駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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平穏なはずの日常

「《No.》が、いない?」

 

朝、提督執務室。業務のためにやってきた私に対して、司令官は一番にそう告げた。

 

「ああ。少なくとも現時点で発見報告はない。現在も探してはいるが……なにぶん、今回の《No.》襲来を知っている者自体が非常に少ない。扶桑の件で何かが起きているのを察しているものは多いが、それが《No.》には繋がっていない。対して、容疑者はこの鎮守府の艦娘全員だ。捜索も難航するというものだよ」

 

「なるほど……」

 

動きがないのが、《No.》が目覚めていないからなのか、はたまたわざと目立った動きを見せていないからなのかはわからない。わからないが、兎にも角にもまずは《No.》を宿している艦娘を見つけ出さないことにはどうにもできない。

 

「というわけで、昨日に続いて今日も君には休暇を命ずる。……といっても、昨日はきちんと休んでいなかったようだがな?」

 

「……………………」

 

スッ、と目を逸らす。やはり瑞鳳さんとのデュエルはバレていたらしい。

 

「とにかく。今日は休め。《No.》が見つかった場合は……まあ、それはその時考えよう」

 

「わかったよ、司令官」

 

かくして、私の休日が始まった。

 

 

 

 

まずは遅めの朝ごはんを食べることにした。西洋風にいうならブランチ、だったか。

 

今日のA定食はアジの開きだった。

 

(やっぱり和食もいいよね。心が休まる)

 

ロシア料理もいいが、やはり私も根っこが日本人なのだ。

 

と、そんな調子で朝食をほとんど食べ終えた私のところに、三人の艦娘がやってきた。

 

「あ、響ちゃんっぽい! おっはよー!」

 

「おや、おはよう夕立。それに、暁と時雨も」

 

「おはよう」

 

「うん、おはよう」

 

なんだか、久しぶりに暁の顔を見たような気がする。

 

「この時間から朝ごはん? ちょっと遅いんじゃない?」

 

「ああ……今日はちょっと寝坊してしまったからね……朝ごはん兼お昼ご飯、って感じかな」

 

寝坊したことは事実である。

 

「あ、そうそう、この後三人で鍛錬するつもりなんだけど、響ちゃんも参加するっぽい?」

 

「え、いいのかい?」

 

「構わないよ。人数は多いほうがいいしね」

 

ありがたい。ちょうどこの後どうするか悩んでいたところだったんだ。

 

「じゃあ、せっかくだし演習形式にしましょう? 人数も偶数でちょうどいいし」

 

「賛成っぽい! 演習は血が滾るっぽい……!」

 

獰猛な笑みを見せる夕立を見て、苦笑する私と時雨。

 

何はともあれ、予定が決まった以上早く食べてしまおう。

 

「ちょっと待っていてくれるかい? 食べ終えてしまうから」

 

「わかったっぽーい」

 

「よく噛んで食べなさいよ?」

 

なにやらお姉さんらしいことを言う暁。やはり、いつも通りか。

 

(様子がおかしいような気がしたのは気のせいかな。……ん?)

 

味噌汁を飲みながら、視界の端にあるものを見た。

 

(……あれは……いや、だとすると……?)

 

無言で考える。しかし、すぐには結論が出なかった。

 

(まあいいか。それなら……)

 

「遅くなったね、すまない、食べ終わったよ」

 

「それじゃあレッツゴーっぽい!」

 

 

 

 

「ルールを説明するわね。といっても、基本的には普通の海戦と同じ。砲と魚雷で相手に一定以上のダメージを与えたら勝利よ。今回は二人一組になって、両方とも大破判定になった方のチームが負けね」

 

「なるほど」

 

演習では実弾を使用しない。使うのは特殊なペイント弾だ。ちなみに中身のペンキはこれまた特殊な洗剤を使えばすぐに落ちるらしい。

 

「さて、それじゃあチーム分けをしましょうか」

 

「あ、それなんだけど、ちょっといいかい?」

 

手を挙げて発言する。全員がこちらを向いたところで、私は意見を述べた。

 

「私は時雨と組みたいんだけど、いいかな?」

 

「僕かい? と言うことは……暁と夕立が組むのか……」

 

