を合わせることで中央を見つけさとりの後ろに帯を回し前で交差させ後ろで結ぶ。

その後同じ事を少し太めの帯でもう一度やり着付けを終了する。

 

「終わったぞ、俺は変更して着替えるがな」

 

俺は自分の寝間着を変更し、黒地に青い紫陽花の花が描かれたものにする。

青い紫陽花の花言葉は冷淡、無情。

俺にはぴったりだろう。

 

「じゃあ、地上に行くぞ」

 

俺はさとりの横を抜けようとする。

が、さとりに腕を掴まれた。

 

「なんだ?」

 

「し、下着どうでしたか?」

 

は?

それは感情のない俺に聞くことだろうか。

 

「答えは直感で言ってください」

 

「綺麗だった。俺は胸が小さい方が良いと思うしな」

 

嘘は言わない。

俺が素直に思ったことだ。

まぁ、胸が小さいというのは客観的に見て邪魔そうだからだが。

 

「そ、そうですか?」

 

「ああ。ほら、行くぞ」

 

俺は掴まれた腕を解き手を引いてドアを開ける。

そのままさとりの手を引き門を抜け、地上へと飛んだ。

 


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