駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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遅くなってしまって申し訳ありません。

作中ではまだマスタールール3です。一区切りつくまではこのままで行くつもりですので、悪しからず。


セカンド・デュエル

「私は魔法カード《真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)》発動。手札、フィールド、デッキから《レッドアイズ》を含む素材となるモンスターを墓地に送り、融合召喚を行う。デッキの《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》と《デーモンの召喚》を素材として、融合!」

 

暁とは、これで何度目のデュエルだろう。私は一度も勝てなかったけれど、少なくともその全てが楽しく、かつ手に汗握るものだった。

 

「紅蓮の瞳を持つ竜よ、悪魔の力をその身に宿し、立ちふさがる壁を突き破れ! 融合召喚! レベル9《悪魔竜 ブラック・デーモンズ・ドラゴン》!!」

 

しかし今の暁は、きっと手加減とか、そう言うことはしないだろう。すなわち、正真正銘、全身全霊をかけた戦いだ。

 

「魔法カード《黒炎弾》発動。相手に自分フィールドの《真紅眼の黒竜》の攻撃力分のダメージを与えるわ。そして、《真紅眼融合》で特殊召喚したモンスターは《真紅眼の黒竜》としても扱うから、《悪魔竜 ブラック・デーモンズ・ドラゴン》の攻撃力、すなわち3200のダメージを与える!」

 

「…………っ!」

 

響:LP8000→4800

 

「さらに魔法カード《レッドアイズ・インサイト》発動。手札かデッキから《レッドアイズ》モンスターを墓地に送り、デッキから《レッドアイズ》の魔法か罠を手札に加える。デッキの《真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)》を墓地に送り《真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)》を手札に。カードを二枚伏せてターンエンドよ」

 

なのに。

 

「………………………………」

 

「……ちょっと?」

 

なのに。

 

「………………っ!」

 

(なんで……カードが引けないんだ……!)

 

指先は震えていた。デッキトップのカードにかけられた指は、コンクリートで固められたかのように動かない。

 

闘志が無いわけではない。ここで暁を見逃せば、《No.》が何をするかわかったものではない。

 

だが、その何倍も何十倍も強く、暁を傷つけたくないと思っているのだ。

 

(ドローしなくちゃ……しなくちゃ、いけない……のに……)

 

頭ではわかっているのだ。しかし、身体が言うことを聞いてくれない。

 

その時だった。

 

「……響」

 

「! 暁……?」

 

《No.》に取り憑かれているはずの暁が、私の名前を呼んだ。いや、《No.》は取り憑いた艦娘と同じような言動をとるからそれ自体はおかしいことではないのだが、今の暁の言葉の奥には、なんと言うか、暖かさみたいなものを感じた。常日頃の暁が持つ、あの感じだ。

 

「……私は、響に何かを強要する気は無いわ。ただ……響が正しいと思える、そう信じられることをして。もちろん私は全力で抵抗するわ。だから……響も、全力で来て」

 

「暁……」

 

見れば、暁のひたいには汗が浮かんでいた。顔色も優れない。もしかしたら、《No.》の支配から逃れるために暁も戦っているのかもしれない。

 

なら。

 

「…………わかった。私も、全力で行く」

 

もう、躊躇する理由がない。

 

「私のターン、ドロー!!」

 

(《悪魔竜 ブラック・デーモンズ・ドラゴン》の効果は、自身の戦闘中、相手のカード効果の発動を封じるのと、戦闘を行なったバトルフェイズ終了時に墓地の《レッドアイズ》の攻撃力分のダメージを与える、だ。墓地に二体の《レッドアイズ》がいる以上、なるべくなら戦闘は避けたいな……)

 

「私はスケール2の《曲芸の魔術師》とスケール4の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》でペンデュラムスケールをセッティング」

 

二体のスケールでペンデュラム召喚できるのはレベル3のモンスターだけ。ペンデュラム召喚を行なってもいいのだけど、今回は別の戦術をとる。

 

「モンスターを裏側守備表示で召喚。カードを二枚伏せてターンエンドだ。そしてこのエンドフェイズ、オッドアイズの効果発動。自身を破壊することで、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスターを手札に加える。《慧眼の魔術師》を手札に加えて、ターンエンド」

 

「《オッドアイズ》に《魔術師》……私もこのエンドフェイズにカードを発動するわ。永続罠《真紅眼の鎧旋》。一ターンに一度、自分フィールドに《レッドアイズ》が存在する時、墓地の通常モンスター一体を特殊召喚できる。よみがえれ、《真紅眼の黒竜》!」

