Sword Art Online Wizard   作:今夜の山田

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長らくお待たせいたしました。3500文字程度です。
サブタイトルはココアですが、自分はコーヒーが好きです。眠れなくなるけど。



夜はココアが最高に美味い

 

 七十五層、最前線。他の団員達が寝静まった頃、俺は一人黙々と七十五層迷宮区を目指してフィールドを攻略していた。

 零時――日をまたいだその瞬間に異変は訪れた。

 

「おっと……っと!?」

 

 突然、移動速度が遅くなり、画面右上に重量過多を表すアイコンが赤く点滅し、体が重くなる。

 何事かと思い、ステータス画面を見て己の眼を疑った。

 

「え……」

 

 ――筋力、そして敏捷。そこにあった数字が、一桁足りなかった。

 

 

 

 

 

 その衝撃の強さといったら、攻略をほっぽり出してわざわざ転移結晶を使って二十層下の団長の元に、泣き付きに行ってしまったほどだ。

 荷物を適当な倉庫に放り込み、団長の部屋の扉を開ける。

 幸いにも団長は起きていて、突然の来訪だというのに、温かいココアを用意してもらった。

 

 

 

「ぷはぁ……やっぱり夜の飲み物はココアに限りますね」

 

 ココアの温かさが体にしみる――事は無いが、気持ち的に凄く落ち着ける。

 いつか、現実世界に帰ったら、また飲みたいと思えるほど、ココアは優しい味だった。外見を子供に設定しているから、味覚も子供のようになっているのだろうか。

 それとも、単に俺がココア好きなだけだろうか。

 

「それで、異変はステータスが九百九十九になった事以外には無いのかね?」

 

 俺がココアを飲んで落ち着いていると、団長は冷静に他に異変は無いかどうかを訪ねてきた。

 言われてから気づいたが、確かにこの異常な事態にステータス以外に異変が起こっていても不思議じゃない

 

「そうですね。スキル確認してみます」

 

 念のためメニュー画面を開いて、スキルの一覧も確認する。団長の指摘通りそこでも異変が起きていた。

 

「……あ」

 

 ――スキル欄に、《無限槍》というスキルが浮かんできていた。

 団長の方を向くと、予想通りと言うようも、まるでこうなっている事がわかりきっていたような顔で微笑みを浮かべていた。

 

「その様子だと、スキルの方にも異変があったようだな。せっかくだ、そのスキルを付けてみてはどうだ」

 

 早速、しばらく使っていなかった片手槍のスキルを削除して《無限槍》を設定してみる。槍の名が付いているというからには、おそらく槍の戦闘スキルだろう。

 ソードスキルを確認してみると、この《無限槍》というスキルで使用できるようになるソードスキルは意外にも《両手用長槍》、そして《両手用突撃槍》のスキルと同一のものだった。

 他の種類の槍の技も使えるようだが、スキルレベル一なためか、基本となるスキルしか使えないようだ。もしかしたら片手槍のスキルが残っていたら、片手槍のソードスキルも使えたのかもしれない。

 

 そしてこのスキルの説明文によると、このスキルのソードスキルは、通常のソードスキル使用後の硬直をキャンセルして発動できる、というもののようだ。

 それを見て、試したい一心に駆られ、窓から外に跳び出した。

 

 

 

 ギルドホームの前にある広場に降り立つと、早速アイテム画面から模擬戦用に作った木製の長槍を装備して素振りしてみる。

 素振りと言っても、ただ振るのではなく、ソードスキルを使って振る。初級ソードスキルの《スラスト》、《ダブル・スラスト》、《チャージ》、《スティング》。《スパイラルチャージ》、《トリプル・スラスト》、《エイミング・スティング》。それらを早速《無限槍》のソードスキルに繋いで素振りしていく。

 何度かソードスキルを試している内に、その説明にも納得した。

 このスキルの特徴で長所となる点は、説明通り、ソードスキル使用後の硬直をほぼ無視できるという点だ。

 例えば《スパイラルチャージ》のような大技を使った後に、《スラスト》のような隙の少ない技を使う事で、本来の《スパイラルチャージ》の硬直時間よりも短くできる。。今は《スラスト》等の下級ソードスキルに繋ぐことでそういった隙を潰すと言った事しかできないが、レベルが上がれば二連続《スパイラルチャージ》なんて事もできるかもしれない。

 第二に、《無限槍》のソードスキルは元となったソードスキルよりも威力が大きくなっている。格闘ゲームで言うコンボ補正のようなものだろうか。モンスター相手には使えないだろうが、対人ではフェイント攻撃に使えそうだ。回避したと思ったら再度、しかも威力を増して攻撃してくるんだ。驚きは半端ないだろう。

