駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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えー皆様、明けましておめでとう御座います&ごめんなさい(土下座)

こんな木偶の坊ですが、本年も頑張ります!!


再確認

「………………………………………………………」

 

「………………………………………………………」

 

薄暗い洞窟の中、鉄格子の内と外。私とヲ級は静かににらみ合っていた。

 

捕らえられてなおヲ級の眼差しに衰えはない。まだまだ余裕のある様子だ。

 

(……敵陣のど真ん中でこの余裕。敵ながら、こういうところは見習うべきかもしれないな)

 

さて、ここまで来たものの、一体どこから切り込むべきか。そう考えていると、

 

「……………、……」

 

「…………ん?」

 

ヲ級の口元がかすかに動いた気がした。いや、気がしたじゃなく、確実に動いている。

 

注意深く見ると、その動きがなにを示していたのかわかった。

 

つ、う、わ、の、あ、い、て、は、だ、れ、だ。

 

(……通話の相手は誰だ? 一体どういう……って、もしかして)

 

通話、といえば今私のデュエルディスクは司令官と通話中になっている。

 

「……………………」

 

ヲ級の意図はわからない。なぜそんなことを聞いたのか、そもそもなぜ声に出して言わないのか。

 

だがヲ級は二度も本気のデュエルでぶつかり合った相手だ。相応の敬意は払うべきかもしれない。

 

「………………」

 

ディスクの画面をヲ級に無言で向ける。その画面には通話相手である華城司令官の名前が映し出されている。

 

それを見たヲ級は、

 

「…………いいかい?」

 

小さく呟いた。

 

「……?」

 

呟きの意味が掴めない。一体なにがいいというのか。

 

答えは第三者からだった。

 

『…………好きにしろ』

 

「司令官?」

 

私と通話状態にある司令官が、質問の答えらしきものを口にした。

 

「……そう、か」

 

それを聞いたヲ級は、再び小さく呟いた。

 

そして。

 

「……暁型駆逐艦二番艦、響」

 

「っ、なんだい」

 

急にフルネーム(?)で呼ばれたためにわずかに動揺してしまう。

 

そんな私を見て、微かに笑いながら、ヲ級は言う。

 

「君には君の事情があるんだろうけど、その前にちょっと雑談に付き合わないかい」

 

「……私が来たのは、」

 

「レ級について聞くため、だろう? いいさ、それも教えてあげよう。だがその前に私は私で言いたいことがある」

 

「……………………」

 

雑談に付き合っている暇はない、と言おうかと思ったが、レ級について教えてくれると言うのなら多少は付き合うのもいいかもしれない。

 

「……わかった。レ級について教えると確約してくれるのなら、聞こう」

 

「ああ、約束しよう」

 

「それで、言いたいことっていうのは?」

 

「話が早くて助かる。じゃあ、内容に入ろうか」

 

ジャラリ。ヲ級を戒める鎖が擦れて金属質な音を洞窟内に響かせた。

 

 

「君さ。ーーもし、私が君たちの仲間だって言ったら、どうする?」

 

 

「…………『何を馬鹿な』と聞き流すね」

 

そんな荒唐無稽な話、誰が信じるものか。

 

「つれないね。しかし残念なことに事実だよ」

 

「………………………………」

 

牢獄内からこちらを見るヲ級の声に嘘はないように聞こえる。聞こえる、けど……。

 

「…………投獄生活で気でもやったかい」

 

「たかが数日でやられるほど私はヤワじゃないよ。そしてこれは無様な命乞いでもない。なんなら君の上司に直接聞いてみたらどうだい?」

 

上司、つまり司令官。

 

「…………嘘だよね?」

 

『………………まあ、完全な真実であるとは言えんな』

 

そんな言い方をするってことは、つまり、

 

「………………本当なのか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことかい!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と!?」

 

常識の根底が揺らぐ。私の信じた司令官の像が、音を立てて崩れていく。

 

