「先攻は私みたいね。私はーー」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか」
手札のカードを発動しようする叢雲さんに待ったをかけた。それを受け、叢雲さんの眉間にシワが寄る。
「……なによ、手札の引き直しはルール違反よ?」
「いや、そうじゃなくて……」
言いながら、手札のカードの本来ならイラストが書いてある方を叢雲さんに向ける。普通ならマナー違反の行為だが、
「……これは、どういうことだい?」
それらのカードは、全くの白紙であった。
「……あー、なるほどね」
それを見て叢雲さんは何かに納得したように首を振った。
「心当たりが?」
「あるわ。さっき言ったでしょう? 私たちはデュエルの中で、実際に見たことないカードを生み出したって。それで私たちはある仮説を立てたの」
「仮説」
「ええ。それは、『
「……そんな非現実的な」
「でも事実よ。……そして、その仮説が正しいとすると、その逆も考えられる。すなわち、『精神状態があまりに悪いと、デュエルにも悪影響が出る』。でも、デッキのカードが全部白紙になるなんて……アンタ、どんだけボロボロなのよ?」
「………………」
その問いに、私はひたすら黙りこくるしかなかった。言って解決するものでもないからだ。
「……まあいいわ。とりあえず今回は
そう言って叢雲さんは手札のカードの一枚をつかんだ。
「何を……?」
「魔法カード《手札抹殺》発動。……今の手札はどうにもならないけれど……」
パチン、と一度指を鳴らした叢雲さん。その直後、私のデッキが淡く光った……気がした。
「とりあえずはこれでどうにかなったかしらね。引いてみなさい」
言われた通り手札を全て墓地に送り、新たに五枚ドローする。そのカードたちはーー無色だという点を除けばーー元どおり、普通のカードになっていた。
「ハラショー……ありがとう、叢雲さん」
「別にいいわ。それよりデュエルを続けましょう。……まずは、今墓地に送られた《シャドール・ビースト》の効果を発動。カードの効果で墓地に送られた時、一枚ドローする」
「!! 【シャドール】……!」
【シャドール】。闇属性のモンスターたちで構成された融合召喚を主戦法とするデッキ。非常に強力なデッキだと、以前長月が言っていた。
(確か融合モンスター以外は全員リバースモンスターで、墓地に送られた時の効果を持っていたはず。そして……)
手札を見て、戦略を立てていく。
(もっとも警戒するべきなのは《
最低限、その点には注意しなくては。
「モンスターを裏側守備表示で召喚。カードを一枚伏せてターンエンドよ」
「私のターン、ドロー!」
ドローしたカードは、今度もちゃんとイラストと効果が書かれていた。
(リバース効果は怖いけど……ここは臆さず行こう)
「《EM シルバー・クロウ》を召喚。そしてバトルだ、シルバー・クロウで攻撃、この時、私のフィールドのすべての《EM》の攻撃力を300上げる」
これでシルバー・クロウの攻撃力は2100。大抵の下級モンスターだったら戦闘破壊できる。
だが。
「《光竜星ーリフン》の効果発動」
「!? リフン……【竜星】!?」
驚いたところで戦闘はすでに終わっている。リフンの守備力は0、戦闘破壊されたが……
「リフンが破壊された時、デッキから《竜星》一体を特殊召喚する。来なさい、《炎竜星ーシュンゲイ》!」
どうやらただの【シャドール】ではないようだ。
(【シャドール竜星】……? でも、【竜星】ってシンクロ召喚がメインのテーマのはず……《影依融合》で墓地に送るのが目的だとしても、【竜星】で墓地にあって得するのはリフンくらい。けどリフンを墓地に送ろうにも《エルシャドール・ネフィリム》は禁止カードだよね?)
「……カードを三枚セットして、ターンエンド」
叢雲さんのデッキの正体がつかめず、つい慎重になってしまう。臆さず行くと決めたところだが、こうなっては仕方ない。
しかし、叢雲さんはここで止まったりしなかった。
「私のターン、ドロー。……そうね、罠カード《リビングデッドの呼び声》を発動、墓地のモンスター一体を攻撃表示で特殊召喚するわ。よみがえれ、《精霊獣 カンナホーク》!」
「!? 【霊獣】も……!?」
「カンナホークは、一ターンに一度デッキから《霊獣》一体を除外できる。そしてそのカードは、二ターン後の自分のスタンバイフェイズに手札に加わるわ。《霊獣使い レラ》を除外!」
いけない、頭が混乱してきた。【シャドール】、【竜星】、【霊獣】。共通点が全く見えてこない。
その間にも叢雲さんのターンは進む。
「さらに手札の《ブリューナクの
「【影霊衣】まで……いや、それよりも、レベル4のモンスターが三体……!」
「あら、鋭いじゃない。行くわよ、私はレベル4のシュンゲイ、カンナホーク、大魔導士の三体で、オーバーレイ! 三体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
【竜星】、【霊獣】、【影霊衣】のいずれもエクシーズモンスターを擁していない。となると、全く別のテーマか。
(なんなんだ、叢雲さんのデッキは……本来同じデッキに入らないようなカードが入り混じっている……!)
