Sword Art Online Wizard   作:今夜の山田

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なんだかまだまだ構成が甘いんでどんどん指摘してください。個人的には「面白い」の一言よりも「ここをこうすればもっと良くなるんじゃないか」の長文が欲しいです。


BANされました

 文字の羅列、見た者を魅了する華美な絵、職人の意匠に感嘆してしまう武骨な石像の絵、絵から這いずり出て今にもこの世界で暴虐の限りを尽くすだろうと錯覚するような恐ろしく禍々しい地獄の番犬の絵。

 それらが様々なサムネイルとなってウィンドウは彩られ、そのウィンドウが今日も白く明るい世界で縦横無尽に飛んでいる。

 広大な電子の海。初めてこの世界に訪れたとき、その言葉はまさしくその通りだと思った。海。地球の七割がそれだ。陸地に比べてあまりにも広すぎる。しかし、実感して分かる事がある。

 ――海と比べては、この世界はあまりにも広すぎる。

 電子の世界は常に広がり続けている。海なんてもはや比べものにならない。では何と比べるのが良いのだろうか。空。いや、それも狭い。

 となれば、もう残るは宇宙しかないだろう。電子の世界も宇宙同様に、広がり続けているのだ。俺はそんな宇宙規模に広がっている電子の世界に、今日も足場も無く佇んでいる。

 

「はぁ?」

 

 俺がどうしてこんな間抜けな声をあげたのか。それは目の前に書かれている文字故にだ。

 この電子の世界では当たり前のように見慣れたポップアップウィンドウ。そこにはこう書かれていた。

 ――あなたのアカウントは凍結されました。

 

 

 

 俺がこの世界に来たのは、今から十六年前ほどの事だ。学校帰りに突然、この世界に入った。入った当時は突然の事に驚くだけで一日ほど費やした。

 何も無い空間に、足場も無く立っていた。靴の裏だって普通に触れるし、地面が無いから手が挟まれるなんて事も無かった。

 自分の現状を理解したのはその一週間後。あの一週間で精神がぶっ壊れなかった自分を褒めてやりたい。

 その日、いつも通り何かを探してうろうろとしていたらふよふよと空を飛ぶ箱を見つけた。

 その箱の名前はメールボックス。中に入っていたのは誰かとのメールの返信文だった。内容はあまり気にする事の無いもので、しいて言えばリア充爆発しろと言いたくなるようなものだった。

 しかしそのメールには、非常に多くの情報が詰まっていたのだ。

 

 メールの送信日は二〇〇六年の三月二十日。

 なんとも信じられない事だが、俺は過去の電子の世界にタイムスリップしていたのだ。

 他に情報は無いかと、箱の飛んできた方向に突き進んでいけば、あるわある。辿り着いた先は個人の携帯電話で、非常に多くの情報を内包していた。

 その後はその個人の携帯電話から検索エンジンまでの道のりを知り、様々な現代知識を手に入れた。そしてこの世界の外の世界が、俺の知ってる《現代》と少し違う事に気付いた。

 総理大臣の名前が微妙に違っていたり、某配管工やポケットで怪物なゲームが微妙にパチモン臭くなっていたのだ。

 某大陸の人が多い国かと思ったがこれまた違う。ちゃんと国の名前は日本だ。

 

 俺は現状をタイムスリップではなく、平行世界へ入り込んだのだと解釈した。今でもその考えは変わっていない。

 いや、今になって確信した。この世界は間違いなく平行世界だと言い切れる自信がある。

 何故か。それは、俺の知っている《現代》で夢物語だと言われていた事が実現したからだ。

 それは、アカウントを凍結された今でも鮮明に覚えている。

 

 その名を《VRMMO》。

 ゲーム名は《ソードアート・オンライン》。

 

 

 

 

 

