駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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また日付を一日間違えました。書きあがってたのに……。


守るべきものを背に

『切り札』。菊月はそう言った。その意図するところを知らない睦月と長月は、どこか楽しそうな表情を浮かべていた。それはおかしなことではない。

 

だが『知っている』私と金剛さんは、到底そんな感情が湧いてこなかった。私は昨夜、金剛さんは以前の騒動の時に思い知っているからだ。《No.》という災厄の恐ろしさを。

 

「さて……では行こうか。私はレベル4の《ツイン・ブレイカー》二体でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 

「!! 早速来るのか……!?」

 

ぐっと握った拳に力がこもる。

 

だが、予想は外れた。

 

「刃の下に心を忍ばせ、非情なる力は全ての敵を斬り伏せる。エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4《機甲忍者ブレード・ハート》!」

 

「……《No.》じゃ、ないのかい?」

 

「そう焦るな。今出してやる。私は《アームズ・エイド》の効果発動。装備カードとなっているこのカードは、一ターンに一度攻撃表示で特殊召喚できる。そして、レベル4のエイドとブレイカーでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!!」

 

エクシーズ召喚の宣言。そこから感じられるプレッシャーが、先ほどとは比べ物にならない。

 

(これは……間違い、ない……今度こそ本当に《No.》だ……!)

 

どうやら《No.101 S・H・Ark Knight》や《No.82 ハートランドラコ》と同じ、ランク4らしい。

 

「燃え盛れ、煉獄。その圧倒的な熱で、死者の骸すら焼き尽くせ!! エクシーズ召喚! 燃え上がれ、ランク4《No.58 炎圧鬼 バーナー・バイザー》ッ!!」

 

瞬間ーー轟っ!! と唸りを上げて、紫色の魔法陣の中から炎の塊が現れ、立体映像では考えられないほどの熱気が私の体を焼いていく。

 

「これが……君の《No.》……!」

 

「そうだ。そして速攻魔法《黒白の波動》発動! フィールドにシンクロモンスターをオーバーレイユニットに持つエクシーズモンスターが存在するとき、フィールドのカード一枚を除外してカードを一枚ドローする。《HーC エクスカリバー》には退場願おう」

 

「っ……!」

 

エクスカリバーが除外されてしまったのは痛いが、それ以上に気になるのがNo.58自身の効果だ。

 

(No.101は相手モンスターをオーバーレイユニットにする効果と破壊耐性、No.82は相手へのダイレクトアタック……特に規則性は見られないし、どんな効果が来るのかわかったもんじゃない……)

 

No.58のステータスは、お世辞にも高いとは言えない。だが、その分強力な効果を持っている可能性が高い。

 

しかし、そこで菊月は予想外の行動に出た。

 

「魔法カード《エクシーズ・ギフト》発動。自分フィールドにエクシーズモンスターが二体以上存在するとき、オーバーレイユニットを合計二つ取り除くことで二枚ドローできる。私はーーNo.58のオーバーレイユニットを全て取り除きドロー!」

 

「な、何……!?」

 

(オーバーレイユニットがなくなった……そんなことしたら、効果の発動ができなくなるんじゃあ……!?)

 

プレイミス、とは思えない。何かしら理由があるのだろうが、その意図はさっぱりだ。

 

困惑する私に、ニヤリと笑った菊月が言った。

 

「まあ、普通は驚くだろうな。だがプレイングを誤ったわけではない。No.58の効果発動。このカードを自分フィールドのエクシーズモンスターの装備カードとする!」

 

「! なるほど、その効果にオーバーレイユニットは使わないから……!」

 

「そうだ。No.58にオーバーレイユニットは必要ない! ……そして、ブレード・ハートの効果発動。オーバーレイユニットを一つ取り除くことで、自分フィールドの《忍者》一体は二回攻撃できる。もちろんブレード・ハート自身もこの効果で選択可能だ。自身に二回攻撃を与える!」

 

攻撃力2200による二回攻撃。それだけなら、さしたる脅威ではない。私のフィールドには攻撃力2600の《カラクリ将軍 無零》もいるのだ。

 

だが、菊月のデッキは【戦士族装備ビート】。それに、このままでは無零に届かないことも理解しているはずだ。

 

(つまり、十中八九菊月の手札の中には、この状況を打破するカードがある……!)

