Sword Art Online Wizard   作:今夜の山田

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長らくお待たせいたしました。今回もまた四千文字程度です。
何分ネタ出しに時間がかかりまして。ああ、見切り発車の辛い所です。すみません。
あと次回か次々回で主人公の立場が多少改善される事を予告しておきます。


激動のラストスパート

 ――七十五層到達。そのニュースはすぐに下層の無気力な者達を除いたプレイヤーに周知された。

 第七十五層主街区《コリニア》。この街は一言でいえば古代ローマ風だ。立ち並ぶ神殿のような建築物、張り巡る水路。わざわざ復元までしている辺り、この街の設計者はゲームに異常なまでの拘りを持っているのではないだろうか。否、百層もの世界を構築しているやつに対し、今更異常と言わず何と言う。

 閑話休題。

 裏路地で今では手が切れた情報屋に情報を渡し見逃してもらった後、俺はフードを目深に被りこっそり噂の黒の剣士サマと騎士団長サマが戦うというコロシアムにやってきた。

 コロシアムの前は街開き、トッププレイヤー二人の決闘という事で人が随分と人が集まっている。コロシアム入口の辺りでは血盟騎士団の制服を着てもなお商人風の佇まいをにおわせる肥った男が入場チケットを売り歩いている。

 たかが決闘を見に来ただけなのに金を取られるとはどういう事なのか。コロシアムも不法占拠なんじゃないだろうか。法ないけど。

 遠目で見ていると時たまチケットを買わずに入ろうとした者が衛兵風の騎士団員に押し返されている。闘技場の外壁くらいの高さなら跳躍スキルで跳んでも行けるだろうが、間違いなくバレるし人目に付く。面倒だが、買うしかないようだ。

 

「入場チケット、今ならコーラや黒エールとセットで八コルやでー!」

「入場チケット一枚。それとコーラで」

「まいどおおきに! ……ほいほい、気を付けて持ちや」

「ども」

 

 丸顔で太った商人風の騎士団員から入場チケットとコーラを受け取って中に入る。

 

 ――――ワァー。

 

 闘技場の観客席は決闘が始まる前から大盛況のようで、既に歓声が聞こえてきている。声が重なり合って何を言っているのか聞き取れないが、おそらくどっちが勝つかとかそんな事だろう。

 人数はパッと見千人はいるように見える。どうやら、攻略組と準攻略組のほとんどが揃っているようだ。娯楽が少ないから、当然と言えば当然だろうか。

 

 しばらくして闘技場に設置された拡声器から試合開始のアナウンスが響いてくる。

 そして、黒の剣士ことキリトが入場した。それに合わせるように歓声が高まる。隣に座っていた青年なんかは急に立ち上がって両手でガッツポーズを決めていたほどだ。おかげで少しびっくりしてしまう。

 キリトの入場から少し遅れて、反対側から血盟騎士団の団長サマ――ヒースクリフが入場する。隣の青年が雄叫びをあげ、目を輝かせている。いったい何故入場だけでこうもなれるんだろう。席を変えようかと思ったが時すでに遅し。観客席は埋まり、立ってまで見ている奴もいる。座れるだけマシだろうか。

 それはさておき、闘技場の中心ではヒースクリフとキリトが何やら言葉を交わしている。――。しばらく言葉を交わした後、キリトが半歩ほど後ずさるのが見えた。

 ヒースクリフの方はキリトから距離をおいて右手でメニューウィンドウを出し、そのまま操作して決闘を申し込んだ。キリトは即座にそれを受諾する。オプションは前回と同じく初撃決着モードのようだ。

 

 キリトが背中から白と黒の片手剣を抜く。

 

 ヒースクリフが十字盾の裏から細身の長剣を抜く。

 

 そして――DUELの文字が弾けた瞬間、二人は同時に動いた。

 キリトは沈み込んだ体勢でヒースクリフに突進し、その直前で体を捻り右手に持った剣で左斜め下から切りかかる。だがその攻撃はヒースクリフの左手に持つ十字盾に容易に防がれ、激しい火花を散らせた。

