『「このスタンバイフェイズ、《
全員が黙って見守る中、微笑の長門はデッキから一枚のカードを抜き、手札に加えた。
「……《再融合》でも手札に加えて、キメラフレシアを蘇生する気か?」
『「《再融合》がデッキに入っていればそれでもよかったんだがな。生憎
コンクリートの亀裂からコーディセップスが顔を出す。が、すぐにしおれていき、亀裂に姿を消した。
『「スタンバイフェイズ、墓地のこのカードを除外することで墓地のレベル4以下の《捕食植物》二体を蘇生する。来い! 《捕食植物スピノ・ディオネア》、《捕食植物スキッド・ドロセーラ》!」』
「《インフェルニティ・ジェネラル》と似た効果……意趣返しか」
『「《置換融合》を発動! 自分フィールドのモンスターで融合召喚を行う。素材はもちろんスピノ・ディオネアとスキッド・ドロセーラ!」』
先の二回と同じように、スピノ・ディオネアとスキッド・ドロセーラが枯れていく。破片は風に乗り、舞い上がりーー
『「光をも蝕む諸刃の毒よ。破壊をもたらす暴虐の姿を型取り、猛毒をもって毒を殺せ! 融合召喚! 万物を蝕め、レベル8! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》ッ!!」』
瞬間、漆黒の煙が長門の周囲を覆い始めた。
「あン?」
煙は長門の姿を隠すだけでなく、どんどんと範囲を広げ、やがてレ級のフィールドまで届いたところで、
『「スターヴ・ヴェノムの効果発動」』
ガッ! と黒煙から生えた腕が《インフェルニティ・デス・ドラゴン》の首筋をつかみ、片腕で締め上げた。
『「融合召喚に成功した時、相手の特殊召喚したモンスターの攻撃力分自身の攻撃力をターン終了時まで上げる。吸わせてもらうぞ、デス・ドラゴン。……そしてそのまま、スターヴ・ヴェノムでデス・ドラゴンを攻撃!」』
力を吸われたデス・ドラゴンが、黒煙に生えた腕に空中へと放られる。
そして、レ級は直感していた。スターヴ・ヴェノムもまた、『力を持つ』カードだと。
「……ハッ。いィぜ、受けてやる。来いよ、スターヴ・ヴェノムッ!」
レ級が叫んだ直後、黒煙から紫色のビームが放たれ、デス・ドラゴンを撃ち抜く。ビームはそのまま振り下ろされ、レ級を直撃した。
レ級:LP3200→400
「ーーーーッ!!」
レ級の身体が浮き、そのまま後方へと弾き飛ばされる。海面を数度バウンドしてから、ようやっとレ級は体勢を立て直した。
「ーーカッ、ハァ……! 効ィたぜ、久しぶりだ、こンな感覚ゥ……ギャッハッ、イッちまいそォになるほどの衝撃ィ! こっからだ、こっからが本当のデュエルだァ!! 俺様のタァァァァンンン!!」
長門のターン終了宣言も待たず、レ級はカードをドローした。
「《インフェルニティ・リローダー》を召喚、効果発動。手札ゼロの時、カードを一枚ドローし、モンスターならテメェにそのレベル×200、魔法か罠なら俺様が500のダメージを受ける!」
『「……結果次第では貴様の負けだぞ」』
レ級の残りライフは400。このドローで魔法か罠を引いた場合レ級の敗北となる。
が。
「カカッ、知るかよそンなことォ。そンぐらいじゃねェと面白くねェだろォが! そら行くぜェ、ドロォォォ!!」
何のためらいもなくレ級はカードをドローする。その結果は、
「……《ファイヤークラッカー》。レベル4のモンスターだ。よって800ポイントのダメージをテメェに与えるゥ!」
『「………………」』
長門:LP4650→3850
「まァだだ! 《ファイヤークラッカー》を手札から捨てることで、テメェに1000ポイントのダメージを与え、俺様の次のドローフェイズをスキップする! 追加ダメージを食らいやがれェェ!!」
