駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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閑話休題

「…………………………」

 

鎮守府ドックから出る。太陽の主張に目を細めながら、私は二歩目を踏み出した。

 

検査入院した暁は、結構元気そうだった。異常は見られなかったそうなので、早ければ明日にも退院できるだろう。

 

(さて、私はどうしよう)

 

今日も私は臨時秘書艦の仕事がなかった。もともとないに等しかったから、あまり変わらないといえば変わらないのだけれど。

 

読書でもするか、それともデッキをいじるか。

 

(……ん?)

 

なんて考えていると、目の前を二人の艦娘が歩いていた。

 

それも、ただの艦娘ではない。我が鎮守府の最高戦力である、

 

(大和さんに武蔵さん? 珍しいな、二人が揃っているなんて……)

 

大和型戦艦一番艦及び二番艦、『大和』『武蔵』。彼女らは別に仲が悪いわけでもないけど、かといって二人一組で行動するようなタイプでもない。

 

その向かう先は、

 

(鎮守府本館……本館は広いから具体的にどこに行くかはわからないな)

 

ではどうしよう。

 

(……趣味が悪いかもしれないけど、気になるんだから仕方ない)

 

「………………………………」

 

サッと手近な壁に隠れ、息をひそめる。

 

さて、二人はどこへ?

 

 

 

 

尾行は順調に進み、ついに二人がとある部屋に入った。

 

そこは、

 

(……提督執務室、か)

 

鎮守府最高戦力の二人だ。提督執務室に呼び出されるのは特段変な話ではない。

 

でも、時期が時期だ。

 

(今司令官が二人を呼び出すとしたら、十中八九『アレ』を倒すための作戦会議……)

 

とすれば情報は得ておきたいが、盗み聞こうにも執務室の扉は分厚く、ほとんど音を通さない。

 

(ううん……でも、なんとか……)

 

周囲に人がいないことを確認し、扉に耳をつける。

 

『……に…………を……』

 

(! 微かにだけど……!)

 

耳の当てる位置や角度を変え、何度かアタックを試みる。

 

そして、

 

『……ヤツの被害は、主に……』

 

(よし……いい感じだ)

 

時々よく聞こえないが、それでもかなり聞き取れる。

 

『ヤツはかな……険だ。それは君達もわ……ているだろう。そこで我……「レ級討伐隊」を編……ることにした』

 

(! 『レ級討伐隊』……!?)

 

『で、だ。そのレ級討……には三日後、ショートラン……地に向かい、文字通りレ級を討……てもらいたい』

 

三日後に、ショートランド泊地。本当ならかなり急だ。

 

『で、我々にそれ……われと』

 

『こら、武蔵。言葉遣いには気を……なさい。かしこまりました、大和……艦一番艦「大和」、「レ級討伐隊」として、最大限の成果を上げられるよう全身全霊をかけ任務に……せていただきます』

 

『二番艦「武蔵」、同じくだ』

 

『ありがとう。「レ級討伐隊」の他のメンバーだが、金……戦艦一番艦「金剛」、加賀型正規……一番艦「加賀」、翔鶴型正規空母二……「瑞鶴」、川内型軽巡……一番艦「川内」だ。正式……表は明日を予定している。……諸君らの健闘を祈る』

 

『はい!』

 

『了解だ』

 

(! まずい、離れよう……!)

 

できるだけ足音を殺しながら走り、角を曲がって階段を降りて行く。

 

(『レ級討伐隊』……か)

 

その間ずっと、その言葉が私の中を巡っていた。

 

 

 

 

では、実際問題どうするか? 多分このまま大和さん達に任せておけば、この問題は解決する。彼女達の実力は私なんかの比ではない。

 

(……でもそれでいいのか。彼女達に丸投げして、部屋で黙って祈っているのが正解なのか)

 

きっと大多数の艦娘にとってはそれが正解。

 

じゃあ私は。私にとってもそれは正解なのか。

 

……それを確認するためには、やはり会いに行くかない。

 

(けど居場所を知らない)

 

それならば、炙り出すまで。

 

