なるべくデュエルパートは日を置きすぎないようにしていたのですが、申し訳ありません
ーー乱入ペナルティ、4000ーー
「ぐっ……」
バリバリと菊月の体に電気のようなエフェクトが走る。しかし苦しげな表情は一瞬だけで、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「《フォトン・スラッシャー》は自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚できる。そして《ゴブリンドバーグ》を召喚し効果発動、このモンスターが召喚された時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる。《レスキューラビット》を特殊召喚、この効果を発動した場合、《ゴブリンドバーグ》は守備表示になる」
「ま、待ってくれないかい?」
「む、なんだ響、ここからがいいところだというのに」
「それ以上に気になる点がありすぎるんだよ……」
身体は大丈夫なのかとか、どうして急にデュエルを挑んできたのかとか、どこまで知っているのかとか、なんであんな場所から登場したのかとか……。
だが当の菊月はそんなの知らんとばかりに無視してデュエルを続けた。
「《レスキューラビット》は、自身を除外することでデッキから下級通常モンスター一種類を二体特殊召喚できる。《エルフの剣士》を特殊召喚し、二体の《エルフの剣士》でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築……ッ!?」
突然菊月が、一度眼を見開いた後、くしゃりと顔を歪めた。
間違いない、彼女もまた《No.》の呪いの後遺症に蝕まれているーー!
「やめろ菊月!! なんで君までそんな……!」
「っ、なん、だ、響? 何も、おかしなことなどないじゃないか……デュエルを続けるぞ……!」
なのに、菊月は不恰好ながらも口を笑みの形に歪め、デュエル続行を宣言した。
「
二度目のエクシーズ召喚にさらに菊月の顔が歪むが、口だけは笑みのままだ。
「真珠の勇者よ、その輝石の拳で囚われの仲間を救い出せ! エクシーズ召喚! 来い、ランク4《ジェムナイト・パール》!! ……さて、本来なら《ズババジェネラル》の効果を使いたいところだが、あいにく手札に戦士族はいない」
だが、と前置いた後。
「強化が不可能なわけではない。装備魔法《サイコ・ブレイド》を発動! ライフを2000まで支払い、支払ったぶんだけ装備モンスターの攻撃力を上げる。私はライフを1900払い、これを《ズババジェネラル》に装備する!」
菊月:LP4000→2100
「……響の残りライフも3900ですから、攻撃が通ればジャストキルですね」
浜風が静かに告げる。
(……一度、いや、二度までならこの伏せカードで防げるけど……それ以降は、運次第だ)
だが菊月の手札は後二枚ある。もちろん今は使えないカードという可能性もあるが……。
(そう都合よくは、行かないだろうね)
「魔法カード《鬼神の連撃》を発動。自分のエクシーズモンスター一体は、オーバーレイユニットを全て失う代わりにこのターン二度攻撃できる。対象は《ジェムナイト・パール》だ」
「? 《ズババジェネラル》じゃないのかい?」
「構わん。お前のライフを削りきるには3900一回で十分だ」
……変だ。確かに数字の上ではそうだが、私のフィールドには二枚の伏せカードがある。
(菊月は、そんな慢心をするような人だったか……?)
