ーー乱入ペナルティ、4000ーー
「……………………」
電気のようなエフェクトとともに、華城のライフが一気に初期値の半分になる。
華城:LP8000→4000
だが、華城の表情に一切変化はない。ひたすらに冷静だった。
「魔法カード《手札抹殺》発動。互いに手札を全て捨て、その枚数ドローする」
「……私は手札ゼロだけどね」
それを無視して、華城は自分の手札を捨てて五枚ドローする。
「《ジャンク・シンクロン》を召喚し効果発動。墓地のレベル2以下のモンスター一体を特殊召喚する。よみがえれ、《ボルト・ヘッジホッグ》。そして、レベル2のヘッジホッグにレベル3チューナー、ジャンクをチューニング。『想い』と『願い』が結合し、新たな『力』をここに生み出す。シンクロ召喚。現れろ、レベル5《ジャンク・ウォリアー》。……バトルだ、ジャンクウォリアーで《No.82 ハートランドラコ》に攻撃」
ジャンクウォリアーが白いマフラーを靡かせ、No.82に突撃する。
しかし。
「残念、No.82は自分フィールドに表側表示の魔法カードがある限り、攻撃対象にならない。その魔法カードっていうのは、当然ペンデュラムスケールも例外じゃないよ」
「……そうか」
だが、華城はすぐに手札のカードを掴んだ。
「ならバトルフェイズを終了し、魔法カード《死者蘇生》を発動。よみがえれ、ジャンク。さらに魔法カード《下降潮流》発動。自分フィールドのモンスター一体のレベルを1〜3の任意の数にする。ジャンクウォリアーのレベルを3にする。そして、レベル3のジャンクウォリアーにレベル3チューナーのジャンクをチューニング」
レベルの合計は、6。
「『想い』と『願い』が結合し、生まれし力はやがて強靭無敵の『盾』となる。シンクロ召喚。現れろ、レベル6《ジャンク・ガードナー》……カードを二枚伏せてターンエンド」
「私のターン、ドロー! No.82の効果発動、オーバーレイユニットを一つ使うことで、このターンダイレクトアタックできる! バトルよ、No.82で響にダイレクトアタック!」
気を失っている響に、容赦ない追い討ちをかける川内。今の響に抵抗する手段はない。
だが、華城もその程度は織り込み済みだった。
「ガードナーの効果発動。一ターンに一度、モンスター一体の表示形式を変更する。No.82には守備表示になってもらおう」
「チッ……」
「おいどうした。そんなものか?」
火のついていない煙管を指でクルクルと回しながら言う。その声に含まれる感情は、嘲りではなく呆れだ。
なぜなら、
「……バトルフェイズを終了し、墓地の《置換融合》の効果発動。このカードを除外し、墓地の融合モンスター一体をエクストラデッキに戻すことで一枚ドローする。《月光舞獅子姫》をデッキに戻してドロー! ……カードを二枚伏せて、ターンエンド」
「私のターン、ドロー」
ドローしたカードを横目で確認し、そのまま視線をずらして川内を見る。そして小さく呟いた。
「……今のお前なら問題ないか」
「……何か言った?」
「気にするな。ガードナーの効果を再び発動。No.82を攻撃表示にさせてもらう。さらに墓地の《ラッシュ・ウォリアー》を除外し効果発動、墓地の《シンクロン》を手札に戻す。ジャンクを手札に戻し召喚、再度効果発動。《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚。……レベル6のガードナーにレベル1チューナー、アンノウンをチューニング」
淡々と行われるシンクロ召喚。今の華城には、響とのデュエルの時のようなデュエルを楽しんでいる感じがまるでない。ただ、目の前の相手を倒す。それだけだ。
「『想い』と『願い』が結合し、その力の輝きは星の光すら超越する。シンクロ召喚。現れよ、レベル7《ライトニング・ウォリアー》。そして永続罠《エンジェル・リフト》発動、墓地のレベル2以下のモンスター一体を特殊召喚する。よみがえれ、《チューニング・サポーター》。さらにこの瞬間、手札の《ドッペル・ウォリアー》の効果発動、自分が墓地からモンスターを特殊召喚した時、このカードを手札から特殊召喚できる。そして墓地のヘッジホッグの効果発動、自分フィールドにチューナーが存在する時、墓地のこのカードを特殊召喚できる。レベル2のドッペルとヘッジホッグ、レベル1のサポーターにレベル3のチューナー、ジャンクをチューニング」
合計レベルは8。この時点で、華城は勝利を確信していた。
「『想い』と『願い』が結合し、生まれし怒りは永久の闇をも打ち砕く。シンクロ召喚。現れよ、レベル8《ジャンク・デストロイヤー》。この瞬間、デストロイヤーの効果発動。シンクロ召喚に使用したチューナー以外のモンスターの数だけ、相手のカードを破壊する。伏せカードを一掃させてもらう」
「……くっ、小賢しい……」
伏せカードは全て破壊された。《ブレイクスルー・スキル》もなかったらしい。
「サポーターがシンクロ召喚に使用された時、一枚ドローできる。さらにドッペルがシンクロ召喚に使用された時、ドッペルトークンを二体特殊召喚する。……バトルだ、ライトニングでNo.82に攻撃」
