【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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15話 人間とは常に愚鈍な豚である

「これは.................」

 

境内に降り立ったが、あそこから見えた通りかなり酷い状況で、鳥居は倒れかけ、境内に敷かれていた石は粉砕されていた。

どうやら銃弾よりも火力は高いようだ。

それもかなり。

 

「さとりじゃない。珍しいわね、何の用?」

 

「横の男は彼氏なんだろ?」

 

どうやらこの女達が博麗と霧雨のようだ。

 

「今、空に地上を案内してるんです。あと、空とはそういう関係では無いです」

 

「さとりはわかりやすいな」

 

霧雨が意地の悪そうな笑みを浮かべながら言った。

全くだ。

もう少し日本語と言うのを学んだほうが良いだろう。

 

「魔理沙さん、だから違うと言って」

 

「どうも、魔理沙さんだぜ!」

 

「あっ......」

 

これが墓穴を掘っていくスタイルという奴だろう。

さとりは親しい人であってもさん付けする。

これは今の事で証明された。

という事はしないのは家族ぐらいだろう、そして俺の事はさん付けしなかった。

俺しか気づかないと思っていたが、どうやらこの霧雨という奴も割と頭が回るようだ。

 

「全く、そういうところは恐ろしく頭が回るのね。魔理沙は」

 

「そういう所ってどういう事だ?!私はいつも回ってるぜ!」

 

「あー、はいはい」

 

この博麗という奴はかなりこの霧雨という奴の対応に慣れているようだ。

恐らくは親友か何かだろう。

 

「所で何があったんだ?戦闘しているように見えたが」

 

「ちょっと妖怪の群れがね」

 

神社に押し入る妖怪の群れ、とは。

この世界に安全な所はあるのだろうか.........

 

「にしても、わざわざ夢想転生なんて使うか?死にかけたぜ?」

 

どうやらあの距離で味方もいるのにも関わらず手加減なしでアレを放ったようだ。

当然、霧雨の服は見るも無残な状態だ。

味方がいるという認識のある上でアレを放つというのはなかなかに狂っている。

もしも、かわせずに被弾していたらどうしたのか。

まぁ、あの距離でその程度の被害に収まっている霧雨も凄いとは思うが。

 

「取り敢えずこれをなんとかしないとね」

 

「無視か?!」

 

華麗なスルーだ。

見事に話を変えてきた。

 

「俺が直そうか?」

 

まぁ、神社がこんな状態では信仰がさらに落ちかねない。

それに多少の恩を売っておくのも良いだろう。

ここの管理者なら敵に回すと非常に面倒だ。

 

「直せるの?」

 

「ああ」

 

この範囲をするのはさすがに疲れそうだがなんとかなるだろう。

対象はそこらに散らばっている木片などにすればそこまで体力も使わずに済む。

指を鳴らし周囲を元あったように戻す。

ただ、この博麗の住処であろう家は元の形が分からないため戻せなかったので多少の改造はしたが。

 

「ありがと」

 

「どうって事はない。さとり、次の所に向かおう」

 

もうここに用はない、ならばここを後にするのみだ。

次の所に案内してもらおう。

 

「はい。では、また会いましょう霊夢さん」

 

そう言って飛んで行ったさとりの後を追って行く。

 

「次の目的地は何処だ?」

 

「村に行きます」

 

どうやら地上にも村というのがあるらしい。

まぁ、神社があればそれを信仰する人間も居るだろうから普通だが。

まぁ、街ではないのでテレビやらスマホやらはないだろう。

 

「村か。人間のか?」

 

「はい、そうです。良い人もいますよ。悪いんですが村ではフードを付けてください」

 

さとりは本来入りたく無いはずだが、どうやら来てくれるようだ。

と言っても、覚妖怪は人間にも妖怪にも嫌われていた種族、フードでその象徴であるサードアイを隠すのは当然だろう。

ただ、それはさとりが1人できた場合のみ。

隠す術がそれしかない。

ただ、今回は俺がいる。

 

