駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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この作品を書いてると色々デッキ組みたくなってきて困ります。


『狭間の鎮守府』

「……………………う、ん……?」

 

目を覚ますと、またも白い天井が目に入った。

 

(あれ……? どういう状況なんだ、これ? 私は確か、《No.》に飲まれて……というか、なにか違和感が……)

 

パチリ、と一度まばたきしてから、違和感の正体を探る。

 

まず、背中に当たる感触。以前の二回とは違う、固い感触だ。まるで床に眠らされているような。

 

そして、

 

(なんか、この天井……()()()()()()……?)

 

そうだ。何かおかしいと思ったら、今目の前にある天井と、見慣れた鎮守府の天井では、明らかに色合いが違うのだ。

 

(もしかして、鎮守府じゃない? となると、なんだ……結局どういう状況なんだこれ?)

 

考えてもさっぱりわからない。仮説は立てられても、結論には至らない。

 

取り敢えずは周りの様子を見てみようと四肢に力を込める。と、思ったよりすんなりと体は動いた。まるで《No.》に受けたダメージがなかったことになっているかのようだ。

 

 

……とか、そんなことがどうでもよくなるような光景が目の前に広がっていた。

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」

 

思わず声が出る。だがそれを認識できないほどに、私は惚けていた。

 

私が寝かされていたのは、先ほどの感想通り廊下の床だった。どこの、と言われれば、それは私が普段通る鎮守府の廊下だ。前後左右上下、どこもかしこも、見慣れた場所。私が所属する、横須賀鎮守府の廊下だった。

 

おかしいのは、その色。どこを見ても、白、白、白。と言ってもペンキで塗りつぶしたと言った感じではなく、まるで色を塗る前の塗り絵みたいな白さだった。

 

それはどうやら私自身も例外ではないようで。

 

「……なんじゃこりゃ」

 

私の肌は常日頃から自分でも白いと思っていたが、ここまでではなかったはずだ。

 

ちなみに、服もなぜか入院着からいつもの制服になっている。

 

「一体何がどうなって……」

 

「無理に考えないほうがいいわよ」

 

「うん…………っ!!??」

 

思わず後ろに飛び退いて声から距離を取る。そして改めてそちらに視線を向けると、

 

(……人? いや、艦娘……?)

 

「あー……まあ、しょうがないとは思うけれど、警戒を解いてくれないかしら」

 

その人(?)は私に対して両手を開いて見せた。どうやら本当に武器の類は持っていないようだが……

 

(……確か、司令官から狙撃を受けた時、ヲ級はどこからともなく艦載機を取り出していたはず。そうなると、いまいち信用できないな)

 

すると、私が一向に警戒心を緩めない様子に根負けしたのか、その人はため息を一度ついてから言った。

 

「……いいわ。それなら警戒したままでいいけど……せめて協力関係にはなれないかしら? その方が互いのためだと思うから」

 

「……そうするメリットは?」

 

「私はアンタから『外』の情報を得られる。アンタは私から知りたいことを教えてもらえる」

 

「知りたいこと?」

 

「ええ。アンタの鎮守府の先代秘書艦についてとか、《No.》の呪いについてとか、ここからの脱出方法とか、なんでもござれよ」

 

「っ……!?」

 

「……あら、逆効果?」

 

当たり前だ。あまりに餌が魅力的すぎて、逆に疑わざるを得ない。

 

「…………どうすれば信用してくれるかしら?」

 

「……まずは自己紹介してくれないかな」

 

「ああ、そういえばしてなかったわね。私は『初期艦』にして特型駆逐艦五番艦、そして横須賀鎮守府先代秘書艦の『叢雲』よ。……改めて『狭間の鎮守府』へようこそ、()()。歓迎はしないけれど」

 

そう言って彼女ーーもとい、叢雲さんは大きく頭を下げた。

 

「先代……なるほど、あなたが……でも、どうして私が今代だって?」

 

と、叢雲さんは襟元を指先でトントンと叩きながら言った。

 

「ここ。つけてるじゃない」

 

最初、言われた意味が分からなかったが、ふと自分の制服のその部分を見ると、司令官からもらった『秘書艦バッジ』がそこにはあった。

 

(これもか……)

 

「ま、というわけで私は名乗ったわよ。アンタも名乗りなさいな」

 

「は、はい。私は暁型駆逐艦二番艦、横須賀鎮守府()()秘書艦の『響』だよ。……疑ってすまなかった、叢雲さん」

 

