快晴の空の下、私は時雨を追うようにして海の上を駆けていた。
「ふふっ、第一コーナーはいただいたよ」
「何を言っているんだ……?」
「言ってみたかっただけさ。それより、僕のターン。永続魔法《カードトレーダー》を発動、カードを一枚伏せてターンエンド」
「私のターン、ドロー!」
時雨の場には、伏せカードが一枚あるだけ。誘っているのか、あるいはその裏をかいて何もないのか。
(……とりあえず、警戒はしておこう)
「手札を一枚墓地に送り、魔法カード《ペンデュラム・コール》発動。デッキから《魔術師》を二枚手札に加える。《慧眼の魔術師》と《時読みの魔術師》を手札に。そしてこの二体でスケールをセッティング!」
「二体のスケールはそれぞれ5と8、よってレベル6から7のモンスターを同時に召喚可能、か」
「そうだ。ペンデュラム召喚! 手札から、レベル6《賤竜の魔術師》! そしてこのカードが召喚、特殊召喚に成功した時、墓地の《魔術師》か《オッドアイズ》を手札に戻せる。《ペンデュラム・コール》のコストで墓地に送った《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を手札に。バトルだ、賤竜でダイレクトアタック!」
賤竜の攻撃力は2100。このダイレクトアタックを許せばそこそこ大きなダメージを受けてしまう以上、何かしらの手があるなら打ってくる筈だ。
「手札の《護封剣の剣士》の効果発動!」
そして案の定、時雨は対応してきた。
「相手のダイレクトアタック宣言時、このカードは特殊召喚できる。さらに、攻撃してきたモンスターの攻撃力がこのモンスターの守備力以下なら、破壊する!」
「! 《護封剣の剣士》の守備力は2400……破壊されてしまう、か」
なかなか強力な効果だ。攻撃力は0のようだが、手札から直接攻撃を止められるのは強い。
(レベルは8か……私のデッキの場合は、シンクロ召喚に使いやすい《バトルフェーダー》のほうがよさそうだね)
しかし逆に、時雨のデッキにはそれがメリットとなるのだろうか。
「バトルフェイズを終了。カードを三枚伏せてターンエンドだ」
「三枚か……前回のお返し、ということかな?」
「偶然だよ。それより、早くしたらどうだい」
「はいはい、僕のターン、ドロー! このスタンバイフェイズ、永続魔法《カードトレーダー》の効果発動。手札を一枚デッキに戻し、一枚ドローできる」
チラリと後方を見る。すでに鎮守府からだいぶ離れてしまった。
「よそ見とは余裕だね。僕は魔法カード《トレード・イン》を発動。手札のレベル8モンスターを墓地に送り、二枚ドローする。《
「ギャラクシーアイズ……【ギャラクシー】デッキか!」
なるほど、それなら《護符剣の剣士》を採用しているのにもうなずける。ランク8のエクシーズモンスターを多用するなら、レベル8の《護封剣の剣士》は相性抜群だ。
「《星間竜 パーセク》を召喚。このモンスターは、自分フィールドにレベル8のモンスターが存在する時リリースなしで召喚できる。そしてレベル8の剣士とパーセクでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
二体のモンスターが、海に吸い込まれていく。瞬間、ぞわりと背筋を嫌な感覚が走った。
(まさか……これは……!)
「未知なる銀河。その輝きを瞳に宿し、我が未来を照らせ!! エクシーズ召喚! 君臨せよ、ランク8《No.107
直後、
(このドラゴンの名前……
今までは、《No.》は《No.》というカテゴリにしか属していなかった。しかしこの《No.》は違う。《No.》なだけでなく、《ギャラクシーアイズ》でもある。すなわち、《ギャラクシー》や《ギャラクシーアイズ》のサポートカードも利用できるということだ。
(まずい……これは非常にまずい!!)
