「先攻はもらった、私はスケール4の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》とスケール8の《EM オッドアイズ・ユニコーン》でペンデュラムスケールをセッティング! これでレベル5から7までのモンスターが同時召喚可能だ」
ヲ級の使ってくるデッキは、前回と同じなら【ヴェルズ】だ。とすれば、警戒しなくちゃいけないのは、
(……《ヴェルズ・オピオン》。上級モンスターの特殊召喚を制限してくるあのカードには特に注意しなきゃだな)
「ペンデュラム召喚! 手札から現れろ、レベル5《EM ゴムゴムートン》! ……カードを一枚伏せてターンエンドだ。この時、ペンデュラムスケールの《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の効果発動。自壊し、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスターを手札に加える。《慧眼の魔術師》を手札に加える」
「……また慧眼」
背後の暁のツッコミはスルーする。仕方ないだろう、強力なカードなんだから。
とにかく、次はヲ級のターンだ。
「私のターン、 ドロー!」
さて、どう動く。
「私は手札の《ヴェルズ・マンドラゴ》の効果発動。このカードは相手フィールドの方がモンスターの数が多い時、特殊召喚できる。さらに《ヴェルズ・ヘリオロープ》を通常召喚。そして私は、レベル4のマンドラゴとヘリオロープでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!!」
二体の《ヴェルズ》が渦の中へと消えて行く。
「歪んだ正義を振りかざし、堕ちた光はやがて闇をも喰らう絶望となる! エクシーズ召喚! 現れよ、ランク4《ヴェルズ・オピオン》!!」
「っ、やっぱりそいつか……!」
オピオンの効果は、フィールドに存在する限り互いの上級モンスターの特殊召喚を禁止する永続効果と、
「オーバーレイユニットを一つ取り除き、オピオンの効果発動。デッキから《侵略の》と名のついた魔法か罠を手札に加える。《侵略の汎発感染》を手札に加え、バトルだ。オピオンでゴムゴムートンに攻撃!」
ゴムゴムートンの守備力を上回る攻撃力を秘めたオピオンの爪がゴムゴムートンに振り下ろされる。
だが、
「ゴムゴムートンの効果発動。一ターンに一度、自分のモンスターの戦闘破壊を無効にする!」
オピオンには貫通効果もないため、私にダメージは発生しない。
「そうか……じゃあ、カードを二枚伏せてターンエンド」
今伏せられた二枚のうち、一枚はおそらく《侵略の汎発感染》。《ヴェルズ》モンスターを魔法及び罠の効果から守る速攻魔法だ。
(だったら……!)
「私のターン、ドロー!」
上級モンスターの特殊召喚はできないが、それでも構わない。
「私はスケール5の《慧眼の魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング。そして永続罠《
そして、《慧眼の魔術師》がエクストラデッキに加わったことで《臨時収入》に魔力カウンターが乗る。
「ペンデュラム召喚! エクストラデッキより現れろ、我がモンスター! レベル4《慧眼の魔術師》! そしてゴムゴムートンと慧眼をリリースし、《EM スライハンド・マジシャン》をアドバンス召喚!!」
「なるほど、ペンデュラム召喚ではなくアドバンス召喚をすることで、オピオンのロックをすり抜けた、と」
「そうさ、そしてそれだけじゃない。スライハンドの効果発動! 手札を一枚墓地に送ることで、表側表示のカード一枚を破壊する! オピオンには消えてもらうよ」
スライハンドが手に持った杖を振るうと、マジックのようにオピオンが一瞬で消え去った。
「バトルだ、スライハンドでダイレクトアタック!」
ヲ級の場にモンスターはいない。まずは一撃ーー
「罠カード《ピンポイント・ガード》発動。相手モンスターの攻撃宣言時、墓地のレベル4以下のモンスターを破壊耐性を与えて守備表示で特殊召喚する。よみがえれ、ヘリオロープ!」
ガッ! と音を立てて、スライハンドの杖とヘリオロープの剣が拮抗する。先のオピオンと同じく、スライハンドにも貫通効果はない。
「……私はこれでターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」
【ヴェルズ】はランク4のエクシーズを連発してくるデッキだ。となると、今蘇生されたヘリオロープも次への布石か。
「私は《ヴェルズ・カストル》を召喚。そしてこのモンスターが召喚に成功したターン、もう一体《ヴェルズ》を召喚できる。《ヴェルズ・オ・ウィスプ》を召喚。私は、レベル4のヘリオロープ、カストル、ウィスプの三体でオーバーレイ! 三体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!!」
(! 三体使用してのエクシーズ召喚……!?)