「生命の樹、第一の実は光。夏の夜空を照らす輝き、今ここに降臨せよ! エクシーズ召喚! 現れよ、ランク4《
エクシーズ召喚されたのは、【テラナイト】のエクシーズモンスター、《星輝士 デルタテロス》。これで五つ目のテーマだ。
目を疑う光景に唖然としていると、叢雲さんが笑いながら言った。
「面白いでしょ、私のデッキ」
「確かに……でも、私には扱いきれなさそうだ」
「そうかしらね。でも、まだまだこれからよ。……まずはデルタテロスの効果発動。一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ取り除いて相手フィールドのカード一枚を破壊する。その伏せカードを破壊!」
「くっ……」
伏せられていた《ドタキャン》が破壊される。
「さあバトルよ、デルタテロスでシルバー・クロウに攻撃!」
デルタテロスの剣によって、シルバー・クロウが一瞬で切り裂かれてしまう。
「っ!」
響:LP8000→7300
とっさに顔の前で両腕をクロスし、衝撃に堪えようとする。だが、
「私はこれでターンエンド。……なにしてんのよ?」
「え? ……あっ」
少し考え、直後に思い出す。そうだ、これは《No.》とのデュエルじゃない。ダメージも実体化しないのだ。
(……結構、影響を受けてしまっているな。なるべく気をつけるようにしないと)
「失礼、私のターン、ドロー!」
叢雲さんのフィールドには、オーバーレイユニットを二つ持ったデルタテロスと、対象を失ったリビングデッドのみ。
(良いカードも引いたし、一気に攻める!)
「私はスケール1の《竜脈の魔術師》とスケール2の《降竜の魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!」
「ペンデュラム召喚が不可能な組み合わせ……ペンデュラム効果が狙い?」
「そうだよ。私は《降竜の魔術師》のペンデュラム効果発動。一ターンに一度、フィールドのモンスター一体をドラゴン族にする。デルタテロスにはドラゴン族になってもらうよ」
一見すると無意味な行動だが、私のデッキのほぼ全てを知っている叢雲さんは目を細めるだけだった。
「永続罠《連成する振動》発動。一ターンに一度、ペンデュラムスケールを破壊することで一枚ドローできる。降竜を破壊しドロー。そして新たにスケール8の《時読みの魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!」
「やっぱりあったわね、そのカード」
「便利なドローソースだからね。ペンデュラム召喚! エクストラデッキより現れよ、レベル4《EM シルバー・クロウ》、レベル7《降竜の魔術師》! そして降竜の効果発動、一ターンに一度、自身をドラゴン族にできる」
これで《降竜の魔術師》は闇属性のドラゴン族となった。
「魔法カード《融合》を発動。私はフィールドの獣族《EM シルバー・クロウ》と闇属性、ドラゴン族の《降竜の魔術師》で融合! ふた色の眼の龍よ。野生をその心に宿し、新たな姿となりて現れよ! 融合召喚! レベル8《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! バトルだ、ビーストアイズでデルタテロスに攻撃!」
ビーストアイズの攻撃力は3000。だが、
「降竜を素材にして融合召喚されたモンスターは、ドラゴン族とバトルする時その攻撃力を二倍にできる!」
「攻撃力、6000……!」
デルタテロスの攻撃力は2500。その倍以上の攻撃力を持ったビーストアイズが、シルバー・クロウのお返しだとばかりにデルタテロスに向かってブレス攻撃を放った。
叢雲:LP8000→4500
「そしてビーストアイズが相手モンスターを破壊した時」
「融合素材とした獣族モンスターの攻撃力分のダメージを受ける、でしょ。……くっ」
叢雲:LP4500→2700
一気にライフの三分の二を削り取る。このデュエルの目的は新たなカードを発現することだが、本気で来いと言われた以上こちらも手を抜くつもりはない。
(それに、きっとこの程度じゃ叢雲さんには勝てない……!)