答えは断じて否、だ。とすると、何か理由があるはず……。
(でも、その理由が全然わからない。なんで菊月はこんなデュエルを……)
「メインフェイズを終了、バトルフェイズに移る」
ーーニヤリ、と菊月が笑った。
「《ジェムナイト・パール》でーー《ガガガガンマン》に攻撃っ!!」
「何っ!?」
「えっ?」
浜風も予想していなかったのだろう。突然の攻撃宣言に驚きを隠せずにいる。
しかしその間にもパールはガンマンに肉薄しーー
「させない! 《ガガガザムライ》は自身以外のモンスターが攻撃対象になった時守備表示になり、その攻撃対象を自身に移せる!」
「構わん、パールは二回攻撃が可能! まとめて粉砕してくれる!」
パールのパンチラッシュによってザムライとガンマンが一気に破壊される。どちらも守備表示なので浜風にダメージは無いが。
「そしてトドメだ、響。《ズババジェネラル》で響にダイレクトアタックッ!!」
私のライフと同値の攻撃力を持つジェネラルが私に向かって突っ込んでくるが、
「罠カード《カウンター・ゲート》発動! 相手の直接攻撃宣言時、それを無効にし、カードを一枚ドローする!」
グバンッ! と私の前にゲートが現れ、ジェネラルの攻撃を受け止めた。
「さらに、ドローしたカードがモンスターカードだった場合、攻撃表示で召喚できる。私のドローしたカードはレベル4の《EM ガンバッター》、よって召喚!」
「……ふっ、凌いだか。カードを一枚伏せて、ターンエンド!」
「……次は私のターン、ですかね?」
今の菊月のターンの前は私のターンだったわけだから、おそらく浜風……
その時だった。
「……菊月ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「な、長月?」
突然、それまでベンチに座って私たちのデュエルを観戦していた長月が、菊月に向かって駆け出し、その胸ぐらをガッと掴んだ。
「貴様、今のデュエルはなんだ!? 無用な手加減をし、その上倒し損ねるなど……!」
「……なんだ。最低限のパワーで相手を倒せるのなら、それほど良いことはないだろう」
「戦場ならな! だがこれはデュエルだ。デュエルは互いに全力をぶつけ合うものだろうが! 今のお前のデュエルからは、デュエルを楽しむ気持ちも、相手へのリスペクトも感じられない。相手を侮り嘲る、そんなの、デュエルじゃないっ!!」
大声でまくし立てる長月の顔には、激しい怒りが浮かんでいた。その裏にあるのは、きっと……
「……我が姉ながらクサい言い回しが多くて困る」
「なんだとっ!?」
「そこまで言うのなら見せてみろ、本当のデュエルとやらを。デュエリストだろう、ならばデュエルで語れ……!」
「……ああ、いいだろう。その口車に乗ってやる……!」
カシン。長月の左腕に、再びデュエルディスクが装着される。一度は自分で外したデュエルディスクを、自らの意思で。
「私のターン、ドローッ!!」
長月のターンが、始まる。
ーー乱入ペナルティ、4000ーー
「っ……ふん、こんなもの痛くもかゆくもない。手札の《
「レベルの合計は7……ってことは!」
「現世に降り立った強者よ、黒き闇を切り裂いて笑え! シンクロ召喚! 現れろ、レベル7《カラクリ将軍 無零》!! そして無零がシンクロ召喚に成功した時、デッキから《カラクリ》を特殊召喚する。《カラクリ忍者 七七四九》! 私はレベル5の七七四九にレベル3チューナーの弐弐四をチューニングッ!!」
【カラクリ】が得意とする連続シンクロ。それによって長月のフィールドに次々とシンクロモンスターが並んでいく。
「混迷の世を憂う強者どもの長よ! 今ここに降り立ち、希望への道を切り開けェ!! シンクロ召喚! 現れろ、レベル8《カラクリ大将軍 無零怒》ッ!! 無零怒も無零と同じくデッキから《カラクリ》を特殊召喚できる。《カラクリ参謀 弐四八》を特殊召喚。弐四八が特殊召喚された時モンスター一体の表示形式を変更できる。無零怒を守備表示に、そして無零怒は一ターンに一度《カラクリ》の表示形式が変更された時ドローできる! さらに無零は一ターンに一度モンスターの表示形式を変更できる。無零怒を再び攻撃表示に」
「おーおー……ずいぶん景気がいいな」
「やかましい……魔法カード《強制転移》発動。互いに自身のモンスターを一体ずつ選択し、そのコントロールを入れ替える!」
「……ふむ、パールのコントロールでもやろうか?」
「不要だ。交換するのはお前とではない……響とだ」
「私かい?」
「ああ、選べ……と言っても、お前のフィールドにモンスターは一体しかおらんがな」
私のフィールドに存在するのは《カウンター・ゲート》の効果で召喚された《EM ガンバッター》のみ。当然コントロールを渡すのはガンバッターとなる。
そして長月のフィールドから私のフィールドには、
(無零……なるほど、ガンバッターはシンクロ召喚に使うってわけか)
「私はレベル4の《EM ガンバッター》にレベル3チューナー弐四八をチューニング!!
