駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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【魔術師】強化の情報にテンション上がりっぱなしでございます。


希望を掴め

「まずはこのスタンバイフェイズ、《精霊獣 カンナホーク》の効果で除外していた《霊獣使い レラ》が手札に加わるわ」

 

これで叢雲さんの手札は五枚。一応そのうちの二枚はわかっているが、決して安心感はない。

 

(あの五枚のうち一枚は《セフィラの神託》……《セフィラ》モンスターを無制限でサーチできるあのカードは特に警戒しなきゃな)

 

さて、何から動くのか。

 

「私は魔法カード《影依融合(シャドール・フュージョン)》を発動。手札、フィールドから素材となるモンスターを墓地に送り、融合召喚を行う。ただし、相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターがいる場合はデッキのモンスターも素材にできるわ」

 

「エクストラデッキから? ……あ、《竜脈の魔術師》……!」

 

エクストラデッキからペンデュラム召喚したペンデュラムモンスターも、当然ながら『エクストラデッキから特殊召喚されたモンスター』だ。

 

(しまった、融合、シンクロ、エクシーズをしなければいいものだと勝手に思い込んでいた……まずいな)

 

「私はデッキの《シャドール・ヘッジホッグ》と炎属性《炎獣の影霊衣(ネクロス)ーセフィラエグザ》を融合! 生命の樹、第二の実は影。灼熱宿りし闇の傀儡、その業火で歯向かう力を圧倒せよ! 融合召喚! 現れよ、レベル7《エルシャドール・エグリスタ》!」

 

溶岩の塊のような見た目をしたエグリスタが叢雲さんのフィールドに現れる。どこか《No.58 炎圧鬼 バーナー・バイザー》を彷彿とさせるが、当然あれのような目眩がするほどの熱気はない。

 

「ヘッジホッグがカードの効果で墓地に行った時、デッキから《シャドール》一体を手札に加えることができる。《イェシャドールーセフィラナーガ》を手札に加える」

 

「《影霊衣》に《シャドール》の【セフィラ】……これで一通り出たかな?」

 

「あら、それはどうかしらね? 《霊獣使い レラ》を召喚し効果発動、召喚成功時、墓地の《霊獣》一体を特殊召喚する。《精霊獣 カンナホーク》を特殊召喚し、その効果も発動。デッキの《霊獣》を除外し、二ターン後のスタンバイフェイズに手札に加える。《英霊獣使いーセフィラムピリカ》を除外!」

 

どうやら一テーマにつき一体ではないようだ。

 

(よくみたら、セフィラムピリカはスケール1、おなじ《霊獣》の《影霊獣使いーセフィラウェンディ》はスケール7だ。他の《セフィラ》もスケールは1か7……ということは、もう一体ずついると考えた方がいいか)

 

「まだまだ行くわよ。《霊獣》は自分フィールドの《精霊獣》と《霊獣使い》を除外することで融合できる。私はフィールドのレラとカンナホークを除外し、融合! 生命の樹、第三の実は風。風の神子よ、炎の獅子を飼いならし、この戦場に現れよ! レベル6《聖霊獣騎 アペライオ》!」

 

《聖霊獣騎》と《エルシャドール》がフィールドに並ぶ。普通のデュエルならまず見ない光景だ。

 

「フィールド魔法《セフィラの神託》を発動。このカードが発動した時、デッキから《セフィラ》一体を手札に加える。《覚星輝士(アステラナイト)ーセフィラビュート》を手札に。そしてスケール1の《イェシャドールーセフィラナーガ》とスケール7の《覚星輝士ーセフィラビュート》でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

これで再びレベル2から6のモンスターがペンデュラム召喚可能となったわけだ。

 

「行くわよ、ペンデュラム召喚! エクストラデッキよりレベル3《宝竜星ーセフィラフウシ》、手札よりレベル3《影霊獣使いーセフィラウェンディ》! フウシの効果発動、このカードがペンデュラム召喚された時、自分の《竜星》か《セフィラ》をチューナーにする。ウェンディをチューナーにする!」

