駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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(瑞鳳さんの口調に自信がない)


空の支配者

先攻は私だ。

 

「私のターン、私はスケール4の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》とスケール8の《EM オッドアイズ・ユニコーン》でペンデュラムスケールをセッティング。これでレベル5から7までのモンスターが同時に召喚可能だ。ペンデュラム召喚! 手札よりあらわれよ、レベル5《EM ダグ・ダガーマン》!」

 

チラリと瑞鳳さんの様子を伺う。

 

「……………………」

 

先程から一切の変化がない。貼り付けたような薄い笑みのままだ。その表情に、まるで精緻な人形を相手にしているような不気味さを感じた。

 

(……いや、気圧されている場合じゃない!)

 

「ダグ・ダガーマンの効果発動、このカードのペンデュラム召喚に成功したターン、手札から《EM》一枚を墓地に送ることで一枚ドローできる。《EM ペンデュラム・マジシャン》を墓地に送りドロー。……さらに永続魔法《補給部隊》を発動、カードを一枚伏せてターンエンド。この瞬間、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は自身の効果で破壊され、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスター一体を手札に加える。《EM トランプ・ウィッチ》を手札に加える」

 

「一ターン目から飛ばすね……私のターン、ドロー。……モンスターをセット、さらにカードを三枚伏せてターンエンドよ」

 

「っ、三枚……!?」

 

思わずと言った調子で呟く。それだけ伏せカード三枚の圧力は凄まじい。

 

(瑞鳳さんのデッキ……【アーティファクト】? いや、それにしては伏せカードが少ない……のか?)

 

実際にデュエルしたことがないのでわからない。だが例えば【アーティファクト】じゃないとしても、伏せカードが三枚もあればあのうちの一枚か二枚は確実にこちらの行動を妨害するものだろう。派手に動くと手痛いしっぺ返しがありそうだ。

 

「私のターン、ドロー」

 

なので、このターンは堅実に行くことにした。

 

「私はスケール4のトランプ・ウィッチをスケールにセットし、ペンデュラム召喚! エクストラデッキより来たれ、レベル7《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! そしてバトルだ、ダグ・ダガーマンでセットモンスターに攻撃!」

 

さて、瑞鳳さんのデッキの正体は……?

 

「セットモンスターは《幻獣機 ハムストラット》。よって効果発動!」

 

「!! 【幻獣機】……!」

 

【幻獣機】。たしか《幻獣機トークン》を維持しながら高レベル・高ランクのシンクロ召喚及びエクシーズ召喚を行うデッキだ。

 

「ハムストラットがリバースした時、自分フィールドに《幻獣機トークン》二体を特殊召喚する。トークンを攻撃表示で特殊召喚!」

 

「攻撃表示……?」

 

《幻獣機トークン》は、攻撃力・守備力ともにゼロ。それなら守備表示で出すのが定石では?

 

(となると……罠か)

 

ユニコーンのペンデュラム効果は、《オッドアイズ》モンスターの攻撃時に場の《EM》の攻撃力を加えるというもの。《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》はモンスターとの戦闘で相手に発生したダメージを倍にできるので、ダグ・ダガーマンの攻撃力2000を加えればワンショットキル成立だ。だがそれを実行に移すのはあまりに危険すぎる。

 

「カードを一枚伏せてターンエンド」

 

「……そりゃあ警戒するよね。あまりに露骨だし」

 

苦笑する瑞鳳さん。それが分かっているのならなぜ攻撃表示にしたのだろう。

 

その答えは、一枚の伏せカードだった。

 

「でも、その警戒は無意味かな。このエンドフェイズ、私は罠カード《スウィッチヒーロー》を発動! 互いのフィールドのモンスターの数が同じの時、そのコントロールを入れ替える!」

 

「!? 何……!?」

 

オッドアイズとダグ・ダガーマンのコントロールが向こうに移り、代わりに私のフィールドに二体の《幻獣機トークン》が現れる。

 

「このためにわざわざ攻撃表示で特殊召喚したのか……!」

 

しかも次は瑞鳳さんのターン。これは、大ピンチかもしれない。

 

「私のターン、ドロー。……チューナーモンスター《幻獣機 オライオン》を召喚。そしてレベル5のダグ・ダガーマンにレベル2チューナーのオライオンをチューニング! 空の支配者よ、音速の壁を超え、空に瞬く彗星となれ! シンクロ召喚! あらわれよ、レベル7《幻獣機 コンコルーダ》!!」

 

シンクロ召喚に使用されたダグ・ダガーマンは私のエクストラデッキに加わる。結果的に瑞鳳さんに大きなアドバンテージを与えることになってしまった。

 