 

「魔法カード《アームズ・ホール》発動。デッキトップを墓地に送り、デッキか墓地から装備魔法一枚を手札に加える。デッキから《最強の盾》を手札に。そしてこれをブレード・ハートに装備する。このカードを装備したモンスターは、攻撃表示のときその攻撃力に守備力を加える。よってブレード・ハートの攻撃力は守備力1000が加わって3200だ」

 

「やっぱり越えてきたか……」

 

すると、菊月は呆れたようにため息をついてから言った。

 

「おいおい響、何を言っているんだ」

 

「何って……無零の攻撃力を越えたか、って……」

 

「……確かに、世には《折れ竹光》のようなカードも存在するがな……それはあまりに《No.》を舐めすぎてはいないか」

 

「どういうーー!」

 

「バトルだ! ブレード・ハートで攻撃!」

 

私の言葉を遮って、菊月は攻撃宣言を行った。だが対象が指定されていない。

 

と思ったが、甘かったようである。

 

「No.58を装備したモンスターは、ダイレクトアタックすることができる!!」

 

「なっ……!」

 

つまり、菊月がブレード・ハートの攻撃力を上げたのは、より確実に私を倒すため。最初から無零など眼中になかったというわけだ。

 

というか、この状況は非常にまずい。

 

「っ、金剛さん!!」

 

「い、イエース!!」

 

その一言で意図が伝わったらしく、金剛さんが睦月たちを庇うように両腕を広げた。

 

だがそれを確認している間に、No.58を装備したブレード・ハートの攻撃が私に迫る。

 

「終わりだ、響!」

 

「まだ終わらせない、罠カード《ホーリージャベリン》発動! 相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃力分ライフを回復する!」

 

響:LP3600→6800

 

「だからどうした、攻撃を無効にするわけではあるまい!」

 

直後、ブレード・ハートの斬撃が私の体を薙いだ。

 

「ぐっ、ああああああ!!」

 

響:LP6800→3600

 

痛みを感じるよりも先に、燃えるような熱さをブレード・ハートに切られた部分から感じる。やはり他の《No.》と同様、現実にもダメージが発生している。

 

「な、なんだ? 何かおかしくないか……? おい、大丈夫なのか響!!」

 

ここに来て、ようやく異変に気付いた長月が焦ったような声を出す。

 

「……そっちこそ、大丈夫かい? 特に金剛さん……」

 

「……私のことはno problemネ。でも、響……」

 

「私の方こそ、ノープロブレムだよ。何も心配はいらない」

 

「そんな……嘘だ、どう見たってボロボロじゃあないか!!」

 

「そうにゃ! いったい、何が……!!」

 

「……後でちゃんと説明するよ。だから、今は……」

 

そう言って、小さく微笑む。できるだけ、安心感を与えられるように。

 

(その『後で』がいつになるかは、わからないけれど……やっぱり、巻き込むわけにはいかない……!)

 

「……そろそろいいか? デュエルを続けようじゃないか……」

 

「お前……いい加減にしろ、菊月!! 自分が何をやっているのか、わかっているのか……!?」

 

「わかっているさ。だが、そうなっているのは響が弱いからだろう?」

 

「お前はっ……お前ってやつは……!!」

 

「……待ってくれ、長月」

 

「なぜだ、なぜお前が止める響!! こいつは今、お前のことを……!!」

 

「私が未熟なのは事実だよ。それを、否定するわけにはいかない」

 

「だが!!」

 

「Stop、長月。……今はデュエルに集中させてあげて欲しいネ」

 

「っ……!」

 

