駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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説明回って、書き終わったと思っても「書き残しとか無いかな?」ってな感じで不安感が襲ってくるんですよねぇ……。


《No.》の過去

その白い天井には見覚えがあった。

 

「………………………………」

 

忘れよう筈もない、この鎮守府に来て、最初の日。目が覚めて一番最初に目にしたのも、この白い天井だった。

 

スッと視線を下ろすと、あの時と同じ入院着が着せられていた。

 

確かここは、入渠ドックの個人用入渠室。この建物、地下には巨大な風呂があり、通常傷ついた艦娘はそこで傷を癒す。だがそれだけでは治癒が難しいとされる時や、意識を失っていて風呂に入れるのが難しい場合は、この個人用入渠室に運び込まれるのだ。

 

「Good morningネ、響」

 

と、隣から声。その特徴的な口調のおかげで、視線をやるまでもなく誰かわかった。

 

「……おはよう、金剛さん」

 

私が寝かされているベッドの横に置いたパイプ椅子に座る彼女。金剛型戦艦一番艦、『金剛』だ。

 

金剛さんは私の枕元にあった果物籠からリンゴと果物ナイフを取り出しつつ言う。

 

「思ったより早く目が覚めてよかったデース。私が最初見た時、かなーりボロボロでしたカラ」

 

「司令官は?」

 

「Ah……提督は、昨日の件の処理でvery busyネ。だから代わりに私が響の様子をみてたんデース」

 

言いながら、しゃりしゃりと器用にリンゴの皮を向いていく金剛さん。それを見ながら、気になったことを質問することにした。

 

「今の私は、どういう状態なんだい?」

 

「Bodyの傷自体は高速修復材でほとんどふさがっているはずネ。ただ、《No.》から受けた物理的でないdamageに関しては高速修復材ではどうにもならないカラ……」

 

「! 《No.》を知っているのかい?」

 

「Yes、でも、everyoneが知っているわけじゃないヨ。《No.》について知っているのは、一部の艦娘と、提督だけネ。……リンゴどうぞネー!」

 

気づけばリンゴは皮を剥かれ、綺麗に六等分されて皿の上に置かれていた。差し出された爪楊枝で一つさして口にする。みずみずしくて美味しい。それを十分に咀嚼して飲み込み、改めて口を開いた。

 

「ねえ、金剛さん。よかったら教えてくれないかな、《No.》について」

 

それを聞いて、濡れ布巾でナイフの刃を拭いていた金剛さんの手が止まった。

 

「……聞かれるとは思ってましタ。そう言われると、Noと言う訳にはいかないネ。But……私自身としては、正直教えるのは気がひけるヨ。Because、《No.》について話すということは、《No.》の問題に巻き込んでしまうのに他ならない。それは、年長者のやることではないワ」

 

そういう金剛さんの表情は、暗いものだった。彼女の気持ちもよくわかる。何より、《No.》の恐ろしさは昨夜嫌という程思い知らされている。

 

でも。

 

「金剛さん。あなたの気遣いに感謝する。……でも、私は、それでも知りたいんだ」

 

「っ、why!? あれは私たちが解決すればいいproblemネ、わざわざ響が自ら飛び込んでくる必要なんてnothingヨ!」

 

「だからだよ」

 

私の言葉の意味がわからなかったのか、首をかしげる金剛さん。そんな彼女に対して、私は自分の思いを吐露していく。

 

「確かに《No.》の問題は、私が見て見ぬ振りをしていれば気づいた時には解決しているようなものかもしれない。デュエルでも実戦でも、この鎮守府のみんなは私よりずっと強いからね。……でも、もし私の知らないところで、私の知っている人たちが傷ついたら? 例えば、何気ない日常の中で、隣を歩いている誰かが実は日夜《No.》と戦っていて、それを隠して笑っているのだとしたら? ……どうしても、そんな風に考えてしまうんだ」

 

「響……」

 

「だから、私も戦いたい。いつも通りであるために、ね。それに……『もう』仲間を失いたくない。せめて私もみんなと肩を並べて戦いたいんだ」

 