 10m四方ほどの部屋は、中央から垂れ下がるランタンと壁に掛けられた松明の灯りによってのみ照らされている。

 その部屋の奥には異形の者が二体、次の部屋へと続く扉の前に立ちふさがっている。

 

「コクロー! 矢が来るぞ!」

 

 声に反応してすぐさま後ろに大きくバックステップをする。その直後、さっきまで俺が居た地面に矢が突き刺さる。

 後ろに跳んで回避しなかったら、今頃視界の左上に表示されている青色の横線が大いに減少したに違いない。

 横線はヒットポイントバーというで呼ばれている。ようは当たっても無事な数値。

 貧弱な攻撃をくらえば短く、強力な攻撃をくらえば長く減少する。

 この横線は俺の視界の左上以外に、味方や敵の頭上にも表示される。視界の奥で次の矢を番えている、小汚く小学生程の体躯しかない茶色の怪物――《ゴブリンアーチャー》のバーはぴったり最大値と合わさり、未だ攻撃を受けていないことが分かる。

 不意にその茶色の弓兵は俺と目線が合うや否やにんまりと笑う。このプログラムで構成された存在は、プレイヤーを挑発する機能も有しているようだ。

 俺は苦笑いを浮かべながら改めて《目の前の敵》を見る。目の前にいる怪物は弓兵ではない。

 ――《オークウォーリア》。2mを超える背丈を持ちながら、身の丈程もある大斧を扱う豚と人間が掛け合わさり、一回りでかくなったような怪物の戦士だ。

 その石柱と見紛うような腕や脚には至る所に傷が付けられているが、未だに健在だ。こいつは弓兵とは違い、バーが六割ほど減少している。

 そして俺は矢が来ると言ってくれた、後ろの藍色の髪に白頭巾を付けた相棒に向かって微笑んで礼を言う。あいつの言葉が無ければ、今の俺は無いからだ。

 

「助かるアキヒト! やはり持つべきは友だな!」

 

 我ながら女性のように澄んだ声でアキヒトに礼を言う。女性のようにとは言ったが、今の俺はまさしく女性のそれだ。

 腰まで伸びた黒髪をなびかせ、赤みがかった瞳を見せる戦国武者風の美少女。それが今の俺の姿だ。名を黒狼獄覇迅皇常闇紅蓮帝国第一皇子刹那(こくろうごくはじんおうとこやみぐれんていこくだいいちおうじせつな)という。親しい奴は最初の二文字をとってコクローと呼ぶ。

 

「うっせー! 前見ろ前! こいつ倒さないとボスまでたどり着けねーんだぞ!」

 

 折角礼を言ってやったというのにこの反応だ。それほど付き合いが長いと言えなくもない。そんな相棒に適当に相槌を打って目の前の敵を見据える。

 オークウォーリアは部屋の中心より少し奥に陣取り、その得物を壁に当たらないように器用に振り回して近づけさせないようにしている。

 しかし武器の性質故か、その頻度は三秒に一回くらいだ。しかしその一回に当たればお陀仏なのは、今この部屋にアキヒトと俺しかいない事が証明している。

 この部屋にたどり着いた時には、八人いたのが今ではたったの二人だ。

 目の前のオークウォーリアは勿論の事、後ろで矢を番えているゴブリンアーチャーも相当強い。

 この部屋に入った当初、二体は中央に並んで立っていた。しばらく闘って、オークウォーリアのバーが三割ほど減少した辺りだろうか。

 今のように後ろに弓兵を配置し、オークウォーリアも中央から一歩二歩退いて多方面から攻撃されないように陣取った。

 こいつらは戦いを経て学んでいる。それからこっちは無駄に突撃した臨時で組んだ馬鹿な四人パーティがお陀仏。おかげで更に一割は削れたが。

 アキヒトと俺のフレンドの二名は流れ矢に当たってお陀仏。ご丁寧に麻痺毒を塗り込んでいて、麻痺したら即座にオークウォーリアが踏み込んで大斧で薙ぎ払った。

 攻撃した者の隙を、その間仲間が攻撃する事で隙を埋めるテクニック。通称《スイッチ》を使いこなしてるのも問題だ。

 前の重戦士が大斧を薙いだ後に、後ろの弓兵は矢を放ってくる。プレイヤーから見ても、これがすごいコンビネーションだとわかるだろう。

 今の俺達はひたすらオークウォーリアとゴブリンアーチャーのコンビネーションの僅かな隙を狙って少しずつ削っている。ひたすら地味に。一時間近くかかってようやく二割減らす事が出来た。