金剛さんに宥められ、なんとか言葉を飲み込む長月。金剛さんに心の中で感謝しつつ、菊月の方に向き直った。

 

「さあ、続けようじゃないか」

 

「ああ。……といっても、もう終わりだがな」

 

「……どういうことだい?」

 

「貴様の残りライフは3600。ブレード・ハートの攻撃力が3200だからダイレクトアタックで残り400」

 

「何が言いたい」

 

「その程度は焼き払えるということだ。私はNo.58の効果発動。装備モンスターが相手にダメージを与えた時、手札を一枚捨てることで相手に500ポイントのダメージを与える!」

 

ブレード・ハートが、小さな火球をこちらに向けて投げつけてくる。

 

だが、

 

「罠カード《リフレクト・ネイチャー》発動! このターン、相手によって発動する効果ダメージは全て相手が受ける!」

 

その火球は透明なバリアに弾かれ、菊月の方に向かった。

 

「っ、フッ、この程度……」

 

菊月:LP7200→6700

 

「が、これで伏せカードは無くなったな。これは防げまい。ブレード・ハートで二度目のダイレクトアタック!」

 

「金剛さん!!」

 

「っ、OK!」

 

菊月の言う通り、この攻撃を防ぐカードはない。ならせめて、周りに被害を出さないようにしなくては。

 

「ーーーーーーーー!!!」

 

もはや叫びは声にならなかった。

 

ブレード・ハートの攻撃を受けた私の体は、吹き飛ばされて数メートル後方に転がった。一瞬だが、確実に意識も飛んでいた。

 

響:LP3600→400

 

「………………ぁ、くっ……!」

 

まただ。《No.》に攻撃されると何かーー金剛さんが言うところの霊的パワーというやつだろうかーーが抜き取られたような感覚に陥り、うまく四肢に力が入らなくなる。

 

でも。

 

「響……!」

 

「……っ、大丈夫、さ……」

 

歯を食いしばり、無理やりに体を起こす。二、三度失敗しつつも、なんとか立ち上がり、デッキの一番上のカードを掴む。

 

「……私の、ターン……ドローッ!!」

 

途切れそうな意識の中、考える。

 

(《覚醒の魔導剣士》のような特別なカードはない。新しいカードも望めないだろうし……今あるカードで最善を尽くすしかない!)

 

「装備魔法、《継承の印》を、発動。墓地に……同名モンスターが三体、存在する時、その、モンスター一体を……特殊召喚、する。よみがえれ、《カラクリ小町 弐弐四》……そして、レベル5の《カラクリ忍者 七七四九》にレベル3チューナー、弐弐四をチューニング……!!」

 

朦朧とする意識を起こすために、できる限り両足に力を込める。

 

「修羅の道行く、強者の長……その力で、私を勝利へ導け……! シンクロ召喚、現れろ、レベル8《カラクリ大将軍 無零怒》!!」

 

だが無零怒の攻撃力は2800。無零にはモンスターの表示形式を変える効果があるが、

 

(たしか……《最強の盾》は、装備モンスターが守備表示のとき、その守備力を攻撃力分あげる、はず……となると……)

 

「私は、無零怒の効果発動。このカードがシンクロ召喚に成功した時、デッキから《カラクリ》一体を、特殊召喚する……《カラクリ武者 六参壱八》を特殊、召喚。さらにチューナーモンスター、《カラクリ守衛 参壱参》を召喚、し、レベル4の六参壱八にレベル4チューナー、参壱参をチューニングッ……!」

 

「! 二体目の無零怒……? いや、これは……」

 

「剛腕の巨人よ……戦士の骸を己が力とし、永久の闇をなぎ払え……! シンクロ召喚、現れろ、レベル8《ギガンテック・ファイター》!」

 

クリーム色のボディをした巨人が私の前に現れる。その攻撃力は2800だが、

 

「《ギガンテック・ファイター》の攻撃力は、お互いの墓地の戦士族モンスター一体につき100上がる……か」

 