 しかしキリトは右手の攻撃からほんの少し遅れるように左の剣を盾の内側に滑り込ませて攻撃した。だがそれもまたヒースクリフの右手に持つ長剣に阻まれる。

 そして隣の兄さんが急に立ち上がって叫ぶ。

 

「うおおおお! 凄いな! 達人同士の決闘マジ半端ねぇわあ! なあ、あんたもそう思うだろ!?」

「え……えぇ、はい」

「だよな! くぅ、痺れる。このために十五層も上がった甲斐があったってもんだぜ」

 

 隣の兄さんは目をキラキラと輝かせている。なんだこのテンション。

 

 決闘に視線を戻すと、ヒースクリフは盾を水平に構えてキリトに突撃していた。

 それをキリトは剣を交差させて防御するも、弾き飛ばされる。しかしキリトは右手に持った剣で床を突き、その反動を利用して浮き上がり、一回転することで衝撃を殺して着地する。

 それにしても、二人とも二つの武器を使い分けるのが上手いようだ。しかしそれよりも――反応速度やばくね。

 なんと言うか、人間かどうか怪しいくらいに高い。現実では忍者の末裔です。とか言っていても信じちゃいそうになるくらい高い。

 

「見た!? 今の見た!? 流石KoB団長! 盾の扱いも熟練してるぜ! あんた、今の見逃してないよな!?」

「は、はい……見逃してません……です」

「やっぱりな! いやー、すげーなー! 《神聖剣》は伊達じゃないってか!? このゲームはまだまだ奥が深いっていうか、驚かされるっていうか……」

 

 俺はさっきからあんたの行動に驚かされてるよ。

 一体なんなんだこいつ。ひょっとすると座る席間違えただろうか。

 項垂れかけた直後、金属質の音が闘技場に響く。その音に反応して咄嗟に顔を上げると、キリトがヒースクリフの盾にソードスキルをぶちかましていた。

 そして轟々とした炸裂音が続きヒースクリフが弾き飛ばされる。ヒースクリフは綺麗に着地してキリトから距離を取る。端から醒めた目で見れば、お前らは軽業師か何かかとツッコミを入れたくなる。

 

「おいおい! 見ろよ見ろよ! KoB団長が繰り出した連続攻撃を黒の剣士が捌いた後、《ヴォーパル・ストライク》を使って距離を離したぞ! かっけぇ! マジかっけぇ! 俺もあんな動きしてぇわ!」

「……あのソードスキル、知ってるんですか?」

「おうよ! 片手剣使いとしちゃ、いずれ身に着くスキルを知っておくのは当然だろ? あれは《ヴォーパル・ストライク》ってソードスキルでな、片手剣ながらに重槍スキル並の攻撃力とリーチのある技だ」

 

 重槍スキル並のリーチと攻撃力。片手剣でそれが出せるなどと、製作者はバランスをどう考えているのだろうか。剣技(ソードスキル)だから槍や鎚は二の次でいいとか思ってるのだろうか。

 しかし実際は槍で似たような事をすればあの盾は穴を開けるだろう。剣なんかとは貫通力が違う。単なる攻撃力で見れば重槍は両手剣とどっこいどっこいだ。

 リーチも、まあ片手剣にしては長いというだけで、実際重槍スキルの方が長い。この隣の兄さんはおそらくどこか脚色された情報を教えられたのだろう。

 

 闘技場ではキリトとヒースクリフが剣技の応酬を開始している。

 両者共に剣や盾で攻撃を防いでいるようだが、僅かながらにHPは減っていっている。このまま削られるままであれば、先にHPが半分を下回った方が負けるという誰も得しないような幕切れとなるだろう。

 観客が求めているのは完全なる勝者だ。同士討ちなんかもある意味面白いが、拮抗を破って勝ってもらった方がより楽しめる。

 剣技の応酬は徐々にキリトが圧倒し始めている。このままキリトが押し切るのも悪くは無いが、何らかのスパイスが欲しい。

 ――両者のHPが半分を切ろうとした時、戦場は激変した。

 

