駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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《スターダスト・ドラゴン》の利点の一つはサポートカードが豊富な言ですね。


星屑の一撃

とはいえ。

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

《一時休戦》の効果もあるし、今はまだ攻めに出るべきタイミングではない。

 

「《スターダスト・ドラゴン》……聞いたことないモンスターね?」

 

「それはお互い様だろう? あなたたちが《No.》を使うように、私も私で()()()()()()()を使うってことさ」

 

チラリ、と司令官の方を見る。と、何やら手を口元で組んで鋭い目つきでこちらを見ている。観察されている、と私の本能が告げていた。

 

しかし、今はデュエル中。説明は後回しにさせてもらおう。

 

「俄然、面白くなってきたわね。私のターン、ドローよ」

 

ドローカードを見、数瞬何かを考えた様子の扶桑さん。そして、小さく微笑んでから言った。

 

「そのカードの効果はわからないけれど……いいわ、罠なら踏み越えて行きましょう。《No.61 ヴォルカザウルス》の効果発動。オーバーレイユニットを一つ取り除き、相手モンスターを破壊、その攻撃力分のダメージを与えるわ」

 

その効果は、二度目は通らない。

 

「スターダストの効果発動! カードを破壊する効果が発動した時、このカードをリリースすることでその発動を無効にし、破壊する!」

 

「! 破壊耐性ぐらいはあるかと思ったけれど……まさか破壊されるとはね……」

 

扶桑さんの表情から余裕が消える。逆に私が小さく笑って、挑発するように言った。

 

「No.61は破壊させてもらったよ。……まさか、これで手詰まりなんてことはないよね?」

 

「それこそまさかね。速攻魔法《エクシーズ・ダブル・バック》発動! 自分のエクシーズモンスターが破壊されたターン、自分フィールドにモンスターが存在しない時、破壊されたエクシーズモンスターと、その攻撃力以下のモンスター一体を特殊召喚する! よみがえりなさい、《No.61 ヴォルカザウルス》、《紅貴士(エーデルリッター)ーヴァンパイア・ブラム》!!」

 

総攻撃力は5000。私の残りライフは3100だ。

 

「バトルよ、ブラムでダイレクトアタック! この瞬間、《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》の効果が発動、フィールド上のアンデット族モンスターは、ダメージ計算時のみ攻撃力が500上がるわ」

 

「くっ、うぁああああ!!」

 

響:LP3100→100

 

ブラムの発した衝撃によって吹き飛ばされ、数回のバウンドの末提督執務机に激突した。

 

「かはっ、っぐぅ……!」

 

空気をまとめて叩き出された肺に酸素を戻すべく大きく息を吸う。そうして多少の冷静さが戻った頭で、様々なことを考える。

 

(金剛さんや司令官は、大丈夫かな……?)

 

金剛さんは……倒れたままだ。どうやら気絶状態から未だ復活できていないらしい。

 

司令官は、

 

「大丈夫か、響?」

 

頭上から声。どうやら無事らしい。なら無様な姿を見せるわけにはいかない。

 

「大丈夫さ……まだやれる……!」

 

机のふちに手をかけて体を持ち上げ、なんとか二本の足で立つ。そうだ、まだやれる。可能性が消えたわけじゃない。

 

そんな私を見て、扶桑さんは小さく溜息を吐いた。

 

「そう……あなたはそういう選択をするのね、響さん。なら、せめて戦いの中で散らせてあげるわ。No.61でダイレクトアタックよ」

 

No.61がこちらに向かって炎を吐く。

 

しかし。

 

「罠カード《星墜つる地に立つ閃こう(スターダスト・リ・スパーク)》!!」

 

炎は見えない壁で阻まれた。

 

「相手モンスターの直接攻撃宣言時、その攻撃力が私のライフを上回っているのなら、その攻撃を無効にし、カードを一枚ドローする。その後、墓地かエクストラデッキから《スターダスト》モンスター一体を特殊召喚する! よみがえれ、《スターダスト・ドラゴン》!!」

 

「っ、しぶといわね……」

 

扶桑さんの顔に小さな焦りが浮かぶ。それと反比例するように、私はニヤリとした笑いを浮かべていく。

 

「そう簡単にはやられないさ。むしろ、ここからが本番だろう?」

 

「………………そうね」

 

それを受けて、扶桑さんも口元を小さく歪めた。その表情に嫌な感覚を覚えつつも、ボロボロの余裕は崩さない。

 

「バトルフェイズを終了。そして、ランク5のブラムでオーバーレイ、一体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! 闇の都の帝王よ、新たな鎧を纏いて、今一陣の風になれ! エクシーズチェンジ! ランク7《迅雷の騎士 ガイアドラグーン》! このモンスターはランク5もしくは6のモンスターの上に重ねる形でエクシーズ召喚することができるわ。私はこれでターンエンドよ」

 

No.61は《エクシーズ・ダブル・バック》の効果で破壊される。だが、次のターンになれば何かしらの方法で再びNo.61を呼び出されてしまう可能性もある。

 

何としても、次のターンで勝たなくては。

 

「私のターン、ドロー!」

 

ドローカードを確認。いいカードだ。だが、扶桑さんのフィールドには一枚の伏せカードがある。

 

(あのカード次第では少々厳しいかもだけど……構わない、一気に攻める!)