「そういえば……響は『生き残り』でしたネ」

 

『あの戦争』については、思い出すだけで胸に小さな痛みが走る。『あの戦争』で私は姉妹の中で唯一生き残り、そのまま戦争は終わりを迎えた。『私』が沈んだのは戦後だ。

 

もう、あんな悲劇は繰り返したくない。

 

そんな私の思いが届いたのか、金剛さんは目を瞑って小さく頷いた。

 

「……わかったヨ。それじゃあ、全部教えるネ」

 

「ありがとう」

 

「渋ったのは私の方ですから、気にしないでくだサーイ。にしても、Hmm……何から話しまショウ。一応聞きますケド、響は《No.》についてどの程度知っていますカ?」

 

「殆ど何も知らない、かな。夜起きたら急にデュエルを……って、そうだ、妙高型が次々襲われていた事件の犯人は……!」

 

「ヲ級、ですネ。提督から聞いてマース」

 

……それもそうか。冷静に考えて、司令官だって正体不明な人物をいきなり狙撃したりはしないだろう。普通に犯罪だ。

 

「……とにかく、昨日の夜、ヲ級とデュエルして、その最中に彼女が《No.》を使った。《No.101 S・H・Ark Knight》という《No.》を。そのあと、川内さんが乱入してきて、ヲ級が『何か』した。それで川内さんが気を失っちゃって、私は一人でヲ級を追った。そしたら様子がおかしくなった川内さんに止められて、そのままデュエルしたんだけど、その時の川内さんも《No.》を使っていた。確か、《No.82 ハートランドラコ》だったかな。それらの効果についてならわかるけど……」

 

「《No.》というcategoryについてはわからない、と。了解デース。なら……そうネ、《No.》についてきちんと最初からお話ししまショウ」

 

ギシッ、と音を立てて金剛さんがパイプ椅子に座りなおす。

 

「といっても……実は、《No.》の一番最初は私も知らないのデース。およそ一年前のある日、突然この鎮守府に現れた、curseのような存在。確か、一番最初に《No.》に取り憑かれたのは浜風だったネ。浜風の所属する艦隊が遠征から帰投したと同時に、気を失った浜風がここに運び込まれてーー出撃中に突然倒れたらしいヨーー目が覚めたと思ったら、急に暴れ始めて、誰彼構わずデュエルを挑んでネ……それまで浜風はあんまりデュエルの腕がgoodだったわけじゃないのに、誰も勝てなかったヨ」

 

「金剛さんも戦ったのかい?」

 

「No、私がデュエルする前に、浜風を倒した人がいたんデース」

 

「……それは?」

 

と、金剛さんはなぜか言いづらそうに視線を彷徨わせた後、コホンと一つ咳払いをしてから言った。

 

「暁、デース」

 

「!? 暁が……!?」

 

「Yes、ギリギリのbattleでしたが、なんとか暁が勝ちましタ」

 

驚きを隠せない。別に暁が《No.》との戦いに勝利したことには驚かない。彼女の実力は知っている。だがそもそも、暁が《No.》の問題に関わっていたこと自体が驚きなのだ。

 

金剛さんの話は続く。

 

「そうして暁のおかげで《No.》の問題は解消した、かのように思えましタ。ですが違った。《No.》は宿主を変え、生きていたのデース」

 

「宿主を、変えて……?」

 

ということは、

 

「この鎮守府にまだいるかもしれないということかい? 《No.》が……!」

 

「……おそらく、Yesネ。最後の《No.》……川内の《No.82 ハートランドラコ》だったネ? それとはまた姿を変え、この鎮守府の誰かにpossessionしていることでショウ」

 

「だったら……!」

 

枕元のデュエルディスクを掴んでベッドから飛び降り、個室の出口に向かう。金剛さんは動かなかった。パイプ椅子に座ったままで、首も動かさずに言う。

 

「どこに行く気ネ?」

 

「決まっているじゃないか、《No.》を止めないと……」

 

「まだ騒動になっていないということは、《No.》が覚醒していないってことネ。だから大丈夫ヨ」

 

「そんなのわからないじゃないか、人知れず覚醒している可能性も……」

 

