駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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結局一ヶ月かかってるぅー!


デモニック・インベーダー

何と言って旗艦の天龍さんを説得したのか、よく覚えていない。

 

ただ、妹や仲間たちを守って沈むのならそれも本望だ、とか考えていた。

 

我ながら馬鹿だなあ、と自虐的に笑う睦月(わたし)の表情は、何故だか少しだけ満足げだった。

 

 

 

 

「大淀! たしか第四艦隊が南方に遠征中だったな。すぐに向かわせろ!!」

 

「で、ですが、第四艦隊が行うはずだった遠征はどう致しますか?」

 

「構わん、その程度の責任は私が持つ。帰還中の第三艦隊はなんと言っている?」

 

「一先ずショートランド泊地を目指すとのことです」

 

「わかった。なら向こうの提督には私が話を通しておこう」

 

「了解しました」

 

怒涛の勢いで指示を出す司令官を見ながら、私はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

(睦月が……黒ローブと戦っている……?)

 

その言葉が示すところすら、数秒間理解できなかった。

 

やがて理解した私は、

 

「待って!」

 

「!!」

 

執務室を飛び出そうとして、暁に止められた。

 

「どこに行くの」

 

「決まっているだろう」

 

「どれだけ離れてるかわかってるの? 今から行ったって何時間かかるか……」

 

「っ、それでも……!」

 

「響はいい加減後先考えずに突っ走るのをやめなサーイ」

 

私の正面に影。金剛さんだ。

 

「金剛さん、でも……」

 

「菊月の時もそうでしたけど、響はcoolなcharacterに見えてその内面はvery hotなんだネ」

 

こうして言葉を交わす間にも、じわじわと焦燥感が募っていく。行かなくては、戦わなくては、助けなくては、と。

 

「サーモン海域はここから南におよそ4700km。響が全力で航行し続けても3日ぐらいかかる計算ネ」

 

「……え」

 

「そもそもサーモン海域はソロモン海の隠語。着任してからそんなに日が経っていないからって、それも知らないでどうするつもりだったのよ?」

 

ソロモン海とは、遥か南、パプアニューギニアのさらに南東に位置する海域だ。そんな場所に気軽に行けるわけがない。

 

(というか、サーモン海ってソロモン海のことだったのか。なんか、てっきり北の方なのかと……)

 

サーモンの名産といえば、北である。

 

「……じゃあ、私たちはどうすることもできないのか」

 

「……Yes、私たちにできるのは、睦月の無事を祈ることだけネ」

 

第二の黒ローブ。そいつの実力が、もしヲ級と同等、もしくはそれ以上だったら。その仮定は、先を考えるのが恐ろしすぎた。

 

(……頑張ってくれ、睦月……!!)

 

心に巣食う強烈な無力感を握りつぶすように、私は拳をギリッと握りしめた。

 

(…………あれ、そういえば)

 

ふと。一つの疑問が私の中に生じた。

 

(二日前には、睦月はまだ鎮守府にいたような。じゃあ、彼女はどうやってその短時間で4700kmを移動したんだろう……?)

 

 

 

 

「私のターン!」

 

先攻が自分だというデュエルディスクの表示を見て、睦月は高らかに宣言した。

 

「《H(ヒロイック)C(チャレンジャー) サウザンド・ブレード》を召喚。そして効果発動! 手札の《ヒロイック》を墓地に送って、デッキの《ヒロイック》を特殊召喚、その後自身を守備表示にするにゃ! 《H・C ダブル・ランス》を墓地に送って、《H・C エクストラ・ソード》を特殊召喚。私は、レベル4のサウザンド・ブレードとエクストラ・ソードでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!!」

 

持ち前の展開力でもって、即座にエクシーズ召喚を行う。

 

「怒涛の神弓よ。今ここに顕現し、我が手に宿れ! エクシーズ召喚! ランク4《H(ヒロイック)C(チャンピオン) ガーンデーヴァ》! エクストラ・ソードを素材としてエクシーズ召喚されたエクシーズモンスターは攻撃力が1000上がるのにゃ。カードを一枚セットして、ターンエンド!」

 

ガーンデーヴァの元々の攻撃力は2100。それが1000上がって3100になった。

 

「ワタシのターン、ドロー」

 

対する黒ローブは、抑揚の少ない声でドローフェイズを終えた。

 

「ワタシは魔法カード《手札抹殺》を発動。互いに手札を全て捨て、同じ枚数分ドローする」

 

「にゃ!?」

 

睦月の手札は、二枚目のダブル・ランスと《死者蘇生》。どちらも睦月のデッキにとって非常に重要なカードだ。

 

(うう、もったいない……)

 

だがルールはルール。二枚とも墓地に送り、新たに二枚ドローする。

 

黒ローブは新たにドローしたカードを見ても一切表情を変えずーーといっても、顔はほとんど見えていないがーー淡々とデュエルを進めていく。

 

「《トリック・デーモン》を召喚。そして装備魔法《堕落(フォーリン・ダウン)》を発動する」

 

「! 【デーモン】……!」

 

《堕落》。《デーモン》が存在しないと自壊する代わりに、相手モンスターのコントロールを奪える装備魔法だ。そんなカードを使うのは、【デーモン】以外ありえない。

 

「効果は知っているようだな。ガーンデーヴァのコントロールをいただく。そして二体でダイレクトアタック」

 

「にゃ、ぁぁああ!!」

 

睦月:LP8000→7000→3900

 

強化したのが仇となり、一気にライフを半分も削られてしまう。

 

が、

 

「カードを二枚伏せてターンエンド」

 

「私のターン、ドロー!!」

 

この程度じゃ、睦月は折れない。

 

「たしか、《堕落》には相手のスタンバイフェイズにダメージを受けるデメリットがあったはずにゃ」

 

「よくご存知で。800のダメージをワタシは受ける」

 

???:LP8000→7200

 

ガーンデーヴァが相手のフィールドにいる限り、自分は下級モンスターの特殊召喚を制限されてしまう。

 

(でも、それにも抜け道ぐらいあるのです!)