 

「魔法カード《フォース》を発動! フィールドのモンスター二体を選択し、片方の攻撃力を半減、その数値分もう片方の攻撃力を上げる! ガイアドラグーンの攻撃力を半分にし、その数値1300をスターダストに加える!」

 

2500+1300で、スターダストの攻撃力は3800。扶桑さんの残りライフと同じだ。

 

あとは手札のカードを発動すれば、あの伏せカード次第では決められる。

 

その時だった。

 

「……………………」

 

ふと扶桑さんの方を見ると、彼女はなぜか背後ーー自分が作った壁の穴から外を見ていた。

 

……もしかして?

 

「……頃合い、かしらね」

 

私の頭の中で結論が出たあたりで、扶桑さんがそう呟いた。

 

(そうだ……そもそも、こんな場所で戦艦の主砲を撃っておいて誰も気づかないわけがない。そんなことは扶桑さんだってわかっていたはず。ということは逆にーー!)

 

それの答え合わせ、といった調子で。

 

 

「そろそろ終わらせましょうか」

 

扶桑さんが、懐から取り出した拳銃を司令官に向けていた。

 

 

「……なんのつもりだ」

 

司令官は動かない。この人に限って、恐怖で動けないなんてことはないだろうけど。

 

「私は最初に言いましたよね? 『本丸を潰す』、と。……デュエルは時の運も絡んでくる、事実私は今追い詰められているのでしょう。だからこそ、死なば諸共の精神と申しましょうか、たとえ私が敗北しようと、()()()()のためにせめて首魁だけでも潰しておこうかと」

 

「……響のデュエルを引き受けたのはそういうことか」

 

司令官が得心がいったかのように息を吐く。その理由について、私もなんとなくわかっていた。

 

つまりこの人は、多人数の前で司令官を殺そうとしているのだ。中世ヨーロッパの断頭台のように。私のデュエルを受けたのも、その前にわざわざ主砲で壁を破壊したのも、全ては『観客』を集めるためだろう。

 

トップを失えば、たいていの組織は団結力が大きく削がれる。その間に一気にこの鎮守府を潰そうと目論んでいるのだろう。そしてそのためには、今ここで自分が敗北してしまうことすら厭わない。本能的に、衝動的に暴れているとは思えないほどだ。

 

(宿主が扶桑さんだからそこまでの知性を得たのか、あるいは……)

 

あるいは、

 

(……《No.》にも、()()()()()……?)

 

背筋に嫌な感覚が走る。怪談噺のオチを知った時のような、なんとも言えない不快感。

 

「さあ、どうします? ターンエンドでも、構わないわよ?」

 

扶桑さんの言葉で現実に引き戻される。そうだ、まだ私のターンだ。

 

「私は……」

 

「ねえ、響さん」

 

扶桑さんが狙いをぴったり司令官に合わせた状態で言う。

 

「私と取引すると言うのは、どうかしら?」

 

「取引……?」

 

「そう。もしここであなたが攻撃せずにターンエンドしてくれるのなら、私はこの銃を下ろします。逆に、もし攻撃してきたら、私は引き金を引きます。……どう? 素敵でしょう?」

 

「っ!!」

 

つまり、見逃せと。そう言いたいのか。

 

(ここでターンを渡せば、私は負ける。《フォース》の効果はエンドフェイズまでだから、ガイアドラグーンでスターダストを攻撃されたら私の負けだ)

 

ガイアドラグーンとスターダストの元々の攻撃力は、ガイアドラグーンのほうが100上だ。私の残りライフも、僅か100。

 

(どうする……)

 

どうする。

 

(どうする……!?)

 

「迷うな」

 

え、と口から漏れた。そんな私の頭に、司令官が手を乗せた。

 

「私を信じろ。君はただ、前を見ていてくれ」

 

「司令官……」

 

「返事は?」

 

「っ、はい!」

 

頭から重量が消える。それと同時に胸の中にあったプレッシャーも霧散した。

 

(司令官が信じろといったんだ。なら私は信じる。司令官なら、きっとどうにかなる!)