「オライオンが墓地に送られた場合、《幻獣機トークン》一体を特殊召喚できる。守備表示で特殊召喚。バトルよ、コンコルーダでトークンに攻撃!」

 

「っ……! この瞬間、トークンが破壊されたことで《補給部隊》の効果が発動。一枚ドローする!」

 

響:LP8000→5600

 

「まだよ、オッドアイズでトークンに攻撃! オッドアイズがモンスターとの戦闘で相手に与えるダメージは二倍になる!」

 

「っ、あああぁぁぁぁ!!!」

 

響:LP5600→600

 

廊下の壁に勢いよく叩きつけられ、意識が一瞬吹き飛ぶ。ミシッ、と体内から嫌な音が鳴った。

 

しかし、今の瑞鳳さんには情けも容赦もなかった。

 

「バトルフェイズを終了、そしてレベル7のコンコルーダとオッドアイズでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!空の支配者よ、限界を突破し、夜空を焦がす流星となれ! エクシーズ召喚! 来たれ、ランク7《幻獣機 ドラゴサック》!!」

 

直後、窓の外に巨大な影。間違いない。ドラゴサックだ。

 

「一応守備表示で出しておくわね。そうそう、ドラゴサックは腕が可愛いのよ、腕が。……って、もう聞こえてなさそうね。私はドラゴサックの効果を発動。オーバーレイユニットを一つ取り除くことで、《幻獣機トークン》二体を特殊召喚できる。さらに《幻獣機》をリリースすることでフィールドのカード一枚を破壊できる。トークンをリリースして……厄介だから、《EM オッドアイズ・ユニコーン》を破壊させてもらうわ」

 

瑞鳳さんに命じられるまま、《幻獣機トークン》がペンデュラムゾーンのユニコーンに向かっていき、そのまま自爆する。

 

その一瞬前に、私はカードの効果を発動した。

 

「速攻魔法、《ペンデュラム・モラトリアム》発動……このターン、互いのペンデュラムゾーンのカードは破壊されず、ペンデュラムゾーンのカードを対象とした相手の効果を無効化する……!」

 

「へえ……まだ気力は萎えてないのね。カードを一枚伏せてターンエンドよ」

 

ゆっくりと立ち上がり、デッキトップのカードに指をかける。

 

「私のターン……ドローッ!」

 

オッドアイズは未だドラゴサックのオーバーレイユニットだが、それならそれで別の手段で攻めていくだけだ。

 

「セッティング済みのスケールでペンデュラム召喚! エクストラデッキより、レベル5《EM ダグ・ダガーマン》、手札よりレベル6《EM カレイドスコーピオン》! そしてダグ・ダガーマンの効果により《EM マンモスプラッシュ》を墓地に送りドロー!」

 

私の残りライフは600。ほんの少しでもダメージを受けるわけにはいかないので、彼らは当然守備表示だ。

 

「魔法カード《死者蘇生》発動、墓地から《EM ペンデュラム・マジシャン》を特殊召喚する。そしてこのモンスターが特殊召喚に成功した時、自分フィールドのカードを二枚まで破壊することで、その分《EM》モンスターを手札に加える。自身とペンデュラムスケールのトランプ・ウィッチを破壊することで《EM ドラミング・コング》と《EM スプリングース》を手札に加える。さらに補給部隊の効果でドロー!」

 

まだだ。まだ足りない。

 

「《貴竜の魔術師》を召喚し、レベル5のダグ・ダガーマンにレベル3チューナーの貴竜をチューニング!」

 

「! その流れは……!」

 

「星屑の竜よ、暗雲を裂いて、果ての青空より降臨せよ! シンクロ召喚! 現れよ、レベル8《スターダスト・ドラゴン》ッ!!」

 

私の背後、廊下の窓の外にスターダストがあらわれる。《貴竜の魔術師》は自身のデメリットによってデッキの一番下へと送られた。

 

「《EM ドラミング・コング》をペンデュラムスケールにセット。そしてカレイドスコーピオンの効果発動、自分フィールドのモンスター一体は、このターン相手の特殊召喚されたモンスター全てに攻撃できる。スターダストにその権利を与える。バトルだ、スターダストでトークンに攻撃! この時ドラミング・コングのペンデュラム効果発動、自分の攻撃モンスターの攻撃力をバトルフェイズ終了時まで600上げる!」

 

これでスターダストの攻撃力は3100。ドラゴサックを超えた。

 

しかし。

 

「速攻魔法《ドロー・マッスル》発動! 自分フィールドに存在する守備力1000以下で守備表示のモンスター一体に戦闘破壊耐性を与え、カードを一枚ドローする! これでトークンは破壊されないわ!」

 

「くっ……!?」

 