三体目のシンクロモンスター。うち一体は私のフィールドにいる。
「《ダーク・ダイブ・ボンバー》か……一ターンに一度、モンスターをリリースしてそのレベル×200のダメージ、だったか」
「ああ、そうだ。もっとも、効果を使うつもりはないがな」
「そうか……じゃあ、
「……使っていただろうな」
「……?」
会話の流れがつかめない。残りライフが2000以下だったら《ダーク・ダイブ・ボンバー》の効果を使って、2100の今は使わない?
「…………?」
浜風もキョトン顔だ。
「……ああ、響たちには伝わらなかったか。なら一つ教えてやるが、長月の手札三枚のうち、一枚は《アイアンコール》だ」
《アイアンコール》……機械族限定の《死者蘇生》のようなカードだ。なぜそれを菊月が断言できるのかは置いておいて、それと《ダーク・ダイブ・ボンバー》の効果にどう関わりが……。
(…………まさか)
長月の場には、《ダーク・ダイブ・ボンバー》の他にはレベル8の無零怒、手札には《アイアンコール》、墓地にはレベル2と3の機械族チューナー。
(まさか、墓地のチューナーモンスターと無零怒でさらにレベルが上のシンクロモンスターをシンクロ召喚して、それを射出しようとしていた……?)
仮にそうなら、2000以下だったら効果を使って2100以上なら使わないの意味もわかる。すなわち、長月のエクストラデッキには無零怒と真九六で出せるレベル10のシンクロモンスターは存在するが弐四八とで出せるレベル11のシンクロモンスターは存在しないということ。
レベル10のシンクロモンスターを《ダーク・ダイブ・ボンバー》の効果で射出した場合、ダメージは2000。つまり残りライフ2100の現状だとギリギリ削りきれない。
その場合、菊月は長月のエクストラデッキを全て把握しているということになるが、
(……二人は姉妹艦、きっと幾度となく二人でデュエルしているんだろう。それこそ、プレイングから相手の手札を察せるほどに……)
「もう一枚は《進入禁止! No Entry!!》だと思うんだが……最後の一枚が読めんな」
「このカードだ。速攻魔法《移り気な仕立屋》!」
カードから小人(?)が現れ、《ズババジェネラル》に近寄っていく。
「ぬっ……それは」
「フィールドの装備カード一枚の対象を変える。《ズババジェネラル》に装備された《サイコ・ブレイド》は無零怒に装備させてもらう!」
(ってことは……《ズババジェネラル》の攻撃力が元に戻って2000、無零怒は逆に攻撃力が上がって4700……!)
「さあ、攻撃力が逆転したぞ。バトルだ、無零怒で《ズババジェネラル》に攻撃っ!!」
無零怒が刀ではなく《サイコ・ブレイド》を持って菊月の元に向かう。
「……っ」
彼我の攻撃力の差は2700。通れば勝ちだというのに、長月の顔は晴れない。
さっきの仮説通りとすれば、長月の表情の意味はこのデュエルの結果と直結する。
「……わかっているな」
「……ああ、やるならやれ」
「「永続罠《ディメンション・リフレクター》発動」」
ぴったり息のあった宣言と同時に、パールとジェネラルが消え、大きな鏡が現れる。
「自分フィールドのモンスター二体を除外し発動する永続罠」
「このカードは発動後、相手モンスター一体の攻撃力と同じ攻撃力、守備力をもつモンスターとして特殊召喚される」
「……そして特殊召喚に成功した時、その攻撃力分のダメージを相手に与える、だろう」
長月のフィールドには二体のモンスターが存在する。片方は攻撃力2600の《ダーク・ダイブ・ボンバー》、そして、
「当然無零怒の攻撃力4700をコピーさせてもらう。そして長月、お前にーー4700のダメージを与える」
「……だろうな」
無零怒の斬撃が届く寸前で鏡が淡く発光し、そこからパールとジェネラルの幻影が現れ、長月のもとに向かっていく。
二体はそのまま、光の束となって長月を貫いた。
「……どうだ、姉貴。楽しかったか?」