 

「チューナー……まさか!」

 

「そのまさかよ。私はレベル4の《星因士(サテラナイト) シャム》にレベル3チューナー、ウェンディをチューニング! 生命の樹、第四の実は地。悪鬼羅刹の竜の子、この戦場に現れ、その欲望を解放せよ! シンクロ召喚! 現れよ、レベル7《邪竜星ーガイザー》!」

 

禍々しい口上と共に、漆黒のーー今は無色だがーー竜が現れる。

 

(《邪竜星ーガイザー》……対象を取る効果への耐性と《竜星》一体を巻き込んだ単体除去効果……厄介だ)

 

「《セフィラの神託》の効果発動。《セフィラ》を使用してシンクロ召喚した時、デッキのモンスター一体をデッキトップに置く。《秘竜星ーセフィラシウゴ》を置く。そしてガイザーの効果ーー!」

 

「厄介だけど、対処できないわけじゃない。速攻魔法《ディメンション・マジック》! 自分の魔法使い族をリリースし、手札から魔法使い族を特殊召喚する。その後、フィールドのモンスター一体を破壊できる!」

 

「っ! 《ディメンション・マジック》は対象をとらない……!」

 

「そうだよ。私は《竜脈の魔術師》をリリースし、《降竜の魔術師》を特殊召喚! そしてガイザーを破壊する!」

 

対象を取る効果に耐性があるモンスターは、対象をとらないカードで破壊すればいい。先のターンに《賤竜の魔術師》のペンデュラム効果で《降竜の魔術師》を手札に加えたのはそのためだ。

 

(ここぞというタイミングまで待ってよかった……)

 

しかし、そこで叢雲さんの目がスッと細まった。

 

「……なんてね。読んでたわよ、そのカード。この瞬間、《邪竜星ーガイザー》と墓地の《光竜星ーリフン》の効果を発動。ガイザーが破壊された時、デッキの幻竜族一体を特殊召喚できる。さらに、リフンは自分の《竜星》が破壊された時に墓地から特殊召喚できる。デッキから《風竜星ーホロウ》、墓地からリフンを特殊召喚!」

 

「! 何!?」

 

(織り込み済み……!?)

 

モンスターを破壊したはずなのに、むしろ結果的には増えてしまっている。それにリフンはチューナーだ。

 

「行くわよ。レベル3のフウシ、レベル1のホロウにレベル1チューナーのリフンをチューニング! 生命の樹、第四の実は地。存在を秘められし竜の子よ、この戦場にて、存分に力を示せ! シンクロ召喚! 現れよ、レベル5《源竜星ーボウテンコウ》!」

 

ガイザーに変わって出されたシンクロモンスターは、守備表示だった。攻撃力は0のようなので、それは妥当か。

 

「ボウテンコウの効果発動。このカードが特殊召喚に成功した時、デッキから《竜星》カード一枚を手札に加える。《竜星の九支》を手札に加える。……バトルよ、《聖霊獣騎 アペライオ》で《降竜の魔術師》に攻撃!」

 

「っ……」

 

響:LP3900→3700

 

「さらに《エルシャドール・エグリスタ》でダイレクトアタック!」

 

エグリスタの攻撃力は2450。これを受けると一気に私の敗北へと近づいてしまう。

 

だが、

 

「ライフで受ける!」

 

「何っ……!」

 

響:LP3700→1250

 

「くっ、う……!」

 

「アンタ……私のリバースカードが何かわかっているはずでしょう!? なんでそんな……!」

 

「罠カード発動、《裁きの天秤》!」

 

叢雲さんの言葉を遮ってカードを発動する。エグリスタの攻撃時に発動しなかった理由は簡単だ、このカードは戦闘ダメージを防ぐようなカードではないからだ。

 