そういえば、確か《幻獣機》のほとんどはトークンが存在する時破壊耐性を得られる。それならトークンを守るカードを投入しているのも十分考え得ることだ。

 

(伏せカードへの対策を怠っていたな……仕方がないとはいえ、ちょっと焦っていたかもしれない)

 

一度深く呼吸し、思考をクールダウンさせる。

 

(《ドロー・マッスル》の効果で守られている《幻獣機トークン》が存在する以上、ドラゴサックの戦闘破壊は不可能のはず。……一応、攻撃しておこうか)

 

「続いてスターダストでもう一体のトークン及びドラゴサックに攻撃!」

 

「……ドラゴサックは自分フィールドにトークンが存在する限り、戦闘及び効果では破壊されない」

 

「やっぱりか……私はこれでターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー」

 

ドラゴサックの破壊効果はスターダストで防げる。戦闘破壊への耐性もドラミング・コングのおかげで上がっている。ひとまずこのターンは安心か。

 

「今、安心したよね?」

 

瞬間。ゾクゥッ!! っと背筋に悪寒が走った。見透かされている。その感覚は金縛りのように私の身体を縛り付けた。

 

そんな私に、瑞鳳さんは柔らかい笑みを浮かべて言った。

 

「別に、安心していていいのよ? ーーその間に私が勝っちゃうから。リバースカードオープン、速攻魔法《緊急発進(スクランブル)》! 自分のトークン以外のモンスターの数が相手フィールドのモンスターより少ない時、《幻獣機トークン》を任意の数リリースしてデッキからリリースした数の《幻獣機》を特殊召喚する! 私のフィールドに残っている《幻獣機トークン》は一体、だからこれをリリースしてデッキから《幻獣機 コルトウィング》を特殊召喚。さらにコルトウィングが特殊召喚された時、他の《幻獣機》が私のフィールドに存在するなら《幻獣機トークン》を二体特殊召喚できる!」

 

(っ、この感覚……またか!)

 

少しずつ、近づいている。圧倒的なプレッシャーを放つ存在がもう目と鼻の先まで来ている。しかし、避けられない。

 

「《幻獣機 メガラプター》を召喚し、効果発動。トークン一体をリリースし、デッキから《幻獣機》を手札に加える。《幻獣機 テザーウルフ》を手札に。そして、コルトウィングとメガラプターは自分フィールドの《幻獣機トークン》のレベルの合計だけレベルが上がる。私のフィールドの《幻獣機トークン》は一体、よって二体ともレベルが3上がって7。……行くわよ、レベル7のコルトウィングとメガラプターでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!!」

 

窓の外で、二体が渦の中に消えて行く。もう、ランク4でないからなどと思わない。

 

「虚ろな影。儚き幻想はあらゆるものを魅了し、やがて破滅への道を指し示す!! エクシーズ召喚! 睥睨せよ、ランク7《No.11 ビッグ・アイ》ッ!!」

 

次の瞬間、窓の外にあったのは巨大な瞳だった。大きな瞳の《No.》。《No.11 ビッグ・アイ》、これが瑞鳳さんの《No.》か。

 

(でも違う……問題は効果だ。あの《No.》がどんな効果を持っているかが問題なんだ……!)

 

そうだ。見た目に圧倒されている場合ではない。早急にあの《No.》の効果を知り、対策を立てねば。

 

「No.11の効果発動」

 

と、ちょうどそのタイミングで瑞鳳さんがNo.11の効果を使用してくれた。

 

(どんな効果だ……今使うってことは、破壊効果じゃないことは確かだけど)

 

スターダストがいる以上、その行為は無駄そのものだからだ。

 

そして瑞鳳さんは、ニヤリと笑って高らかに宣言した。

 

「オーバーレイユニットを一つ取り除き、相手モンスター一体のコントロールを得る。対象は当然ーー《スターダスト・ドラゴン》!!」

 

「何っ……!?」

 

スターダストのコントロールが瑞鳳さんに移る。一気に私のフィールドの守りが消え、残ったのは守備表示のカレイドスコーピオンと一枚の伏せカードだけだ。

 

これは、非常にまずい。

 

(どうする……)

 

この後の展開を頭をフル回転させて予測する。私のライフはたったの600。一手のミスも許されない。

 

(どうするっ!?)

 

必死に考える私を見ながら、ニヤニヤ笑いの瑞鳳さんは甘い声で言った。

 

「どうするぅ?」




【EM】vs【幻獣機】です。
《スウィッチヒーロー》は【幻獣機】と相性いい気がします。トークンの数を調整しやすいので。

《No.11 ビッグ・アイ》、前回の《No.61 ヴォルカザウルス》に続き汎用性の高いカードです。よくお世話になってます。

次回、瑞鳳戦後半。

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