「……忘れたの? 私のフィールドに表側表示の魔法カードがある限り……」
「速攻魔法《魔法効果の矢》。相手の表側表示の魔法カードを全て破壊し、一枚につき500のダメージを与える」
どこまでも冷静に。機械的にデュエルを進める。
川内:LP5450→4950
「あらためてライトニングでNo.82に攻撃」
「ぐっ……!」
川内:LP4950→4550
「ドッペルトークン二体でダイレクトアタック」
川内:LP4550→3750
「デストロイヤーでダイレクトアタック」
「っ! でも、デストロイヤーの攻撃力は2600! それを受けても私のライフは残る!」
その程度、華城もわかっている。もとよりこの程度で終わるつもりもない。この後は、伏せカードを使って追撃、
する、はずだったのだが。
「それは、どうかな……」
「「っ!!?」」
その声に、川内だけでなくそれまで余裕のあった華城までもが驚きの声を上げた。
そこにいたのは。
「な……なんで……」
「……流石に驚いたな」
「…………………………」
衣服はところどころ破れ、脇腹の部分には血がにじんでいる。息も荒い。
だがそんなボロボロの状態でも、響はゆっくりと腕を持ち上げ、宣言する。
「罠カード、発動。《運命の分かれ道》。互いにコイントスし、表が出たプレイヤーはライフを2000回復、裏が出たプレイヤーは2000のダメージをうける……」
「それ……《涅槃の超魔導剣士》で回収してたやつ!?」
「ほう……《涅槃の超魔導剣士》ねえ……やっぱり面白いな、響は」
ここで初めて、華城の口の端に小さな笑みが浮かんだ。
ディスクから出てきたコインを親指に乗せる三人。そして同時に、弾く。
キキキィィィィィンンン……と音を立て宙を舞ったコインは、やがて三人の手の甲に落ちる。結果は……
「表、だよ」
「ふむ、裏か……」
響は表、華城は裏が出た。それぞれの結果がライフに反映される。
響:LP2000→4000
華城:LP4000→2000
そして、肝心の川内は、
「…………う、ら……」
川内:LP3750→1750
ふぅ、と小さくため息をく華城。そして、デストロイヤーの拳が川内に向かう。
「……安心しろ。すぐに楽になる」
「あ……ああああアアァァァァァァ!!!」
川内:LP1750→0
デュエルが終わり、立体映像が消えていく。それと同時に脱力したように倒れていく響を、華城が支えた。
「……息はある。気絶しているだけか」
響を寝かせ、まだ電源が入っている響のディスクを操作する。
数秒で、目当ての画面が表示される。それは直近数試合のデュエルログだ。誰が何のカードを発動し、どのように互いのライフが変動したかを見れるのだ。
それを見て、華城は思わず目を見開いた。
(先ほどのヲ級とのデュエル、それに川内とのデュエル。そのどちらでも、《No.》のダイレクトアタックを受けている……それなのに無事……これは、彼女が艦娘だからなのか? それとも……)
数秒思案。しかし結局何も思い浮かばない。仕方がないので、今度は離れたところで倒れている川内の元へ向かう。
額からは、数字は消えていた。それを確認した華城は、川内のディスクを操作し、墓地からあるカードを取り出す。
もちろん《No.82ハートランドラコ》だ。そのカードを懐から取り出した真っ黒なスリーブに入れた。それを再び懐へとしまう。
川内を片手で抱えた華城は、響の元へと戻ってきた。その頭に手をやりゆっくりと撫でながらぽつりと呟いた。
「……響、巻き込んでしまってすまない。君が目覚めたら、全て話そう。……頑張ったな」
そして、ズボンのポケットから携帯電話を取り出し、電話をかける。
「もしもし。起きてるか明石、私だ。……ああ、ついに出たぞ、ヤツが。どういう目的かは知らんがな。……そうだ。やっとこれで我々も、前に進める」
体の向きを変え、海の方を睨みつける華城。口元には確かな笑みがあった。
「こちらも、少なくない犠牲を伴ってしまったが……ここからは、我々のターンだ。存分に暴れてやろう。
空白。
「……まずは、『あのカード』を確保しなくては、か」
こうして響は、気づけば引き返せないところまできてしまっていた。響は海を見て、まるで『嵐の前の静けさ』だと形容したが、それはなんら間違っていなかった。ここからーーあるいは最初から、かもしれないがーー響の物語は、ようやく始まったのだから。
…………長いッ! 華城さん一ターンあたりの行動がずば抜けて長いよ! 面倒なんだよ!!
というわけで【ムーンライト】vs【ジャンド】(vs【魔術師】)でした。何気に響がほぼ出てこないデュエルは初めてですかね。
一応デッキ紹介。といっても華城だけですが。
【ジャンド】。スティーラー禁止で辛くなりそうですねえ。まあ今まで一回も使ってませんが。
ちなみに最後の伏せカード、あれは《リビングデッドの呼び声》です。《運命の分かれ道》でもし川内が表を出していても、これなら倒しきれます。どうやるかは各々考えてみてください。
次回ですが、まだ書き上がっておりません! ただ最近調子がいいのでもしかしたら完成する、かも。それでは!
次回、やっとこさの説明回!