「私のターン、《レスキューラビット》を召喚」
先攻は黒ローブ。その最初のターンに召喚されたのは、随分と可愛らしいモンスターだった。
「私はラビットの効果を発動。このカードを除外することでデッキからレベル4以下の通常モンスター一種類を二体特殊召喚する。《ヴェルズ・ヘリオロープ》を特殊召喚」
(レベル4が二体……エクシーズ召喚が来るな)
「行くよ。私はレベル4のヘリオロープ二体でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
予想通り、ランク4のエクシーズ召喚だ。さて、何が飛び出してくるか。
「歪んだ正義を振りかざし、堕ちた光はやがて闇をも喰らう絶望となる! エクシーズ召喚! 現れよ、ランク4《ヴェルズ・オピオン》!!」
光の渦を割いて現れたのは、まったく見たことのない黒い龍だった。
(また《ヴェルズ》……ということは、おそらくこの人のデッキは【ヴェルズ】なんだろうけど……全然聞き覚えがないな)
それが私がデュエルを初めて日が浅いのが理由なのか、はたまた別の理由があるのかは定かでないが。
「オピオンの効果発動。一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ取り除いてデッキから《侵略の》と名のついた魔法、罠一枚を手札に加える。《侵略の汎発感染》を手札に加え、カードを二枚セットしてターンエンド」
大型モンスター一体と、伏せカード二枚。なるほど、先攻としては上々だ。どうやらこの人物のデュエルタクティクスは相当のものらしい。
「私のターン、ドロー!」
後攻一ターン目。その手札は、イマイチよろしくない。
(もちろん、できる限りのことはするけどね)
「私はーー」
思い、行動に起こそうとしたその時だった。
「オピオンの第二の効果。このカードにオーバーレイユニットが存在する限り、お互いにレベル5以上のモンスターを特殊召喚できない!」
「っ!?」
明かされたオピオンのさらなる効果。その内容を聞いて、思わず私の手は止まっていた。
(くっ……私のデッキはペンデュラム召喚した上級モンスターで攻め込んでいくのが基本戦術……もしくはシンクロ召喚がメインなわけだけど、それらを丸々封じられたわけか)
当然、ルーンアイズや魔導剣士なんかも召喚できないわけだ。
「…………モンスターを裏側守備表示で召喚。さらにカードを一枚セットしてターンエンド」
今の手札に、オピオンをどうにかできるカードはない。ここは一度守りを固めるべきだろう。
「私のターン、ドロー。そしてバトルだ、オピオンでそのセットモンスターに攻撃!」
「っ、くぅ……」
裏側守備表示は《竜脈の魔術師》。その守備力900ではとてもじゃないがオピオンの攻撃を耐えることなどできない。
だが、私の心の中には一つの思惑があった。
それは、
「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2でオピオンの効果発動。オーバーレイユニットを取り除き、《侵略の侵喰崩壊》を手札に加える」
(…………よしっ!)
オピオンの上級モンスターの特殊召喚を制限する効果は、オーバーレイユニットがある時のみ。なら相手がオーバーレイユニットを使い切ってくれれば、自由に特殊召喚する事ができる。
しかし。
「これで上級モンスターを特殊召喚できる。そう思っているのかな?」
「!!」
「甘いよ、考えが。魔法カード《オーバーレイ・リジェネレート》発動! このカードは、発動後エクシーズモンスター一体のオーバーレイユニットになる!」
「オーバーレイユニットを、増やすカード……!?」
これで再び、次のターン以降も上級モンスターの特殊召喚を封じられた。
「カードを一枚セットしてターンエンド。さ、あなたの番だよ」
「……私のターン、ドロー!」
しかし、運はまだ私を見捨てていなかったらしい。
「手札の《EM ラディッシュ・ホース》の効果発動! 相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在し、かつ相手フィールドのモンスターの数が私のフィールドのモンスターと同数以上なら特殊召喚できる。さらに《EM ヘイタイガー》を召喚!」
「レベル4が、二体……エクシーズ召喚かな」
「残念だけどそうじゃない。《EM ラディッシュ・ホース》の第二の効果。自分と相手のモンスターを一体ずつ選択し、このカードの攻撃力分、相手モンスターの攻撃力を下げ、自分のモンスターの攻撃力を上げる。対象はオピオンとヘイタイガーだ」
