【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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16話 愚かな思想は来世に伝う

俺は黒板に一桁の足し算の問題を2つ書く。

 

「これが解ける奴手を挙げろ」

 

取り敢えず生徒のレベルを見なくてはいけない。

さっきの2人の状況から察するにこのクラスはできる奴とできないやつの差が激しい様だ。

まぁ、できるやつ手を挙げろ。

と言ったが実際問題数は2つ、手をあげても当たる可能性は低い。

要は分からなかったとしても手を挙げるということだ。

結果全員あげている。

 

「じゃあ、そこの氷の羽生やしてる奴と、君」

 

ただ、それを見分けるのは非常に簡単だ。

こういうのが解けない典型的なやつは自分が最強最強言ってすぐさま手を挙げるやつと、周りの状況を見ておどおどしてつつ挙げる奴。

正直、サードアイを使えば即座にわかるのだがあまり外で使う事は避けた方がいいだろうし、独学で仕入れた心理学の知識でも軽く使う。

と言っても、自分の経験から考えているので心理学的にはおかしいかもしれないが。

まぁ、氷の方は最強最強言っていたので当てたが、他の子供はこの程度の難易度ならできるようで特に動揺もしていなかったので適当に当てた。

 

「丸付けするぞ。どっちも当たりだ」

 

さすがに簡単すぎたようだ。

なら考え方でも教えておけば良いだろう。

 

「なかなか優秀だな。驚いた。それなら考え方を教えよう。何を教えて欲しい?」

 

教室が少し騒つくが気にしない。

少しして人間の女の子が手を上げてきた。

 

「引き算の考え方を教えてください」

 

「わかった」

 

そう言って俺は机の上に花を咲かせる。

咲かせるというよりか花に変えたという方が正しいのかもしれないが。

 

「ここに花があるな。さて何輪だ?」

 

「五輪ですか?」

 

「そうだ。そしてここに三匹の虫が居る」

 

俺はそう言って机の一部をカブトムシ三匹に変える。

カブトムシにしたわけは女だけでなく男の気も引くためだ。

男にも見てもらわないと意味がない。

 

「これこの花を食べる虫だ。まぁ、大きさがこれだから一匹一輪しか食べれない。さて、ここに虫は三匹いるわけだが花は五輪ある。この虫がこの花々を食べたら何輪残る?」

 

「二輪ですか?」

 

俺は一匹ずつ花に近づけて行き触れた瞬間に変更を戻していく。

 

「正解だ、答えは二輪。今のを式にすると5-3だ。そして答えは2。まぁ、全員知ってるとは思うがこんな考え方だ。これからは個人的にわからない問題を聞いてくれ。俺はここにいるから」

 

そう言って教卓の椅子に座る。

こうするなら最初からそうすればよかったかもしれないが最初のあれは俺がどのように数学を教えるかを見せるためにやったことだ。

俺はどんな風に教えてくれるかもわからない奴にわざわざ聞きたくはない。

こんな私情を挟んではいけないのかもしれないがこれが俺のやり方だ。

と言っても教師をするのは初めてだったので俺のやり方だ、何てことは言えないが。

 

「先生。良いですか?」

 

俺の横に座っていたあの翼の生えた少女が質問に来ていた。

 

「どの問題だ?」

 

「これなんですが」

 

その少女が俺に出してきたのは難易度はそこまで高くはない分数のかけ算だ。

どのように教えようか。

まぁ、後々やるであろう分数の割り算にもつながるような教え方をしたほうが良いだろう。

と言うか、こんなにもやってる事がバラバラな授業は初めて見た。

 

「かけ算は出来るか?」

 

「はい」

 

聞いておいてあれだが、かけ算のできない奴が分数のかけ算をするわけが無いか。

 

「分母、分子、この言葉は知ってるか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

単語の知識もある、と。

やはり優等生だったようだ。

 

「じゃあ説明しよう。分数は基本的に亀として捉えるとわかりやすい」

 

「亀、ですか?」

 

「そうだ。分母が母亀、分子が子亀。この考え方がわかりやすい」

 

おそらくこれが一番ベターであり、わかりやすい物だろう。

それ以上にわかりやすい例えもあるのかもしれないが俺の頭では残念ながら浮かばない。俺は説明を楽にするために机の上で能力を使い机の一部を2つの親子亀に変更する。

 

「はい。何となくわかりました!。ありがとうございました。」

 

いや、俺は何の説明もしていないんだが。

ありがとうと言われてもな。

俺はその後にも次々と質問を手に、前に来る生徒に解法を教えつつさとりが来るのを待っている。

そんな時、1人の男が俺にこう言った。

 

「先生ってさとり妖怪?」

 

ばれたんだろうか?