 

「バトルだ、スターダストでガイアドラグーンを攻撃!」

 

その宣言に、扶桑さんは眉ひとつ動かさなかった。

 

「そう。それならこうするだけね」

 

そうして、引き金が引かれた。ダァン! と火薬の炸裂する音が部屋の中に響いた。

 

 

ただしそれは。

 

「なっ、あ……?」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………………………」

 

気絶した()()()()()()()金剛さんの放った弾丸は、扶桑さんの持っていた拳銃の側面にあたり、その衝撃で拳銃は扶桑さんの手から離れていた。

 

「く、う……!」

 

音速の弾丸で握っていた拳銃を弾かれた扶桑さんが、右腕を押さえてうずくまる。今が好機とみて、手札のカードを発動しようとする、

 

「罠カード発動、《バトル・ブレイク》!!」

 

その直前で、扶桑さんがカードを発動した。

 

「相手モンスターの攻撃宣言時、そのモンスターを破壊し、バトルフェイズを終了する! ただし、相手は手札のモンスターを見せることでこれを無効にできるわ……」

 

「……私の手札は、モンスターカードではない」

 

「なら、」

 

「だけど! スターダストの効果発動! 自身をリリースして、カードの破壊を無効にする!」

 

私のフィールドから、スターダストが姿を消す。これで《バトル・ブレイク》の効果は無効になり、バトルフェイズも終了されない。

 

「いいのかしら? スターダストが消えてしまった以上、貴女はもうどすることもーー」

 

「ーーそれはどうかな?」

 

ニヤリと笑って言う。そう、まだ終わっていない。

 

「墓地の《シューティング・ソニック》の効果発動! 自分の《スターダスト》シンクロモンスターが自身をリリースして効果を発動する時、代わりに墓地のこのカードを除外できる!」

 

私のフィールドにスターダストが戻ってくる。あとは、トドメを刺すだけだ。

 

「バトル続行、スターダストで攻撃! この瞬間、手札から速攻魔法《死者への供物》発動! 次の自分のドローフェイズをスキップする代わりに、表側表示のモンスター一体を破壊する! 対象は当然、ガイアドラグーン!!」

 

「なーー!」

 

「終わりだよ、扶桑さん。スターダストで、ダイレクトアタックッ!!」

 

扶桑:LP3800→0

 

 

 

 

終わった。その安心感からか、一気に足から力が抜け、床に座り込んでしまう。そんな私に、横から手が差し伸べられた。

 

「お疲れさまデース、響」

 

「金剛さん……いつから意識が戻っていたんだい?」

 

「最初からネ。というか、そもそも気絶なんてしてないヨ。あんなんで気絶してたら、艦娘やっていけないヨ」

 

言って、楽しそうに笑う金剛さん。私の心労を返して欲しい。敵を欺くにはまず味方から、ということか?

 

「扶桑さんはどうなるんだい?」

 

「とりあえずは入渠ドックに放り込んでおこう。手首の損傷は小破にも至っていないだろうしな」

 

私が聞いたのはそういう意味ではなかったのだが、その返答が来たということは逆に反逆罪に問われる可能性とかはないととっていいのだろうか。

 

……いいのだろう、多分。

 

「で、だ」

 

司令官が改まった様子で口を開く。ふと見ると、金剛さんもこちらをみていた。

 

おそらく、あのことだろう。

 

「《スターダスト・ドラゴン》、及び《星墜つる地に立つ閃こう(スターダスト・リ・スパーク)》、《シューティング・ソニック》。これらについて、じっくり聞かせてもらおうか?」

 

「そうネー。私もあのカードは初めて見ましタ。どうやって手に入れたんデース?」

 

二人からの突き刺すような視線を受けて、私は苦笑いしながら答えた。

 

「…………カードは拾った、じゃ、ダメかな?」




【ヴァンパイア】vs【EM魔術師】でした。デッキしょうかーい。

【ヴァンパイア】は割とスタンダードなタイプです。ゲーム本編では運の値が低い扶桑さんですが、リクルーターを多く詰めるこのデッキなら人並みに回せるんじゃないかなー、と。【ガスタ】なんかも候補でした。
《No.61 ヴォルカザウルス》はランク5を何度もエクシーズ召喚できるこのデッキと相性抜群ですね。

【EM魔術師】。今回は《EM》を多めに使っています。
今話の主役の《スターダスト・ドラゴン》、攻守にわたって活躍してくれました。ちなみに終盤の《シューティング・ソニック》は二度目の《EM スライハンド・マジシャン》の効果で墓地に送ったカードです。説明不足ですまない。

次回、小休止。

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