「私の手札及びフィールドのカードの合計が相手フィールドのカードの枚数を下回っている場合に発動できる。その差の分ドローできる!」

 

「差の分……私のフィールドには、アペライオ、エグリスタ、ボウテンコウ、《セフィラの神託》、ペンデュラムスケールに《イェシャドールーセフィラナーガ》、《覚星因子ーセフィラビュート》、伏せカードが一枚で七枚、アンタは……」

 

「私は、手札がゼロ、フィールドにはペンデュラムスケールの《賤竜の魔術師》と《貴竜の魔術師》、そして今発動した《裁きの天秤》で合計三枚。よって四枚ドローだ」

 

「でも、だからどうしたっていうのよ。罠カード《リビングデッドの呼び声》発動、《星因士 シャム》を特殊召喚! そしてシャムがフィールドに出た時、相手に1000のダメージを与える!」

 

私の残りライフは1250。この効果ダメージが通り、シャムのダイレクトアタックも通れば私のライフは尽きる。

 

通れば、だが。

 

「手札の《ライフ・コーディネイター》の効果発動。効果ダメージが発生した時、手札のこのカードを墓地に送ることでそれを無効にし破壊する。シャムを破壊!」

 

「! 躱したわね……私はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

「私のターン、ドロー!」

 

私にとって四度目のドローフェイズ。カードをドローしながらも、内心では冷や汗をかいていた。

 

(危なかった……叢雲さんが素直にガイザーとかを特殊召喚してダイレクトアタックしていたら、敗北していた……)

 

暁の《黒炎弾》対策として一枚だけ入れておいてよかった。

 

(さて……私のターンになった以上、攻めていきたいんだけど……)

 

そう思い手札を見る。十分攻勢に出れる手札だ。しかし、そうするには一つ懸念がある。

 

(さっきの『声』……あれをまた押さえ込まなくっちゃいけない。正直不安だ……)

 

だがこのターンで何かせねば、敗北は確実だ。

 

(……ええい、儘よ……!)

 

「ペンデュラム召喚! 現れろ、私のモンスターたち! エクストラデッキからレベル4《竜脈の魔術師》、《EM シルバー・クロウ》、手札からレベル4《EM ウィップ・バイパー》!」

 

しかし。

 

『…………………………』

 

『声』はしなかった。若干拍子抜けな気もするが、これは好機ととらえるべきだろう。

 

「魔法カード《エンタメ・バンド・ハリケーン》発動、自分フィールドの《EM》の数まで相手フィールドのカードを手札に戻す。私のフィールドには二体の《EM》、よって叢雲さんのフィールドのその伏せカードと《エルシャドール・エグリスタ》を手札に戻してもらう!」

 

もっとも、エグリスタが行くのは手札ではなくエクストラデッキだが。

 

「っ、させない、カウンター罠《竜星の九支》発動! 魔法、罠、モンスター効果のいずれかが発動した時、それを無効にしそのカードをデッキに戻す! エグリスタを戻させはしないわ!」

 

「…………」

 

無効にされたバンド・ハリケーンがデッキに戻る。エグリスタの除去には失敗したわけだ。

 

だが……

 

「《竜星の九支》は自分の《竜星》を破壊するデメリットがある。この効果でボウテンコウを破壊する。けど、ボウテンコウはフィールドを離れた場合にデッキから《竜星》を特殊召喚できるわ。《秘竜星ーセフィラシウゴ》を特殊召喚……何よ、何か言いたげね?」

 

「いや、何も……ああ、そうだね、一つ言うとしたら……かかったね?」

 

「かかった……? どういうことよ?」

 

「そのままの意味だよ。貴女が《ディメンション・マジック》の存在を読んだように、私も《竜星の九支》の効果を相手の行動を阻害するものだと睨んだのさ」

 

そう。これで叢雲さんのフィールドに伏せカードはない。

 