「変更すれば大丈夫だ。好きな服装とかを言ってくれ。」

 

「えっ、そんな事が出来るんですか?」

 

俺の能力は変更する程度の能力、ならば服装ぐらいなら簡単に変えれるだろう。

ただ、問題はサードアイだ。

あれを気体に変えてしまうと戻せなくなる可能性が非常に高い。

俺はサードアイがどのように出来ていてどのように身体についていて、何故相手の心が読めるのかわからない。

そんな状態で変更すれば戻せなくなってしまう。

そうなった場合、存在意義が無くなり存在ごと消えかねない。

それは避けなければ。

 

「俺の能力は変更する程度の能力。大抵の物は変更できる。ただ、サードアイは変更すると戻せなくなりかねないから大きさを変更してネックレスにする」

 

「わかりました。な、なら」

 

よくわからない要求でもしてきたらどうしようかとも思ったが。

基本的なファッションの事なら全て殺しの技術として覚えさせられていたので大丈夫だろう。

 

「が、学生服が良いです」

 

「は?学生服?逆に目立たないか?」

 

まさかそうくるとは、思ってもいなかった。

というか学校も無いような所で学生服なんて着れば間違いなく目立つだろう。

 

「冗談です」

 

「冗談だったか、良かった。おかしくなったのかと思ったぞ」

 

全く、何の前触れも無く驚かしに来るのは実にやめて欲しいものだ。

驚くとまではいかないが、今回の物は地味にリアリティがあった。

 

「よくわからないので空のオススメでお願いします」

 

結局こうなるのか、全く。

適当に俺が外で来ていた服装にでもしておくか。

 

「ちょっと考えるから待ってくれ」

 

身長などは俺と同じか小さいぐらいなので気にしなくても良いだろう。

胸に関しては.............別に考慮しなくてもよさそうだ。

 

「今失礼なこと考えてましたよね?」

 

「いや、そんな事は無いと思うが」

 

また忘れていた。

こっちが意識しなければ心を読まれるのだった。

 

「逆に何が失礼だったと言うんだ?」

 

「そ、それは」

 

まぁ、言い出しにくいだろう。

さとりの性格上、昨晩のように薬が入っていなければ自分の胸という言葉すら出しにくいだろう。

同性ならまだしも俺は異性、当然さとりはかなりいい出しにくい。

 

「わ、私の胸がち、小さいとか」

 

想定外だ、言ってきた。

言わない方にかけていたんだがな。

 

「ああ、そのことか。俺は無い方が良いと思うがな」

 

「......えっ?」

 

何故頬を赤くしているのだろうか?

俺は邪魔にならなくて動きやすいだろうという意味で言ったのだが、まぁ、別に気にする所でも無いだろう。

 

「服装はこれで良いか?」

 

俺は動きやすさを意識し、紺色の半ズボンに白い半袖のティーシャツ意味を感じないので刺繍も模様も無い。

首にはサードアイでできたネックレス。

大きさもかなり小さくしてあるので気づかれることは無いだろう。

ちなみにさとりは最初の期待通りに学生服にしてある。

最初に俺を軽く騙した罰とでも言っておこうか。

膝よりもかなり短い紺のスカートに、白いティーシャツ、その上からはセーターを作っておいた。

因みにさとりのサードアイもネックレスにしてある。

 

「えっ、えっ?!やめて下さい空!」

 

何だか必死に訴えかけてきているが俺はそれが似合うと思ったからといえば解決する。

 

「何でだ?」

 

本人自体はかなり恥ずかしいようで必死にスカートを抑えている。

なかなかに見ていて面白い。

 

「普通のにして下さい!」

 

「普通のと言われても外ではそれが普通だが?」

 

そう、『学生にとっては』普通だ。

別に言うまでも無かったので言わないが。

 