「歪んだ正義を振りかざし、汚染された神罰の槍はついに神々へと牙を剥く!! エクシーズ召喚!! 現れよ、ランク4《ヴェルズ・ウロボロス》ッ!!」
《ヴェルズ・ウロボロス》。前回のデュエルでは出てこなかったはずだ。
つまり効果がわからない。
(ステータスもスライハンドを上回ってる……効果次第では本当にまずいかも……)
「オーバーレイユニットを一つ取り除き、ウロボロスの効果発動。ウロボロスは一ターンに一度、三つの効果から一つを選んで発動できる」
「三つの効果……?」
「ああ。そして私が発動する効果は、『相手の墓地のカード一枚を除外する』だ」
墓地のカードを除外。その言葉を聞いた瞬間、私の背筋に嫌な感覚が走った。
(まさか……!)
「悪いが気づいているよ。スライハンドの効果コストで手札から墓地に送ったのは《調律の魔術師》だろう。除外させてもらう」
墓地から一枚のカードが消失する。ヲ級の読み通り、スライハンドの効果コストで墓地に送っていたのは自己再生効果を持つ《調律の魔術師》だ。
「バトルだ、ウロボロスでスライハンドを攻撃!」
「くっ」
響:LP8000→7750
「私はこれでターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」
ウロボロスの残り二つの効果はわからない。が、
(後手に回るわけにもいかない。例えどんな効果を持っていようと、それを踏み越えていくぐらいじゃなくっちゃあ……!)
「ペンデュラム召喚! エクストラデッキから現れよ、慧眼、ゴムゴムートン、オッドアイズ! そしてオッドアイズと獣族のゴムゴムートンをリリースして、融合召喚!!」
「その召喚方法は……」
「ふた色の眼の龍よ。野生をその心に宿し、新たな姿となりて現れよ! 融合召喚! レベル8《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
そしてこの瞬間、《臨時収入》に三つ目の魔力カウンターが乗った。
「《臨時収入》の効果発動。魔力カウンターが三つ乗ったこのカードを墓地に送ることで、二枚ドローする! ……バトルだ! ビーストアイズでウロボロスを攻撃!」
「戦闘破壊したら融合素材にした獣族モンスターの攻撃力分のダメージ、か。くっ……」
ヲ級:LP8000→7750→6850
(! 破壊されても効果発動なし……いける!)
「慧眼でダイレクトアタック!」
「………………」
ヲ級:LP6850→5350
墓地から発動する効果もない。ということは、ウロボロスが持つという三つの効果は全て自分のターンで発動するものなのだろう。
もちろんそうでないかもしれないが、今は関係ない。
「カードを一枚伏せてターンエンド」
……さて。
(ここまではいい。ただ問題はこの先、因縁の『あの《No.》』を超えなくちゃならない……!)