「《賤竜の魔術師》のペンデュラム効果発動。エクストラデッキの《魔術師》か《オッドアイズ》を手札に戻す。《降竜の魔術師》を手札に。そしてこれを除外して魔法カード《七星の宝刀》発動! 手札かフィールドのレベル7のモンスターを除外することで二枚ドローする!」

 

「……《エンタメ・バンド・ハリケーン》は囮だったってわけね」

 

叢雲さんはそういうが、別に通ってくれても良かった。それならそれでエグリスタがフィールドから消えるわけだから。

 

(……いや、でもこのカードなら……!)

 

「速攻魔法《融合解除》発動! フィールドの融合モンスター一体をエクストラデッキに戻し、その素材となったモンスターを墓地から特殊召喚する。エグリスタをエクストラデッキに戻してもらうよ。……ただし、融合素材となったモンスターが私の墓地にいない場合、特殊召喚はされないけどね」

 

「《エルシャドール》の効果はデッキバウンスでは発動しない。うまいこと処理されてしまったわね」

 

叢雲さんの言う《エルシャドール》の効果とは墓地に送られた場合の効果のことだろう。《エルシャドール》は墓地に送られた場合、墓地の《シャドール》の魔法、もしくは罠を手札に加える効果がある。もちろん《影依融合》もその対象だ。再度あのカードを使わせるわけにはいかない。

 

「ウィップ・バイパーの効果発動。モンスター一体の攻守をエンドフェイズまで入れ替える。《聖霊獣騎 アペライオ》を対象としてこの効果を発動する」

 

アペライオの守備力はたったの400。私のフィールドのモンスターなら誰でも容易に戦闘破壊できる。

 

「バトルだ、シルバー・クロウでアペライオに攻撃! この時、私のフィールドのすべての《EM》の攻撃力は300上がる!」

 

「じゃあアペライオの効果を発動。このカードをエクストラデッキに戻すことで、自分の除外されている《精霊獣》と《霊獣使い》を一体ずつ守備表示で特殊召喚するわ。来なさい、《精霊獣 カンナホーク》、《英霊獣使いーセフィラムピリカ》!」

 

ステータスの変化したアペライオがフィールドから消え、代わりに壁となるモンスターが二体叢雲さんのフィールドに並んだ。除外版《融合解除》といったところだろうか。

 

「ならシルバー・クロウでカンナホークを、ウィップ・バイパーでセフィラムピリカをそれぞれ攻撃!」

 

「っ、この瞬間、墓地の《炎獣の影霊衣ーセフィラエグザ》の効果が発動。自分の《影霊衣》か《セフィラ》が破壊された時、自身を特殊召喚する!」

 

セフィラエグザの攻撃力は2000ある。《竜脈の魔術師》ではわずか200足りない。

 

しかし、手札のあるカードをちらりと見る。

 

(()()()()()……発動条件を満たすためには、《竜脈の魔術師》を自爆特攻させなくちゃいけない。でも……)

 

考える。自分が叢雲さんなら、次のターン、どんな手に出るか。叢雲さんならーー

 

「……バトルフェイズを終了、カードを二枚伏せてターンエンドだ」

 

一つの結論を見出し、ターンを終了する。

 

「私のターン、ドロー! ……来た! チューナーモンスター《シャドール・ファルコン》を召喚!」

 

ドローしたカードをそのまま召喚する叢雲さん。《シャドール・ファルコン》、レベル2のチューナーモンスターだ。

 

「行くわ、私はレベル6の《秘竜星ーセフィラシウゴ》にレベル2の《シャドール・ファルコン》をチューニング!!」

 

それは先ほどまでとは違う、一層気合の入った宣言だった。

 

そして叢雲さんのエクストラデッキから一枚のカードが出てくる。それを掴み、横目で確認した叢雲さんは、

 

「……くっ!」

 