カードから飛び出した悪魔が、手に持った球を長門に向かって投げる。球は長門の足元に落ちると、そのまま爆発した。
『「………………………………」』
長門:LP3850→2850
「ハッ、顔色一つ変えねェか。俺様はこれでターンエンドだ」
『「……ワタシのターン、ドロー!」』
ドローしたのは罠カード。レ級のフィールドには攻撃力0のリローダーと伏せカードが一枚だから、《サイクロン》のような伏せカードを破壊できるカードなら確実にゲームエンドに持ち込めたのだが。
(あの伏せカードが《和睦の使者》のようなフリーチェーンでダメージを抑えられるカードでない限り、な。レ級の次のドローフェイズはスキップされるといえ、リローダーがいればドローされる。コイツが自滅を恐れるとも思えない……)
『「…………バトル! スターヴ・ヴェノムでリローダーに攻撃!」』
スターヴ・ヴェノムがリローダーに向けてビームを放つ。この攻撃が通れば、長門の勝利ーー
「ーーだァがこの賭けはテメェの負けだ。《インフェルニティ・フォース》発動!」
バシィィ!! と激しい音を立てて、ビームはリローダーの寸前で防がれていた。
「《インフェルニティ》が攻撃された時、攻撃したモンスターを破壊し、墓地の《インフェルニティ》を蘇生する! スターヴ・ヴェノムを破壊し、よみがえれ、デス・ドラゴンッ!!」
レ級の前の海面が淡く光ると、そこに現れた影がスターヴ・ヴェノムの足元まで行き、その両足をつかんだ。そのままスターヴ・ヴェノムを海中に引きずり込み、入れ替わるようにしてデス・ドラゴンが姿を現した。
「あーあー、攻撃しなきゃよかったのになァ」
『「……だが、タダでは終わらん。破壊されたスターヴ・ヴェノムの効果発動! このカードが破壊された場合、貴様の特殊召喚したモンスターを全て破壊する! この効果が発動するのは《インフェルニティ・フォース》の処理が終わった時、デス・ドラゴンは破壊させてもらう!」』
「! チッ……!」
海中から伸びたスターヴ・ヴェノムの尻尾がデス・ドラゴンの足を絡めとり、引きずり込んでいく。
二体の大型ドラゴンが沈んだ後のフィールドは随分と静かになっていた。
『「…………スターヴ・ヴェノムでもダメ、か。カードを一枚伏せてターンエンド」』
「俺様のターン、《ファイヤークラッカー》の効果でドローフェイズはスキップされる。だがリローダーの効果発動ォ! ドロォォオオ!!」
またしてもドロー次第では勝敗が決する。それなのに躊躇しないあたり、レ級は自分の運に相当の自信があるのだろう。
「……ドローカードは《インフェルニティ・ミラージュ》、レベル1のモンスターだ。よってテメェに200のダメージを与えるゥ!」
長門:LP2850→2650
「ミラージュを召喚し、効果発動! コイツを墓地に送り、《インフェルニティ》二体を蘇生する! 来やがれ、《インフェルニティ・デーモン》、《インフェルニティ・ネクロマンサー》ッ! デーモンが特殊召喚された時、手札ゼロならデッキの《インフェルニティ》を手札に加える! 俺様が手札に加えるのは《インフェルニティ・ブレイク》! カードをセット、さらにネクロマンサーの効果発動ォ! 墓地の《インフェルニティ》を蘇生する! 来い、《インフェルニティ・リベンジャー》!!」
『「っ……また……!」』
「行くぜェ! 俺様はレベル4のデーモン、レベル3のネクロマンサーにレベル1チューナーのリベンジャーをチューニングゥ!!」
その合計レベルは8。しかしシンクロ召喚されるのは二体目のデス・ドラゴンではない。
「闇と光の交わる場所、天と地の狭間。清廉なる魂すら貪り虚無の煉獄より出でよ、怨霊怪異!! シンクロ召喚ッ!! 餓えろ、レベル8ーー《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》ッ!!」