「……やるじゃないか」
昏い海面に、ゆらりと立つヲ級。その気配が、より一層どす黒いものへと変化する。
「私も
本気。彼女がそういったということは、
「私は《ヴェルズ・ケルキオン》を召喚。そして効果発動。墓地の《ヴェルズ》を除外し、墓地の《ヴェルズ》を手札に加える。ウロボロスを除外し、ヘリオロープを手札に加える。さらにこの効果を使用したターン、《ヴェルズ》を追加で召喚できる。ヘリオロープを召喚し、ケルキオンとヘリオロープでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!!」
二体が闇色の渦に吸い込まれていく。
ヲ級の『本気』が、渦の中で具体的な形を作り、
「海色の深淵。その果てに浮かばれぬ魂は集い、やがて一つの呪いを産み落とす! エクシーズ召喚! 浮上せよ、ランク4《No.101 S・H・Ark Knight》ッ!!」
ズズズズズ……ッ! と海中からゆっくりと浮上してくる白いボディ。私の、因縁の《No.》。
「私はNo.101の効果を発動。オーバーレイユニットを二つ取り除き、相手の特殊召喚された攻撃表示モンスター一体をオーバーレイユニットにする。ビーストアイズはいただくよ」
「っ……!」
ビーストアイズが光の玉に変化し、No.101の周囲を回る。前回は《破壊輪》があったが、今回はない。
「バトルだ、No.101で慧眼に攻撃!」
No.101が発射したミサイルが慧眼を狙う。爆風が私もろとも慧眼を吹き飛ばした。
「ぐぅっ……!」
響:LP7750→7150
「私はこれでターンエンド」
「っ、私のターン、ドローッ!!」
勢いよく起き上がりながらカードを引く。
前回はNo.101をどうすることもできなかった。だがデュエルは水物だ。今回も同じ結果とは限らない。
(こんな風に、ね!)
「私はセッティング済みのスケールでペンデュラム召喚! エクストラデッキより再び現れよ、慧眼、ゴムゴムートン、オッドアイズ! さらに手札からレベル3《貴竜の魔術師》!!」
攻撃力では、オッドアイズはNo.101に優っている。が、No.101には一度きりの破壊耐性がある。すなわち、オッドアイズで攻撃したからといって多少のダメージを与えて終わりなのだ。
だから、
「私は魔法カード《融合》を発動。オッドアイズと慧眼を融合する!」
渦に二体が飲み込まれていく。一撃で崩すことのできない壁なら、何度も突いてやればいい。
「ふた色の眼の龍よ。神秘の力をその目に宿し、新たな姿となりて現れよ! 融合召喚! レベル8《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!! さらに、レベル5のゴムゴムートンにレベル3チューナーの貴竜をチューニングッ!!」
貴竜が変化して生まれた緑色の輪の中をゴムゴムートンが通過する。
「星屑の竜よ、暗雲を裂いて、果ての青空より降臨せよ! シンクロ召喚! 現れよ、レベル8《スターダスト・ドラゴン》ッ!!」
白銀の翼が私のフィールドに舞い降りる。大型のドラゴンが二体。畳み掛ける準備はできた。
「貴竜は《オッドアイズ》以外とともにシンクロ素材に使用された場合、デッキの一番下に行く。バトルだ、ルーンアイズでNo.101に攻撃!! このモンスターは、一ターンに二度までモンスターに攻撃できる!!」
「連続攻撃……なるほど、No.101の破壊耐性を逆手に取ったか!」
ルーンアイズの光線がNo.101を襲う。前方から後方へ、串刺しにされるような形で光線を食らったNo.101は、派手な炎を上げて爆散した。
ヲ級:LP5350→4450
(流石に破壊耐性は使ってこなかったか……まあ、使っても無駄なダメージを受けるだけってことはヲ級もわかっているか)
「続けてスターダストでダイレクトアタック!!」
「ぐぅぅ……!!」
ヲ級:LP4450→1950
ヲ級の余裕が崩れて行く。自分が優勢であるという確信が生まれる。
なのに、
なのに……
(……なんか、とてつもなく嫌な気配を感じる……。何かが……迫って来る……!?)
その感覚の正体がつかめず、思わず一歩下がってしまう。
「私はこれで……ターンエンド、だ……」
「……………………………………………」
沈黙。俯くヲ級からは、表情を伺うことすらできない。
その時だった。
ぞぞ。
ぞぞぞ、ぞぞ。
ぞぞぞぞぞぞぞぞザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!! と、何かが猛烈にざわめいた。
いや。
何かなんて漠然としたものじゃなく、これは……
(……う、み? まさかこれ、海が蠢いてる……!?)