すぐさまディスクに表示されたオピオンの攻撃力からラディッシュホースの攻撃力500が引かれ、逆にヘイタイガーにそれが加わっていく。
「これでオピオンの攻撃力は2050、ヘイタイガーの攻撃力は2200。逆転したよ。バトルだ、ヘイタイガーでオピオンに攻撃!」
これで戦闘破壊すればヘイタイガーの効果で《EM》をサーチすることができる。まさしく一石二鳥というわけだ。
(……まあ、そんなにうまくいかないと思うけど)
チラリと視線をやる。そこには三枚もの伏せカード。
(おそらくあの中の二枚はさっきサーチしていた汎発感染と侵喰崩壊だろうけど……それがわかっていても肝心の効果を知らないからな)
そして案の定そのうちの一枚が発動された。
「罠カード《侵略の侵喰崩壊》発動! 自分の《ヴェルズ》一体を除外し、相手のカード二枚を手札に戻す。オピオンを除外しヘイタイガーとラディッシュホースを手札に戻してもらうよ。……さて、何かある?」
「……私はこれでターンエンド」
手札は増えたが、代わりに攻め手を失ってしまった。
そしてこちらの手を妨害した黒ローブは悠々と自分のターンを進めていく。
「魔法カード《予想GUY》発動。自分フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからレベル4以下の通常モンスター一体を特殊召喚する。三体目の《ヴェルズ・ヘリオロープ》を特殊召喚。さらに《ヴェルズ・オランタ》を召喚し、二体でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」
黒ローブの目の前に現れた闇色の渦に、二体が吸い込まれてゆく。
「歪んだ正義を振りかざし、生まれし悪魔はすべての力を拒絶する! エクシーズ召喚! 現れよ、ランク4《ヴェルズ・タナトス》!」
現れた二体目の《ヴェルズ》エクシーズモンスターは、馬に乗った騎士のような見た目をしていた。口上通りだとすると、おそらく悪魔族なのだろう。
「バトルだ。タナトスでダイレクトアタック!」
そのタナトスがこちらに駆け寄り、その剣を振るう。完全に私を捉えたその剣は、右肩から斜めに切り下ろされた。
「っ、ぐぅ……!?」
響:LP8000→5650
しかし、そこで私は一つの違和感を抱いた。
(なんだ? 今、何かおかしかった……モンスターのダイレクトアタックを受けることはよくあるけど、それとは何か違うような……?)
その違和感の正体はなんだったのか、素早く思考を巡らせる。
やがて、一つの結論にたどり着いた。それを確かめるために、右肩に左手を伸ばす。
「っ、〜〜!!」
声にならない叫びが喉の奥で響く。左手を見てみると、そこにはべったりと赤い液体ーーすなわち血液が付着していた。窓ガラスに映った自分を見ると、右肩から斜めに五センチほどの新しい切り傷があった。
(間違いない……モンスターの攻撃が、わずかだけど実体化している。感じた違和感の正体はそれだ……!)
少しだけ、息が荒くなる。傷を自覚してからというものの、徐々に痛みが増していっている……気がする。
そして同時に、疑問が生じる。
「あなたは……いったい、何者なんだ? 足柄さんたちを昏倒させた件といい、全く見当がつかないんだけれど」
疑問を素直に口にすると、黒ローブは軽く首を傾げた。
「……おや、わからない? そういえば、妙高や那智も最初は気づいていなかったっけ。まあしょうがないね、普段は喋らないし」
「???」
なぜだ。なぜこの人物は自分の正体が割れてないことに疑問を抱いているんだ。
わからないでいると、黒ローブはそのフードに手をかけ、
「私、こういうものです」
一息に外した。
そこにいたのは、銀色の短髪で。この世のものとは思えないほど青白い肌で、海色の瞳を持つ、
「改めて、初めまして。海の上以外で会うのは初めてだね?
「なっ……!!」
人類の怨敵にして艦娘の宿敵。そんな深海棲艦が一人、空母ヲ級であった。
「ーーっ!!」
咄嗟に身を翻し、どこかの部屋に駆け込もうとした。艤装を装備していない私とおそらく装備しているヲ級ではその実力差は歴然だからだ。
しかし。
「おっと。そんなことできると思っているの?」
「? ……っ、がっ!?」
言われた直後に、勢いよく何かにぶつかったような衝撃が額に生じた。起き上がって見てみると、薄紫色の壁のようなものが眼前にあった。
(っ、夜の闇にまぎれて見えなかった……なんだこれ?)