「空と同じ格好で良いですから!」

 

少々遊びすぎたようだ。

涙目になって来た。

少々悪いきもして来たので、そろそろ戻そうか。

 

「わかったわかった」

 

そう言って一応スカートの丈を膝の下まで伸ばす。

 

「格好はこのままなんですね」

 

「俺のこれは男向けだから似合わないんでな」

 

事実、着せてみたところさとりには学生服が似合う、更に顔もかなり可愛い部類だろうか。

こんな女子が学校にいたら恐らく色々な男子から狙われるだろう。

 

「いくんじゃ無いのか?」

 

「そ、そうですね。行きましょう」

 

そう言ってさとりは前を飛んでいく、正直にいわせてもらえばさっきスカートを隠していたが今は飛んでいるわけだ。

下から見られたら隠しようが無いこともわかっているのだろうか?

 

「ここで一旦降りましょう」

 

彼はさとりの指示に従って無言で降りる。

 

「では、この先が村です」

 

さとりはそう言って前をさすが動こうとしない。

よく見れば目は恐怖に怯え、足は震えていた。

トラウマが甦っているのだろう。

俺は少どうするか迷ったのちさとりに歩み寄る。

 

「今回はお前1人じゃない。俺がいる。無理だったら帰るか?俺はここに村があると知れただけで十分だ」

 

俺はそう言ってさとりの手を取る。

これでは何かのアニメの主人公のようだ。

ああいった類の物は嫌いのだが。

まぁ、やってしまった事は仕方がない。

 

「いえ、大丈夫です」

 

そう言ってさとりは俺の前を歩き始めた。

 

「無理はするな?」

 

「わかってます」

 

俺はその横に並び一緒に歩き出す。

自分の意思で他人の横に並び、歩いたのはのは初めてかもしれない。

俺はいつも1人で行動していたし、高校の時も友達だと思っている奴らが1人で帰る俺の横に来たぐらいだろう。

そんなことを考えている間に1つの家の前に到着した。

もうすでに村の中だったので、周囲は人が歩いている。

俺の変装はうまくいっているようで誰も覚妖怪という事には気付いていないようだ。

 

「ここが寺子屋です」

 

「寺子屋。成る程、だから子供の声が聞こえるのか」

 

その家の中からは子供の騒ぐ声が聞こえる。

寺子屋というのは江戸時代程度からあった今でいう学校だった気がする。

 

「おや、誰だ?」

 

俺たちの存在に気づいたのか家の中から1人の女性が出てきた。

戸は開いていなかったので雰囲気で感じ取ったようだ。

人間であっても只者では無いだろう。

腰まである非常に長い藍色の髪に見たことの無い三角錐が乗ったような帽子。

特徴的なのは服だろうか、胸が大きくひらき、上下一体となっている。

 

「新しい生徒だったか。ほら、早く入れ」

 

「えっ、待って下さい」

 

さとりは戸惑いつつも事情を言おうとしているがそのまま奥に連れて行かれてしまった。

彼はやれやれと言いたげにその後に続き入っていく。

手を引かれているさとりは途中から諦めたようで何も言わずある部屋に入れられた。

どうやらここが教室のようだ。

先ほどよりもはっきりと子供の声がする。

 

「入るしか無いか」

 

少しだが、どんな授業をやっているのかどうかも気になるので俺もさとりの入っていった戸を開け中に入る。

俺が入ると室内から謎の歓声が上がる。

俺はそれを無視し、教室を見回す。

男子がざっと見ただけでも数人しかいない。

道を歩いている時から少し思っていたが今確信した。

ここは、男と女の比率がおかしい。

道を歩いていても男は少なく、すれ違うのは女ばかりやはり男自体が少なかったようだ。

そしてもう1つ気づいたのは、人間で無いものも混ざっているという点だ。

全員女だが、背中から氷が生えていたり、翼が生えていたり、ある者は触覚まで生えている。

周りの生徒の反応を見る限り、隠れているわけでもなく、ただ普通に馴染んでいるようだ。

 