でも、なぜ。風はない。完全な凪だ。
では一体どうして、という疑問の答えは、言葉でなく行動で示された。
「……………………………………………」
ユラリ。ヲ級が首を持ち上げる。その瞳を、見る。
瞬間。
ガクッ、と、私の膝から力が抜けた。
「ぁ…………?」
微かなうめき声が喉から漏れる。瞳孔が揺れる。
そして理解した。なぜこんなにも海がざわめいているのかを。
(…………殺気。ヲ級から放たれる凄まじい殺気が、海にまで影響を及ぼしている……!)
通常の海戦ですら、これほどの殺気を感じたことはない。
いやーーもしかしたら、これが本物の海戦なのか。私が着任するずっと前、まだ海に平穏が影も形も見られなかった頃の海は、いつもこんな色だったのだろうか……?
「…………………………」
両足に力を込め、なんとか立ち上がる。目を背けたくなるような
「……いいねぇ。そうさ、私が求めていたのはそういう瞳だよ……!!」
「うる、さい。いいからターンを進めろ……!」
「そう。じゃあお言葉に甘えて……私のターン、ドローッ!!」
ヲ級のドローしたカード。そこから凄まじいプレッシャーを感じ、ゴクリと唾を飲む。この気配を、私は知っている。
(時雨とのデュエル……あの時も感じた気配だ……)
「君はこのカードを見るのは初めてかな? それとも、一度ぐらいは見ているか……私がドローしたのはこのカードだ」
ヲ級が手にしたカードを私に見せる。それはとある魔法カード。しかし、私の知るカードとは少々異なる。
(バリアンズ・フォースじゃ、ない?)
「私はーー《
RUM。時雨とのデュエルでも使われたカード。《No.》をカオス化させ、さらに強力なものにするという悪夢のようなカードだ。
「でも……ランクアップさせる《No.》がフィールドに存在しない?」
「やっぱり知っていたか。ただ知っているのはあくまで《RUM》についてだけか……」
含みのあるヲ級の言い方に、私の背筋に寒いものが走った。
(……バリアンズ・フォースは、フィールドの《No.》を対象とするカードだった。けど……まさか、違うのか?《RUMー七皇の剣》はーー!)
「なんとなく予想がついているかもしれないけど」
そう、ヲ級はこう言ったのだ。七皇の剣を
「このカードは、墓地、もしくはエクストラデッキからNo.101〜No.107までのいずれかを特殊召喚できる。よみがえれ、No.101!!」
海中から巨体が再浮上する。だがきっと、これで終わりではない。
「そして、特殊召喚した《No.》をカオス化させる! 私はランク4のNo.101一体でオーバーレイ! 一体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築!!」
私の目の前で崩れていく巨体。呪いが、再構築されていく。
「海色の終焉。孤独なる守護者よ。その神槍にて、仮初めの安寧を穿ち、愚か者どもの世界を虚無の海底に引きずり込め!! カオスエクシーズチェンジ!! 侵略せよ、《CNo.101 S・H・Dark Knight》ッ!!」
まず漆黒の槍が現れ、海上に浮いた。
そして、ガッ、と。それを掴む腕があった。
直後に、海面が爆発した。
「っ……!?」
眼前で腕を交差させ、水しぶきから顔を守る。
その水しぶきが晴れた先に、
一人の騎士が立っていた。
「な…………」
身の丈ほどの槍を携えた漆黒のボディ。攻撃力は2800。
漆黒の騎士の背後に立つヲ級が、小さく笑った。
「さあ、これが私の切り札だ……」
笑みが深まっていく。どこまでも。どこまでもーー
「君に勝てるかな? ねえ、勇者サマァ!!」
とうとう登場、《CNo.101 S・H・Dark Knight》。
次回、『あの夜』から始まった一連の騒動に、決着を……?