 難点を言えば、元となったソードスキルよりも硬直時間が長い。《スラスト》であれば、〇.〇五秒の硬直時間が倍の〇.一秒にまで伸びている。おそらく他の技も同様に隙が倍になっていることだろう。これは痛い。しかし、硬直をキャンセルできる分、これぐらいのデメリットは当然とも言えるだろうか。

 

 

 

 

 

「使い勝手はどうだね、コクロー君」

「…………あ゙」

 

 あれこれ試していると、突然、後ろから団長に声をかけられて驚いた。その驚きで興奮が萎えたおかげか、飛び出す前のあの場には団長も居た事を思い出す。

 急に、それも一言も声もかけずに飛び出したのだ。怒られても不思議じゃない。

 

「えー、あー、使い勝手は悪くないですね。スキルレベルが上がれば、もっと良くなるかもしれません」

 

 一先ず団長の質問に振り向かずに、そう答える。

 

「……」

 

 団長の反応が無くて怖い。今、団長はどんな顔をして俺を見てるのだろうか。思い返せば、団長は深夜にもかかわらず、ココアを出してくれて相談にも乗ってくれた。

 相談を受けている中、突然飛び出されたらどう思うだろうか。いくらあの温厚な団長でも、怒ったりするのではないか。団長の事だから、あくまでも表面上は平静だろうと思う。

 このまま振り向かずにいると、正面に回ってきそうだ。そうなったら俺はもう顔をそむけるしかない。しかし、顔をそむけなんかした日には、団長から突き放されるのではないか。

 突き離されるのは嫌だ。誤解まで解いてくれて、入団も認めてくれた団長から、見捨てられるのは嫌だ。もう、孤独でいるのは嫌だ。振り向こう。振り向いて、怒りを受け入れよう。

 

 この間数秒。俺は意を決して、怒られることを覚悟しつつ恐る恐る振り向く。

 しかし、振り向いた視線の先には意外にも、微笑を浮かべた団長の姿があった。

 

「……その《無限槍》も《神聖剣》や《二刀流》のようなユニークスキルだろう。コクロー君、ユニークスキル獲得おめでとう」

 

 団長は声もかけず外に飛び出してスキルを試していたことには何も言わず、新スキルが見つかったというのに意外にも平静を保っていて、怒るどころか俺のユニークスキル習得を褒めてくれた。

 仲間の新スキルにいちいち驚いていたβテスト初期が懐かしい。スキルが発展する事くらい公式でも説明されていたのに、何故あの時の俺はそんなにも驚いていたんだ。俺も団長のようなクールな人になりたい。

 

「ありがとうございます!」

 

 そんな俺が咄嗟に平静を装おうとしても無理なようで、胸の高鳴りを行動に移すのが抑えれなかった。

 叫ぶようにして褒めてくれた事に感謝の言葉を言うと、早速フィールドに戻ってモンスター相手に試そうと転移門の方へと体の向きを変えた。

 しかし走りだそうとしたところで何故か転んでしまい、団長の手が俺を受け止める。

 

「……今日はもう遅い。ステータスが下がっているから違和感もあるだろう。試すのは明日にして、今夜は大人しくしておきたまえ」

 

 そうだ、ステータスが下がっていたんだ。それも約二千も。このまま外に出れば最悪五十五層の敵にも後れを取ってしまいそうだ。

 団長の言うとおり、自宅で身体を慣らしておいた方が良いだろう。徐々に上がったのではなく、突然、極端に下がったのだ。違和感は半端ないだろう。

 敏捷が下がったから、動きのキレも大分落ちていると思う。先ほども、敏捷が下がった違和感についていかずに転んでしまったんだろう。無意識的に団長の胸に飛び込んだとか、そういう事は無い、はずだ。

 筋力も下がったし、所持品の取捨選択もしないといけない。さすがに、もう鍛冶道具は持ち歩く事はできないだろうしな。




原作登場人物たち目線での番外編がまったく進んでいません。
思ったよりかなり短く、描写も上手くできなく、納得がいかないのがその理由です。
一人1話じゃなく、全員で1話になりそうである。

主人公弱体化→主人公強化。
結果的に強くなったかどうかは、まあ、能力値が1/3になって手数が倍になった感じなのでよくわからんです。
とりあえず《無限槍》出せました。公式サイトの投稿SSでは投げて手数を稼ぐというようなのでしたね。
他には無限の貫通力とか思ったけど、それは強すぎると思ったので中止。防御無視とかバランス壊しすぎると思う。武器防御→武器破壊とかキリト君の武器どうなんだよ!って感じですし。

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