まぁ、いざとなればこんな奴ら簡単に振り切れるから別に良いが。

 

「覚妖怪?何だそれは?」

 

一応知らないという事にしておこう。

 

「知らないんですか?」

 

「外から来たばかりでな、あまりここについての知識がない。是非教えてくれ」

 

嘘はついていない。

俺は事実来たばかりだし、ここの情報をそれほど持っていない。

わからないとも言っていない。

それにここの奴らが覚妖怪をどのように考えているのかも分かる。

 

「心を読むという恐ろしい妖怪ですよ」

 

「そんなに恐ろしいか?それ。そんな強くなさそうだが」

 

これもまた事実、心を読むと言われても今となってはそこまで強いとは思えない。

 

「それに加えトラウマも見せれるんですよ」

 

正直に言えば、だからどうした。

と言いたいところだが、ここはあえてここの子供に養育をするべきだろう。

今は一応教師でもあるのだから。

 

「そうか、で、なにが恐ろしいんだ?」

 

「いや、だからトラウマを見せれるんですよ?」

 

やはり、そう教えられているだけのようだ。

さとりから聞いた話ではさとり妖怪は力のない種族、相手が人間でも3人程度に囲まれれば逃げれないと言っていた。

 

「それ以外は無いのか?所でその覚妖怪ってのにあって見たいんだが」

 

「いないですよ。そんな種族追い出しました」

 

やはり人間は自分の行動を美化する。

力の無い妖怪とわかった上で自分に都合が悪かったから抹殺したというのが正しいだろう。

まぁ、本当に追い出されただけだとしても村の外にいる妖怪に殺されたんだろう。人間3人に勝てないのに妖怪に勝てるとは考え難い。

だから今は心の読める覚妖怪はさとりのみという事だ。

結果どちらにしても人間の良いように進んでいる。

そして後世にはとても恐ろしい妖怪だったから追い出したとだけ伝える。

昔の人は私達を守る為に必死に戦ったなどとも書いてありそうだ。

人間なんてそんなものだ。

 

「いや、俺はもっと恐ろしい能力があると思うけどな」

 

「え?まぁ、それはそうでしょう」

 

どうやらこの村自体に覚妖怪は恐ろしいというイメージが出来ているようだ。

大人を説得しても良いが、大人を変えるより未来ある子供を説得したほうが良いだろう。

何かを変えるときは現在ではなく未来を見たほうが良い。

 

「所で、そんなに恐れているようだが、なんかされたのか?」

 

「多分」

 

恐らくは見た事も聞いたことすらも無いが、何かをしたから追い出されたんだろうという推測だ。

それか書物自体にも詳しく明記されていないか。

 

「まぁ、どちらにしても俺はその覚妖怪ってのがどんなやつだったのか知らない」

 

「そうでしょうね」

 

まだ続けるというのに話し出さないでほしいものだ。

 

「しかし、ただ恐ろしい能力を持っているからと言ってそこまで避ける必要は無いと思うが」

 

「でも、怖いじゃないですか」

 

そう、人間は異質な物、自分よりも強いものを極端に恐れる。

それは外の世界でも同様。

例えば何かわからない黒い物体が近づいてきたらどうするか。

相当自分に自信がない限り逃げるのが一番有効な手だろう。

そんなに自信もないのに戦う奴は基本的に早死にする。

何故恐れるのか?

それはいたって簡単だ。

分からないから。

人間は知識を有する種族だ。

人そのものは非常に弱い。

素手の状態では毒蛇にすら勝てない。

まぁ、常人であればの話ではあるが。

だから人間は知恵を手に入れその知恵で強者を圧倒し外の世界では一番階級の高い種族となった。

しかし、子ども相手にこんなことを言っても分からないだろう。

 

「まぁ、怖いと思うならそれでも良いが1つ言っておく。力は使いようだ。使い方次第で壊すことも守ることもできる」

 

「わかりました」

 

「まぁ、そろそろ疲れたから授業終了な。お疲れ様。まだ聞きたい問題あるやつがいたらあの先生に聞いておけ」

 

教育というのは疲れるものだ。

一対一ならまだしも一体多数では、かなり気を使わなければならない。

それに加え、生徒一人一人が持ってくる質問にその場でわかりやすい考え方を教えなければならない。

やってみるとわかるものだが非常に大変だ。

 

「誰かしら?」

 

後ろを向くと丁度女が入ってくるところだった。

完全に警戒を忘れていた。

ここに居るとここのあまりの平和さにぼけてしまいそうだ。

気を抜きすぎている。

そうとしか思えない。

 

「誰だ?」

 

