駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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響の冬服を見てその衝動で書き始めたら思ったより時間かかりました。
っていうかもうすぐ秋刀魚イベ終わるぅ!?

追記:サブタイトルを入れ忘れてました。申し訳ない。


番外編:仕事なきものたち

コーン、コーン……

 

「ーー電探に感あり、深海棲艦、来ます!」

 

大淀の緊迫感に満ちた声が、北方海域に鋭く響いた。

 

直後、数隻の深海棲艦が大淀たちから少し離れたところに出現する。

 

「来た!」

 

「心配いらないわ。あの程度、鎧袖一触よ」

 

そう曙に言った加賀が、三本の矢を同時に弓につがえ、放つ。放たれた矢は全て空中で艦攻に変化し、深海棲艦に向かって航空魚雷を叩き込んでいった。

 

『!!』

 

先制攻撃を受け、陣形が乱れる深海棲艦。そこに二隻の艦娘が突っ込んでいく。

 

「行くわよ、榛名!!」

 

「ええ、比叡お姉様! 榛名、行きます!」

 

金剛型戦艦二番艦と三番艦の二人が走りながら主砲を深海棲艦に向け、発射する。両者ともに一隻ずつをその一撃で沈めた。

 

一方で、

 

「では、我々捕獲班も準備をしておきましょう。曙さん、潮さん、装備は?」

 

「はい、探照灯、準備できてます!」

 

「ソナー、網、どっちもいつでも行けますっ!」

 

「了解です。では討伐班の仕事が終わり次第、私たちも動きましょう!」

 

「「了解(です)!!」」

 

 

 

 

…………とか、やってるのかなあ。

 

「………………………………………………」

 

幌筵(ぱらむしる)泊地の一室で、温かい紅茶を飲みながらそんなことを思った。

 

日本近海にあらわれる深海棲艦。その大きな影響を受けるのが漁業関係者だ。だから私たち艦娘は彼らの警備任務にあたることが多い。

 

しかしその中でもこの時期に旬を迎える秋刀魚の漁に関しては別で、秋刀魚の捕獲自体も艦娘がやるかわりに取れた秋刀魚の一部を鎮守府(わたしたち)が貰える。ゆえにこうして北方の幌筵泊地まで赴いたのだ。

 

まあ私は臨時秘書艦だから付いてきただけで、秋刀魚漁には関わっていないのだけど。

 

(仕事らしい仕事は司令官がやってくれるし、私は本当にやることがないな……)

 

紅茶をもう一口。それにしても寒い。一応防寒装備はしているけれどーー

 

ーーコンコン。

 

「ん?」

 

ドアがノックされる。はて、誰……

 

東海林(しょうじ)だ。入ってもいいかな?』

 

「! は、はい、どうぞ」

 

慌てて立ち上がり、衣服の緩みを正す。

 

「……だから、そんなに畏まらなくて良いといっているだろう」

 

扉を開けて入ってきたのは、軍服姿の若い女性。東海林(しょうじ)美晴(みはる)司令官。幌筵泊地の司令官だ。

 

海軍式敬礼をしながら、私は東海林司令官に言葉を返す。

 

「いえ、東海林司令官は上官ですから」

 

「だが華城司令官殿にはそうでないよな? あの方は私よりも偉いんだが」

 

「華城司令官は……特別というか」

 

「ふふ、まあそんなものか」

 

(……華城司令官って、そんなに偉かったのか)

 

普段の態度のせいか、そんな気がしない。でも考えてみれば横須賀鎮守府の司令官で、一人で鎮守府運営に関するほぼ全ての仕事を担っていて、そもそも女性であの若さで鎮守府司令官(それは東海林司令官もそうだけど)というだけでもすごい、のだろう。

 

「華城司令官殿はどこに?」

 

「さあ……わかりません。しばらく前に『やりたいことがある』と告げて部屋を出てしまいましたので」

 

「……ふむ。やりたいこと……見当はつかんが、あの人のことだ、何か()いことなのだろう」

 

