【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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13話 部屋に漂うは蝋燭の煙

「確かこの部屋の棚の中だったな」

 

俺は鈴仙に指示された部屋の棚の前にいる。

心を読んで棚の中にあるという事は分かっていたがまさかこの部屋がここまで棚だらけだとは思いもしなかった。

ただ、探しているものが布団という事もありある程度は的を絞れている。

しかし、今のところは全てハズレだ。

よく分からない乾燥させてあった葉や草、服の類、何かのホルマリン漬けが大量に入っていたりもした。

ただ、一番驚いたのは棚を開けた瞬間に兎が飛び出てきた事だろう。

まず、棚の中に何故ウサギが居たんだろうか。

遊びで入って抜けれなくなったか、それとも閉じ込められていたのか。

俺はそんな事を考えながらまた大きな棚を開ける。

 

「やっと当たった」

 

その棚の中には綺麗にたたまれた布団が閉まってあった。

柄は特にないごくごく普通の布団という感じだろう。

俺はその布団を出し、持って行く。

危うく棚を閉め忘れるところだったので外に出て布団を置いてから中に戻り棚を閉めた。

俺は外に置いておいた布団を持ち上げさとりの寝ている部屋へと向かう。

両手が塞がっているのでまた布団を置きドアを開けたのちに入った。

 

「空」

 

中に入るとさとりは目を覚ましていたようで俺の名を呼んだ。

そう言えばさとりは俺の事を呼び捨てで呼んでいただろうか?

呼んでいなかった気がする。

まぁ、気にすることでもないか。

呼び方なんて人それぞれ、そこを拘束する権利は俺にはない。

 

「何だ?」

 

俺は布団を敷きながら適当に返事をしておいた。

 

「ねぇ、空ぉ」

 

流石におかしい、こんなキャラでは無かったと思う。

いや、これは本質なのかもしれないが。

流石にそれはないと思う、いや、無いと信じたい。

 

「どうしt」

 

声をかけ切る途中で俺は敷き終わったばかりの布団に押し倒された。

 

「おい、何のつもりだ?」

 

「ふふふ」

 

何だ?まさかさとりに化けた偽物か?

偽物なら容赦無く殺れるが証拠がない、本人だった場合恩を仇で返す事になってしまう。

 

「冗談のつもりか?」

 

心を読んでみるが思考はモヤモヤとした霧のような物が邪魔して読めない。

おかしい、こんな状況には今の所なった事が無い。

まぁ、まだ使い始めて数日も立っていないが。

何か原因がある筈だ。

俺は俺に覆いかぶさるように乗っているさとりにサードアイを向けつつ、原因を探る。

探ると言っても、今の状況は悪くなる一方でいつの間にやら両足を絡められ足は動かず、手も抑えられてしまっている。

俺は読心を諦め、今のさとりの表情などから判断を試みる事にした。

と言っても、時間が時間のため部屋の電気は机の上の蝋燭のみという事もありはっきりと見る事は出来ない。

ただ、息が荒く、顔が赤い程度はわかる。

さらに体温が上がっているようだ。所謂、興奮状態ということだろう。

更に異性である俺を襲うということはもう結果は出た。

強力な媚薬でも打たれたかしたのだろう。

ただ、いつ打ち込むタイミングがあっただろうか?

いや、そう言えば媚薬というのは身体に付着するだけでも効果はあった気がする。

更に気体の場合でも使えた筈だ。

俺は使わなかったが、昔その手の暗殺の標的になったこともあった。

まぁ、暗殺者は基本的に毒に対する抗体を作るので人によるがかなり強力な物でも無い限り効かないが。

 

「一度落ち着け」

 

「なんでよぉ」

 

これは恐らく口論にならないやつだろう。

そう言えばこの部屋はやけに甘い匂いがする。

どうやらこの匂いのせいのようだ。

そういえばさっきは蝋燭なんて無かった。

基本的には気体で使用される媚薬は二種類ある。

1つ目はランプなどの上に液体を置きその熱で蒸発させる物。

2つ目は蝋燭に見せかけ火を付け気体にする物だ。

今回は恐らく後者だろう。

机の上にあるあの蝋燭から出ているようだ。

 

「一回離れてくれないか?」

 

「いや。寂しいの」

 

即答か、どうしたものか。

ただ、媚薬というのは欲を増幅させるものであって新しい人格を作るものでは無い。

まぁ、物によっては感度を上げるだけのものもあるが、今回は違うだろう。

という事は、だ。

さとりは心の何処かで寂しがっていたということだろう。

さっきの俺の発言の後から体を抑える力が強くなった。

本気になればすぐに抜けれるだろうし、今はまだそこまで危機的状況でも無いので焦る必要は無いだろう。

 

「寂しいのか」

 

「うん」

 

寂しいという感情はよくわからないが、恐らく辛いものなんだろう。

さとりの顔を見ればわかる。

さとりは泣いていた。

声も出さずに静かにだが、涙は流れていた。

その涙がさとりの頬を伝い俺の顔を濡らしていく。

どうやら、力尽きたのかさとりは眠り俺の胸の上に落ちた。

彼は再度寝たさとりを持ち上げベットに寝かせる。

そしてベットに腰をかけ、さとりにサードアイを向けた。

さとりの過去を知る為に。

読めたのは悔恨。

唯一の妹を守ることが出来なかった自分自身に対する罪の意識。

自分がもっとしっかりと妹を見ていれば良かった、妹のそばにいれば良かった。

自分がそばに居れば妹は目を潰さずに済んだかもしれない。

今も覚り妖怪として居れたかもしれない。

けれど守れなかった。

延々とこの思考が回っていた。

心が読める妖怪だったこいしが目を潰してからたった心の読める覚妖怪として1人で生き、心が読めることで発生する悩みは誰にも打ち明けず、1人で抱え込んだ。

自らのペットに相談しようかとも思ったようだが心配をかけたくない。

これは自分の問題だ。

そう決め込みその悩みを抱え1人、ベットで泣いていた事もあるようだ。

口調と雰囲気は大人だが、やはり気丈に振る舞っていたという事か。

まぁ、常識的に1人でここまで大きな悩みを抱え続けていれば心には大きな負担が掛かるだろう。

感情がなければ問題は無いが。

まぁ、そんな奴はなかなかいないだろうし、何せさとりには感情がある。

事実今こうしてさとりの感情を感じているわけだ。

俺はさとりに向けたサードアイを違う方向に向け、さとりの頭をそっと撫でる。

サラサラとした感触が心地いい。

恐らくかなり念入りに手入れしているんだろう。

俺は少しの間その感触を楽しみ、その後蝋燭を消し、布団に入った。

さっき寝たばかりではあったが、割とすぐに睡魔に襲われそのまま眠りについた。

 


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