 

《真紅眼の鎧旋》は前のターンに手札に加えていたし、この展開は予想通りだ。

 

(となると、次に考えられるのは……)

 

「私のターン、ドロー! ……《可変機獣 ガンナードラゴン》を召喚。このモンスターは、レベル7だけど攻守が半減する代わりにリリースなしで召喚できる」

 

「そっちか! 永続罠《連成する振動》発動。一ターンに一度、自分のペンデュラムスケールを破壊し一枚ドローする。曲芸を破壊しドロー!」

 

想像していたものとはちょっと違ったが、どのみち《連成する振動》は今のうちに発動しておかなければいけない。

 

なぜなら、

 

「……読まれてた、か。私はレベル7の《真紅眼の黒竜》とガンナードラゴンでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!!」

 

(ここでエクシーズ召喚されるモンスター……いつもの暁なら()()()()()だ)

 

思い当たるカードがある。私を幾度も苦しめたカードだ。

 

が。

 

「うくっ!? くっ、あぁぁ!!」

 

「暁!?」

 

何かを抑えるように頭を抱え、空に向かって吠える暁。一体何が起こっている?

 

(もしかして……《No.》が《No.》をエクシーズ召喚させようとして、暁がそれを抑え込んでいる、のか?)

 

確かめようがない仮説は、私の頭の中をぐるぐる回るだけだった。

 

ひとしきり吠えた後、暁はおもむろに手を空に向け、口上を唱え始めた。

 

「紅蓮の瞳を持つ竜よ、鋼鉄の鎧をその身に纏い、爆炎をもってこの戦場を制圧せよっ!! エクシーズ召喚!! 来て、ランク7《真紅眼の鋼炎竜(レッドアイズ・フレアメタルドラゴン)》ッ!!」

 

「《No.》じゃ……ない……!」

 

現れたモンスターは、私の見覚えのあるモンスターだ。どうやら暁が競り勝てたらしい。

 

「鋼炎竜の効果……オーバーレイユニットを一つ取り除き、墓地の通常モンスターの《レッドアイズ》を特殊召喚できるわ。《真紅眼の黒炎竜》を特殊召喚。そして黒炎竜でそのセットモンスターに攻撃!」

 

「黒炎竜で……?」

 

「……何よ。攻撃力の低いモンスターから攻撃するのはそんなにおかしなことじゃないでしょ?」

 

「それは、そうだけど……まあいいさ、破壊された《EM インコーラス》の効果発動。このカードが戦闘破壊された時、デッキからペンデュラムモンスターでない《EM》を特殊召喚する。来い、《EM アメンボート》!」

 

「待った。鋼炎竜が存在する限り、相手がカードの効果を発動するたびに500のダメージを与えるわ」

 

響:LP4800→4300

 

今の暁の行為に感じた引っかかり。それを確かめるため、私はあえてステータスの低いアメンボートを選び、攻撃表示で特殊召喚した。

 

「攻撃力500……鋼炎竜で攻撃よ」

 

「アメンボートの効果発動。攻撃対象になったとき、自身を守備表示にすることでその攻撃を無効にする」

 

「……鋼炎竜の効果でダメージ」

 

響:LP4300→3800

 

(……やっぱり)

 

感じていた違和感が、確信に近いものに変わる。

 

(間違いなく、暁は手を抜いている)

 

先ほどの通り、《悪魔竜 ブラック・デーモンズ・ドラゴン》には自身の戦闘中カード効果の発動を封じる効果がある。その効果のことを考えれば、安全策としては伏せモンスターをブラック・デーモンズで攻撃するほうがいい。他のモンスターで攻撃して、万が一《聖なるバリア ーミラーフォースー》なんかを発動されたら大打撃だ。

 

何より、そういう風に不確定要素を潰しつつ攻めるのが暁らしい戦い方でもあるのだ。

 

(今までのデュエルでも、ずっとそうだった。暁はここぞというとき以外はなるべく慎重に、安全に攻めていくタイプだった。それに今回は、ブラック・デーモンズ以外の攻撃力の合計でも私のライフを上回っている。《真紅眼の鎧旋》やブラック・デーモンズの効果ダメージもあるし……)

 

ではなぜ、わざわざそんな手を打ったのか。

 

(……暁は待っているんだ。私の答えを……『私の信じる正しいこと』を……!)