「……………………………………」

 

そうかなあ。司令官のことだから、本当にやりたい『だけ』のことなきがするけど。

 

「して、君は何をしていたのかね?」

 

「特に、何も。自室待機とのことでしたので、この部屋で暇をつぶしていたのです」

 

「なるほど。……いや実は、私も暇でね」

 

「司令官もですか?」

 

「ああ。仕事の大半を秘書艦がやってくれるもので、私の仕事といえばどうしても私のサインが必要な書類にサインをするぐらいさ」

 

うちとは真逆だ。そんな鎮守府もあるのか。

 

「で、物は相談なんだが」

 

コホン。東海林司令官が咳払いを一つ。

 

「響くん、君、釣りに興味はないかね」

 

「釣り、ですか」

 

「ああ。自慢ではないが、幌筵島には娯楽施設がほぼない。今日は珍しく晴天だし、どうかね」

 

釣りか。経験はないけど、面白そうかもしれない。

 

「いいですね、お伴します」

 

答えて、私は上着のボタンをしめた。

 

 

 

 

灯台の近くに椅子を置いて座り、釣り糸を垂らす。隣に座った東海林司令官も同じように釣り糸を垂らした。

 

「もう少し後の時期になると、ワカサギの穴釣りなんかもいいんだがな」

 

「ワカサギの穴釣り……というと、氷に穴を開けてやるアレですか」

 

「ソレだ。と言ってもこの島に穴釣りができる場所はないから、少々移動することになるが」

 

東海林司令官とそんな他愛もない話をする。

 

……釣り竿の方に反応はない。というか、来そうな気配もない。だが不思議と退屈ではなかった。ただ『待つ』だけでも、シチュエーションが変わるだけで大分心境も変わるものだ。

 

そんなこんなで数十分が過ぎた頃、

 

「あれ? 響ぴょん?」

 

静かに海面を眺める私たちのもとへ、睦月型四番艦の卯月(うーちゃん)がやってきた。

 

「おや、うーちゃん…………?」

 

……の、だけど。

 

「……なんだい、その格好は……」

 

「? この法被ぴょん? せっかくの秋刀魚祭りってことで、うーちゃんアゲアゲモードぴょん!」

 

「そっちより、足につけた探照灯二つ目の方……」

 

「ファッションぴょん!!」

 

そんなきっぱり言い張られても。

 

「ふふっ、卯月くんは元気がいいねえ」

 

「そりゃー元気はうーちゃん一番の取り柄……って、東海林司令官ぴょん!?」

 

東海林司令官がいることは予想外だったようで、わたわたと両手を慌ただしく動かした後敬礼をするうーちゃん。

 

「ど、どうしてここに?」

 

「響くんと釣りを楽しんでいたんだ。卯月くんもやるかい?」

 

「……遠慮しておきますぴょん。うーちゃん、釣りは苦手なんで……」

 

多分、うーちゃんはじっと待つのが苦手なんだろう。そういうタイプっぽいし。

 

「うーちゃん達の班は出撃終わったのかい?」

 

「そうぴょん。さっき艤装とかを置いてきたところぴょん。……それより、どうして響が東海林司令官と釣りしてるぴょん?」

 

「かくかくしかじか」

 

「なるほどぉ。釣れるぴょん?」

 

「残念ながらさっぱりだよ。秋刀魚は獲れた?」

 

「こっちは大漁ぴょん! あの量ならうちの鎮守府全員分余裕でまかなえるぴょん! ……うーん、どうせ戻っても暇だし、うーちゃんもここにいるぴょん」

 

「多分ここにいても暇だよ? 屋内の方があったかいし、戻った方が……」

 

すると、うーちゃんのテンションが露骨に下がった。

 

「……実はさっき、ほんの出来心で弥生のスカートをめくったら、めちゃくちゃ怒って……それで逃げてきたんだぴょん」

 

「それはうーちゃんが悪いね。謝ってきなよ」

 

