【完結済み】東方贖罪譚〜3人目の覚妖怪〜   作:黒犬51

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11話 新聞記者と案内者

「おお」

 

思わず声が出るくらいには綺麗な光景だ。

それをゆっくりと見ていたいのは山々だが、さとりの事もあるのでさっさと進む。

というよりかお燐がどんどん先に行ってしまうので見る暇が無いのだが。

 

「目印とかはあるか?」

 

「広い竹林が目印だね」

 

「ああ、あれか」

 

お燐の飛ぶ少し前方に目をこらすと広大な竹林が見えた。

まだ距離がある様だがそう時間はかからなそうだ。

そんな時だった。

 

「こんにちわ」

 

いつの間にか背中には黒い羽黒い紙、その頭には赤い塔の先端をモチーフにしている様な奇妙な帽子から左右に白いボンボンを糸で吊るした。という、見るからに奇妙な帽子をかぶった女がいた。

 

「誰だ?」

 

特に敵意も殺意も感じないのでごくごく普通に振る舞う。

ただし、お燐がいかにも面倒な奴に見つかったとでも言いたげな感情を抱いていた。

正直、読むまでもなく表情に表れていたが。

 

「私は射命丸 文。新聞記者です」

 

「そうか、俺は秦 空だ。ここに最近来た」

 

俺は正直、新聞記者とか報道に関係する奴らが好きでは無い。

自らの報酬のためにわざわざ他人のトラウマを掘り返し、それを全国に広めている。

まぁ、結局はその質問を受ける他人もお金を貰っているのでなんとも言えないが。

 

「で、何のようだ?少し急いでいるんだが」

 

俺はそう言って抱いているさとりに目を落とす。

一応察せという意味でやったのだが違う意味で取られたらしい。

凄く気味の悪い好奇心が相手の心中に渦巻き出した。

 

「ところで、さとりさんとはどういうご関係で?」

 

完全にやらかしてしまった。

これまであそこでもジャーナリストと対峙する事例は経験していなかったので対処法がいまいちわからない。

 

「普通に地霊殿に住まわせてもらっているだけだ」

 

「住まわせてもらってるだけ、という関係でお姫様抱っこなんてします?」

 

そういえば身長差がないため一番楽な抱き方をしていたがこれはお姫様抱っことか言うものだった。

俺的にはただ単に一番効率的だったんだが。

やはり名前からして、他の一般人から見れば付き合っているようにも見えるのかも知れない。

 

「これが一番楽だからな」

 

「ふふふ、そうですか。ではそちらも急いでいるようなのでまた会いましょう」

 

変な記事を書かれるだろう。確信した。

飛んでいくのをサードアイで見ていたが、その時に書く記事について考えていた。

題名は、地霊殿の主、外来人の少年と熱愛。

だそうだ。

畜生、これは面倒な事になった。

俺は別に周りの目は気にならないがさとりが問題だ、大丈夫だろうか。

 

「うん、なんというかお疲れ」

 

お燐が慰めにもなっていないような言葉を掛けてくる。

 

「最悪だ。あいつは後で焼き鳥にでもしてやろうか」

 

別に本気では思っていない。

まずまずもう相手が殺る気でない限りもう対象が人であれ、妖怪であれもう殺さないと決めたのだ。

それは変える気はない。

 

「怖いね。そろそろ着くよ?」

 

気付けば既に真下には広大な竹林が広がっていた。

昔から考え事をしていると周りが見えなくなる。

悪い癖だ。

 

「で、なんで竹林の前に降りたんだ?」

 

お燐に従って降りた先は竹林の中の病院ではなく、竹林の入り口のような所だ。

目の前には鬱蒼と茂る竹。

 

「ここは別名迷いの竹林って呼ばれてるんだ」

 

「迷いの竹林?」

 

彼方の世界でもそういう曰く付きの森はあった。

行ったこともないし、よくわからないが恐らくは人間業では越えれない障害物を全て右に迂回して避けようとした結果。

四方にその障害物がありぐるぐると回り続けているとかそこら変だと思うが。

しかし、ここの世界には妖怪もいるので外の常識は通用しない。

ならば本当に謎の力で迷ってしまうという可能性も到底信じがたいが否定はできない。

 