デス・ドラゴンの時と同じように、海面を裂いて真紅の龍が姿を見せる。
巨大な爪を持つそのドラゴンの攻撃力は、またしても3000。
『「チィッ、通すか! 《シンクロ・イジェクション》!!」』
宣言と同時にオーガ・ドラグーンの背後に黒い穴が開く。
『「相手のシンクロモンスターを除外し、相手に一枚ドローさせる!」』
「ハッ、なンだそりゃ。まるで俺様のデッキをメタってきてるみてェだなァ!」
『「否定はせん。意識の隅にあったことは確かだ」』
「だが一手遅ェ! オーガ・ドラグーンの効果! 俺様が手札ゼロの時、相手の魔法及び罠を無効にし破壊できる!」
オーガ・ドラグーンが吠えると、黒い穴はすぐに消えた。
「バトルゥ! オーガ・ドラグーンでダイレクトアタック!!」
『「負けてなどやらん、手札から《捕食植物セラセニアント》の効果発動!!」』
振るわれたオーガ・ドラグーンの爪が止まり、キメラフレシアの作ったコンクリートの亀裂から小さな生物が這い出て来た。
『「相手がダイレクトアタックして来た時、このカードは手札から特殊召喚できる」』
「壁かよ。オーガ・ドラグーンで攻撃ッ!」
一度止まった爪が再度振り下ろされる。オーガ・ドラグーンの爪はセラセニアントを容易に引き裂いた。
しかし、
『「かかったな。この瞬間、セラセニアントの効果が発動する! このカードが行なった戦闘のダメージ計算終了時、戦闘を行った相手モンスターを破壊する。消えろ、オーガ・ドラグーンッ!!」』
「! 道連れ効果……」
シルルルッ! と亀裂から伸びた蔓がオーガ・ドラグーンの爪を絡めとり、亀裂の中へと引きずり込んで行く。
『「さらにセラセニアントが戦闘破壊された時、デッキから《プレデター》カードを手札に加える。《
「…………ハッ。バトルフェイズを終了、リローダーを守備表示にしてターンエンドだ」
『「切り札がやられたというのに、随分と余裕だな」』
嘲るような長門の言葉に、レ級はなぜか首を傾げた。
「ン? 切り札? 俺様の切り札はいつのまにやられたンだ?」
その表情は声音に偽りはない。本当に心の底から、長門の言っている意味がわからないようだ。
つまり、
『「……オーガ・ドラグーンは切り札ではない、と」』
「あァ? なァンだ、切り札ってのはオーガ・ドラグーンのことを言ってやがったのか。違う違う、あンなの切り札でもなンでもねェよ。ただ使えるから使ってるだけだ」
『「そう、か。ワタシのターン、ドロー」』
レ級の言葉を信じるなら、彼女はまだ切り札を切っていないことになる。
(だとすれば…………ダメだ、勝利へのルートがまるで見えない……)
長門の表情がわずかに曇る。手札のカードをどう組み合わせても、勝利のパターンが見えてこない。
であれば。
『「…………………………」』
手中の可能性が勝利へと繋がらないのであれば……
『「……装備魔法《捕食接ぎ木》発動! 墓地の《捕食植物》を特殊召喚し、このカードを装備する。よみがえれ、キメラフレシア!」』
コンクリートの亀裂を押し開きながら、再びキメラフレシアが姿を見せる。
「させるかァ! 《インフェルニティ・ブレイク》ゥ!!」
が、突如雷がキメラフレシアに落ち、その巨体を一瞬で焼き尽くした。
「墓地の《インフェルニティ》を除外し、相手のカード一枚を破壊する。《インフェルニティ・フォース》を除外し、《捕食接ぎ木》を破壊!」
『「……《捕食接ぎ木》が破壊されたことで、それを装備していたキメラフレシアも連動して破壊される。……だが」』
ボコッ、と丸焦げのキメラフレシアの一部が隆起する。それも一箇所ではなく、亡骸全体で同様の現象が起きていた。
