駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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大型ドラゴンの脅威

「降臨するっぽい! 《青眼の白龍》ッ!!」

 

最初に目に入ったのは、巻き上げられた運動場の砂だった。少し遅れてものすごい風圧を感じ、咄嗟に両手を交差して目をかばう。

 

次に、キャオオオオン!! という咆哮が聞こえた。風が弱まったため手を外して前を見ると、そこにはーー

 

「ーー美しい」

 

そんな感想が無意識に漏れた。それでもなお、ただ惚けるようにして目の前の龍を眺めていた。

 

やがて、少しずつ思考が追いついてくる。

 

(……ブルー、アイズ……ただの最上級レベルの通常モンスターのはずなのに、なんだ、この力強さは……!)

 

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》とは比べ物にならないほどの迫力に、指一本動かすことができなかった。

 

しかし、現実は無慈悲である。

 

「行くっぽい! ブルーアイズで、響ちゃんにダイレクトアタック!!」

 

「ーーッ!! くうぅぅ!!」

 

ブルーアイズの口から放たれた光線が私を貫き、大きな衝撃とダメージを与えた。

 

響:LP8000→5000

 

「くっ、うぐぅ……!」

 

ザリザリザリッ! という大きな音を立てて靴で急ブレーキをかける。目を開けると、二メートルほど後退させられたのがわかった。

 

(り、立体映像のはずなのに……恐ろしいな……)

 

頬を伝った汗を拭う。そして視線を上げると、ブルーアイズを含む三体の龍がこちらを睨みつけていた。

 

……どうする?

 

(今の手札じゃどうにもできない……次のドローで何か引かないと、次のターンで負けてしまうかもね)

 

「私はこれでターンエンドっぽい」

 

「私のターン。ドロー!」

 

一層気合の入った掛け声とともに、カードをドローする。引いたカードは……

 

「……よしっ、私は《EM ジンライノ》を墓地に送り、魔法カード《死者転生》を発動! 手札のモンスターをコストに、墓地のモンスターを手札に戻す。《EM オッドアイズ・ユニコーン》を手札に戻し、スケール3の《EM オッドアイズ・ライトフェニックス》とスケール8のユニコーンでペンデュラムスケールをセッティング!」

 

これでレベル4から7までのモンスターが同時に召喚可能だ。

 

「待たせたね、出番だよ。ペンデュラム召喚! まずは手札よりレベル4《EM ペンデュラム・マジシャン》、そしてエクストラデッキよりレベル7《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」

 

マジシャンは守備表示である。それを見た夕立は、小さく首をかしげた。

 

「オッドアイズの攻撃力は2500……それじゃ《アークブレイブドラゴン》にも届かないっぽい!」

 

「どうかな……と、その前にマジシャンの効果を発動! このカードの特殊召喚に成功した時、自分フィールドのカードを二枚まで破壊することで破壊した枚数分《EM》を手札に加えることができる。伏せカード一枚を対象とし、対象とした伏せカードをチェーン発動。罠カード《活路への希望》、ライフを1000払い、相手とのライフ差2000につき一枚ドローする」

 

響:LP5000→4000

 

「……最終的に、響は二枚ドローした後《EM》を一枚手札に加える、だね」

 

時雨が短くまとめてくれた。ありがたい。

 

「それじゃあ、二枚ドロー、そしてマジシャンの効果で《EM バブルドッグ》を手札に加える。……バトルだ、オッドアイズで《巨神竜フェルグラント》を攻撃!」

 

「!? 一番攻撃力の高いフェルグラントを!?」

 

慌てる夕立。それに対してニヤリと笑いながら言葉を返す。

 

「この瞬間、《EM オッドアイズ・ユニコーン》のペンデュラム効果発動! 《オッドアイズ》が攻撃するとき、自分の《EM》一体の攻撃力を加えることができる! マジシャンの攻撃力をオッドアイズに加えるよ」

 

「っ! てことは、2500+1500で……4000!?」

 

「そうだね。これで逆転だ」

 

オッドアイズのビームがフェルグラントに向かい、その巨体を貫くーー

 

「永続罠《竜魂の城》発動! 墓地のドラゴン一体を除外することで、自分のモンスターの攻撃力を700アップさせるっぽい! 《限界竜シュヴァルツシルト》を除外してフェルグラントの攻撃力をアップさせるっぽい!」

 

「!!」

 

フェルグラントの巨体が崩れ落ちる寸前、その口から閃光が走り、その光がオッドアイズを消しとばした。

 

「……なるほど、700アップしたことでフェルグラントの攻撃力も4000に……だから相打ちになったのか」

 

なんとかフェルグラントの排除には成功したけれど、代わりにオッドアイズを失ってしまった。はっきり言って、あまりいい状況ではない。

 

「……カードを二枚伏せてターンエンド」

 

「夕立のターン、ドロー!」

 

逆に夕立の方はまだ表情に余裕がある。夕立にとって攻撃力3300は特別でもないのだろう。

 

「手札から魔法カード《黙する死者》を発動、墓地の通常モンスターを守備表示で特殊召喚するっぽい! 現れて、《トライホーン・ドラゴン》!」

 

「また最上級……でも守備表示か」

 

トライホーンもまたブルーアイズには劣るが優秀なステータスだ。だが攻撃できないのなら怖くもーー

 

そこで、あることに気づいた。

 

(……ん? トライホーンのレベル……8? そしてトライホーンは攻撃できない……まさか?)

 

そのまさかであった。

 

「私は! レベル8のブルーアイズとトライホーンでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 

(やっぱりか……!)