「やぁ。珍しい客だね」

 

いきなり竹林の中から白髪、いや銀髪だろうか、女が出てきた。

目は真紅に染まっており。

服は白のカッターシャツに赤いモンペのようなものをサスペンダーで吊り上げたようなもの。

髪には大きな赤いリボンを1つ付け、髪の先にも複数個の小さいリボンが付けられていた。

そして、なんとも印象的なのがモンペのようなものに貼られた大量の護符だ。

一言で言うのなら平安貴族の亜種のような格好だ。

 

「誰だ?」

 

「私は藤原 妹紅だよ。妹紅とでも呼んで」

 

藤原、ということは藤原家の親族とかそこらだろうか?

そんな可能性はゼロに近いだろうが。

 

「妹紅か、何の用だ?」

 

「何の用って、貴方達を永遠亭に案内するんだよ」

 

どうやら永遠亭というのがお燐の言っていた病院の事らしい。

中々察知能力が優れている様で、現状のさとりを見ての発言だろう。

 

「そうか、助かる」

 

別に悪意も感じないので素直に従う事にする。

もし、途中で殺しに来た場合は全力で潰すだけだ。

 

「じゃあ、こっちだよ」

 

俺は鬱蒼と竹林の中を妹紅の背を追って歩いて行く。

因みに、お燐は俺の後ろから付いてきているようだ。

恐らく、俺が逸れた時のためだろう。

昼なのにも関わらず日当たりは少なく、夕方の様な暗さと夜の静寂があるこの竹林では確かに迷いやすいのかも知れない。

 

「ここだよ」

 

妹紅が立ち止まり、前方にある大きな日本式の館の様なものを指し示す。

屋根は瓦だ。

外にもある様な日本式の家のとても大きなものと見るのがいいだろう。

 

「これか」

 

俺はその館に歩いて近付いて行く、流石に見えている距離で迷うことは無いと思うので先頭を歩いた。

 

「あっ、先に行くと悪戯兎の罠があるから」

 

俺はそれを聞き終わる前に穴に落ちていた。

もう少し、早く言って欲しかったんだが。

ただの落とし穴なら良かったものの、暗くてよく分からないが何か水の様なものが入っていたのでかなり濡れた。

 

「なんか凄い濡れたんだが。水でも入れたのか?」

 

「昨日雨が降ってね。それがたまってたんだろうね.......ウサ」

 

正直に言おう。

ウサを強引に付けすぎだろう。

完全に間が空いていた。

 

「ウサっているのか?」

 

俺は服についた水分を気体に変更し、一瞬で乾かす。

 

「割といるウサよ」

 

なるほど、さっきのは付けにくかっただけか。

そして、こいつも変な格好をしている。

癖っ毛の黒い髪に白いウサ耳、そして袖以外はほぼピンクの半袖ワンピース。

いや、今気にすべきはそこでは無いな。

 

「医者に案内してくれ。さとりを見てもらいたい」

 

「わかったウサよ。所で名前は?」

 

ウサを付け忘れているのか、必要無いと判断したのか。

まぁ、別にいいだろう。

 

「秦 空だ」

 

「秦?ここにも同じ名字の奴がいた気がするウサね」

 

俺と同じ苗字?

まぁ、いた所でこれは偽名だし同じ血筋では無いと思う。

偽名と言っても生まれた時に捨てられたこともあって本当の名字など知りもしないが。

というか、名前さえつけれらていたのだろうか?

 

「お前、名前は?」

 

そういえばこの兎は俺の名前だけ聞いて本名を名乗っていない。

 

「因幡 てゐウサよ」

 

「因幡で兎といえばあの因幡の白兎の本人か?」

 

「そうウサよ。なかなか知識があるウサね」

 

そう言っててゐが館に入って行ったので慌てて追いかける。

内装は外見からも想像はついていたが、和風だった。

まぁ、当たり前だろう。

2、3個の扉を過ぎた時、てゐが止まりドアに対して指をさす。

ここだ。

ということだろうか。

いや、ここウサ。

だろうか?

 

「ありがとうな」

 

俺は指定されたドアにノックをする。

 

「入って下さい」

 

声的には女性だろう。

 

「どうも」

 

俺はそう言ってドアノブに手を掛け、ドアを開いた。


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