「そんな殺生なぴょん! あの目をした弥生はだめぴょん、ちょっとやそっとじゃ止まらないぴょん! せめて、せめてほとぼりが冷めるまではぁ……!」

 

懇願するようなうーちゃんの眼差し。これを無理やり送り返すのは気がひける。というか、多分送り返しても別の誰かに泣きつくだけだろうし……。

 

「……わかった、少しの間ここにいるといい」

 

「やったぁ! 響、ありがとぴょん!」

 

うーちゃんの表情が憂鬱から喜色へコロリと変わる。まったく、都合のいい。

 

 

 

 

十分後。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

先程からチラチラこちらの様子を伺っているうーちゃん。間違いない、この状況に飽きてきたけど、かといって弥生のもとに謝りに行く決心もつかず、といったところだろう。

 

しかし助け船は出さない。いざこざは当人同士で解決するべきだ。

 

「……釣れないな。ポイントを変えるか……もしくは、今日は引き上げるかい?」

 

東海林司令官の方も当たりはなかったらしい。眉間に若干シワが寄っている。

 

「そうですね……東海林司令官から見てどうですか、今日の海は」

 

「うーむ……そこそこの時間垂らしていても殆ど反応がなかったし、望みは薄いな。仕方がない、今日のところはもう戻るとしよう」

 

というわけで、使っていた道具類を一箇所にまとめる。

 

そこで困るのがうーちゃんである。

 

「ぇ……ぅ……」

 

うーちゃんの予想ではまだ弥生の怒りは収まっていないのだろう。だがこの流れではうーちゃんも幌筵泊地に戻らざるをえない。

 

(まあ、弥生だってきちんと謝れば許してくれるだろうし。うーちゃんには悪いけど、覚悟を決めてもらおうかな)

 

荷物をまとめ終わり、さあ戻ろうかというその時だった。

 

「おや、響、卯月、それに東海林司令官。何をしているんだ?」

 

「あ、華城司令官」

 

我らが横須賀鎮守府司令官、華城(かじょう)穂野何(ほのか)が歩いてきた。

 

バッ! と素早く美しい敬礼をする東海林司令官。

 

「華城司令官殿、お疲れ様です!」

 

「おう、お疲れ様」

 

「さっきまで釣りをしていてね、ちょうど泊地に戻るところだったんだ。司令官は何を?」

 

「これだよ」

 

差し出されたのは一枚のタブレット。これは……

 

「……海図? この島付近の……」

 

タブレットに表示されていたのは幌筵島近辺の海図。さらに、何かのグラフがいくつか。

 

「正確には幌筵島近海の生態系と、深海棲艦の出現状況をまとめた図だな。やはりこういうデータは自分から現地に赴き、その目で見るのが一番信頼できる」

 

……東海林司令官の言った通り、至極まじめなことだった。

 

「…………!」

 

瞬間、うーちゃんの目がキラリと光った。

 

「ねーねー司令官! うーちゃんちょっとデュエルしたい気分なのでっす! というわけでデュエルするぴょん!!」

 

「あっ……!」

 

しまった、うーちゃんは司令官とデュエルすることで泊地に戻るのを先延ばしにしようとしてる!

 

「? デュエルするのは構わんが……」

 

言いながら司令官はチラリと私の方を見た。私が驚いている理由がわからないからだろう。

 

一瞬の後、司令官は視線をうーちゃんに戻した。

 

「……そうだな、響、東海林司令官、君たちも参加したらどうだ?」

 

「へ?」

 

「わ、私もですか?」

 

「ああ。滅多とない機会だからと思ったが、どうかな」

 

突然の誘いにまばたきが多くなる東海林司令官。

 

「……わかりました。不肖東海林、全力で挑ませていただきます!」

 

「私も構わないけど……タッグデュエルってことかい?」

 

「そうなるな。響は東海林司令官と組むといい。私は卯月と組もう」

 

「がってん承知ぴょん!」

 