「信じてくれたのなら別にいいわ。……って、臨時? どういうこと?」

 

「司令官曰く、本来の秘書艦が不在だからその代わり、だそうだよ」

 

「……なるほどね。……ったく、アイツ、相変わらず変なところで頑固なんだから……」

 

そう言う叢雲さんの顔はどこかニヤけていたが、そっとしておくのが礼儀だろう。

 

「……って、待ってくれ。あなたは、確か《No.》の呪いとともに一枚のカードの中に封じ込められたはずだよね? そのあなたがここにいるということは……」

 

「やっぱりアンタは知ってるのね。……そうよ、御察しの通り、ここはそのカードの中の世界。さっきも言ったけど、私たちはここを『狭間の鎮守府』と呼んでいるわ」

 

「『狭間の鎮守府』……」

 

改めて周囲を見回す。本当に真っ白だ。が、形自体は鎮守府のそれとーー少なくとも、外見上はーー完全に同じ。試しに触れてみると、その質感までもが同じだった。

 

「さて。じゃあお待ちかねの質問タイム……と行きたいところだけど、その前に現状を説明したほうがいいかしら?」

 

「そうだね、お願いしたい」

 

菊月とのデュエルの直後に聞こえた、あの『声』。あれは間違いなく《No.》によるものだったと思う。だとすれば、私はとうに《No.》使いとなって金剛さんたちに襲いかかっていたのではないか。だのに、今私は『狭間の鎮守府』にいる。これは一体どういうことなのか。

 

「端的に言うと、アンタは《No.》の呪いに蝕まれている最中。放っておけば、間違いなく《No.》に飲まれてしまうわね」

 

「え……じゃあ、急がないとまずいんじゃ」

 

「急ぐって何をよ。……それに、多分此処を出るまでは大丈夫よ。一応は《No.》の呪いの本拠地なんだから。もし万が一暴走したとしても、抑え込めるくらいの実力はあるわ」

 

その言葉は、おそらく傲慢ではなく事実。なんといったって()()司令官の秘書艦だ。多分私では《No.》に頼ったって勝てない。

 

「まあとにかく、《No.》は今はアンタを侵食中。だから他の誰かに被害が出るかも、とかは考えなくていいわ」

 

「なるほど」

 

「次。アンタがここにいる理由。それは私が引きずり込んだから。以上」

 

「……な、なるほど?」

 

勢いで頷いてしまったが、どういう意味だろう。と思っていると、叢雲さんが解説してくれた。

 

「アンタ、私のカード使ってるでしょう? その縁でか知らないけど、私はアンタにだけは多少だけど干渉できるのよ。で、そのアンタが《No.》に憑かれそうになってるから、無理やり引っ張ってきたの」

 

「……()()?」

 

「ええ、私の。……って、聞いてないの?」

 

「全然。そんな話、これっぽっちも」

 

「……アイツぅ。……まあいいわ、なら教えておくけれど、今アンタが使っている《EM》や《オッドアイズ》、《魔術師》のカードたちはもともと私が使っていたカードよ」

 

「? 《魔術師》もかい?」

 

そう聞くと、叢雲さんは首を縦に振って肯定の意を示した。だが、そうなると一つの疑問が生じる。

 

(でも、確か……《魔術師》のカードたちはデュエル中にどこからともなく現れたような。現に今まで私とデュエルした人たちは皆、《魔術師》の存在は知らなかったし……そういえば《オッドアイズ》もそうか。あれは明石さんからもらったカードだけど、皆知らないみたいだった)

 

まあどこからともなく、というのは単に叢雲さんが私のデッキ(いや、叢雲さんのデッキか?)に干渉したからかもしれないが。

 

「どうしたのよ。何か質問?」

 

……どうやら私は思っていることが結構顔に出やすいらしい。しかし実際気になるので聞いてみることにした。

 

「《魔術師》も《オッドアイズ》も、今までデュエルした人たちは皆口を揃えて『見たことがない』と言っていたんだ。でも、あのカードたちは叢雲さんが使っていたものなんだよね? そこに違和感を感じてしまって……」

 

「なるほどね。それは単純明快、そのカードたちはまだ市販されていないカードだからよ」

 

「市販されていない……?」

 

「そう。私たちがここに封印される少し前に渡されたの。大本営からね」

 

「! 大本営が?」

 