背後の長月が効果を説明してくれた。現状、互いの墓地の戦士族モンスターは、

 

(菊月の墓地には《フォトン・スラッシャー》、《ジュッテ・ナイト》、《ツイン・ブレイカー》が二体、あとは……《アームズ・ホール》で墓地に送られた《ゴブリンドバーグ》で計五体、私の墓地には《H・C アンブッシュ・ソルジャー》、《H・C スパルタス》、《H・C エクストラ・ソード》、《HーC ガーンデーヴァ》、《M.Xーセイバー インヴォーカー》、《H・C ダブル・ランス》で六体、合計十一体だから、攻撃力は1100上がって3900……!)

 

「バトルだ……ギガンテックで、ブレード・ハートに攻撃……!」

 

「ぬっ……」

 

菊月:LP6700→6000

 

「まだだ……無零でダイレクトアタック!」

 

「ぐぅ……」

 

菊月:LP6000→3400

 

「さらに、無零怒でダイレクトーー!」

 

「まだだ、手札から《血涙のオーガ》の効果発動! 相手の二度目のダイレクトアタック宣言時、手札からこのカードを特殊召喚できる。そしてその攻撃力、守備力は一度目にダイレクトアタックしてきたモンスターと同じになる!」

 

「それでも、無零怒の方が……上だ!」

 

無零怒の二本の刀がオーガを切り裂く。が、守備表示で特殊召喚されたために戦闘ダメージはない。

 

「……バトルフェイズを、終了し、無零の効果発動……無零自身を守備表示にする、そして、無零怒の効果発動、自分の《カラクリ》の表示形式が変更された時、一枚ドロー……カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「まだ終わらせん……私のターン、ドローッ! 魔法カード《貪欲な壺》発動! 墓地のモンスターを五体デッキに戻し、二枚ドローする。《ツイン・ブレイカー》三体、《フォトン・スラッシャー》、そしてブレード・ハートをデッキに戻し、ドローッ!!」

 

墓地の戦士族モンスターが減ったことで《ギガンテック・ファイター》の攻撃力は下がるが、それを計算する余裕はなかった。

 

「《暗躍のドルイド・ドリュース》を召喚し効果発動、墓地の攻撃力か守備力がゼロのモンスター一体を、効果を無効にし、守備表示で特殊召喚する。よみがえれ、《血涙のオーガ》! そしてレベル4の二体でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!!」

 

《暗躍のドルイド・ドリュース》も《血涙のオーガ》も戦士族ではない。ということは戦士族モンスターでしかエクシーズ召喚できないブレード・ハートではないらしい。

 

戦友(とも)の力を糧として、一騎当千の刃となれ! エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4《ズババジェネラル》!!」

 

「《ズババジェネラル》……たしか、効果は……」

 

「オーバーレイユニットを一つ取り除き、手札の戦士族モンスターを装備、その攻撃力分自身の攻撃力を上昇させる、だ。この効果で私は《ゴブリン突撃部隊》を装備させ、攻撃力を2300上げる」

 

これで《ズババジェネラル》の攻撃力は4300。私のフィールドの攻撃表示のモンスターを攻撃すれば私のライフを削りきることができる。

 

しかし。そこで菊月はニヤリと笑った。

 

「まさか、この程度で終わるなどと思っていないだろうなあ?」

 

「何……?」

 

「こういうことだよ。罠カード《リミット・リバース》発動! 墓地の攻撃力1000以下のモンスター一体を特殊召喚する! よみがえれ、《No.58 炎圧鬼 バーナー・バイザー》ァ!! そして効果で《ズババジェネラル》に装備!」

 

「! ダイレクトアタックか……!」

 

「下手にモンスターに攻撃すると何があるかわかったものではないしな……行くぞ、《ズババジェネラル》で、ダイレクトアタック!!」

 

三度目ともなると、私が言うよりも早く金剛さんが動いていた。

 

《ズババジェネラル》が、手に持った大剣を床に叩きつけると、そこから炎が巻き上がり、私へと向かってくる。

 