「ほら、早く座れ」

 

俺もいつの間にかその教師であろう女に手を引かれ真ん中の空いている席に座らされた。

さとりは一番後ろに座らされている。

 

「あの、よろしくお願いします」

 

「よろしくー」

 

左右に座っている2人の女子から声をかけられた。

一人は最初に入ってきたときに見た翼の生えた少女、座っているので服はよくわからないが。

とりあえず緑の髪をサイドポニーにし、後ろでは黄色いリボンで髪をまとめている。

もう一人は恐らく人間の姿をしていて、翼も生えていないが人間では無い。

金髪の髪を左だけ紅いリボンで留め、服は黒の上下一体の物、そして胸のあたりにネクタイの様なものを付けているがネクタイにしては蝶結びに近く、どちらかといえばボンボンの様なものなのかも知れない。

 

「ああ、よろしく」

 

まぁ、授業など面白く無いと判断すれば全く聞かないが。

多少は興味はあるので軽く聞いてみようかと思う。

もしかすると俺の知らない知識を使うかも知れない。

 

「じゃあ始めるぞ。取り敢えずこの問題を前に出て答えてもらおうか」

 

前につらつらと書かれたのは足し算だった。

もうこの時点で興味は完全に消えた。

しかし、左右に座っている少女二人はかなり考え込んでいた。

 

「おい、分かんないのか?」

 

そう言って緑の髪の少女の問題を覗く。

何故だろうか、何故この少女は掛け算をやっているのか。

前の問題は足し算だ。

しかし、彼女は掛け算を解いている。

この少女は優等生という事だろう。

一方もう片方の金髪の少女はと言うと引き算をやっていた。

なんだこの寺子屋は、やってることがバラバラだ。

 

「じゃあ、さっき来た2人、これを解いてくれ」

 

いつの間にか前の黒板に2つの数式が追加で書かれていた。

さとりのは足し算だったが、俺の問題は分数のかけ算とわり算の混合した物。

何故俺のがこうめんどくさいものになるのか。

不条理だ。

しかし、結果としては所詮分数の計算なので前に歩いて行くまでの時間に暗算し答えだけを書いて直ぐに席に戻った。

 

「えっ、暗算でやったんですか?!」

 

横にいた緑の髪の少女が驚いた様に聞いてくる。

こんな事で驚かれるとは思ってもいなかった。

 

「ああ、そうだが?」

 

「凄いですね!後で勉強を教えて下さい」

 

小声なのは教師にばれない様にという事だろう。

 

「出来たらな」

 

一方のさとりは少しして前から戻ってきた。

教師はさとりの答えに丸を付けてから、少し考えたのち俺の答えにも丸をつけた。

 

「そういえば、お前たち名前は?」

 

「秦 空だ。外来人という奴らしい」

 

「古明地さとりです」

 

教師は何かを思い出した様で、少し慌てていた。

 

「え?!あの古明地さとりか?!」

 

「そうです」

 

どうやら気づいた様だ。

 

「すまないが空といったか。ここの生徒に授業をして置いてくれないか?わたしは少しだがさとりと話をしたい」

 

「ああ、わかった」

 

そう言って俺は教師とさとりが部屋の外に出たのを確認してから教壇に立った。

いきなりの事について行けてないのか生徒は黙ってしまっている。

 

「授業をしろと言われたので授業をする。秦 空だ。よろしく」

 

そう言って俺は黒板に数字を書き始める。

何故俺が授業なんてしないといけないんだ。

まぁ、別にできない事でも無いし構わないんだが。

やはり、教師がやるべき事だと思う。

しかし、これは職務怠慢か?

と言われれば確かにそうではあるが、生徒には迷惑にはなっていないわけだ。

まぁ、さとりの事も知っている様だし、悪意も読めなかったので気にはしないが。

 


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