「……ふん。随分と回りくどいことをしたもんだな」
長月:LP4000→0
「………………………………」
地面に仰向けに倒れた長月は、動かなかった。
気絶している、とかではない。菊月の挑発にまんまとかかり、結果として全力をぶつけるデュエルーー彼女なりの『正しいデュエル』ができたわけだから、その悔しさと充足感とがないまぜになって動く気が失せているだけだろう。
……さて。
「……私のターン、ですね」
浜風がデッキトップに指をかける。
浜風のフィールドにモンスターは存在せず、伏せカードは二枚、手札も次のドローで二枚。
「私のターン、ドロー!」
対する私のフィールドは攻撃表示の無零と、伏せカードが一枚だ。
「魔法カード《ガガガドロー》を発動。自分の墓地の《ガガガ》を三体除外することで、二枚ドローします。《ガガガマジシャン》、《ガガガガンマン》、《ガガガザムライ》を除外してドロー!」
(これで手札は三枚……デッキの主軸である《ガガガマジシャン》を除外したのが気にかかるけど……何か、理由があるはずだ)
二枚目の《ガガガマジシャン》が手札にあるか、あるいは、
「私は二枚の永続罠を発動します。《リビングデッドの呼び声》、《闇次元の解放》! それぞれ、墓地のモンスターと除外された闇属性モンスターを特殊召喚します! 来て、《ガガガマジシャン》、《ガガガガール》! さらに、手札の《ガガガキッド》は自分フィールドに《ガガガ》が存在するとき特殊召喚できます!」
(やっぱり戻って来た。ということは、またエクシーズ召喚する気だ……!)
今度はどのランクか。7か? 8か? それともそれ以上?
「私は《ガガガキッド》をリリースし、《ガガガヘッド》をアドバンス召喚します!」
現れたのは《ガガガ》の上級モンスター。《ガガガマジシャン》を自身の効果でレベル6にすればランク6のエクシーズモンスターがエクシーズ召喚できる。
「ヘッドが召喚されたとき、墓地の《ガガガ》を二体まで特殊召喚できます。よみがえれ、《ガガガシスター》、《ガガガクラーク》!」
「《ガガガ》が……五体!?」
しかも全員攻撃表示。ただエクシーズ召喚するだけならここまで必要ないはず……。
(……まさか。エクシーズ召喚しない気か……!?)
浜風の手札、その最後の一枚。あのカードがなんなのかだ。
「私は手札から魔法カード《ガガガタッグ》を発動しますっ!」
「ガガガ……タッグ?」
「ええ。私のフィールドの《ガガガ》全ての攻撃力を、その数×500アップさせます!」
「《ガガガ》の数×500……つまり五体全ての攻撃力が、2500ずつ上がる……!?」
となると合計12500のアップ。一枚のカードで得られる攻撃力としてはあまりに莫大だ。
「さあ、バトルです。《ガガガヘッド》で、無零に攻撃!」
《ガガガタッグ》の効果で《ガガガヘッド》の攻撃力は4600。
「通すものか、無零を対象に罠カード《ハーフ・アンブレイク》を発動! モンスター一体に破壊耐性を与え、そのモンスターの戦闘によって発動するダメージを半減する!」
「ですが攻撃力は変わりません! バトル続行!」
響:LP3900→2900
「さらにマジシャン、ガール、シスター、クラークで攻撃!」
「うぅ……!」
響:LP2900→2200→1750→1700→1550
『…………………………』
五体の連続攻撃を黙して耐える無零。
「けど、これで打ち止めかな?」
「……二体目の《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》が私のデッキにいれば、トドメを刺したんですけどね。せっかく攻撃力が上がっているんです、あえてエクシーズ召喚せずにターンを終了しましょう」
「では……私のターン」
おそらく、ラストターン。ここで勝負を決め損なえば、私は負ける。そんな気がする。
(私にとっての、デュエル……)
長月にとっては、互いの全力をぶつけ合うもの。では私は?