「終わりだ、響ィ!!」

 

そして、炎が私を包み込んだーー

 

「《ギガンテック・ファイター》をリリースし、罠カード《シンクロ・バリアー》発動!!」

 

その一瞬前に、罠カードを発動させた。

 

「っ、そのカードは……!」

 

「自分のシンクロモンスターをリリースし、次のターンまでダメージを無効にする、だよ」

 

「くっ、何度も何度も……!」

 

私の周りにバリアが張られ、炎を完全に防いでいる。これで敗北は免れた。

 

「だが! お前のフィールドのモンスターが減ったことでバトルステップの巻き戻しが発生、攻撃対象を選びなおせる。無零に攻撃!」

 

「っ……」

 

ダメージは発生しないが、熱気は感じる。熱中症にでもなってしまいそうだ。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド。さあ来い、響!」

 

「言われなくても……私の、ターン、ドローッ!!」

 

菊月のフィールドには、攻撃力4300の《ズババジェネラル》と、伏せカードが一枚。だが、私は《ズババジェネラル》のことはもう見ていなかった。

 

(問題はあの伏せカード……一か八かの賭けになるけど、ここは……!)

 

「《H・C ダブル・ランス》を召喚、効果発動……墓地の同名モンスターを特殊召喚する、そして二体でオーバーレイ、二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築……!!」

 

「これは……!」

 

「古の聖剣よ、その内に秘めし王の力、今一度私の勝利の為に捧げよ……! エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4《HーC エクスカリバー》ッ!! そして効果発動、オーバーレイユニットを二つ取り除き、次のターンまで攻撃力を倍にする……!」

 

「っ、それでも攻撃力は4000、《ズババジェネラル》には届かないにゃ……」

 

背後の睦月が切なそうな声を出す。だがそんなことは私だって百も承知だ。

 

だからこその、賭け。

 

「バトルだ……無零怒で《ズババジェネラル》に攻撃!」

 

「! 待て響、エクスカリバーならまだしも、無零怒では反射ダメージで敗北してしまうぞ!!」

 

長月の言う通り。エクスカリバーで攻撃した場合の反射ダメージは300だが、無零怒では1500。残りライフ400では到底受け切れない。

 

「………………」

 

「………………」

 

しかし、菊月と金剛さんは私の行動を見て目を細めた。確実に何かあると踏んだのだろう。

 

一瞬、西部劇の決闘のようなピリッとした空気が流れる。

 

先に動いたのは菊月だった。

 

「っ、ええい、リバースカードオープン、速攻魔法《禁じられた聖衣》! モンスター一体の攻撃力を600下げる代わりに、そのモンスターはエンドフェイズまで効果破壊されず、効果の対象にならない! 対象は無零怒だ!」

 

「!」

 

「貴様の残り一枚の手札、それはおそらく《虚栄巨影》のような攻撃力を上げる速攻魔法だろう。だが私が《禁じられた聖衣》を発動した以上、貴様は無零怒の攻撃力をあと2100以上上げねばならん。……さあどうする? 貴様の残り一枚の手札はなんだ!?」

 

私の残り一枚の手札。それは確かに攻撃力を上げる速攻魔法だ。

 

しかしこのカードは……

 

「私は手札から速攻魔法ーー《リミッター解除》を発動!!」

 

「なっ……!?」

 

《リミッター解除》。機械族モンスターの攻撃力を倍にする代わりにエンドフェイズに破壊するという、機械族デッキの最強の切り札。

 

カード効果が順番に処理される。まず《リミッター解除》の効果で無零怒の攻撃力は倍になり、その後《禁じられた聖衣》の効果で600下がって、

 

「攻撃力……5000……!!」

 

「バトル続行……いけ、無零怒ォ!!」

 

菊月:LP3400→2700

 

「ぐぅ……!!」

 

「そして、エクスカリバーで……ダイレクトアタック!!」

 