 

「アキヒト、ここは街に戻ってレベル上げしに帰った方がいいんじゃないか?」

「俺らが最初に六層突破するって言ったろーが!」

「二人でボス攻略とか無茶が過ぎると思うんですが、ねぇ!」

 

 またも飛んできた矢を後ろに跳んで避ける。

 この戦いはまだボスですらない。せいぜい中ボスと言った所だ。前の部屋ではこのオークウォーリア一体を相手に八人で五分間袋叩きにしてようやく勝てた。とてもじゃないが二人でクリアできる気なんてしない。

 俺はこの次の部屋はボスではなく、オークウォーリアかゴブリンアーチャー増量か何かだと思う。

 どう足掻いても六層ボスまでたどり着けそうにもない。この戦いに勝っても、恐らくは次の部屋でやられるだろう。

 それなら時間をかけて倒すよりも、後の事は構わず大技を叩きこんでさっくり倒して帰還すればいい。その事を伝えるため、後ろに控えているアキヒトに声をかける。

 

「アキヒト。今からちょっと大技かますから、お前も大技かましてくれ」

「おう! 例のアレだな! 勿体ぶらずにさっさとしやがれ!」

 

 例のアレ、というのは、俺だけが使うアレの事だろう。出会った時に見られて以来、一回もアキヒトの前では使っていない。

 ――ログインしている間はほぼアキヒトと一緒に過ごすため、実質それ以来一回も使っていない。

 アレがまた見れることを期待しているのだろう。俺としては友人ができて暫く経ったためにもう使いたくないものであるのだが、この場面でアレを使わず切り抜けるのは難しいだろう。アキヒトもゲーム内の技と勘違いしてくれているから、なんとかなるかもしれない。

 

「了解」

「よっしゃあ! じゃあ行くぜ!」

 

 俺が了承すると、アキヒトはオークウォーリアが薙ぎ払った直後の隙に懐に潜り込み、《ソードスキル》を発動する。手に持った短剣が紫色に煌めいてオークウォーリアの左胸に突き刺さる。そして直後、短剣は紫色の閃光を放ち左胸を消し飛ばすように背面までぶち抜いた。

 《ピアース・エッジ》。短剣の持つソードスキルだ。クリティカルしやすくなる技で、反応から見るとクリティカルしたのだろう。オークウォーリアは一気に二割近いダメージを受けたせいか一瞬怯む。

 ――その隙を突いて、俺は奥の手を発動させる。まず槍の二連続ソードスキル《ダブル・スラスト》を発動する。すると漆黒の槍の先端は緑色の光に包まれる。

 俺はシステムの仕様速度を無視して、その槍でオークウォーリアの胸を八度突く。前者はソードスキルだが後者はまったくの別物。俺だけが持つ力だ。

 本来であれば、わざわざアキヒトの目がある場所なんかでは使わない。

 オークウォーリアはヒットポイントを残すことなく消費して崩れ落ちる。文字通り、ガラス片のようなポリゴンの結晶となって周囲に霧散していった。

 そしてそのままアキヒトの脇を通り過ぎ、ゴブリンアーチャーの頭に四度、水平突きをお見舞いして、同様に霧散させる。この間僅か一秒未満だ。

 

「う、うおぉぉぉ! やっぱすげーなぁ、コクローの高速連続攻撃。俺も槍使いになろっかな。こう、ずばばーんっとやりてぇ」

 