「さあ、バトルだ。タキオンでダイレクトアタック!!」
「させない、罠カード《パワー・ウォール》発動! 自分がダメージを受ける時、そのダメージをゼロにし、受けるはずだったダメージ500につき一枚、デッキの上から墓地に送る! タキオンの攻撃力は3000、よって六枚を墓地に送る!」
六枚のカードが、タキオンの攻撃から私を守る。なんとか防いだようだ。
「おや、残念。なら僕はバトルフェイズを終了し、魔法カード《銀河の施し》を発動。自分フィールドに《ギャラクシー》のエクシーズモンスターが存在する時、手札を一枚捨てて二枚ドローできる。二枚ドローして、ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」
自分がこの海の支配者だと言わんばかりに幾度も咆哮を上げるタキオンを見上げながら、私は考える。
(先のターン、時雨はタキオンの効果を使わなかった。それが発動条件を満たしていなかったからなのか、あえて使わなかったからなのかはわからないけれど……結局、どういう効果なのかわからないという点に変わりはないんだよな……)
何が効果のトリガーになるかわからない。ゆえに全ての行動に対してためらいが生まれてしまう。
しかし何もしなければやられるだけだ。そんな言葉で警戒心を宥めつつ、私はカードを発動した。
「魔法カード《成金ゴブリン》発動。相手のライフを1000回復し、一枚ドローできる」
時雨:LP8000→9000
「おや……わざわざありがとう」
「構わんさ。この程度は誤差だ。私は慧眼のペンデュラム効果発動。自身を破壊し、デッキから《魔術師》をスケールにセットする。スケール1の《星読みの魔術師》をセットし、ペンデュラム召喚! エクストラデッキより慧眼、賤竜、そして手札よりオッドアイズ! 賤竜の効果により、墓地の《降竜の魔術師》を手札に戻す」
ここまで発動の気配なし。このまま何も起きないといいが……。
「バトルだ、オッドアイズでタキオンに攻撃! この宣言時、リバースカードオープン、速攻魔法《虚栄巨影》発動! モンスター一体の攻撃力をバトルフェイズの間1000上げる!」
水面を走ったオッドアイズが、タキオンに向かって光線を放つ。今のオッドアイズの攻撃力は3500。タキオンを上回っている。
「でも、《護封剣の剣士》を素材としたエクシーズモンスターは一ターンに一度の戦闘破壊耐性を得る」
「! けど、ダメージは通る! オッドアイズの戦闘で相手に発生するダメージは二倍だ!」
時雨:LP9000→8000
「あーあ、これで差し引きゼロか」
「……私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」
「僕のターン、ドロー! そしてスタンバイフェイズ、《カードトレーダー》の効果で手札を一枚戻して一枚ドローする」
戦闘破壊耐性に関しては考慮していなかった。しかもタキオン本来の効果ではなく、《護封剣の剣士》によって与えられたものだ。結局タキオンの効果については未だに何も判明していない。
「僕は装備魔法《
海中から《銀河眼の光子竜》が姿をあらわす。が、その身体には元の鮮やかな輝きはなく、黒ずんでいた。
「さらに魔法カード《パラレル・ツイスター》発動。自分フィールドの魔法か罠を墓地に送り、フィールドのカード一枚を破壊する! 零式を墓地に送り……そうだな、目障りな《時読みの魔術師》を破壊させてもらおうか!」
「それなら私は速攻魔法《揺れる眼差し》を発動。ペンデュラムゾーンのカードを全て破壊し、破壊した枚数によって効果が変わる。今存在するペンデュラムスケールは私の一組だけ、よって相手に500のダメージを与え、デッキからペンデュラムモンスター一体を手札に加える。《竜穴の魔術師》を手札に加える」
時雨:LP8000→7500
「……《銀河零式》がフィールドを離れた時、このカードを装備していたモンスターの攻撃力はゼロになる」
しかし、もともと《銀河眼の光子竜》は《銀河零式》のデメリットによって攻撃も効果の発動もできなかった。《銀河零式》がフィールドを離れたためどちらも可能になったようだが、それでは状況はあまり変わっていない。
(いや……たしか、《銀河眼の光子竜》には、戦闘時に自身と相手をバトルフェイズの間除外する効果があったっけ。あれを使えば多分攻撃力も戻ると思うし……)
などと勝手な予想を立てる私を見て、時雨はニヤリと笑った。
「タキオンの効果発動ォ!」
「何っ……!?」
(このタイミングで……!?)
「オーバーレイユニットを一つ取り除き、フィールドのすべてのモンスターの効果を無効、攻撃力を元に戻す!」
タキオンの咆哮によって、《銀河眼の光子竜》に光が戻る。
「しまった……!」
「バトルだ、タキオンで慧眼を攻撃!」
響:LP8000→6500
慧眼が破壊された衝撃で発生した水滴が私を叩く。しかしタダでやられるわけにはいかない。
「罠カード《運命の発掘》発動! 自分が戦闘ダメージを受けた時、一枚ドローする!」
と、その時、時雨の目つきが変わった。
「いいのかい、そんなことして」
「?」
意味がわからず首をかしげる私に、凄絶な笑みを浮かべた時雨は高らかに宣言する。
「タキオンが効果を発動したターン、バトルフェイズ中に相手が効果を発動するたびにこのカードの攻撃力は1000上がり、さらにこのターン、このカードは二回の攻撃が可能となる!!」
「!? さっきの効果で終わりじゃなかったのか!」
「それは《No.》を舐めすぎだよ。そんな程度で終わるわけがないじゃあないかっ!! タキオンで賤竜に攻撃!!」