「私は別に構わないわ。夕立は?」

 

「問題ないっぽい!」

 

「そう言う問題じゃ……まあ、響がいいならいいけど……」

 

渋々とはいえ時雨も了承してくれた。

 

「それじゃあ、準備するわね」

 

暁がなにやらパネルを操作する。すると、海中から巨大な岩がせり上がってきた。

 

「これは……?」

 

「あれ、響は見るの初めてだったかしら? このパネルを操作することで、戦場を何種類かの中から選べるのよ」

 

随分と便利なものがあるものだ。これぞまさしくハイテクノロジー。

 

「じゃあ私達はあの岩の反対側に行きましょ。演習開始は今から十五分後ね」

 

「「「了解」」っぽい!」

 

 

 

 

「それにしても、本当に驚いたよ。なんで組む相手に僕を選んだんだい? 響は暁と組むと思っていたんだけど」

 

二人の背中が見えなくなったあたりで、時雨がそう切り出した。

 

「なんで、か。やっぱり強い相手と戦った方がいいだろう? 暁はこの鎮守府の駆逐艦の中だと随一の実力者だ。別に時雨のことを弱いって言うわけじゃないんだけどーー」

 

「ああ、()()()()()()()()()()

 

「……隠す気があるのかないのかどっちなんだ……」

 

若干の呆れによって小さく息を吐いた後、私は言った。

 

 

「そんなもの、《No.》を放置できないからに決まっているじゃないか……」

 

 

「いつ気づいた? 食堂かい?」

 

「そうだよ。あそこで偶然見えたんだ。《No.》使い特有の紋様がね」

 

そう。食堂で私は見てしまったのだ。時雨の右二の腕に輝く、例の紋様を。

 

「だけど、それがわかったところでどうする気だい? まさか今ここでデュエルするなんて言わないよね?」

 

「? どういうことだい?」

 

「忘れたのかい? 後十分もすれば確実に暁と夕立がこちらに来るんだよ? 食堂でデュエルを挑んで来なかったあたり、彼女らに目撃されるのは嫌なんだろう?」

 

「っ、それは……」

 

嫌なところを突いてくる。確かに彼女たちを巻き込むわけにはいかない。

 

「だからとりあえず、この演習を終わらせよう。……今回は君の指示に従うよ」

 

「え?」

 

「演習といえど、勝負に負けるのは癪に触る。デュエルでは君に何度も負けているけれどね。……ほら、何か策はないのかい?」

 

正直、意外だった。もっとこう、なりふり構わず勝負を挑んでくるものだと思っていたのだけど……。

 

(……まあいいか、協力してくれるというのなら、今だけはその言葉を信じよう)

 

時計をちらりと見る。演習開始まで、後一分。

 

(今回はとにかく早く終わらせなくちゃいけない。なら……)

 

「……作戦なら、ある」

 

 

 

 

「何か作戦あるっぽい?」

 

「そうね……とりあえず全速で大岩に近づいた後、二手に分かれて挟み撃ちにしましょう。もし向こうも分かれていて一対一になったら、牽制しつつこの辺まで下がってきて。確認し次第、助太刀に向かうわ」

 

「了解っぽい!」

 

といっても、時雨も響も練度的には夕立より下だ。万が一下がってこれなかったとしても撃破することは可能だろう。

 

(でも、できることなら響の相手は私がしたいな。最近は一緒に出撃することもなかったし……)

 

そこでふと、あるカードの存在が思い出された。そう、いつかのタッグデュエルの時に見た、《魔術師》や《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》だ。

 

(あれらについては、未だに何もわかっていない。というか、《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》とか新たな《魔術師》とかも見たっていう話がある)

 

いったい、響に何が起こっているのだろう?

 

(……ううん。たとえ何が起きていても、演習は演習。手を抜くなんて、一人前のレディとは言えないわ!)

 

ちょうどその時、演習開始時刻になった。

 

「行くわよ、夕立!」

 

「了解っぽい!」

 

先ほどの作戦通り、最大速度で大岩へと近づいて行く。この調子なら、後一分もすれば大岩まで辿り着くだろう。

 

(もう少ししたら二手に分かれて……うん?)