 アキヒトはようやくこの部屋を制圧できた喜びか、掲げた両手を握りしめて喜色満面の笑みでこちらの歩み寄ってくる。

 

 そんなアキヒトに向けて一言、「帰るぞ」。そう言おうと一息吐いた直後、突如目の前が真っ暗になりシステム側から強制ログアウトされる。

 それからすぐにBANされる。運営もどうやら犯罪者を見逃す程無能ではないようだ。

 この日この時をもって、俺のソードアート・オンライン生活は終わりを告げた。俺の黒狼獄覇迅皇常闇紅蓮帝国第一皇子刹那も、既にサーバーのデータから削除されたのだろう。

 BAN――簡単に言えば、出入り禁止だ。アカウント凍結とも言う。効力は絶大で如何に高名なネット廃人でもBANにだけは屈すると言ったほどだ。ようするに、どれだけ頑張ろうと創造主たる運営には勝てないと言う事だ。

 

 

 

 思い返してみても、やはりあの場であんな事をやるのはまずかった。そう断言できる。あれは反則行為だ。運営に見つかったら即始末されて当然だ。

 何故反則行為か。それは俺が不正にシステムを自分の都合の良いように改竄したからだ。あの時行ったのは倍速化。あらゆる行動が倍速で動く。故にあれは八連撃ではない。ただ倍速で行動し、《ダブル・スラスト》を四回叩き込んだだけだ。

 そもそも本来なら俺にはゲームの参加資格も無いし、名前に漢字も使えない。

 

「はあ……この《チート能力》さえあれば無敵だと思ったんだが、現実はそう甘くないな」

 

 そう言って痒くも無い頭を掻く。

 チート能力というのは俺が使える特殊な能力の事で、昔読んでたネット小説に肖って命名した。修飾語通り、チートな能力だ。そしてチートができる能力だ。

 この能力は十年もの間ネットを放浪していたら自然と使えるようになった。あれから六年経った今ではハッキングから情報収集、遠隔操作なんでもござれ。電子世界の無敵戦士俺爆誕だ。

 このチート能力なら凍結も解除できる。しかし、してどうなるという話になる。またBANされて、また解除してのイタチゴッコになるのがオチだ。

 

「しかしなぁ、まさかバレるとは……いや、バレるか。一〇〇一人目がいて、名前が漢字で、ゲーム内速度の不正な変更があれば、そりゃバレるわな」

 

 今回、俺はVRMMORPGというまったく新しいゲームジャンルに興奮して勢いのままハッキングした。幸いにもβ版という事もあり、簡単に一〇〇一人目のアカウントを作成して潜り込めた。

 あの時俺は改めてこの電子の世界においては無敵の存在だと、ゲームにログインするやいなや思う存分高笑いしていた。今になって思う。誰かあのバカをぶん殴ってこい。目立ってどうする。

 

「……いや、まあ、βテストだしな、うん。予定よりもキャラ削除が早まっただけだ、うん。今更作り直しても違和感バリバリだ。ここは諦めて正式版を待て、俺」

 

 そう自分に言い聞かせても、諦めきれないのが俺だ。VRMMOの味を知ってしまったらもう平面な横スクロールとか3DのFPSには暇つぶしにもならない。

 残念な事だが、甘い蜜を知ってしまったためにこれまでの世界が酷く陳腐に見えてしまった。

 VRMMOが恋しい。またアキヒト達とバカみたいに話をして、バカみたいに冒険したい。――できる事なら嫌われずに。

 そんな事を考えながら、俺は正式サービス開始までの期間の暇つぶしに情報収集を繰り返し、情報収集に飽きたら只々地雷除去のゲームで暇を潰す毎日を送った。

 

 

 

 

 

 それは十一月に入って一週間もしない内の事だ。ついに俺は待ち望んでいたソードアート・オンラインに再会した。

 


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