「デュエルが始まった時からずっとあったよ。それがある限り内部から外部も、外部から内部もお互いに干渉することはできない。その証拠にほら、なんでここまでしているのに周りの皆は誰も目を覚まさないんだろうね?」
「! そういえば、そうか……」
ぶつけた額をさすりながらヲ級を睨めつける。右肩もまだ痛むけれど、それを気にしている暇はなさそうだ。
「さあ、カードを一枚伏せてターンエンド。君のターンだよ」
「……私の、ターン。ドロー!」
ドローカードを確認し、すぐさま再びラディッシュホースを特殊召喚しようとする。だがそこで、ピタリと手を止めた。
(いや……このコンボはさっき使った。となると、その対策をしていてもおかしくない。なら)
手をラディッシュホースから今ドローしたカードへと移す。
「魔法カード《EM キャスト・チェンジ》を発動。手札の《EM》を任意の枚数デッキに戻し、それに一枚追加した枚数カードをドローする。手札のヘイタイガーとラディッシュホースをデッキに戻し、三枚ドロー!」
半分が入れ替わった手札を見て、即座に次の手を考える。
「私はスケール2の《EM ラクダウン》とスケール5の《EM チェーンジラフ》でペンデュラムスケールをセッティング。これでレベル3から4のモンスターが同時に召喚可能だ」
やっと私の戦い方ができる。
「やらせてもらうよ。ペンデュラム召喚! まずは手札からレベル3《EM エクストラ・シューター》、レベル4《EM ロングフォーン・ブル》、さらにエクストラデッキからレベル4《竜脈の魔術師》! そしてブルの効果発動、このカードが特殊召喚された時、デッキからペンデュラムモンスターでない《EM》を手札に加える。《EM バリアバルーンバク》を手札に加える」
「攻撃力が足りないな。それだとタナトスを倒せないよ?」
「わかっているさ。だからこうするんだ。私はシューターと竜脈をリリースし、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をアドバンス召喚!」
これで攻撃力は上回った。無論、これで終わらせるつもりもないが。
「さらに魔法カード《フォース》を発動! モンスター二体を選択し、片方の攻撃力を半分にすることで、その数値分、もう片方の攻撃力を上昇させる。対象はタナトスとオッドアイズだ!」
「なるほど、だがまだ甘いね。速攻魔法《侵略の汎発感染》発動。このカードを発動したターン、自分の《ヴェルズ》はこのカード以外の魔法、罠を受け付けない」
防がれたーーが、ここまではまだ想定内だ。
「ならこうだ。私は闇属性、ドラゴン族のオッドアイズと獣族のブルをリリース! ふた色の眼の龍よ。野生をその心に宿し、新たな姿となりて現れよ! 融合召喚! レベル8《ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」
「融合を使わない融合召喚……面白いね」
珍しく、褒められてもなんら喜びの感情は湧いてこなかった。
「バトルだ。ビーストアイズでタナトスに攻撃! このカードが相手モンスターを戦闘破壊した時、融合素材にした獣族モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「く、やるね……」
ヲ級:LP8000→7350→5750
「私はこれでターンエンドだ」
ダイレクトアタックでないにせよタナトスのダイレクトアタックとほぼ同等のダメージを受けておきながら、ヲ級は平然としたままだった。
ヲ級は言う。
「……《EM キャスト・チェンジ》。あれはいい判断だった。タナトスはオーバーレイユニットを取り除くことでモンスター効果に対する耐性をつけられる。だから再びラディッシュホースのコンボを使っても無意味に終わっていた。それを直感的に躱したのは見事だよ」
「……御託はいい。早く進めてくれないかな」
私の敵意のこもった声を受けて、なぜかヲ級はうっすらと笑みを浮かべた。
「まあそう焦らないでよ。君の実力を認めて、一ついいものを見せてあげよう」
「……いいもの?」
デッキの一番上に指をかけながらヲ級は言う。
「世界の深淵。その末端を、ね」
瞬間。ヲ級のデッキの一番上が黒く光った。
「私のターン。ドロー」
ついに出てきました、深海のデュエリスト。厨二病臭いですが本人は至って大真面目。
【EMオッドアイズ】vs【ヴェルズ】です。解説は次回。
次回、ついに『あのカード』解禁ッ!