 

大岩の向こうから影。あれは……

 

「夕立、十一時の方向に時雨!」

 

「見つけてるっぽい!」

 

確認できるのは、時雨一人。どうやらあちらも分かれて行動しているらしい。響がどこにいるのかはわからないが、これはチャンスだ。

 

「夕立、作戦変更。先に時雨を狙いましょう!」

 

「わかったっぽい!」

 

暁と夕立はそれぞれ主砲を構え、時雨の方に向ける。当てるのが目的ではない。牽制用だ。

 

だがそこで、おかしなものを見た。

 

「え?」

 

時雨が砲を構えていない。かわりになぜか一本の魚雷を握っている。

 

(何を……?)

 

疑問に思った暁が観察していると、時雨はその魚雷をフルスイングで投擲してきた。山なりに飛んだ魚雷は、そのままの軌道なら暁たちの進路、ちょうど直撃するあたりに落ちる。ナイスコントロール。

 

(でも、その程度は避けられ……って)

 

「夕立! 二時の方向、響!」

 

「へ!?」

 

時雨のちょうど反対側から響が飛び出してきた。こちらは主砲を構えている。しかしこれだけ距離が離れていれば、発射されてから回避行動に出ても遅くはない。とりあえずは時雨の投げた魚雷の軌道から外れつつ、夕立に指示を出そうとして、

 

嫌な可能性に気がついた。

 

(……あの距離から撃ったところで避けられるのは響だってわかっているはず。となると他の意図が必ずある。例えば……)

 

「夕立っ! 避けーー!!」

 

直後。二人の視界がピンクのペンキで塗りつぶされた。

 

 

 

 

「成功した……」

 

額の汗を袖で拭う。視界の先ではいくつもの水柱が上がっていた。

 

私の考えた作戦はこうだ。

 

まず時雨が魚雷を投げ、次に私がそれを撃つ。それによって空中で魚雷を破裂させ、広範囲にペンキを飛ばす。……()()()()()()()、本命は違う。私が飛び出したことによって暁たちが私の方を警戒しているうちに、時雨が魚雷を一斉に発射。そしてペンキの目くらましを受けている彼女たちを一網打尽、ということだ。

 

(暁たちが全速で近づいてきてくれないと、距離がありすぎて時雨の投げた魚雷が暁たちのところまで届かないからこの作戦は成立しない。……そのあたりは、さすが幸運艦、ということなのかな)

 

万が一作戦に気づかれても大丈夫なのように、魚雷はある程度広範囲に発射するよう指示してある。これならよっぽど早くに私の意図に気づかない限り回避不可能だ。

 

回避不可能のはず、なのに。

 

「なんっ……!?」

 

「やってくれたわね……!」

 

ズァンッ! と水柱の中から飛び出してきた暁。その身体には多少のペンキが付着しているものの、あれではせいぜい小破判定だろう。さすがの時雨も驚いているようで、何も行動を起こせずにいる。

 

戸惑っていると、ブレーキをかけた暁が丁寧に説明を始めた。

 

「……魚雷が来るところまでは読めてた。だから、爆雷を私の進路に投げて魚雷を爆破したのよ。その爆風で空中のペンキは吹き飛ばせたしね」

 

そこまで言って、暁は自分の後ろ、すなわち水柱が上がっていたあたりを見た。

 

「まあ……反対側に避けた夕立はもろに引っかかっちゃったみたいだけど」

 

「ぽい〜……」

 

夕立は全身にピンクのペンキを浴びている。これで夕立はリタイアだ。

 

「さて、ここからどうするつもり、響?」

 

「くっ……時雨、一回引こう!」

 

全速で大岩の裏に回る。それを見た暁は、こちらも全速で近づいてきている。

 

(どうする……あの作戦では暁を仕留めきれなかった。じゃあ次の策を考えなくちゃ……!)

 

「どうしたの響、逃げてるだけじゃ勝てないわよ?」

 

背後から暁の声が聞こえる。そうだ、逃げているだけでは勝てない。私は《No.》を止めないといけないのだ。そのためにはまずはどうにかして攻めに転じないとーー

 

(ーーん?)