「何……?」
『「永続魔法《プレデター・プランター》発動」』
やがて隆起はキメラフレシアを食い破り、大量の奇怪な植物を出現させた。
『「一ターンに一度、手札か墓地のレベル4以下の《捕食植物》を特殊召喚できる。来い、《捕食植物スピノ・ディオネア》!」』
「っ、《捕食接ぎ木》は《プレデター・プランター》を通すための囮か……」
『「その通り。さらにワタシは、《捕食植物モーレイ・ネペンテス》を召喚する!」』
「だが! テメェにはすでに手札はねェ! つまり新たなモンスターの融合召喚は不可能じゃねェのかァァァァ!!?」
『「誰が融合召喚すると言った」』
…………あン? と、レ級が訝しげな声をあげた直後だった。
『「ワタシは! レベル4のスピノ・ディオネアとモーレイ・ネペンテスでーー
「っ!? エクシーズだと!?」
光の渦が現れ、スピノ・ディオネアとモーレイ・ネペンテスが吸い込まれていく。
(貴様の『可能性』を借りるぞ、睦月ーー!)
『「その手の剣で暗闇を裂き、白き翼で未来へ駆ける! エクシーズ召喚!! 来たれ、ランク4ーー《No.39 希望皇ホープ》ッ!!」』
「ホープ……だと……? ってことはまさか、テメェは……」
《No.39 希望皇ホープ》。このカードを操るデュエリストを、レ級は知っている。ここに来たのだってそいつにトドメをさすためだ。
『「……義理はないが答えてやろう。ワタシはアビス。
長門ーーもといアビスの名乗りを聞いて、レ級はわずかに目を細めた。
「アビス……ね。艦娘らしくねェ名前だ。しかしテメェにはもう手はねェ。ホープには攻撃を無効にする効果があったはずだが、そンなもンで凌げると思ってンなら大間違いだぞ」
『「流石にそこまで甘くみてはいない。ワタシは墓地の《置換融合》を除外して効果発動。墓地の融合モンスターをエクストラデッキに戻し、一枚ドローする。スターヴ・ヴェノムを戻す」』
スターヴ・ヴェノムがアビスのエクストラデッキに戻る。が、なぜかアビスはデッキトップのカードに指をかけ、俯いたまま動かなかった。
「……おい、なンだよ。とっととドローしやがれ」
『「黙って待て。焦りが呼ぶのは敗北だけだぞ」』
そう言うアビス自身は、内心焦っていた。
(……なぜ、だ。
意識を集中させている指先では、確実に何かが変わっていっている感覚がある。しかしそれの終わる気配がまるでない。
先ほどまで、こんなことなかったと言うのに……。
(まさか……今ワタシがドローしようとしているのは、
動かないアビスを見て察したのか、レ級はニヤリと小さく笑った。
「……テメェが何かしらかの『力』を使ってンのはわかる。だがそれにも限度があるはずだ。さっきまでの言い様からして、デッキ丸々一つ、さらにスターヴ・ヴェノムをテメェは生み出してる。テメェが次に何をしよォとしてンのかはわからねェが、さァて、そンな余力はあンのかねェ?」
『「………………………………」』
(……実際、睦月の時と同じようにワタシが直接この艦娘の精神内部に作用すれば十全に力を振るうことは可能。だがそれにこの肉体が耐えられるかどうか……)
実は、今アビスが長門にやっていることは彼女が睦月に対してやったのとは全くの別物だ。
睦月にやったのは、睦月という
対して、長門に対してやっているのは一時的に意識を落とし、その肉体を人形
……アビスが今操っているのは先の大戦では連合艦隊旗艦まで務めた伝説の戦艦『長門』なのだから、器として申し分ないだろうが、そんなことアビスは知る由もない。
(とにかく、このままではどうにもならん。どうするか……)
結局先ほどと状況は変わらない。このままだとアビスの勝利はない。
(………………であれば、か)