「おっと、私の尊厳のために否定しておくけど、私と華城は協力関係にあるわけじゃあない。……まあ、この鎮守府以外に関しては知らないけど」

 

「どういう……」

 

「私と華城は……なんて言えばいいのかな、互いに利用し合う関係というか。そんな関係になった理由は過去に色々あったからなんだけど、今はそれは省かせてもらう。とにかく、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わけさ」

 

「……………………意味が、わからない」

 

「受け入れられないなら、いいさ。それなら私は鹵獲された敵深海棲艦のままでいい、重要なのはそこじゃない。……改めて、本題に入らせてもらうよ」

 

情報の衝撃で放心状態の私を放置して、話は進む。

 

「けど、どこから話そうか。……まあいいや、順当に『あの作戦』からにしようか」

 

鎖で縛られた体を器用に動かし、ヲ級がわずかにこちらに寄る。

 

「『番号札作戦』」

 

「……!」

 

「お、そのリアクションは知っていると見た」

 

『番号札作戦』……《No.》を封じるために過去取られた作戦だと、以前金剛さんが言っていた。

 

「事の始まりは、あの作戦が実行される数日前だった。私は事前に知っていたけど、あえて深海側には漏らさなかった。だけど……」

 

 

 

 

「鎮守府に攻撃を仕掛ける……? なんで、急に?」

 

「あァ、ちと噂を聞いてな。なンでも、近々横須賀鎮守府に艦娘が何匹も集まるらしィンだよ。それも『初期艦』とか言われて特別視されてる奴らだ」

 

 

 

 

「レ級が……? けど、その噂ってどうやって……」

 

「さあ……鎮守府に深海側から送られた内通者でもいたんじゃない?」

 

内通者。私だって、過去に疑ったことがないわけではない。

 

けど。

 

(……きっと、深海に優秀な通信士がいるだけだ。海軍の情報が筒抜けになるような……きっと、そうだ)

 

「続けるよ。その後色々あって私もその鎮守府襲撃チームに入れられて……」

 

 

 

 

『番号札作戦』決行当日。

 

「……おーおー集まってる集まってるゥ。ケケッ、集え集え、一網打尽に喰らい尽くしてやるからよォ」

 

偵察に出した艦載機から送られてくる映像を見て、上機嫌に笑うレ級。その横でヲ級は同じように艦載機を操りながらも、内心には複雑な感情が渦巻いていた。

 

(…………何人かの艦娘は武装しているけれど、あの程度の数じゃ到底レ級には太刀打ちできない。こちら側の圧勝は確実……華城が死ねば、私もやっと自由の身になれる)

 

ならば、

 

「レ級。君は艦娘を潰してくれ。私は周りの人間たちを()る」

 

「おう。どォせ人間殺しても面白味ねェし、そっちはテメェで勝手にやれ」

 

「了解」

 

 

 

 

「……本当に、どういう関係なんだ、君と司令官は」

 

「だから利用し合う間柄だって。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

 

 

横須賀鎮守府特殊物資搬入用港ではすでに作戦行動が終盤を迎えていた。白紙のカードに力が込められ、あとは《No.》をそのカードに封じるのみ。

 

何事もなくことが進んだことで、全員の気がわずかに緩んでいた。

 

その隙を、レ級は逃さなかった。突然鳴り響いた敵襲の警報に戸惑う陸地の面々を視界に捉えつつ、恐るべき速度で海中を進む。

 

そして、

 

「ギャハァッ!!」

 

ザバッ!! と勢いよく海面から飛び出すと、手近にいた艦娘を主砲の一撃で遥か遠くへと弾き飛ばす。

 

「まずァ一匹ィ……!! さァどンどンいくぜェェエエエ!!」

 

 

 

 

「奇襲は成功。横須賀鎮守府は大混乱に陥った」

 

「……その混乱に乗じて、君は何人殺したんだ」

 