響:LP6500→4600
必死に走り、衝撃を躱す。
「くっ……」
「続けて《銀河眼の光子竜》で《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」
「ぐっ、くぅぅ……!」
響:LP4600→4100
「僕はこれでターンエンド。……サレンダーするかい?」
「ふざけるな……私のターン!ドローッ!!」
闘志はまだ萎えていない。とにかく頭をフル回転させて、次の一手を考える。
(この手札……互いのフィールド……墓地……これなら)
「スケール1の《竜脈の魔術師》とスケール8の《竜穴の魔術師》でスケールをセッティング。これで再びレベル2から7が同時に召喚可能だ。ペンデュラム召喚! エクストラデッキよりレベル5《星読みの魔術師》、レベル6《賤竜の魔術師》、レベル7《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、手札よりレベル7《降竜の魔術師》!!」
上級モンスターが並ぶ。だがここからだ。
「墓地の《貴竜の魔術師》の効果発動。自分フィールドの《オッドアイズ》のレベルを3下げることで自身を特殊召喚する! そしてレベル5の星読みにレベル3チューナーの貴竜をチューニング!」
先ほどのタキオンの時と同じように、素材となるモンスターが海に消えていく。
「星屑の竜よ、暗雲を裂いて、果ての青空より降臨せよ! シンクロ召喚! 現れよ、レベル8《スターダスト・ドラゴン》ッ!!」
「君のドラゴン……攻撃力は僕のタキオンの方が上だね」
「関係ないさ。《オッドアイズ》以外のモンスターとシンクロ素材になった貴竜は、デッキの一番下に戻る。そして墓地の《調律の魔術師》の効果発動。自分のペンデュラムスケールが両方とも《魔術師》の場合、このカードは特殊召喚でき、さらにこのカードが召喚、特殊召喚された場合相手のライフを400回復し、自分は400のダメージを受ける」
時雨:LP7500→7900
響:LP4100→3700
「そして私はレベル7の降竜にレベル1チューナーの調律をチューニング! 清き心を持ちし剣士よ。吹きすさぶ吹雪を裂きて、閃光とともに現れよ! シンクロ召喚! レベル8《
「二体目……いや、まだか」
「その通り。魔法カード《融合》発動! フィールドのオッドアイズと賤竜を融合! ふた色の眼の龍よ。神秘の力をその目に宿し、新たな姿となりて現れよ! 融合召喚! レベル8《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!! バトルだ、魔導剣士で《銀河眼の光子竜》を攻撃!」
「! 攻撃力は負けているのに……!?」
「いいや負けてない! 降竜を素材としたシンクロモンスターは、ドラゴン族と戦闘を行う場合攻撃力が二倍になる!」
魔導剣士の攻撃力は2500から一気に5000まで跳ね上がる。
「さらにこのモンスターが相手モンスターを破壊した時、破壊してモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えることができる。合計5000のダメージを君に与える……!」
「くっ……ぐっ、ぉぉああああ!!」
時雨:LP7900→5900→2900
「まだだ、ルーンアイズでタキオンに攻撃! この時、墓地の《ブレイクスルー・スキル》の効果発動、墓地のこのカードを除外することで相手モンスター一体の効果をエンドフェイズまで無効にする!」
「ぐ……《護封剣の剣士》によって与えられた破壊耐性を無効にしたってわけか」
「そうだ、その耐性はタキオンの効果として扱われるはずだろう?」
「そうなんだけどね……くっ」
ルーンアイズとタキオンの攻撃力はともに3000。相討ちだ。
「なら僕は罠カード《
「何っ……いや、ならスターダストの効果発動! このカードをリリースすることで、カードを破壊する効果を無効にし破壊する!」
「だろうね……だけど、これでスターダストはもう攻撃できない」
それは確かにそうだが、タキオンの除去には成功した。もちろんまた特殊召喚されるかもしれないが、その時はその時だ。再び対処すればいい。
「カードを一枚伏せてターンエンド。このエンドフェイズ、自身の効果で墓地に送られたスターダストは場に戻る。……ん?」
その時だった。ゴロゴロ……という異音がした。気になって音のした方ーーもとい、進行方向に目を凝らすと、大きな暗雲が見えた。
「さて……頃合いか」
ボソッと時雨が呟く。と同時にスピードを一段階あげたので、私もそれについていく。
(……何か様子がおかしいな。いや、最初からおかしいといえばおかしいのだけど……)
「君は、確か101と戦った時、結局『奥』は見なかったんだよね?」
その言葉に一瞬きょとんとするも、すぐに意味を理解する。101といえば、思い浮かぶのはただ一つ。ヲ級のあやつる《No.》、《No.101 S・H・Ark Knight》だ。そしてそのデュエルの時、たしかヲ級が言っていた。特別に、更に『奥』を見せてやる、と。
「なら、僕が見せてあげるよ」
直後。先ほどの比ではないほどの尋常じゃないプレッシャーが私を押しつぶしにかかる。
「《No.》、その更に『奥』をね」
そこにいたのは、もう時雨ではなかった。時雨の見た目で、時雨のように振る舞う、決定的にどこかがずれた何者か。私にはその姿が、深海棲艦よりも恐ろしく見えた。
「さあ行くぞ……僕の、ターンッ!!」
【魔術師】vs【銀河眼】です。多数のドラゴンが入り乱れております。
次回、とうとう《No.》の『奥』が明らかに!()