(その答えは、このドローが教えてくれる……!)
「ーードローッ!!」
ドローしたのは、魔法カード。
(けど、これを発動する前に!)
「スケール2の《EM ダグ・ダガーマン》をペンデュラムスケールにセット! そしてそのペンデュラム効果を発動、このカードを発動したターン、墓地の《EM》一体を手札に戻せる。《EM ガンバッター》を手札に!」
再び私のフィールドにペンデュラムスケールが揃う。
「ペンデュラム召喚! 現れろ、私のモンスターたち! エクストラデッキからレベル3《EM バラード》、レベル4《EM ゴールド・ファング》、レベル6《EM バブルドッグ》、手札からレベル4《EM ガンバッター》! そしてゴールド・ファングとバブルドッグをリリース! 《EM ラフメイカー》をアドバンス召喚!!」
「ラフメイカー……最上級モンスターですか」
手札の最後の一枚。それを、発動する。
「魔法カード《スマイル・ワールド》発動!!」
《スマイル・ワールド》から発された淡い光が、フィールド全体を包み込んで行く。
「フィールドの全てのモンスターの攻撃力は、フィールドに存在するモンスターの数×100アップする!」
「! 敵味方関係ない攻撃力上昇……ええっと、今フィールドには10体のモンスターが存在するので1000アップ、ですか」
「だが当然浜風の《ガガガ》や私の《ディメンション・リフレクター》の攻撃力も上がる」
つまりは差し引きゼロ。私のフィールドより相手フィールドのモンスターの方が多いので、少々損をしていることになる。
「……やっと、わかったんだ。私が自分自身の足を止めさせていることに」
「と、いいますと?」
「視点を変えるだけでよかった」
私は一つ、間違っていた。デュエルは楽しいものだけではないと。辛く、苦しく、悲しいデュエルもあるのだと。それは合っていて、しかし間違いだった。
「デュエルは単純なものじゃない。どんなに辛く苦しく悲しいデュエルでも、それはそのデュエルの一側面でしかない。視点を変えたら、どんなデュエルだって……楽しかった」
《No.》とも、宿敵の深海棲艦とも、最愛の姉とも戦った。それらが私の中に残したものはマイナスだけではない。間違いなく、楽しさや嬉しさもある。
それが私は、平面的に考えていたせいで見えていなかった。
そこに気づいたら、後は視点を変えるだけ。見えていなかった、見ていなかった側面を認識すればいい。
「そしてこれからも、きっとデュエルは楽しい。私がデュエルを楽しむことを忘れない限り……永遠に」
「……そうですね」
「さあ、デュエルに戻ろう。《EM ラフメイカー》で、《ガガガヘッド》に攻撃!」
「攻撃力は《ガガガヘッド》のほうが上……何かありますね」
「そうさ。ラフメイカーは攻撃するとき、このカード及び相手フィールドのモンスターの中から攻撃力が上がっているモンスターの数×1000、攻撃力を上げる! 今《スマイル・ワールド》の効果で全てのモンスターの攻撃力が上がっている。浜風の《ガガガ》、菊月の《ディメンション・リフレクター》、そしてラフメイカー自身! よって攻撃力は7000アップ!」
「! 攻撃力……10500……!」
これでラフメイカーの攻撃力は《ガガガヘッド》を大きく超えた。
「っ、くぅぅ!!」
浜風:LP5300→400
「ですが、《補充部隊》の効果で受けたダメージ1000につき一枚ドローします。四枚、ドロー!」
「この瞬間、《EM バラード》の効果発動! 《EM》がバトルしたダメージステップ終了時、相手モンスター一体の攻撃力を攻撃した《EM》の攻撃力分下げる!」
攻撃したラフメイカーの攻撃力は10500。それ以上の攻撃力を持つモンスターはフィールドにいないので、対象となったモンスターの攻撃力は必然的にゼロとなる。
「なるほど……誰を対象にしても同じですが、一応聞きます。誰の攻撃力を下げますか?」
「いや……私が下げるのは君のモンスターの攻撃力じゃない」