「おらあああ!」

 

 キリトが雄叫びと共にソードスキルを放つ。七十四層のボス戦で見たのと同様のソードスキルのようだ。その苛烈な攻撃がヒースクリフへ殺到する。

 俺は見た。この闘技場に居る何人が見えたかは分からないが、キリトがソードスキルを発動する直前に、ヒースクリフは僅かだが焦りとも取れる表情が浮かべていた。

 キリトはそこを突いて、大技を叩きこむことに決めたのだろう。剣戟と十字盾に隠れてよくは見えないが、おそらく今頃ヒークスリフは焦りを深めているだろう。徐々にキリトの攻撃に対応できなくなっていっている。

 そしてついにその時が来た。キリトの左手に持つ白の片手剣がヒースクリフのガードを抜ける。これで勝負は決着するだろう――

 ――そう思った。しかし最後の一撃はヒースクリフの盾に容易に弾かれ、キリトは無様にも大技後の硬直時間により動きを止め、そのあまりにも大きすぎる隙にヒースクリフは長剣を叩きこんで勝負は決着を迎えた。

 

 その予想外な決着は、闘技場を大いに盛り上げる。隣の兄さんがセクハラにならない程度に絡んでくるのがこれまた鬱陶しい。

 勿論この予想外な決着には俺も内心震えている。思わずガッツポーズしながら立ちたいほどに。しかし俺の羞恥心と理性がそれを押しとどめる。

 この場でそんな事して、もしもフードが脱げたら大変な事になる事間違いなしだ。それよりも気になる事が――

 

「そこの君、君も私と決闘してみないか」

 

 ――考えに耽ろうとした時、ヒースクリフが観客席――よりにもよって俺の居る席の方を向いて、よりにもよって決闘を申し込んできた。

 おそらくは俺の勘違いだろう。きっと俺の隣の席――右隣の羽帽子を被ったゴツい兄さんの事を指しているのだろう。

 このゴツい兄さんは攻略組だ。しかし小規模ギルドのリーダーだったはずだ。まさか血盟騎士団はついに小規模ギルドの併合まで始める気なのだろうか。

 

「え? お、俺っすか!? いやー、俺って見込みあるんスかね。実はまだ六十層でモブ狩ってるしがない準攻略組でして――」

 

 しかしそこは左隣の軽い方の兄さん。見事に自分だと勘違いしてマシンガントークをぶちかます。

 

「いや、君の右隣のフードを被っている者だな」

 

 ヒースクリフは闘技場によく響く声で改めて決闘者を指名する。

 やはり右隣か。しかし右隣のゴツい兄さんは羽帽子のはずだが――ひょっとして右斜め後ろの人だろうか。

 そう思って振り返ってみるも、俺の後ろの人物は――珍しくフードを外している某情報屋。目が合ってしまって気まずい雰囲気になるも、目をそらしてくれたので俺もそれに倣って頭を元の位置に戻す。

 

「あー、やっぱそっか……。ほら坊主、団長さんが呼んでるぜ」

「……はぁ?」

 

 左隣の兄さんは涙ぐむ素振りを見せて、俺の肩に手を置く。それに俺が疑問の声を投げかけるも聞く耳持たずといった感じでほらほらと急かす。

 ヒースクリフの方を見るも、目が会うや否や頷いてきた。これはなんかもう逃げられないだろうな。流石にこの人ごみの中から出るのは一苦労だ。跳躍スキルで跳ぶにしても、生憎足場が悪い。

 仕方なく、さっさと倒して帰るために――いや、面倒を避けるためにも倒された方がいいのだろうか。闘技場に軽く跳び込んでヒースクリフと相対する。




また長らくお待たせするでしょう。
こちらはご指摘をお待ちしております。

冷静であったり幼稚であったりと主人公の思考がブレまくっているのでいつの日か改訂します。

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