苦い表情を浮かべながらそのカードをフィールドに出した。

 

「生命の樹、第四の実は地! 水辺に宿りし竜の子よ、その聖なる力でこの戦場を浄化せよ! シンクロ召喚! 現れよ、レベル8《輝竜星ーショウフク》!」

 

(……なんだか、叢雲さんの様子がおかしいな……)

 

まるで自分の望んだカードではなかったかのようだ。しかし、そのカードはもともと自分のデッキに入っていたもののはず。

 

(いや、違う……そもそも、このデュエルの目的は勝敗を決めることじゃない。私を帰還させるための『特別なカード』を生み出すことだ。ということは、叢雲さんは()()()()()()()()()()()()()()()()()を呼び出そうとしたのか……?)

 

可能性としては十分あり得る。そもそも例の深海棲艦がここから脱出した時に使ったカードを、叢雲さんは一度も『エクシーズモンスターだ』とは言っていない。

 

すなわち、その深海棲艦が使ったのもシンクロモンスターという可能性が高い。それも、今回だけ気合が入っていたということはレベル8のシンクロモンスターなのだろう。

 

「……ショウフクの効果発動。このカードがシンクロ召喚された時、素材に使用した幻竜族モンスターの元々の属性の数だけ、相手のカードをデッキに戻せるわ。右側の伏せカードを戻す」

 

対象にされたカードは《幻獣の角》。チェーン発動するメリットもない。

 

「さらに、セッティング済みのペンデュラムスケールでペンデュラム召喚! エクストラデッキより現れなさい、レベル3《英霊獣使いーセフィラムピリカ》、《影霊獣使いーセフィラウェンディ》! そしてピリカがペンデュラム召喚された時、墓地の《霊獣》か《セフィラ》を特殊召喚できる。よみがえれ、《竜星因士(イーサテラナイト)ーセフィラツバーン》!」

 

叢雲さんのフィールドをモンスターが埋め尽くすが、その中で私のフィールドのモンスターの攻撃力を超える攻撃力を持つのはショウフクとセフィラエグザだけ。しかもセフィラエグザはウィップ・バイパーの効果を使えばその攻撃力を半分にされてしまう。

 

(でもそんなことは叢雲さんだってわかっているはず。だから多分、あの最後の手札は……)

 

答え合わせはすぐだった。

 

「そして私は、儀式魔法《影霊衣の反魂術》を発動! 手札及びフィールドからモンスターをリリースし、墓地の《影霊衣》を儀式召喚する!」

 

(……やっぱりそのカードか。確か、叢雲さんの墓地には《ブリューナクの影霊衣》がいたはず。あのモンスターのレベルは6だから、レベル3のセフィラムピリカとセフィラウェンディをリリースすれば儀式召喚が可能だ)

 

しかし、叢雲さんは私の予想とは違う行動に出た。

 

「私はレベル3のピリカとウェンディ、それにレベル4のツバーンをリリース。生命の樹、第五の実は水。究極兵器の骸を纏い、この戦場を我武者羅に蹂躙せよ! 儀式召喚! よみがえれ、レベル10《ディサイシブの影霊衣》!!」

 

「! ディサイシブ……!? そんなのいつ……最初のターンの《手札抹殺》かい?」

 

「違うわ。《星輝士(ステラナイト) トライヴェール》をエクシーズ召喚した時の《セフィラの神託》の効果よ」

 

《セフィラの神託》の効果というと、《セフィラ》を使用したエクシーズ召喚に成功した時に一枚ドローし手札を一枚捨てる、だったか。手札を捨てるデメリット効果を逆手に取るとは、抜け目ない人だ。

 

「《セフィラの神託》の効果発動。自分が《セフィラ》をリリースして儀式召喚に成功した時、相手のモンスター一体をデッキに戻す。ウィップ・バイパーにはデッキに戻ってもらうわ」

 