「そこまでこの鎮守府の警備はザルじゃないヨ。それに、万が一《No.》が居たとして、どうする気ネ?」

 

「それも決まっている、デュエルだよ。最初の暁がそうだった、昨晩のも、この様子だと司令官がどうにかしてくれたんだろう? なら、デュエルをすることで一時的でも足止めできる……!」

 

()()()()()()()()?」

 

一瞬、金剛さんの言っている意味がわからず固まる。そして気づく。手の中にある違和感に。

 

「デッキが……ない!?」

 

ディスクにセットされているはずの、私のデッキ。それが綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「提督が、響が不用意にデュエルできないようにって抜いたんだヨ。……わかったら、おとなしく寝ているデース」

 

「っ……」

 

デッキがなければ何もできない。それでも拘泥するほど、私も幼稚ではなかった。おとなしくベッドに戻る。

 

「よろしい。それじゃあ、《No.》 の話に戻るデース。浜風が倒された後も、《No.》は宿主を変えて逃げ続けましタ。ですがその度に悉く暁に倒されたのネ。そしてある日、そんないたちごっこのような状況を打破するoperationsが決行されましタ」

 

「作戦?」

 

「そうデース、それも、大本営直々の」

 

「大本営が……? なんでまたそんな……」

 

「《No.》に取り憑かれた者は、例外なく凶暴な人格となり、暴れまわる。それは、事情を知らない人が見れば艦娘の反乱と相違ありませんカラ。そうなると、艦娘反対派の人たちにいい反論材料を与えるだけデース。それを重く見た大本営の決断ネ」

 

「どんな作戦だったんだい?」

 

「『番号札作戦』。確かそんな名前だったヨ。内容は、艦娘の霊的powerを利用して《No.》の呪いを丸ごと一枚のカードに封じ込める、というものネ」

 

「……霊的パワー? そんなものあるのかい?」

 

「さあネ。そういうのはscientistの領分だカラ。でも実際、私たち自身どういう原理でこのbodyが動いているのかよくわからないしネ。……とにかく、そのoperationsは実行された。でも、その当日にある事件が起きたんデース」

 

「事件」

 

「そう。……深海棲艦が、襲撃してきたんデース」

 

「っ!」

 

タイミングとして最悪だ。《No.》騒動でてんやわんやな鎮守府への襲撃……もはや深海との内通者の存在を疑ってしまうレベルだ。

 

「でも、大本営からの命令をこちらの一存で破棄することはできないネ。何より、その作戦は艦娘側の被害を最低限で抑えるために、より霊的powerの高い艦娘を使用していたのデース」

 

「霊的パワーの高い艦娘……?」

 

「最初の五人。この世界に最初に現れたという五人の艦娘。俗に『初期艦』と呼ばれる艦娘デース。騒動の当時は舞鶴、呉、佐世保、大湊、そしてここ横須賀に一人ずつ在籍していたため、彼女らをそのoperationsに参加させるために横須賀に集合させていましタ。ですから、大本営に頼んで延期する、という手も取れなかったんデース」

 

なるほど。彼女らは彼女らでそれぞれの鎮守府での役割があるからか。初期艦ともなれば、各々の鎮守府の提督秘書艦を任されていてもおかしくない。

 

「それで、その作戦はどうなったんだい?」

 

「もちろん実施されましタ。結果として、《No.》の呪いを封じ込める事に成功、しかもその時の深海部隊のflagshipも一緒に封印できたんデース」

 

「それは……大成功じゃないか」

 

「But……同時に初期艦も全員封印されてしまったネ。それに、その封印したカードも残った敵艦隊に奪われてしまっタ。散々だったヨ」

 

「っ……そう、か……」

 

室内に重苦しい空気が流れる。

 

過去に起きた《No.》騒動はよくわかった。しかし、ということはこの鎮守府でまた同じことが起きてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなくては。

 

「……あ! そうそう、忘れてたヨー!」

 

暗い空気を払拭するように、ひときわ明るく金剛さんが言う。

 

「響にpresentsネー!」

 