 

「《真紅眼の鎧旋》の効果発動、墓地から《デーモンの召喚》を特殊召喚し、《デーモンの召喚》でアメンボートに攻撃!」

 

流石にもう攻撃を防ぐ手段がない。アメンボートは守備表示なのでダメージはないが。

 

「ブラック・デーモンズでダイレクトアタック!」

 

「っ、があぁぁ!!」

 

響:LP3800→600

 

「バトルフェイズを終了し、ブラック・デーモンズの効果発動。このカードが戦闘を行なったバトルフェイズ終了時、墓地の《レッドアイズ》を対象とし、その攻撃力分のダメージを与える! 対象は《真紅眼の黒竜》よ」

 

《真紅眼の黒竜》の攻撃力は2400。私の残りライフの四倍だ。

 

「ぅぅ……罠カード《エネルギー吸収板》発動! 効果ダメージを、その数値分の回復へと変える!」

 

「でも、鋼炎竜の効果が発動。ダメージを受けなさい」

 

「分かってるさ……くっ」

 

響:LP600→100→2500

 

「ブラック・デーモンズの対象となった《レッドアイズ》はデッキに戻るわ。そして私は魔法カード《七星の宝刀》発動。手札かフィールドのレベル7モンスターを除外して二枚ドローできる。フィールドの黒炎竜を除外しドロー。……私はこれでターンエンドよ」

 

私の残りライフのことを考えると、あと効果を使えるのは四回が限度だ。

 

「私のターン……ドロー!」

 

(鋼炎竜は効果では破壊できない。でも、戦闘でなら……!)

 

「私はスケール4の《EM トランプ・ウィッチ》とスケール5の《慧眼の魔術師》でペンデュラムスケールをセッティングし、慧眼のペンデュラム効果発動。反対側のスケールに《EM》が存在する時、自身を破壊してデッキの《魔術師》をペンデュラムスケールにセットする。スケール8の《竜穴の魔術師》をセット!」

 

「鋼炎竜の効果でダメージ!」

 

響:LP2500→2000

 

二体のスケールでレベル5から7までをペンデュラム召喚できる。

 

「ペンデュラム召喚! エクストラデッキからあらわれよ、私のモンスターたち! レベル5《曲芸の魔術師》、レベル7《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! そしてトランプ・ウィッチのペンデュラム効果発動。私のフィールドのモンスターを使用して融合召喚を行う! 曲芸とオッドアイズを融合!」

 

「さらに鋼炎竜の効果……!」

 

響:LP2000→1500

 

「ふた色の眼の龍よ。神秘の力をその目に宿し、新たな姿となりて現れよ! 融合召喚! レベル8《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!! バトルだ、ルーンアイズで《デーモンの召喚》に攻撃! 上級モンスターの魔法使い族を素材として融合召喚されたこのモンスターは相手モンスターに三回攻撃できる!」

 

この効果は永続効果。効果の発動ではないので鋼炎竜のバーン効果は発動しない。

 

暁:LP8000→7500

 

「続けて鋼炎竜に攻撃!」

 

「………………」

 

暁:LP7500→7300

 

「バトルフェイズを終了、連成の効果でトランプ・ウィッチを破壊して一枚ドロー。カードを二枚伏せてターンエンドだ」

 

「《真紅眼の鎧旋》の効果で《デーモンの召喚》を特殊召喚。さらに永続罠《闇次元の解放》発動、除外されている闇属性モンスターを特殊召喚する。帰って来なさい、《真紅眼の黒炎竜》!」

 

暁のフィールドに次々とモンスターが並ぶ。折角減らしたのに、これではプラスマイナスゼロだ。

 

(……いや、そうでもないか。鋼炎竜を除去できたのは大きい)

 

これで行動を制限されることはなくなった。

 

改めて、考える。

 

(『私の信じる正しいこと』……か。それってなんなんだろうか。私の信じる……)

 

私が信じているもの。それはーー

 

(ーーああ、そうか。いや、でも、そうするにはキーパーツが……)

 

見つけた。私の信じられる道。ただそれを実行に移すにはデッキの中に一枚ずつ眠っているカードをドローしなくちゃいけない。

 

(できるかな…………いや、違う。やる。やってみせる!)

 

となれば次の暁のターンも、絶対に生き延びねばならない。

 

だが決めたのだ。私は私の信じることをする。

 

(信じているよ……暁)

 

「私のターン、ドロー!」




ここまでで発生した総効果ダメージ量が8000を超えているという異常事態(《エネルギー吸収板で回復した分も含めて、ですが)。

次回、響さんの反撃。

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