「なんでも、デュエルをする深海棲艦が発見されたらしくてね。……正直、私も最初は半信半疑だったんだけれど……」

 

その話は、以前の私ならまず信じなかっただろうが、実際にヲ級とデュエルして事実上敗北まで追い込まれた身としては、素直に受け入れざるを得なかった。

 

(でも、とりあえず疑問は一つ解消されたな。皆が《魔術師》や《オッドアイズ》の存在を知らなかったのは、市販されていなかったから。通りで長月が調べた時も結果が芳しくなかったわけだ)

 

「ほかにこのカードを知っている人は?」

 

「そのカードを使って私がデュエルしたのは、確かアンタの所の司令官とだけよ。市販されてないカードだから、極力他の子達からは隠していたし」

 

その言葉に納得していると、スッと窓の外を一瞥した叢雲さんが言った。

 

「……ちょうどいいわ。いつまでも立ち話もなんだし、ちょっと場所を変えましょう? 見せたいものもあるし」

 

それだけ言うと、叢雲さんはこちらに背を向けて歩き出した。付いて来い、ということなのだろう。

 

私は黙ってそのあとを追った。

 

 

 

 

「ここは……」

 

そうして来た場所は、鎮守府なら特殊物資搬入用港に当たる場所だった。

 

ベンチに腰掛けながらーーそのベンチも見覚えがある。最初の日、暁とともに座った場所だーー叢雲さんは口を開いた。

 

「さて。それじゃあ話の続きと行きましょうか。何が聞きたいの?」

 

「そうだね……じゃあ、まずはこのデッキについてもう少し詳しく教えてくれないかい?」

 

「いいわよ。と言っても大体話したけど。具体的にはどんなことが聞きたいのよ?」

 

「どうして《魔術師》や《ペンデュラム・ドラゴン》を私の元に送ってきたんだい?」

 

「戦力はあるだけあったほうがいいでしょう? 私が持ったままだと宝の持ち腐れだしね。ただ……」

 

そこで言葉を区切ると、叢雲さんはポケットから一枚のカードを取り出した。しかし、そのカードにはイラストも効果も書いていなかった。

 

「《ペンデュラム・ドラゴン》の時に送ったのはこれ。この『狭間の鎮守府』で見つけたものでね、どういうものかわからなかったから、とりあえずアンタのデッキのエクストラデッキに入れておいたの。ほら、メインデッキに入れちゃうとどうなるかわからないし」

 

「そんな実験感覚で……」

 

「いいじゃない。実際にカードが現れたわけだし」

 

そう言われてはぐうの音も出ないが。

 

「……じゃあ、どうしてカードを送ってくるのが毎回物資搬入用港でのデュエルの時だったんだい?」

 

「へ? どういうこと?」

 

ここに来て初めて、叢雲さんが全く予想外といった反応を示した。

 

「どういうことも何も、現に今までカードが送られてきたときはどれも特殊物資搬入用港でのデュエルの時で……」

 

「知らないわよ。たまたまじゃない? カードを送るのが何度かに別れたのも、一度に大量に送るのは疲れるからだし」

 

(……つまり、今までの私の推理は全部無駄ってわけか……)

 

なんか微妙にがっかりした気分だ。

 

「……そういえば、どうして私が《No.》に憑かれそうになっているってわかったんだい?」

 

「そりゃわかるわよ。だって今は一応私たちが《No.》の呪いの本体みたいなものだし。まあ私の場合は、《覚醒の魔導剣士》を通してアンタんの所の鎮守府に私たちが封印されたカードが戻ってきたことを知ってたけどね」

 

「《覚醒の魔導剣士》を通して?」

 

「ええ。アンタがデュエルで《覚醒の魔導剣士》を使っている時だけ、私はその中に入る形で現実世界を見ることができたのよ。ほら、ヲ級が《No.101 S・H・Ark Knight》を使ってた時、アンタ《覚醒の魔導剣士》出してたでしょう?」

 

そう言えばそうだった気がする。正直、ヲ級戦から菊月戦までの記憶がイマイチ曖昧なのだけれど。

 

「でも、そうか、それで納得がいった。だから川内さんたちとのタッグデュエルの時に自分の意思とは関係なしに《融合》を手札に加えたのか」

 

「ああ、そんなこともあったわね」

 

なんでもないように言い放つ叢雲さん。私としては、結構ホラーな体験だったのだけれど。

 

「ほかには何が聞きたい?」

 

「そうだね……《No.》のーー!」

 