エクスカリバーの攻撃力は、4000。

 

「これで……終わりだ!!」

 

「くっ……ぐ、ああああああああ!!!」

 

菊月:LP2700→0

 

 

 

 

「終わった……のか?」

 

長月が恐る恐るといった感じで言う。彼女の言う通り、デュエル自体はエクスカリバーのダイレクトアタックで終わっていた。

 

振り返ってそれを伝えようとしてーーバランスを崩し、倒れてしまう。

 

(あ……危なかった……。菊月の伏せカードが《禁じられた聖槍》だったら負けていたな……)

 

その菊月はというと、エクスカリバーのダイレクトアタックを受けてのびている。デュエルに勝ちはしたものの、これで良かったのかは少々疑問が残る。

 

(まあ、その辺は金剛さんに任せようかな……もしくは司令官に伝えるか……)

 

いろいろ考えつつも、取り敢えずは立ち上がろうと両足にグッと力を

 

 

 

 

そこで、視界が真っ黒に染まった。

 

(…………………………………………え?)

 

何が起きたのかわからない。だがこうして意識が続いている以上、気を失ったというわけではないようだ。

 

目を凝らしても黒色しか見えず、耳をすませても何も聞こえない。まるで一瞬にして見知らぬ場所へ移動させられたみたいだ。

 

と、そこで、『何か』が聞こえた。

 

『チカラガ、ホシイカ?』

 

(なん、だ、いったい……? ………………あれ)

 

なぜか声が出ない。というか、指先すら動かすこともできない。

 

その『声』は続く。

 

『チカラガ、ホシイカ?』

 

(なんなんだ、これ……)

 

『ナア、コムスメ。チカラガホシイカ?』

 

(チカラ……チカラ、ね)

 

『ホシクナイノカ?』

 

その言葉で、私の心の中を様々な思いが駆け巡る。この『声』の正体がわからない不安感。そんな『声』が言うチカラとやらへの猜疑心。

 

だが。そんな全てを凌駕するほどの思いが、私の中にはあった。

 

「…………欲しい。みんなを守れるような、チカラが……!」

 

思い浮かぶのは、今日まで親しくしてくれたみんなの顔。まだ鎮守府に来て日が浅い私だけど、それでも『友達』と呼べる仲の人は沢山いる。

 

そして、最愛の姉、暁の顔も。

 

そんな私の言葉を聞いた『何か』は、少ししてから言った。

 

『……ヨロシイ。ナラバ、キサマニチカラヲヤロウ。アラガウモノスベテヲナギハラウチカラヲ……!!』

 

直後には、変化が起きていた。『それ』は目に見えないけれど、着実に私の心を蝕んで行った。

 

(ああ、なるほど……)

 

そんな、気持ち悪いが不思議と心地のいい堕落感を感じながら、私はふと思った。

 

(みんな……こんな風にして《No.》に堕ちていったのか……)

 

そして。意識が。堕ちた。

 




以上、響vs菊月でした。治ったといったって連戦で大丈夫っすか響さん。
というわけでデッキ紹介のコーナー!
響さん、今回のデッキは【カラクリヒロイック】。あまり噛み合っているとは言えない二つのテーマですが、《地獄の暴走召喚》を共有できる点や地属性統一テーマであることなどは一応共通しています。それでも良い子は真似しちゃダメよ。

菊月さん、【戦士族装備ビート】。戦士族に統一するメリットとしては、やはり《機甲忍者ブレード・ハート》をエクシーズ召喚できる点でしょうか。今回使ったリバースモンスターは両方レベル2なので、《アームズ・エイド》は結構出しやすかったり。
そして彼女のNo.、《No.58 炎圧鬼 バーナー・バイザー》。《No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク》とは迷ったんですが、今回はこちら。弱くはないけど……《旧神ノーデン》も禁止になっちゃったしなあ……。

今回はこんなところで。響、つくづくごめんよ。

次回、ある意味遊戯王シリーズの定番というか。

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