 

「神竜の力を纏いし騎士、その力はやがて新たなる伝説を創り出す! エクシーズ召喚! 現れて、ランク8《神竜騎士フェルグラント》!!」

 

光の中から、銀の鎧を纏った人物が現れる。名前の通り、どことなく《巨神竜フェルグラント》に似ている……ような気がする。

 

(でも、攻撃力はブルーアイズより低い。代わりに効果が強力なんだろうけど……どうなんだろう)

 

とりあえず、油断はできない。カシャ、と音を立ててディスクを構え直す。

 

「さあ、バトルっぽい! アークブレイブで、マジシャンに攻撃!」

 

「させない、罠カード《エンタメ・フラッシュ》発動! 自分フィールドに《EM》が存在するとき、相手モンスター全てを守備表示にし、表示形式の変更を封じる!」

 

これでこのターンのダメージは防げる。

 

そう、思ったのだけれど。

 

『……足りないな』

 

「? 司令官?」

 

ディスクから声。通話中であり書類作業中の司令官だ。

 

「足りないって?」

 

『前、見てみろ』

 

そう言われたのでおとなしく前を向く。そこにいたのは当然ながら守備表示になっているアークブレイブとーー

 

「ーーフェルグラントが、攻撃表示のまま?」

 

おかしい。アークブレイブが守備表示になっているということは、エンタメフラッシュを無効にされたというわけではなさそうだ。

 

と、そこであることに気づいた。

 

「っ! フェルグラントのオーバーレイユニット……!」

 

「フェルグラントの効果!」

 

そこで、夕立がニッと犬歯を覗かせた笑顔で高らかに宣言した。

 

「一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ取り除き、モンスター一体を対象として、そのモンスターの効果を無効にする代わりに、このターンすべての効果から守るっぽい! そしてこの効果は相手ターンでも使えるっぽい!」

 

「……なるほど。フリーチェーンの耐性付与効果……!」

 

フェルグラント自身をその対象としたことで、エンタメフラッシュの効果から守ったということか。

 

「バトル続行! フェルグラントでマジシャンを攻撃!」

 

「墓地の《EM ジンライノ》の効果発動。このカードを除外することで《EM》を破壊から守るよ。これでマジシャンは戦闘破壊されない」

 

「じゃあこれでターンエンドっぽい」

 

さて。夕立のフィールドのフェルグラント、その攻撃力は2800。私のフィールドのモンスターでは勝つことができない。カード効果で除去しようとしても今度はフェルグラント自身の効果が脅威となる。

 

(どうしたものかな……)

 

「私のターン、ドロー」

 

ドローカードを確認、少し考え、これならいけるかもしれない、と思う。

 

「行くよ、ペンデュラム召喚。手札よりレベル6《EM バブルドッグ》、そしてエクストラデッキより《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》! そして魔法カード《エンタメ・バンド・ハリケーン》、発動!」

 

「《エンタメ・バンド・ハリケーン》……?」

 

「そうさ。その効果は、自分の《EM》モンスターの数だけ、相手のカードを手札に戻す! 対象はフェルグラントとアークブレイブだ」

 

「ぽい!? ど、どっちかしか守れないっぽい……!」

 

そう。これなら夕立はフェルグラントの効果を使わざるを得ない。まあ使わないのなら使わないでいいのだけれど。

 

「むう……フェルグラントの効果発動、対象はアークブレイブっぽい」

 

しぶしぶといった感じでアークブレイブに効果を使い、フェルグラントをエクストラデッキに戻す夕立。

 

「フェルグラントを残さないで良かったのかい?」

 

「フェルグラントを残しても、オーバーレイユニットを使い切っちゃったらただの大型モンスターでしかないっぽい。だからここは次に繋げられるアークブレイブを残す方が賢明っぽい」

 

なるほど、道理だ。私にとっても、その判断はありがたい。

 

ともかく、これで大きな脅威は去ったわけだ。

 

「バトルだ、バブルドッグでアークブレイブに攻撃!」

 

「っ……」

 

無抵抗。これならいける。

 

「続けてオッドアイズでダイレクトアタック!」

 

「させないっぽい! 罠カード《攻撃の無敵化》! このバトルフェイズのダメージを無効にするっぽい!」

 

……そう簡単には行かせてくれないようだ。

 

「私はこれでターンエンドだよ」

 

手札のないこの状況ではこれ以上の展開は無理なので、おとなしく夕立にターンを渡す。

 

「夕立の、ターン」

 

と、デッキトップに指を乗せ目を瞑る夕立。何事かと思えば、やがて静かに口を開いた。

 

「……響ちゃんのフィールドには、モンスターが三体と伏せカードが二枚。手札はゼロ、ライフは4000」

 

どうやら現状を確認しているようだ。そして、ゆっくりと目を開く。

 

「ーーこれなら、いけるっぽい! ドローッ!」

 

ドローカードを確認した夕立は、先程より一層獰猛な笑みを浮かべて言った。

 

「最っ高に素敵なパーティーしましょう?」




はい、というわけで【EMオッドアイズ】vs【最上級ドラゴン】でございます。え? 夕立のデッキは【青眼フェルグラ】じゃないのかって? 違うのですよ。そこも今回解説していきます。というわけで恒例のデッキ解説! 別に無視してくれて構わないぜ!

響さんはあいも変わらず【EMオッドアイズ】です。ユニコーンは超万能。

問題児夕立さんのデッキは【最上級ドラゴン】。……実は夕立さんのデッキ、最上級ドラゴン以外のモンスターが入ってません。ですのでめちゃくちゃ重いです。んでもってフェルグラやアークブレイブは相性がいいから入れてるだけで、主軸というわけではないのです。どちらかというと【通常ドラゴン】の方が近い感じです。ほら、《黙する死者》とか《トライホーン・ドラゴン》なんて【フェルグラ】に入れないでしょう?

こんなところですかね。気になる事はどうぞご自由に。

次回、決闘者に運は必須技能。

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