「まさか。私の目標は端から華城だけ。他の人間は艦載機の機銃で多少牽制したくらいさ。……とにかく、『番号札作戦』は失敗、横須賀鎮守府には壊滅的被害が出て、深海の反攻の狼煙となる……はずだった」

 

「はずだった、ってことは」

 

「言葉の通りさ。この襲撃は失敗に終わる」

 

 

 

 

「ヒャハハハハハッ!! オラ逃げろ逃げろォ!!」

 

艦載機を操りながら高笑いをあげるレ級。鎮守府本館へ逃げ込んでいく軍関係者は無視し、自分に砲を向けてくる艦娘たちへと艦載機の機銃掃射を見舞っていく。

 

ヲ級はというと、

 

「ッ……!」

 

「っ、ヲ級、貴様……っ!!」

 

ギリリ。ヲ級の杖と華城の軍刀が拮抗する。艦載機を使わず、その手で華城の命を絶つために。

 

「……大人しく、死ね……!」

 

「ハッ、こんなところで死ねるか……!」

 

ガン! ギン! と幾度も杖と軍刀が交差する。そして再度、拮抗。

 

「……君たちにできることなど、もう無い。精々増援が来るよう祈っていろ……!!」

 

「……できることなど無い、ね……それは、どうだか!」

 

華城の口角が上がっていく。鋭い眼光が勝機を捉える。

 

「やれ叢雲、プランRだ! 全責任は私が取る、だから、やれ!!」

 

 

「……あァ?」

 

突如レ級の目の前に現れた艦娘が、砲ではなくデュエルディスクを操作し始めた。

 

複数の艦娘を一方的に蹂躙していたレ級は、上陸してから初めて表情を笑顔から変えた。

 

(……なンだ、コイツ。何してンのかはさっぱりわかンねェが……潰すか)

 

何をしているんであれ、それが完了する前に動けないようにしてしまえば関係ない。

 

「っ」

 

両足に力を込め、瞬きの間に艦娘の懐へ潜り込む。両の手を振るい、矮小な命を毟り取るーー

 

ーーはず、だった。

 

ズドンッ!!

 

「…………あ?」

 

砲の発射される音は、ごく至近距離からだった。それこそ懐と呼んで差し支えない距離から、レ級目がけての砲撃。

 

「…………………………」

 

それをやったのは駆逐艦だった。レ級にとっては駆逐艦の主砲など脅威にもならない。かすり傷が関の山だ。

 

しかし、レ級は気づかなかったのだ。この距離まで接近されているのに、砲で攻撃されるまで。

 

「…………………………」

 

まさしく、呆然。素早く自分から離れていく()()()()()の背を、惚けるようにレ級は見ていた。

 

そしてその隙に、

 

「とったぁ!!」

 

「、何ッ」

 

レ級の腕に赤く光る細い紐が巻きつく。途端、レ級のデュエルディスクが勝手に起動した。

 

「デュエルアンカー……!」

 

「あんたは道連れにさせてもらうわよ……!」

 

艦娘が言い終わると同時に、目を焼くほどの光が港を埋め尽くした。

 

 

数秒後。鎮守府を襲った二つの災厄は一枚のカードに収まった。五人の初期艦、彼女たちを巻き込んで。

 

 

 

 

「そしてそのカードは私が回収。レ級がいなくなったことで私たちは撤退……っていうわけ」

 

獄中のヲ級から明かされた真実。それをゆっくりと咀嚼し、飲み込んでいく。

 

(……金剛さんが言っていた、カードに封印された深海棲艦っていうのはレ級のことだったんだ。あの時の話と今の話に、食い違っているところはない……)

 

とはいえ、気になることもある。

 

「その、レ級に一撃食らわせた駆逐艦っていうのはもしかして……」

 

『察しの通り、暁だ。アンカーでレ級を捉えるにはどうしても奴に隙を作らなくてはならない。それをあいつは玉砕覚悟で作り出したんだ』

 

やっぱり。暁ならそう動くだろうと思った。

 