 

そこで、ふと引っかかりを覚えた。逃げているだけでは勝てない。それはその通りのはずなのだが……

 

(勝てない……逃げていては勝てない………………そうか!)

 

閃いた。新たな策を。

 

(まずは、暁を振り切る!)

 

スピードをわずかに落とす。背後を見ると、暁が主砲をこちらに向けていた。

 

「ふっ!」

 

右足を軸に身体を反転。先ほどとは逆に、暁の方に突っ込んでいく。

 

「えっ、ちょっ」

 

突然のことに暁も驚いたようだが、それでも冷静にこちらを狙ってくる。しかしそれこそが私の狙いだ。

 

「っ!?」

 

何かに気づいた暁が咄嗟にその場から離れる。直後、直前まで暁がいた場所を弾が通った。時雨だ。大岩を回り込んだ時雨が主砲を撃ったのだ。

 

その隙に私は一気に暁の後方へと駆けた。

 

「仕方ないわね……」

 

小さく暁の声が聞こえる。どうやら狙いを私から時雨に変えたらしい。

 

(よし……なんとか逃げきれた。次は……)

 

手に持った主砲を見る。次の作戦の要はこれだ。

 

早速私は、そのための細工を始めた。

 

 

 

 

一方、暁と時雨は一進一退の攻防を繰り広げていた。構図としては逃げる暁と追う時雨。暁が後ろ向きに走って時雨から逃げ、それを時雨が追っている。海上の艦娘だからこそできる芸当だ。

 

だが暁もただ逃げているわけではない。好機を伺っているのだ。大型艦から一発でも貰えば大きな損害となってしまう駆逐艦は、むしろ暁のような戦い方が主流なのだ。

 

(……の、はずなんだけど……)

 

暁は眉をひそめた。

 

そう。暁の戦い方が主流ということは、その真逆の時雨は普通でないということだ。相手が駆逐艦の暁だから、ということなのかもしれないが……。

 

(でも、あの『やられる前にやれ』って感じの戦い方は、駆逐艦っていうよりむしろ重巡とか戦艦とかって感じがする)

 

もしかしたら日本中を探せばそういう戦い方をする駆逐艦もいるかもしれない。だが少なくとも時雨のスタイルはそうじゃなかった。

 

(……私が知らない間に戦い方を変えた……? まあいいわ、それなら……!)

 

それなら、こちらもまた違う戦い方をすればいいだけ。暁は手に持った十センチ連装高角砲を時雨に向け、

 

「!」

 

「ふっ……!」

 

背後。大岩の陰から響が飛び出してきた。

 

飛び出した響は魚雷を全て発射し、さらに砲をこちらに向けている。

 

「くっ……!」

 

先ほど、距離の離れた魚雷に対して一発で命中させた響と、様子のおかしい時雨。どちらの方が脅威かといったら、圧倒的に前者だ。

 

(さっきみたいに爆雷で誘爆させる……? ……いや)

 

「はっ!」

 

暁は一度姿勢を低くした後、低く、しかし滞空時間の長いジャンプを行なった。まるで水切りの石のようだ。

 

結果、ギリギリのところで魚雷を躱すことに成功する。すぐさま暁は視線を響の方に向けた。

 

「……!」

 

さすがの響も驚いたようだが、すぐさま砲の狙いを暁に定めた。暁はその様子をじっと見つめ、いつ発射されてもいいように体制を整える。

 

一瞬の、静寂。

 

「「!!」」

 

二人が動いたのはほぼ同時だった。いや、暁の方がわずかに早かったか。暁は進む向きは変えずに大きく横っ飛びすることで、弾の進路から外れようとする。対する響は引き金を引き、暁にピンクのペンキをお見舞いしてやろうと、

 

「へ」

 

「あ」

 

「え」

 

 

ガチッ!! と。異様な音が周囲に響く。それは響の持つ主砲からだった。

 

「……………………」

 

あまりのことに暁と時雨も止まる。しかし一番呆然としているのは響だ。

 

「えーっと、響……?」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………」

 

手もとの砲に目線を落とし、何も言わない響。やがて震える声で呟いた。

 

「……………………弾、切れ…………だ……」

 

「「…………………………………………………………………………」」

 