その時だった。ズズンンン…………と重い音とともに、()()()()()()

 

「っ、これは!?」

 

「これは……私も初めてね。今までこんなことはなかったし。……となると、考えられるのは……」

 

「……私が、来たから?」

 

叢雲さんは無言で首を縦に振った。

 

(……考えてみればそうか。《No.》の呪いにとっては、私にここにいられると困るんだ。だって、現実世界でないと《No.》の呪いを広められないから……)

 

「仕方ないわね。予定を早めて、アンタを脱出させるわ」

 

「脱出……どうやって?」

 

「さっき言ったでしょ。見せたいものがあるって」

 

そう言うと、叢雲さんは立ち上がって周囲を軽く見回した。そして何かを見つけたようで、私に手招きをしてきた。のでそちらに向かう。

 

「これ。見える?」

 

叢雲さんが指差したところには、一見何もないように見えた。しかしよく目を凝らすと、

 

「……なにか、ヒビのようなものがあるね」

 

その空間にヒビが入っていた。色のない世界のせいで非常に見辛いが。

 

「そう、ヒビよ。……アンタが以前の《No.》騒動についてあらかた知っているという前提で話すけど、この場所、何か足りないと思わない?」

 

あ、色っていう回答はなしね、と叢雲さん。

 

(色以外で、この鎮守府に足りないもの……そういえば、金剛さんの話の通りだとすると)

 

「一緒に封印されたはずの、他の『初期艦』の人たちと、深海棲艦……」

 

「よろしい。百点よ」

 

確かに、気配が全くしない。まるでこの場所には私たち二人しかいないみたいだ。

 

「まず、『初期艦』の四人だけど、彼女たちはまだこの『狭間の鎮守府』にいるわ。けど、皆生きる気力みたいなのがすっかり失せちゃっててね。気配を感じないのはそのせいよ」

 

「……なるほど」

 

金剛さん曰く、『番号札作戦』が実施されたのはおよそ一年前。その時からずっとこの世界にいたとすれば、そうなるのも無理はないかもしれない。

 

叢雲さんの話は続く。

 

「で、問題は深海棲艦のほう。そいつはね……脱出したのよ、この世界から」

 

「っ……!」

 

なんとなくそんな気はしていたが、事実として聞かされるとまた一段と衝撃が大きい。

 

「でも、それならどうして叢雲さんたちは脱出しなかったんだい?」

 

私の問いに、叢雲さんは静かに首を横に振った。

 

「しなかったんじゃない。できなかったのよ。というのも、その脱出のための手段がーー」

 

言葉の途中で、叢雲さんはデュエルディスクを体の前に構えた。

 

「ーーデュエル(これ)だったの」

 

「! デュエルしたのかい? その深海棲艦と……」

 

「色々あって、デュエルせざるを得ない状況になってね。私はそいつと戦った」

 

「負けた、ということかい?」

 

「いいえ。決着はつかなかった。そいつが見たこともないドラゴンを出した瞬間、このヒビが一気に広がってね。そいつはすぐに飛び込んだ。……証拠があるわけじゃないけれど、きっとあれは、現実世界に繋がっていたと思う」

 

つまり、そのドラゴンも《No.》のようになんらかの特別な力を持っていて、その力でもって現実世界への扉を開いた……ということだろうか?

 

「その後、私たちも何度かデュエルして、実際に見たこともないカードを生み出すことはできたけれど、このヒビを広げるには至らなかった。……そして、アンタを現実世界に帰す方法というのは、それ」

 

「……まさか、私に新しいカードを生み出せ、と?」

 

「そこまでの無茶は言わないわ。アンタは私とデュエルするだけでいい。私がなんとかして()()()()()()()を生み出してみせる。ただ、そのためにはアンタにも本気で来て欲しいけど」

 

言っている間にも、世界の揺れが起きた。先ほどのよりも大きい気がする。

 

「時間がないわ。さっさとやるわよ」

 

「……わかった。スパスィーバ、叢雲さん」

 

「そういうのは成功してから言いなさい」

 

互いにディスクの電源を入れ、構える。

 

「「デュエル!!」」

 

無色の世界に、二人の声だけが大きく響いた。

 

そして、初期手札分の五枚をデッキからドローし、

 

「……これは……?」

 

その違和感に気づいた。




前回の引きからまさかの説明回でございました。

次回、【魔術師】のカードたちを失った叢雲さんのデッキは。

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