「……『番号札作戦』の顛末はわかった。でも、どうしてこの話を?」

 

「君も知っているとは思うけど、レ級は強い。それはもう恐ろしく、ね。……だけど、そのプライドを傷つけた者がいる」

 

「プライドを…………って、まさか……」

 

強者のプライドが傷つくのは、弱者に自分を上回られた時。

 

もしそれをやったのが、今の話に出てきた中にいるとしたら。該当するのは、一人しかいない。

 

 

「不意打ちで自分に一撃食らわせた、黒い駆逐艦。レ級はその子を、血眼になって探してる」

 

 

「………………………………」

 

「お帰りかい?」

 

背を向けた私にかかる声は、先ほどよりもずいぶん軽かった。

 

「……うん。聞きたかったことは聞けたからね」

 

洞窟の扉を開け、一歩踏み出す。

 

これから、ヲ級がどういう扱いを受けるのかはわからない。殺されるのかもしれないし、内通者だからと無罪放免になるかもしれない。

 

けど、どのみち。

 

「もう、会うことはないだろうね」

 

「うん。この先君がどういう選択をすれど、私と会うことはない」

 

最後に一度だけ、ヲ級と目があう。

 

「……じゃあ、さようなら」

 

「……バイバイ、勇者サマ」

 

閉じた扉の中と外。距離が縮まることは、きっともうない。

 

 

 

 

「……………………ただいま」

 

私と暁の部屋の扉をわずかに開けて、小声で帰ってきたことを知らせる。

 

すでに司令官との通話は切ってある。

 

(暁は……あ、今は検査入院中か……)

 

時刻はすでに深夜一時(マルヒトマルマル)になろうかというところ。正直、私もちょっと眠い。

 

(…………けど)

 

私にはまだ、やるべきことがある。

 

ヲ級の話を鵜呑みにするわけではない。だが真っ赤な嘘だと切り捨てるのも違う気がした。

 

そして真実なら、暁とレ級の間には因縁があることになる。それはレ級からの一方的なものかもしれないけれど、間違いなく根深いものだ。

 

とすればそれは、解消しなくてはいけない。

 

誰が?

 

無論、妹である私が。

 

そういうものの決着は本来本人がやるべきなのだろう。だが暁は今本調子でなく、何よりレ級が暁と対面したら間違いなく全身全霊で持って叩き潰しに来るだろう。

 

だから私がやるのだ。暁の妹である、この私が。

 

「…………行ってきます」

 

扉は、無音で閉まった。

 

 

 

 

「……いってらっしゃい」

 

 

 

 

「…………………………………………」

 

提督執務室の両開きの扉が、いつもより大きく、そして重く感じる。それはきっと私自身のどこかでこの扉を開けることへの躊躇いがあるからだ。

 

普段の三倍の時間をかけて扉を開ける。

 

「……失礼するよ」

 

提督執務室の中は、特に普段と変わっているところはない。司令官が自分の席に着いていて、秘書艦用の机にほぼ物はない。

 

唯一違うとすれば。

 

「Hey、待ってたヨ、響」

 

部屋のど真ん中で仁王立ちをして腕を組んでいる金剛さん。彼女だけだ。

 

「金剛さん……」

 

「響の用件は分かってマース。提督に自分をレ級討伐隊に入れるよう直談判しにきたんですよネ?」

 

無言は肯定とみなされた。

 

「……OK。じゃあ、響」

 

金剛さんが、デュエルディスクを構える。

 

「デュエルをしまショウ。響が勝てば、私とchangeでレ級討伐隊に入れマース。But……私が勝てば、響には今度こそ手を引いてもらいマース。スターダストも私たちで引き取るネ」

 

「構わんさ。ーー私は、負けない……!」

 

「……いい目ネ。じゃあ見せてヨ、響の、覚悟を!」

 

「「ーーデュエルッ!!」」




まーた急展開だ(呆れ)

次回、響vs金剛!!

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