デッキトップのカードから指を離し、静かに正面を見るアビス。それを諦めからの行動ととったレ級は、さらに口角を吊り上げた。
「……やっぱりなァ。テメェにはもォカードを書き換える力なンざ残っちゃいねェ。俺様は寛大だからよォ、サレンダーするなら認めてやってもーー」
『「それはどうかな」』
自分の言葉を遮るアビスにレ級が眉をひそめるより早く。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「…………………………………………………………」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「ーーッ!!?」
ゾゾゾゾッ!! っとレ級の全身を寒気が襲った。
感覚の正体はすぐに掴めた。
(何……なンだ、
先程から二人のデュエルは多くの艦娘に見られていた。
しかし今の感覚は違う。
(チィッ、気色悪ィ……てか)
アビスは静かにレ級を見ている。ニヤニヤと余裕のある笑みを浮かべて。
(野郎、まだ余力を残してやがった……! ちと、まずいか……)
どんな力の使い方をしたのかわからないが、タイミングからしてアビスが何かをしたのは確実。
ではもし、アビスにまだまだ余力があるとしたら。今自分を
「………………………………………………」
『「一つ、提案なんだが」』
「…………なンだよ」
『「このデュエル、引き分けということにしないか」』
引き分けにする、ということは、
「手ェ引けって言いてェのか」
『「理解が早くて結構。ああ、なんならワタシの負けでも構わない。そうすれば、ワタシはこれ以上無駄に力を使わなくて済むし、貴様は万全の状態で睦月と戦える。悪い話じゃないだろう?」』
「もっともらしく言ってやがるが、俺様が引いてるうちに奴をどっかに匿う気なのはバレバレなンだよ」
『「いいや、そんなことはせん。ワタシ達は逃げも隠れもしないさ。少なくとも睦月が目覚めんことには動かすことすらままならないしな。……だから、そうだな。一週間後、また来るといい。それまでは、コイツを貴様に預ける」』
そう言ってアビスが投げたカードを、レ級がキャッチする。
「……スターヴ・ヴェノム、ね。俺様のデッキには融合召喚のギミックはねェンだがなァ。手札融合できねェから手札減らすのにも使えねェし」
『「なら返してくれてもいいんだぞ」』
「いィや貰っとく。ありがたく使わせてもらうぜ」
レ級はスターヴ・ヴェノムを自身のエクストラデッキに加えると、アビスに、ショートランド泊地に背を向けた。
『「それでは一週間後。また会おう」』
「ケッ、その日がテメェらの命日だ。カレンダーに丸でも書いとけ」
それだけ言って。レ級は海に沈んだ。
「………………………………」
それを見つめる長門の表情に変化はない。
だが内部のアビスは、ぐらりと自身の存在が
(っ、やはり力を使いすぎたか。くそ、
先程レ級の感じた視線は、もちろんアビスによるものだ。
ざっくり言うと、ほんの数秒だけショートランド泊地にいる全艦娘を長門と同じような状態にし、一斉にレ級に対して視線と敵意を向けたのだ。おかげでアビスの力はだいぶ弱まっていた。
(ここは一度眠って力を溜め直すとしよう。ハア……よく考えてみれば、なぜワタシは自分の身を削ってまで戦ったんだ? 器の睦月を守るためとはいえ、少々張り切りすぎた気もーー)
「な、なあ」
自分が声をかけられたと認識するのに2秒かかった。
「……………………………………」
視線だけを動かして後ろを見る。そこにいたのは、眼帯をした艦娘。
(ああ……さっきグチグチ言ってたやつか。たしか……『ケイジュン』の『テンリュウ』だったか)