「……この瞬間、デルタテロスの効果発動! このカードがフィールドから墓地に送られた時、手札かデッキから《テラナイト》一体を特殊召喚する。デッキから、《
「っ……。私はこれでターンエンド」
響:LP7300→6300
「私のターン、ドロー!」
ドローしたカードを見た叢雲さんは、ニッと小さく口角を上げて言った。
「それじゃあ見せてあげるわ、このデッキの真の姿を。私はフィールド魔法、《セフィラの神託》を発動する!」
「! 《セフィラの神託》……!?」
聞き覚えのないカードだ。存在するけど私が知らないだけか、それとも……
「……もしかして、そのカード……『
「あら、察しがいいじゃない。その通りよ。このデッキは、もともと使っていたデッキを失った私がこの場所で生み出した、新たなデッキ。普通同じデッキで使われることがないようなカードを使っているのも、それが理由よ」
「なるほど……」
「それじゃあデュエルの続きよ。私は《セフィラの神託》の効果発動。このカードが発動した時、デッキから《セフィラ》一体を手札に加える。《
「イーサ、テラナイト……ペンデュラムモンスター……!」
つまり、【セフィラ】はペンデュラムデッキということか。
「そして私はスケール1の《宝竜星ーセフィラフウシ》とスケール7の《影霊獣使いーセフィラウェンディ》でペンデュラムスケールをセッティング。これでレベル2から6の《セフィラ》が同時に召喚可能よ」
「《竜星》に《霊獣》……なるほど、【セフィラ】は色々なテーマの名前を持つのか」
「そういうこと。ペンデュラム召喚! 手札から現れよ、レベル4《竜星因士ーセフィラツバーン》! そしてツバーンの効果発動、このカードがペンデュラム召喚された時、自分フィールドの《セフィラ》か《テラナイト》と相手の表側表示のカードを一枚ずつ破壊する。フウシとビーストアイズを破壊!」
「っ……」
やはり3000もの攻撃力を持つビーストアイズは優先的に破壊されてしまった。そしてそれによって、私のフィールドがガラ空きになってしまう。
「アルタイルとシャムを両方とも攻撃表示に。バトルよ、二体でダイレクトアタック!」
「ならアルタイルの攻撃時、罠カード《ガード・ブロック》を発動。戦闘ダメージをゼロにし、一枚ドローする!」
だがシャムの攻撃を防ぐことはできない。
響:LP6300→4900
「残りの伏せカードはそれだったのね。まあいいわ、メインフェイズ2に移行し、レベル4のアルタイル、シャム、ツバーンの三体でオーバーレイ! 三体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
またも三体を使用してのエクシーズ召喚。おそらく《テラナイト》のエクシーズモンスターなのだろう。となると、
(まずい……多分
「生命の樹、第一の実は光。冬の夜空を飾る煌めき、今ここに降臨せよ! エクシーズ召喚! 現れよ、《星輝士 トライヴェール》!」
二体目の《テラナイト》エクシーズモンスター。このモンスターの効果はあまりに豪快だから覚えていた。
「まずは《セフィラの神託》の効果発動。自分が《セフィラ》を使用してエクシーズ召喚を行った時、一枚ドローし、その後手札を一枚捨てる。さらに《星輝士 トライヴェール》の効果発動!」
「エクシーズ召喚成功時、トライヴェール以外のすべてのカードを、持ち主の手札に戻す……!」
《竜星因士ーセフィラツバーン》の効果で永続罠のドローソースである《連成する振動》ではなくビーストアイズを破壊したのは、すべてバウンスした後で再度召喚されないためか。
「わかってるなら話が早いわ。手札に戻しなさい」
「……その前に《連成する振動》の効果発動。《竜脈の魔術師》を破壊しドロー」
しかし残りのカードはすべて手札に戻ってしまう。ただ手札に戻ったペンデュラムモンスターは再度ペンデュラムスケールにセットすればいいだけだ。
(……って、簡単に行けばいいんだけどね)
「私はトライヴェールのオーバーレイユニットを一つ取り除き、効果発動。相手の手札一枚をランダムに墓地に送るわ。そうね……その一番左のカードを墓地に送りなさい」
「っ、よりによってこのカードを……!」
墓地に送られたカードは《時読みの魔術師》。再利用は容易ではない。
「カードを一枚伏せてターンエンドよ」
「私のターン、ドロー」
時読みは墓地に行ってしまったが、まだ挽回は可能だ。
「《連成する振動》を墓地に送り魔法カード《ペンデュラム・コール》を発動。手札を一枚捨てて、デッキから《魔術師》を二枚手札に加える」
「げっ、厄介なカードを……」
元はあなたのカードではないのか、と心の中でツッコミを入れながらデッキを手にとる。そして中を見て、目当てのカードを手札に加えようとする。
(手札に加えるのは、これと…………あれ?)