格好は女にしては珍しく赤いもんぺ、おそらく札であろうものが縫い付けられているような模様だ。

まぁ、一番印象的なのは真っ白な髪だろう。

見た目はまだそこまで年もいっていなさそうなことからアルビノという可能性がある。

そういえばどこかで見たことがあるような気がする。

 

「私は藤原 妹紅。ここの教師の慧音の友達よ。貴方とはあったと思うけど」

 

「そうか、そういえば竹林であったな」

 

他人を覚えるのは苦手だ、会ったところで関係をもつ意味がなかったので他人を覚えるという所が抜けているのかもしれない。

まぁ、そこまで警戒はしなくても良いだろう。

 

「慧音が今どこにいるか知ってるか?連れが連れて行かれたんだが」

 

「多分あそこかな、ついてきて」

 

そう言って藤原は外へと出て行ったのでそれを慌てて追いかける。

 

「多分ここかな」

 

そう言って案内された所はさっきの部屋の目の前だった。

そうだ、ここは一軒家だ。

地霊殿でも無いのだからあんなに大きくは無い。

少し考えればわかったはずだが、完全にうっかりしていた。

 

「目の前か.........」

 

「そうね」

 

藤原は顔は笑ってはいなかったが、心の中では必死に笑いを堪えていた。

堪えるぐらいなら笑ってくれた方が楽なのだが。

 

「慧音、もう日も傾いているし生徒を帰した方が良いわよ」

 

「それもそうだな」

 

どうやら言っていた通りその部屋にいたようで、慧音が出てきた。

慧音もう上白沢と呼んでも良いのだが、噛みそうなのでできれば言いたく無い。

という事でこいつは下の名で読んでいる。

まぁ、他にもさとりなどは下の名で読んでいるが結局のところその判断基準は噛みそうか噛まなそうかだったり、姉妹がいる等々だ。

そう言って出てきた慧音とすれ違うように部屋の中に入っていく。

 

「空、大丈夫でしたか?」

 

「ああ、何とか無事だ。もう日も暮れてきているし、一度帰らないか?」

 

さとりは少し考えたようだがすぐに決めたようで頷いた。

 

「えっ、貴方の連れってさとりだったの?」

 

「ああ、そうだが?」

 

どうやらかなり驚いているようだ。まぁ、今はサードアイを変更しているので覚妖怪と気付けなくても無理はないが。

こちらとしてもほぼ引きこもり状態と聞いているさとりのことを知っていることに驚いてはいるが。

 

「空?なんか失礼なこと考えました?」

 

「いや、考えてないぞ?」

 

「そうですか、なら良いですが」

 

危ない、非常に危ない。

少しでも気を抜けばすぐに読まれてしまう。

いつかこの分の仕返しでも考えておこうか。

 

「じゃあ、帰りましょうか」

 

「そうするか」

 

そう言って俺は部屋を出るさとりの後を追う。

 

「そうだったわ。ちょっと良い?」

 

どうやら何か忘れていたようで背後から藤原が話しかけてきた。

 

「何だ?」

 

「明日の夜、お祭りがあるんだけどこないかしら?」

 

祭りか、悪くない。

この機会にここの住民にも会っておくと後々便利だろう。

ただ、ここでやるというなら話は別だ。

さとりに聞かなくてはいけない。

まぁ、さとりは聞いたところで強がるので読心をするが。

 

「俺は別に良いが、さとりはどうする?」

 

「良いですね。行きましょう」

 

やはり強がるか。

まぁ、明日に夜にやるようだし時間はある。

ゆっくりと考えても十分な時間はあるだろう。

 

「ああ、わかった。そういうことだ、藤原」

 

「ふ、藤原?!妹紅でいいよ、妹紅で」

 

「そうか、わかった。妹紅」

 

俺はそう言ってさとりと共に寺子屋を出て、帰路に着いた。

 

「そういえば、さとり」

 

聞くタイミングを探していたのだが、夜空に2人というこの状況がベストだろう。

 

「何ですか?」

 

「そういえば、俺の何を知ったんだ?」

 

そう、羅刹に襲われてそのあとさとりを運び、忘れかけていたが聞く必要があるだろう。

いったい俺のどこまで知ってしまったのか。

それは非常に大切だ。

その具合によっては俺も策を講じなければいけない。

 

「それですか...........」

 

どうやら言い出しにくいようだ。

少しの間静寂が続く。

 

「地霊殿に着いたら部屋で待ってて下さい。そこで話します」

 

「わかった」

 

俺とさとりは輝く星々の下、月の光を浴びて地底へと入っていった。

 





一万字なんて行くわけがなかったですね。
ご指摘ありがとうございました...!

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