「……菊月の《ディメンション・リフレクター》。そうだろう、響?」
気づくと隣に立っていた長月が、私の代わりに宣言する。
「長月……」
「いやあ、楽しかったさ。菊月、お前とのデュエルはな」
「何が言いたい」
「だが。だが、だ。それとこれとは話が別だ。私がやられっぱなしで終わるような奴でないことはお前はよく知っているはずだ……!」
「何を……」
「……君の残りライフは2100。そして《ディメンション・リフレクター》の攻撃力は10500下がってゼロ」
フッと長月が私に笑いかけてくる。
「行くぞ」
「ああ」
「「《カラクリ将軍 無零》で、《ディメンション・リフレクター》に攻撃!!」」
無零の刀が、無零怒の映った鏡を切り裂く。
「私の、勝ちだ……!」
「ぶ、無零はお前のモンスターだが、お前の勝ちではないだろう……!?」
菊月:LP2100→0
「ですが、そうすると私のライフを削りきれませんよ?」
「大丈夫さ。私はバトルフェイズを終了、メインフェイズ2に移行する。そしてガンバッターの効果発動! 自分の《EM》をリリースし、そのレベル×100のダメージを与える! この効果で私はラフメイカーをリリース。レベルは8、よって800のダメージだ!」
ガンバッターの頭部の弓に、矢の代わりにラフメイカーがセットされる。
そしてそのまま、浜風に向けて発射ーー!
「っ、ああぁぁ!」
浜風:LP400→0
「負けて、しまいましたね」
「ああ、私の勝ちだ。けど……ありがとう。おかげで大事なものを取り戻せた気がする」
「……それはよかった」
そう言って浜風は静かに微笑んだ。
「私からも感謝だ、浜風。……あと菊月もな」
「フ……まったく、世話の焼ける姉貴だな」
長月の顔からも、すでに暗い表情は消えていた。彼女も彼女で、乗り越えるべきものを乗り越えたのだろう。
(……それにしても、《No.》の後遺症、か……)
今まで一度も考えなかったわけではない。むしろあの呪いのような『何か』が何も残さずに消えて行くなんてありえないと思っていた。
(できることなら、それを取り除く方法を探したい。後遺症が残ったままじゃデュエルは厳しいだろうし……)
そして、もう一つ。
(……暁は大丈夫なのかな。一度《No.》に取り憑かれはしたけど実際に《No.》を呼び出したわけじゃないし、彼女は《レッド・デーモンズ・ドラゴン》も持っている)
暁はこの一連の騒動の中では異質な存在だ。一度《No.》に取り憑かれ暴走するも、その力すら利用して新たなカードを生み出した。
少なくともその後遺症は、一度《No.》に取り憑かれ『狭間の鎮守府』で《スターダスト・ドラゴン》を生み出した私にはない。
……なら、暁にもないのだろうか?
(どう……だろう。現状じゃわからない……いや)
ある。一つ、確認する方法が。
(ちょっと危険だけど……やるしか、ない)
「響、どうした?」
不思議そうな顔をする長月に、
「……なんでもないさ」
私は、微笑んで誤魔化した。
vs浜風……vs菊月vs長月でした。
デッキ解説!
響さんは変わらず【EM】。何気に《オッドアイズ》や《魔術師》を使用しなかったのは久しぶりですかね?
浜風は【ガガガ】。《ガガガヘッド》……もうちょっと活躍させてあげればよかったかも。多彩なランクのエクシーズを出せるデッキなので結構お気に入り。ただ手札消費が結構荒いんですよね……。
菊月は【戦士族装備ビート】。《ディメンション・リフレクター》は睦月の《HーC エクスカリバー》にもよく刺さる。《ヒロイック・チャンス》を発動していればワンショットキルですし。
長月は【カラクリ】。《移り気な仕立屋》は当然菊月対策です。対象が戦士族限定の装備魔法も《ギガンテック・ファイター》を採用することで奪える、と。
実はストーリーも結構終盤。年内には終わ……いや、やめときましょう。こんなペースじゃ年明けちゃう……。
次回、提督の決断。