 

「《H・C 強襲のハルベルト》を召喚し、バトル! 《トリック・デーモン》を攻撃にゃ!」

 

《堕落》は、《デーモン》が存在しないと自壊する。ならば《デーモン》を排除してしまえばいい。

 

だが。

 

「残念ながらその程度じゃあな。罠カード《ヘイト・バスター》発動。悪魔族モンスターが攻撃対象になった時、戦闘を行う両者を破壊し、相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

「にゃしっ!?」

 

(読まれて……っ!?)

 

「ハルベルトの攻撃力は1800。そのぶんのダメージを受けてもらおうか」

 

「っ、にゃぁぁぁあ!!」

 

睦月:LP3900→2100

 

「そして《トリック・デーモン》が墓地に送られた時、デッキから《デーモン》を一枚手札に加えることができる。《戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン》を手札に加える」

 

「っ…………」

 

予想外のダメージ。すでに初期ライフの四分の一程度まで削られてしまった。

 

「でも……」

 

「?」

 

「《デーモン》がフィールドから消えたことで、《堕落》は破壊されるにゃ……」

 

戒めから解き放たれ、ガーンデーヴァが睦月のフィールドに戻る。

 

そして、まだバトルフェイズは続いている。

 

「ガーンデーヴァで、ダイレクトアタック!!」

 

「……………………」

 

???:LP7200→4100

 

「カードを一枚セットして、ターンエンド……!」

 

歯を食いしばり、震える足で海面を踏みしめる。睦月はこの程度で諦める気など微塵もないのだ。

 

「ワタシのターン、ドロー。……魔法カード《闇の誘惑》を発動、二枚ドローし、手札の闇属性を一枚除外する。ジェネシス・デーモンを除外しようか」

 

最上級モンスターであるジェネシス・デーモンを除外した、ということは、

 

「手札を一枚捨てて装備魔法《D(ディファレント)D(ディメンション)R(リバイバル)》発動。除外されているモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。戻ってこい、ジェネシス・デーモン」

 

「っ、やっぱり、除外ゾーンから特殊召喚するカード……!」

 

「そしてジェネシス・デーモンの効果発動。手札か墓地の《デーモン》を除外し、カードを一枚破壊する。墓地の《デーモンの将星》を除外し、ガーンデーヴァを破壊」

 

海中から、《デーモンの将星》を模った黒い塊が現れ、ガーンデーヴァを海中に引きずり込んでゆく。

 

睦月のフィールドに残ったのは、伏せカード二枚。

 

「行くぞ、ジェネシス・デーモンでダイレクトアタック」

 

ジェネシス・デーモンの攻撃力は3000。睦月の残りライフは2100。

 

「罠カード発動、《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》!」

 

通すわけにはいかない。

 

「……攻撃したモンスターを破壊する、か。ワタシはカードを一枚伏せてターンエンド」

 

これで両者のフィールドにモンスターが存在しなくなった。

 

(……手札は一枚、次のドローで二枚。そして伏せカード……)

 

黒ローブの方は伏せカードが二枚、手札はなし。壁となるモンスターもいない。

 

(でも、足りない。たとえ《HーC エクスカリバー》をエクシーズ召喚したとしても、この人を倒すためには攻撃力が100足りない……けど)

 

そう前置いた睦月は、下げていた顔をキッと前に向けた。

 

(諦めない……私の目的は時間稼ぎ。せめて、みんなが無事に逃げ切れたっていう確信がない限り、負けるわけにはいかないのにゃ……!!)

 

デッキトップのカードに指をかけ、一気に引き抜く。

 

「私のターン、ドローッ!!」

 

ドローカードを確認し、デュエルを少しでも長く続けられる手を考える。

 

「私は、《H・C 夜襲のカンテラ》を召喚、さらにこの瞬間、永続罠《コピー・ナイト》を発動! 自分フィールドにレベル4以下の戦士族モンスターが召喚された時、このカードはその召喚されたモンスターをコピーし、レベルと名前を同じにするにゃ!」

 

つまり、《コピー・ナイト》は《H・C 夜襲のカンテラ》となり、睦月のフィールドに特殊召喚される。

 

(そして《コピー・ナイト》は戦士族。つまり《HーC エクスカリバー》をエクシーズ召喚できるのにゃ!)

 

エクスカリバーは、自身の効果で次の相手ターンの終わりまで攻撃力を倍にできる。攻撃力4000では相手のライフを削りきることはできないが、大きな壁にはなるはずだ。

 

右手を空に向け、騎士王の聖剣を呼び出す。

 

「私は、二体でオーバーレーー!!」

 

瞬間。

 

睦月は、全く見覚えのない場所にいた。

 

「イ!! ……………………あれ……?」

 

 

 

 

「!」

 

同時刻。遠く離れた横須賀鎮守府で、何かを感じ取った者がいた。

 

後ろ手の手錠をジャラリと鳴らし、そいつは窓の外に見える海を見ながらボソリと呟いた。

 

「《No.》……?」




次回、駆逐艦睦月は諦めない。

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