その手には小ぶりな箱。それには見覚えがあった。

 

「これ、確か司令官からの……」

 

「Yes、提督が昨日、響に渡したものネ。忘れていったから渡してくれ、って提督に頼まれたヨ」

 

せっかくだし開けてみる。すると、中に入っていたのは、

 

「……なんだろう、バッジ……?」

 

『横』の一文字が彫られた、金色に光る丸いバッジだった。

 

「おーぅ、『秘書艦バッジ』ネー!」

 

「『秘書艦バッジ』?」

 

「Yes、これをつけていることで、ここ横須賀鎮守府の提督秘書艦であるということが証明されるんデース!」

 

「なるほどね」

 

そういえば今の私は臨時秘書艦なんだった。怒涛の昨夜(と、ほとんど休憩時間な業務内容)のせいですっかり忘れていた。

 

と、ここで一つの疑問が生まれた。

 

「そういえば……私が臨時秘書艦に任命されたってことはそれまで秘書艦が不在だったってことだよね? それで今の金剛さんの話を聞いていて思ったんだけれど、もしかして先代って……」

 

その時だった。

 

バァン! と大きな音を立てて勢いよく部屋の扉が開かれた。

 

「? 誰デース?」

 

金剛さんが振り返る。私もそちらを見ると、そこにいたのは、

 

「長月……? どうしたんだい?」

 

息を切らせた長月だった。

 

その長月が、勢いよく頭を下げて言った。

 

「ーー助けてくれ!!!」

 

 

 

 

響のいた部屋の三つ隣の部屋。その前の廊下で、二人の艦娘が対峙していた。

 

方や、睦月型駆逐艦一番艦『睦月』。

 

方や、同じく睦月型の九番艦『菊月』。両者ともに、デュエルディスクの電源が入っている。

 

「……本当に、デュエルするのにゃ?」

 

「さっきからそう言っているだろう?」

 

言ってディスクを構える菊月。睦月もそれに倣う。

 

「わかったよ。……妹を止めるのも、姉の務めにゃしぃ」

 

「なんでもいい……早く始めるぞ」

 

そして、同時に宣言する。

 

「「デュエーー!!」」

 

「待て!!」

 

その二者の間に割って入る影。もちろん響だ。背後からは長月と金剛も追ってきている。それを見て、菊月は露骨に嫌そうな顔をした。

 

「何をする、響……姉妹の諍いに首を突っ込むとは、どういう了見だ?」

 

「それは謝罪しよう。だけどデュエルだと言うのなら、私が相手になる」

 

「ま、待つにゃしぃ響ちゃん! 今の菊月ちゃんは様子が……!」

 

「重々承知しているよ。……その上で言っているんだ、私とデュエルしろ、と」

 

菊月の左頬。そこには川内の額にあった数字のような模様ーーしかし形が違うーーがあった。おそらく、彼女も取り憑かれている。睦月が菊月の様子をおかしいと感じたのもそれが理由だろう。

 

と、菊月は何かに気づいたように、一つため息をついて言った。

 

「……まあ、別に貴様でも構わんがな、響。デッキを持たずにどうデュエルする気だ? まさか阿呆には見えぬデッキなどとは言うまいな」

 

「それこそまさかだね。大丈夫さ、ちゃんと考えてある」

 

それだけ言って響は菊月に背を向けた。

 

「一分ほど待ってくれ」

 

 

 

 

「……待ったぞ、丁度一分。もう良いな?」

 

「ああ、いいよ」

 

あれからきっちり一分後。私の腕についたディスクにはきちんと四十枚のデッキがセットされていた。

 

というか、背後から襲ってきたりしなかったところを見ると、まだ案外『菊月』の部分が残っているのかもしれない。

 

「ほおう、ちゃんとデッキを用意したか。そこの三人から借りたのか?」

 

「それはやってみればわかる。さて……ずいぶんお待たせしたね、それじゃあやろうか」

 

「ああ……まずは貴様から倒してやる、響」

 

「「デュエル!!」」




まだまだ説明が足りない部分がありますが、そこはおいおい補完していきます……多分。

次回、響デッキの正体。

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