「その……さっきはいろいろ言って悪かった。アンタ、スゲえんだな。一人であんな化け物を退けるなんて……」
「…………………………」
存在が揺らぎ、力の大半を失った状態でその言葉を聞いたアビスは、
「……貴様に言いたいことがある」
一刻も早く眠ることより、自分の中に生まれた衝動の発散を優先した。
「え……」
「貴様はしきりに自分を責めるようなことを言っていたが。ではなぜそこで立ち止まる? 貴様らに過去は変えられん。ならば未来でまた同じことが起きてしまわないようにするのが道理だろうに」
「何、言って……」
「正直言って気に入らん、腹が立つ。『反省』『反省』と耳触りのいいことばかり言ったところで、何もしなければ変わるのはせいぜい周囲ぐらいだ、本人は何も変わらん。それではまた繰り返す。それが嫌なら、真に『反省』しているのなら、次同じようなことが起きた時に対処できるように努力するのが最善だろう? 強くなる方法は敗れた者への懺悔を繰り返すことじゃない、謝罪は一度で十分だ。それ以上はただの耳障りな雑音でしかない!」
「………………………………」
呆気にとられる天龍の前で、長門がふらりとよろけた。
「っ、限界が近いか…………あー、色々言ったが、貴様も貴様なりに考えることがあったんだろう。否定はせん。だが間違えるな、正解は謝罪の言葉のループ再生じゃないぞ」
「……あんた、大丈夫なのかよ」
「大丈夫ではない。もって後数十秒というところだろう。だから最後にこれだけは言っておく。……目覚めた睦月にかけるべき言葉は謝罪ではない。『よくやった』……たったそれだけだ。あいつは、謝られたくて貴様らを助けたわけじゃーー」
そこまでだった。最後まで言い切ることなく、長門ーー正確にはアビスの意識が落ちた。
「きゅ、救護班ー!」
レ級が消えたことで緊張が解けたのか、鎮守府にいつも通りの騒がしさが戻ってくる。
倒れた長門に数人の艦娘が駆け寄る。彼女らが救護班なのだろう。
「て、天龍さん。とりあえずは建物の中に入りましょう。長門は我々の方で手当てをしておきますので、天龍さんたちは……」
声をかけてきた石動が言葉に詰まる。天龍たちにどういう指示を出すべきか悩んでいるのだろう。
「………………」
「わっ、とっ?」
ひったくるような形で石動の手にあった書類とペンを取る天龍。サラサラとそこに記名していく。
書き終わると、石動に書類を突き返した。
「ほらよ。これで俺たちには部屋が与えられたってことだよな?」
「へ? ……あ、ええ、はいそうです。宿舎は鎮守府本館の隣ですが……」
「じゃ、しばらく世話になる。あと訓練所とかも勝手に使わせてもらうが、いいよな?」
「ええ、それはご自由にどうぞ。詳しい使い方などは、その時に聞いてくださればお教えします。……では、失礼」
石動が倒れた長門のところに向かう。それに背を向け、天龍は宿舎に向かった。
睦月の病室での長門の言葉には聞く価値を見出せなかったが、何故だかさっきの長門の言っていたことは深く突き刺さった。
後悔を糧にする決意をした天龍の一歩目は、力強く、そして頼もしかった。
レ級vs長門(アビス)でした。
いつものデッキ紹介〜。
レ級は前回と同じく【インフェルニティ】。ただ、今回は《デーモン》成分が薄めです。《トランスターン》と《デーモンの騎兵》くらいですかね。
アビスは【捕食植物】。彼女が【捕食植物】を使う最大の理由はイメージがぴったり(作者の中で)だったから。
最近では《捕食植物オフリス・スコーピオ》が出張で大活躍ですね。強い(確信)。もちろん《捕食植物キメラフレシア》とかも強いので、他の《捕食植物》カードもガッツリ採用しても楽しいと思います。
次回、再び舞台は横須賀鎮守府へ。……年内にもう一話ぐらい更新したいなあ……。