「……ウィップ・バイパーの効果は相手ターンでも使える。セフィラエグザの攻守をエンドフェイズまで反転させるよ」

 

セフィラエグザの守備力は1000。私のフィールドの二体のモンスターはどちらも攻撃力が1800なので、セフィラエグザは脅威でなくなったと言えよう。だが、叢雲さんのフィールドには攻撃力2300のショウフク、攻撃力3300のディサイシブが存在する。

 

「ディサイシブの効果発動。一ターンに一度、相手フィールドにセットされたカードを除外できる。残ったその伏せカードも除外させてもらうわよ」

 

前のターンに伏せた二枚のカード、そのうち《幻獣の角》はすでに除去されてしまった。つまりこの伏せカードが私にとって最後の盾というわけだ。そしてこのカードは、先ほどまでは発動条件を満たしていなかった。

 

「……やっぱり。叢雲さんなら、ウィップ・バイパーの効果を使われることを読んで、私のフィールドのモンスターを除去しに来ると思ったよ」

 

「何ですって……?」

 

「こういうことさ。速攻魔法《カバーカーニバル》発動!」

 

高らかな私の宣言と同時に、軽快なリズムで踊る三頭のカバが私の前に現れた。

 

「《カバーカーニバル》……? そんなカード、入ってたかしら?」

 

「私が入れたんだよ、ついこの間ね。この効果により、私のフィールドに三体のカバートークンが特殊召喚される。カバートークンはリリースできず、フィールドに存在する限り私はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。そしてこのターン、相手はカバートークンにしか攻撃できない」

 

「! 随分とデメリットが大きいわね。戦闘ダメージを防ぐだけなら、《威嚇する咆哮》や《聖なるバリア ーミラーフォースー》の方がいいんじゃないの?」

 

叢雲さんの指摘はもっともだ。相手がカバートークンを攻撃しなかった場合、これらはリリースとエクストラデッキからの特殊召喚を封じる厄介な置物となってしまう。

 

ではなぜ私はこのカードを選んだのか。

 

「……確かに、癖の強い効果だけれど……イラストのカバートークンたちが楽しそうでね。だからデッキに入れてみたんだ」

 

それは《EM》にも通ずることだ。子供っぽいかもしれないが、気に入ったカードを活かせるようなプレイングをするのも立派な戦い方の一つだと思う。

 

「ふうん……まあいいわ、ディサイシブ、エグザ、ショウフクでカバートークンに攻撃!」

 

「っ……!」

 

「私はこれでターンエンド。さあ、アンタのターンよ、響!」

 

「ああ、私のターンーー!」

 

その時だった。

 

ズズンンンッッ!!! とひときわ大きな音とともに、地面が揺れた。

 

「「!!」」

 

私と叢雲さんの動きが固まる。このデュエルが始まる前も何度か揺れはあったが、ここまで大きなものではなかったはずだ。

 

「……もう、時間がないということかしらね」

 

「そう……かもね」

 

しかし、なぜこのタイミングで?

 

(……完全な偶然、なんだろうか? いや、でもあの『声』には自我のようなものがあった。となると、この揺れにも何か意図がある……?)

 

考えている間にも、大きな揺れが一度あった。

 

(このタイミングで起こす意味…………まさか……?)

 

私の脳裏に嫌な考えが浮かぶ。もしその通りだとしたら、なんと恐ろしいことか。

 

そして、その想像が現実のものとなってしまう。

 

「……ごめんなさい、響。大きな口を叩いておきながら、私には特別なカードを生み出すことができなかった。……でも、まだ一つだけ手があるの」

 

「まさ、か」

 

「その、まさかよ」

 

その先の言葉はすでにわかっていた。しかしそんな私を嘲笑うかのように、時間は等速に過ぎていく。

 

「《No.》を使いなさい、響。今のアンタなら、あれを呼び出せるはずよ。そして託すの、次の誰かに。アンタを倒せる誰かに!」

 