 

 

 

「明石さん、ちょっと買いたいものがあるんだ」

 

「はいはい、モンスターですか、罠ですか、それともま、ほ、う?」

 

「……ええっと、今日買いたいのはカードじゃなくて……」

 

 

 

 

消灯時間が過ぎ、鎮守府は静まり返っていた。

 

「…………異常なし、と」

 

本日の見回り担当は高雄型重巡洋艦四番艦『鳥海』だった。

 

鳥海より前に、三人もの艦娘が()()()()()()()()()()()()()()()たりしているが、彼女は「次は自分が倒れるかも?」という恐怖より「鎮守府の治安を守らなくては」という使命感の方が強かった。いわゆる風紀委員長タイプだ。

 

重巡洋艦寮、駆逐艦寮と見回り、次は港のあたり。

 

(ここにも……特に誰もいませんね)

 

一応、特殊物資搬入用港の先にある岩場も見るが、当然誰もいない。

 

(次は空母寮ですね。そのあとは……あら?)

 

ふと、鳥海は何の気なしに海を見た。

 

消灯時間を過ぎたこともあって、波の音以外に何も聞こえない。真っ暗な海は、まるで奈落への入り口のようで、まるで巨大な生物の大きく開かれた口のようで……。

 

「ーーっ!?」

 

ゾクゥ! と、背筋に寒いものが走った。

 

(なん、なんでしょう、この感覚……)

 

二の腕をさすって寒気を誤魔化しつつ、そそくさと港から離れて行く鳥海。

 

(何か……確実に()()()()気配……でも一体何が……?)

 

彼女は振り返らない。振り返ることで、取り返しのつかないところまで踏み込むことになりそうな気がしたから。

 

(……この鎮守府に、何が起きようとしているのですか……!?)

 

 

 

 

で、そんな感じで怯え気味な鳥海が港を去ったあと。

 

「ふぅー……危ない危ない」

 

岩場の裏から古鷹型重巡洋艦二番艦『加古』が姿を現した。

 

『きちんと周囲を確認しろ。万一にも誰かに見られるわけにはいかん』

 

右耳のインカムから声。華城だ。

 

加古は『あるもの』を隠すためにこの岩場付近に待機しているのだが……。

 

「周囲に人影なし。……っと、なんか変なのが飛んできた」

 

『具体的に』

 

「なんだろうなー……四枚羽の……あー、ドローンってやつだっけ?」

 

加古の頭上数メートルを、ほとんど音を立てずに飛ぶドローンがあった。確か明石の店に売っているものだ。

 

羽音は波音でほぼかき消されてしまっている。夜闇に紛れる黒色のボディと相まって発見は難しそうだが、加古の夜目は思ったよりきくようだ。

 

「どうする、落とす?」

 

『いや、無関係だった場合まずい。できるだけ気づいてないふりをしてやり過ごせ。あまり長く滞空するようなら落として構わん』

 

「おっけー」

 

岩場に背中を預け、視線を海に向ける。

 

少しして、ドローンは鎮守府側へと飛んで行った。

 

「飛んでった」

 

『よし、そのまま続けろ』

 

「おけ……いや、誰か来た」

 

声のトーンを落とし、岩陰に隠れる。

 

『誰だ』

 

「えぇーっと……確か最近来た駆逐艦の子かな」

 

『……響か』

 

「そーそー、その子」

 

響はまっすぐ港の方へと向かって来ている。何か用でもあるのだろうか。

 

「……どうする?」

 

『響……そうだな、妙な態度はとるな。あくまで平静のまま受け流せ』

 

「りょーかい」

 

インカムの電源を切り、ポケットにしまう。こんなものをつけていたら確実に怪しまれる。

 

「おや、貴女は確か、古鷹型二番艦の……」

 

加古に気づいた響が声をかける。

 

「んお? あたしは加古だけど……響、だっけ。あんた何してんの?」

 

まるで声をかけられて初めて気がついたかのような対応をする加古。

 

「ちょっと探し物をね。加古さんこそ何をしているんだい? こんな時間に」

 