暁と時雨もかける言葉が見つからず、微妙な空気が流れる。それを断ち切ったのもまた響だった。

 

「…………降参して、いいかな?」

 

「………………武器のチェックを怠っちゃダメでしょ…………」

 

響、リタイア。これで残るは暁と時雨だ。

 

「…………さて。仕切り直しといくわよ」

 

「……さすがにこの展開は予想外だなあ」

 

言いながら大岩の向こう側へと行く時雨。それに対して、暁は一切の邪魔をしなかった。フェアじゃないからだ。

 

時雨が大岩の向こうに隠れて少ししたあたりで、暁は動き始めた。

 

(予想外の事態ではあるけど、今はとにかく時雨の相手!)

 

今度もやはり全速。待っている間に作戦は練り上がっていた。

 

 

 

 

「………………………………」

 

大岩に背をつけ、周囲を警戒する時雨。想定外の一対一だが、彼女は戦い方を変えるつもりはなかった。烈火のごとく攻め、そして勝つ。

 

「……………………………」

 

右。いない。左。いない。そろそろ来てもいいはずなのだが。

 

「…………違うっ!」

 

時雨が何かに気づき、横っ跳びに移動する。直後だった。

 

ドッッバァァ!! と大きな水柱が上がったのだ。

 

「くっ!」

 

至近距離だったためにバランスを崩し仰向けに倒れてしまう。艦娘ゆえに沈まないが、

 

「チェックメイト、よ」

 

暁の声とともに砲が時雨に向けられる。喰らえば一発アウトの距離だ。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

「そうよ。岩に触れちゃいけないなんてルールもないしね」

 

つまり暁は、大岩を登って時雨の頭上から爆雷を落とし、さらにそこから飛び降りて奇襲をかけたのだ。

 

「いや、まいったよ。僕の負けだ」

 

言って苦笑した時雨は、

 

次の瞬間には暁の視界から消えていた。

 

(……違う! 今のは……)

 

暁が視線を動かすと、そちらに時雨がいた。

 

(倒れた姿勢のまま急発進した……なんだっけ、あの、フィギュアスケートの……イカパウダーみたいに!)

 

イナバウアーのことだろうか。

 

ともかくそうやって暁の必殺圏内から脱した時雨は、右手をヒラヒラと振りながら言った。

 

「僕も響と同じく降参するよ。今回の演習は、君たちの勝利だ」

 

「あ、うん……」

 

何か腑に落ちないと言った感じで暁は生返事を返した。

 

こうして、今回の演習は幕を下ろした。

 

 

 

 

「待たせたね」

 

「……別にいいさ」

 

海の上で、私と時雨は対峙していた。

 

「弾切れ、ね。あれ、嘘だろう?」

 

「そりゃそうさ。流石に弾を込め忘れるなんてことはしないよ」

 

演習中に起こった、私の主砲の弾切れ。あれは演習中にこっそり弾を廃棄することで私がわざと起こしたことだ。

 

ああすることによって、私は一切ダメージを負わず、さらに時雨には敗北の可能性を残しておいたというわけだ。ペンキ塗れになったら流石にそれを落とさないわけにはいかないだろうから、多少の足止めにはなるかと思ったのだが。

 

「さて、この辺じゃ人目につく。もう少し沖に行こうか」

 

「……………………」

 

私は黙って時雨の後を追った。

 

そして、数分後。

 

「……そろそろいいんじゃないかい?」

 

私たちはだいぶ陸から離れたところにいた。あまり行きすぎると深海棲艦が出る可能性があるが……。

 

私の言葉を受けて、時雨は爽やかなーー《No.》に取り憑かれているということを忘れてしまいそうなほど爽やかな笑顔で言った。

 

「そうだね、でも……うん、折角だし、このスピードに乗ったままデュエルしようか」

 

「は?」

 

「ほらほら、構えて。掛け声行くよー」

 

本当にディスクを構えた時雨を見て、私も慌てて構えた。

 

掛け声は、ぴったり同時だった。

 

「「セーリングデュエル・アクセラレーションッ!!」」




セーリングデュエルと言っていますが、ルールは変わりません。語感が良かったもので……。

次回、海上でデュエルッ!!

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