「っ、でも!」

 

「反論したい気持ちはわかるわ。でも今はそれしか方法がないの! ……幸い、アンタの鎮守府には暁や華城もいる。彼女たちなら、たとえアンタが《No.》を使ったって互角に渡り合えるはずよ!」

 

確かにそうだろう。《No.》は強力だが無敵ではない。それに私はまだまだ未熟だ、叢雲さんのいう通り暁や司令官には《No.》を使っても勝利できないだろう。

 

だが。

 

(それで、いいのか? 自分が助かるために他の誰かを犠牲にする、関係のない人々まで巻き込んで現実世界に帰還する。……それが、本当に正しいことなのか?)

 

わからない。いや、ある意味それは正しい選択なのかもしれない。私が敗れれば、次の誰かなら上手くやるかもしれない。再び《No.》の呪いを封じ込めることができるかもしれない。

 

だが、そんな仮定の話は果たして現実となるのだろうか。もしならなかったら? その時、あの鎮守府はどうなる? もし暁が《No.》の呪いにとりつかれたら? 誰がそれを食い止められる?

 

(……どうしろっていうんだ。《No.》を使って帰還しなかったら、この場所がどうなるかわからない。でも戻ったら戻ったで、あの鎮守府がどうなるかわからない。最低な二択だ……)

 

なまじこうして叢雲さんと交流を持ってしまったが故に、よりこの選択が苦痛となる。

 

そこでふと、ある考えが浮かんだ。

 

(……もし、司令官や暁なら……こういう時、どうするんだろうか。こういう場面で、どんな選択をするんだろう……)

 

無色の空を見ながら思う。もし、彼女たちなら…………。

 

…………………………………………………………彼女たちなら?

 

…………………………いや。

 

(…………違う)

 

………私ならーー!!

 

「私のターン、ドローッ!」

 

中断されていたデュエルを再開する。私のフィールドにはレベル4の《EM シルバー・クロウ》と《竜脈の魔術師》が存在する。

 

「……いいわ。来なさい、響」

 

覚悟を決めたような表情で言う叢雲さん。

 

しかし。

 

「私はフィールドのシルバー・クロウと竜脈をリリースしーー《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をアドバンス召喚する!!」

 

「なっーー!?」

 

私の行動に驚きが隠せない様子の叢雲さん。だがこれで終わりじゃない。

 

「さらに()()()《調律の魔術師》の効果発動! 自分のペンデュラムスケールに二枚の《魔術師》が存在する時、墓地のこのカードを特殊召喚できる。そしてこのカードが召喚、特殊召喚された時、相手のライフを400回復し、自分は400のダメージを受ける!」

 

叢雲:LP2700→3100

響:LP1250→850

 

(よし、無事に《調律の魔術師》を出すことができた……)

 

ほとんど賭けだった。《ペンデュラム・コール》の効果でデッキの中を見た際、ちょうど五枚のカードが減っていた。そのうちの一枚が《調律の魔術師》だったのだ。

 

私の精神はボロボロだったようだが、カード一枚程度ならなんとかなってよかった。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! アンタ、一体何をやってーー!」

 

困惑する叢雲さんの言葉を遮って、苦笑とともに決意を語る。

 

「……すまない。もしこれで失敗したら、今度こそ《No.》を使わせてもらう。でも……」

 

グッと拳を握り、表情を引き締めて言う。

 

「たとえわずかな可能性だったとしても、もしも全員が救われる選択肢があるのなら、私は迷わずそれを選ぶよ。……もう決して、誰も失いたくないからね」

 

「どういう……!?」

 

「こういうことさ。私はレベル7の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》にレベル1チューナー《調律の魔術師》をチューニングッ!」

 

そう。まだ選択肢はある。この世界から帰還できる可能性のあるカードは、何も《No.》だけではない。

 