「夜風に当たりに来ただけだよ。それより探し物ってどんなの? あたしも手伝おうか」

 

「気持ちだけ貰っておくよ。大まかだけど場所の見当はついているんだ」

 

そう言った響は、その探し物とやらがあるらしい場所へ近づいていった。

 

……加古が隠している『あるもの』がある場所に、ピンポイントで。

 

「……っ!」

 

一瞬驚くも、すぐに思い出す。あれは今加古が持っているキーを使わなくては見つかるはずもない。だから探し物を探す途中で見つかるなんてことはありえない。

 

あとは響が探し物を見つけるまで待てば、

 

「……ねえ、もういいんじゃないかい?」

 

「!」

 

探し物を探す手を止め、ゆっくりと加古を見る響。

 

「私が探しているもののありかを、貴女は知っているはずだよね」

 

「……ちょっとよくわかんないな」

 

「じゃあこれはどういうこと?」

 

響は自身のデュエルディスクを起動させ、いくつか操作をしたあと、液晶画面を加古に向けた。

 

それは空撮映像だった。中心にいるのは鳥海。どうやら彼女を追うようにカメラは動いているらしい。映像は鳥海が重巡洋艦寮を出たところから始まり、駆逐艦寮に入ったところで映像は一度途切れ、彼女が駆逐艦寮から出たところから再度始まった。

 

「これがなんだっていうのさ?」

 

「もうすぐだよ」

 

鳥海が港を見、空母寮の方に向かっていく……ところで。

 

急にカメラが違う動きをした。鳥海の上から離れ、再び港へ……。

 

そこに映っていたのは、先ほどまでいなかった加古が、岩場付近でたむろしている様子だった。

 

「この少し前をよく見るとわかるけど、画面の隅の方に貴女が岩場の陰から出てくるのが映ってるんだ」

 

「……ドローン?」

 

「そうだよ。明石さんのところで買ったんだ」

 

先ほど頭上を飛んでいたドローンは、つまり響の物だった。

 

「……でも、あたしが岩場の陰に隠れてたからって、それが何を意味するってわけでもないよね?」

 

「どうかな。そもそもなんで隠れたんだい?」

 

「鳥海はかたいからねー。夜風に当たってるだけって言ったって軽い注意ぐらいはありそうだし、なんなら小一時間お説教コースなんてことも……」

 

「そこだよね」

 

「……そこ?」

 

「僅かな可能性であれ、目立つわけにはいかなかった。だから貴女は隠れたんだ。なんで私の時は出てきたままだったのかはわからないけど……いや、もしかして、司令官の指示かな?」

 

「…………………………………………」

 

頭をかくふりをして、素早く耳にインカムを入れる。表情を変えず、口元もなるべく動かさずにインカムに声を当てる。

 

「(……どうする?)」

 

『強制的に帰らせようとしても無理だろうな。……仕方がない、加古、響とデュエルしろ』

 

「(なんでまた)」

 

『それで響がお前に勝つようなら、真実を教えて構わん。ただしデュエルは場所を移して、な』

 

「(……りょーかい)」

 

インカムをまたポケットにしまい、歩きだす加古。

 

「どこへ行くんだい?」

 

「ついてきな」

 

 

 

 

素直についてくる響を連れて加古がやって来たのは、

 

「屋内運動場?」

 

学校の体育館よりは少し広いぐらいのスペースのそこは、屋内運動場と呼ばれ、平時は雨天などで屋外での鍛錬が難しい時に利用されている。

 

「ここなら鍵をかけちゃえば誰かが入ってくることもないし、外からじゃ様子も伺いづらい」

 

「つまり?」

 

「誰にも邪魔されずにデュエルしよう、ってこと」

 

「……そうこなくっちゃ」

 

両者ともにデュエルディスクを構える。

 

「悪いけど、本気で行くからね」

 

「構わんさ、私だって全力で行く……!」

 

「「デュエル!!」」




……ちょっと無理あったかなあ。

次回、今までのデュエルとは少々異なる感じに。

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