東海林司令官とタッグか、と思い東海林司令官の方を見ると、バッチリ目があった。

 

「ええと……急だが、よろしく頼む」

 

「ええ、こちらこそ」

 

(東海林司令官……いったいどんなデッキを使うんだろう。イメージ的には【六武衆】とかかな)

 

そんなことを考えながらディスクを構える。

 

「では、デュエルといこうか。準備はいいか?」

 

「うーちゃんいつでもいけるぴょん!」

 

「問題ないよ」

 

「準備できています」

 

「よし、全員いけるな。……っと、ここでお客さんの登場だ」

 

お客さん? とその場にいた華城司令官以外の全員がクエスチョンマークを浮かべたところで。

 

「………………なに、してるの?」

 

ぽん。うーちゃんの肩に手が置かれた。

 

「ーー!!?」

 

ビクゥッ!! とうーちゃんの肩が跳ね、彼女は数秒後にゆっくりと背後を見る。

 

「…………………………や、やよ、い……?」

 

「……私のスカートをめくって逃げた卯月が、どうしてここで司令官たちとデュエルしようとしてるの?」

 

「…………い、いや、これには深いわけが…………」

 

「ふうん。どんな?」

 

「………………三十四計逃げるが何とか、うーちゃん逃げるは脱兎の如しっ!!」

 

「……二計少ない(ギリッ)」

 

「あたたたた痛いぴょん痛いぴょん!? 待って弥生待って、取れちゃう、うーちゃん肩取れちゃうぴょん!! これ間違いなく重巡クラスの威力ぴょん、弥生はいつの間にそんなサイレントゴリラに(ギリッ)あぎゃー! ごめんぴょんごめんぴょん! 反省してるから許してぴょんー!!」

 

「本当に?」

 

「本当ぴょん……」

 

弥生がうーちゃんの肩から手を離す。

 

「反省してくれて、よかった」

 

「も、もう怒ってないぴょん?」

 

「怒ってないよ。じゃあ仲直りに」

 

カシャリ。

 

「デュエル、しよっか」

 

「え? デュエル……?」

 

「うん、デュエル。ほら、早く」

 

「一応もう一回聞くけど、怒ってないぴょん?」

 

「怒ってないよ」

 

「嘘ぴょん! うーちゃん見たぴょん、今弥生がサイドデッキから《禁止令》と《融合解除》と《虚無空間(ヴァニティー・スペース)》をデッキに入れたの! 《融合》がメインのうーちゃんを完全にメタってきてるぴょん!!」

 

「大丈夫、公衆の面前で恥をかかせたことを反省した卯月なら、きっと乗り越えられる」

 

「みじんも思ってなさそうぴょん……」

 

「あとサイレントゴリラ呼ばわりされたことも怒ってないよ」

 

「うわー根に持ってるぴょん!!」

 

……間違いなく、弥生は怒ってる。でもその怒りに火をつけたのはうーちゃんだし、自業自得というか、因果応報というか。

 

「では我々もデュエルといこうか」

 

「え? でもうーちゃんが抜けたから二対一……ってまさか」

 

「ふふふ……久しぶりだ、こんなに胸が高鳴るのは……! さあ来い、私も全力で行く!」

 

察する。きっと司令官はこの状況にするためにタッグデュエルを提案したんだ。

 

「……仕方がない。了解、私も全力だ。行きましょう、東海林司令官」

 

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

「無理だな、流石の私も二人が相手では手を抜けば負けてしまう!」

 

「ほら、はやく」

 

「うー……わかったぴょん! こうなったらデュエルを挑んだことを後悔させてやるぴょん!!」

 

「「「「「デュエルッ!!」」」」」

 

五人の揃った声が、北の晴れわたった空に響いた。




初めて出てきましたね、華城以外の司令官。ちなみにこの世界の司令官が全員女性というわけではないです。華城と東海林が特殊というか。

次回、一日だけ時間が戻り、睦月が襲われた直後のおはなし。

関係ないけどアズールレーン始めました。

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