瞬間ーー視界が完全なる白に染められた後、元に戻った直後にエクストラデッキから一枚のカードが出てくる。そのカードはーー

 

 

「星屑の竜よ、暗雲を裂いて、果ての青空より降臨せよ! シンクロ召喚! 現れよ、レベル8ーー《スターダスト・ドラゴン》ッ!!」

 

 

ーー純白のドラゴンが、私のフィールドに舞い降りた。

 

「スター、ダスト……?」

 

叢雲さんの惚けたような声が聞こえる。無理もない。私だってこのモンスターは初めて見た。

 

変化は次の瞬間から起きていた。バギッ!! と言う音とともに『ヒビ』が広がったのだ。その中には、きちんと色のある世界が広がっていた。

 

「……信じられない。まさか、本当に呼び出すなんて……」

 

「……正直、私も同感だよ。叢雲さんの話を聞いた時から、もしかしたらと思っていたんだけど……」

 

とにもかくにも、現実世界への扉は開かれた。後はここを通るだけだ。

 

「改めてありがとう、叢雲さん。色々な話を聞けて、嬉しかったよ」

 

「……それなら良かったわ。『あっち』でも、上手くやりなさいよ」

 

気づけば周囲の立体映像は消えていた。『ヒビ』が広がったことで、デュエルは強制終了されたのだろう。

 

「それじゃあ、いつかまた。ダスビダーニャ」

 

「ええ。……あ、ちょっと待ちなさい」

 

「? なんだい?」

 

「これ、持って行きなさい」

 

そう言って渡されたのは、一枚の真っ白なカード。

 

「きっと役に立つ時が来るわ。……それじゃあね」

 

「……ありがとう。いつかまた、私の成長した姿を見せられると信じているよ。それじゃあ、また」

 

言って、片手を上げて『ヒビ』の中へと進んでいった。

 

『……頑張りなさい、響』

 

最後にその言葉を聞いて、私の意識はゆっくりと沈んでいった。

 

 

 

 

「…………ん」

 

まぶたを開ける。照明が眩しい。目に入った天井は、いつもの鎮守府のものだ。

 

つまり、ちゃんと元の世界に戻ってこれたと言うことだろう。

 

(……正直、半信半疑だったけれど……叢雲さんの予想は正しかったみたいだね)

 

体を起こし、軽く周囲を見回す。どうやら鎮守府の廊下のようだ。思い返してみれば、菊月と戦った後、《No.》に飲まれたのもこの辺りだった気がする。

 

ちなみに、服も元の入院着に戻っていた。

 

「……さて、それじゃあ」

 

スッと首をある方向に向ける。そちらには、二人の艦娘がいた。

 

方や金剛型戦艦一番艦『金剛』。

 

方や睦月型駆逐艦八番艦『長月』。どちらもデュエルディスクを構えている。

 

……状況を考えたら、ある意味最善の判断だろう。

 

「……どうしたものかな、これは」




響さんの新たな切り札、《スターダスト・ドラゴン》。ちょっと後半駆け足だったかな、と反省です。
ということでデッキ解説のコーナー。

響さんはいつもの【オッドアイズ魔術師EM】。順番に意味はございません。最近【魔術師】要素が強くなってきてるので、その辺も調節していかねば。でもとんでもない強化きちゃったしなあ、【魔術師】。

叢雲さんは【セフィラ】。《セフィラの神意》はこのデュエルの流れを作った時には発表されてなかったので不採用です。
まさかの全盛り。現実だとまあ扱うのは難しいでしょうねえ。《テラナイト》と《シャドール》をメインエンジンにしつつ、《竜星》で盤面を維持し、隙を見て《霊獣》や《影霊衣》で決めにかかる……相当な運命力が必要そうです。

《スターダスト・ドラゴン》、個人的に響さんのイメージにぴったりです。不死鳥の通り名にも合いますし。

次回、響、決意新たに一歩。


…………ではなく番外編ッ!!!

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