しかしなぜか片方のカードが見当たらない。まだこのデュエルでは使っていないはずなのに。
そこで、一つの可能性が思い浮かんだ。
(…………まさか)
一度否定しつつもデッキの中をよく見ると、その可能性が真実である確信ができた。
(それなら……)
「私はスケール2の《賤竜の魔術師》とスケール5の《貴竜の魔術師》を手札に加える。そしてこの二枚でペンデュラムスケールをセッティング!」
「その組み合わせだと《降竜の魔術師》はペンデュラム召喚できないわよ?」
「構わない。私は賤竜のペンデュラム効果発動。反対側のスケールに《魔術師》が存在するとき、エクストラデッキの《魔術師》か《オッドアイズ》を手札に加えることができる。降竜を手札に戻す。そしてペンデュラム召喚、エクストラデッキより現れよ、レベル4《EM シルバー・クロウ》、《竜脈の魔術師》!」
瞬間ーードクン! と自分の中で何かが脈動するのを感じた。
「く、うっ……!?」
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
すぐに異変に気付いた叢雲さんが声をかけてくれる。だがそれに応えることができず、膝をついてしまった。
(なん、だ……いったい、何が起こって……!?)
その考えは口に出していないのに、答える声があった。
『ワカラヌカ?』
(!! お前は……!)
間違いない。菊月とのデュエルの後で聞こえた、あの『声』だ。
『フィールドヲミヨ。サスレバコタエガミエテクルダロウ』
(…………なるほど、レベル4が二体、と)
すなわち、《No.》をエクシーズ召喚しろ、ということか。
(《No.》は、特別な力を持つカード……エクシーズ召喚すれば、きっとこの『ヒビ』も広がるはず……)
そうすれば、脱出できる。脱出を最優先で考えるのなら取るべき選択肢だろう。
…………………。
…………………………………………。
(…………………………いや、いや違う!! これは罠だ。《No.》の罠だ! 今ここで《No.》を使って脱出してしまったら、再び現実世界に《No.》の呪いが蔓延する! それはダメだ、絶対にダメだ!!)
「バトルだ……シルバー・クロウでトライヴェールに攻撃! この時、自分の《EM》の攻撃力は300上がる!」
「相打ち……でもこの瞬間、トライヴェールの効果発動。このカードが墓地に送られた時、墓地の《テラナイト》を特殊召喚する。アルタイルを蘇生し、その効果でシャムも特殊召喚。シャムの効果でダメージを与えるわ」
「構わんさ……くっ」
響:LP4900→3900
「竜脈でアルタイルに攻撃。カードを二枚伏せてターンエンドだ」
『……ミズカラモンスターヲハカイシタカ』
(うるさい……とにかく、これで私のフィールドに同じレベルのモンスターは存在しない。早急に消えてくれ)
『フッ……マアヨイ』
その言葉を最後に、胸の中の重圧が消えた。
(でも、シルバー・クロウも竜脈もペンデュラムモンスター。次のターンにはまたペンデュラム召喚できてしまう……)
「……本当に大丈夫? デュエルを中断したほうがいいかしら?」
「大丈夫だよ……気にせず続けてくれ」
そして一刻も早く『ヒビ』を広げてほしい。私の方もいつまでもつかわからない。
(それでも、きっと叢雲さんなら……!)
期待を込めた視線を叢雲さんに向ける。それを見た叢雲さんは困ったように頭をかいたあと、デッキトップのカードに指をかけながら言った。
「……わかった。なら行くわよ、私のターン、ドロー!」
【EM魔術師】vs【セフィラ】です。【セフィラ】はなんでもできるのでデュエルの流れを作るのが非常に楽しいです。
【シャドール竜星】は手札一枚からワンキルできるとかで一時期ありましたけどね。どこぞのテントウムシが禁止カードになったせいで不可能になりましたが……。
前書きでも書いた通り、最近時間がなかなか取れず、筆が進みません。まだまだ書きたい話がいっぱいあるんですが……番外編もそろそろ入れたいですしね。
次回、新たな切り札を。