駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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響の梅雨ボイスを聞いて衝動的に書いちゃいました……三日ほどで。

本編もちゃんと書いてますよ。


番外編:夏の足音は雨とともに

ーーこれだから、この季節は嫌いなのだ。

 

「……………………」

 

鎮守府の廊下から、窓の外の豪雨を見てそう思う。

 

梅雨。日本の六月の風物詩。沖縄付近で発生して徐々に日本列島を北上していく停滞前線、通称梅雨前線によってもたらされるそれは、私たち艦娘にとっては天敵といってもいい。

 

まず、当然ながら天候に関係なく懲戒任務は存在する。雨の場合は軍から支給されたレインコートを着て行うのだが、海の上を進むため、あまり意味をなしていない。それに視界も非常に悪い。

 

そして何より、

 

「おい、どうした響」

 

「……ああ、すまない、菊月。ちょっと窓の外を見ていたんだ」

 

「やめておけ、気が滅入るだけだぞ……」

 

そう言って前を進む菊月。その手にはバケツと大量の雑巾が抱えられており、それと同じものを私も持っている。

 

どういう状況かというと、先ほどまで私、暁、そして睦月型の皆で艤装の点検をしていたのだ。で、じゃんけんで負けた私と菊月がその片付けを担当している、というわけだ。

 

湿気は電探の電気系統を容赦無く侵し、砲などの錆びつきを加速させ、カビなんかが生えた時には目も当てられない。なのでこの時期は特に頻繁に艤装の手入れをしなければいけないのだ。

 

(普段は出撃前と出撃後に軽く調整するだけでいいのに、梅雨の場合はそうもいかないからね……)

 

漏れそうになったため息をぐっと飲み込み、少しだけ早足になる。マイナスなことを考えて気を落とすよりも、さっさとこのお使いを済ませて部屋に戻って暁たちと遊ぼう。

 

「……なあ、響」

 

と、私が歩調を合わせたために横に並んだ菊月が口を開いた。

 

「なんだい?」

 

「いやな……お前と暁のデッキにはいまいち共通点が見当たらんなと思ってな」

 

私と暁のデッキ。私の方は【オッドアイズEM魔術師】、暁のは【真紅眼の黒竜】だ。

 

(その、共通点?)

 

その言い方だと、まるで、

 

「……姉妹艦だと、似たようなデッキになる傾向があるのかい?」

 

「いや、別にそういうわけではないさ。陽炎型なんかは全員個性豊かなデッキを使っている。……だが、私たち睦月型や……あとは白露型なんかは姉妹で傾向の似たデッキを使っている」

 

「傾向の似た……?」

 

思いかえされるのは、長月とのデュエル、そして睦月を含めたあのタッグデュエル。

 

だが、

 

「……長月の使う【カラクリ】は機械族のシンクロデッキ、睦月の使う【ヒロイック】は戦士族のエクシーズデッキだろう? 正直、似たところが見当たらないんだけど……」

 

「……まあ、確かに長月のデッキは少し違うように感じるかもしれないが、……あのデッキもまた睦月型らしいものだ」

 

どういうことだろう? と、首を傾げていると、ふとあることを思い出した。

 

(そういえば……確か、最初の方にやった病室でのデュエル……そうだ、あの時に私は……)

 

あれは、私がこの鎮守府に着任して三日目のことだ。初日の騒動のせいで病室にいた私のところに、睦月型の数人がお見舞いに来てくれたのだ。その時に、私は睦月型の一人、卯月とデュエルしている。

 

彼女の使用するデッキは、戦士族の融合デッキ。

 

そこで、一つピンときた。

 

「もしかして……『戦士』、かな?」

 

「おお、気づいたか。そうだ、私たち睦月型は皆、『戦士』、もしくは『正義』が中心にあるデッキを使う傾向にある」

 

そう言う菊月の声は少し弾んでいた。

 

(なるほど、確かに長月のデッキは戦士『族』ではないけれど、全体的な雰囲気は武士の時代を彷彿とさせるものだった。それになんとなく、『正義』というのもわからなくはないかな)

 

確かに、武士といえば『正義』な感じはする。なんとなくだが。

 

「ということは、菊月のデッキも『戦士』で『正義』なのかな?」

 

「ああ。……もっとも、私のデッキは師の影響を強く受けているがな」

 

そこで菊月は口を閉ざしてしまった。追求すれば教えてくれるかもしれないが、まあそれは実際にデュエルするときのお楽しみとしておこう。

 

(じゃあ、今は仕事を済ませてしまおうか)

 

目的地は、もうすぐだ。

 

--------------------ーー

 

 

「戻ったよ」

 

「あ……おかえりなさい」

 

「ああ、ただいまだ、弥生」

 

駆逐艦寮、睦月型の部屋。片付けを一通り終えた私と菊月は、皆の待つこの部屋に戻ってきた。

 

「暁はおとなしくしていたかい?」

 

「うん。さっきまで、睦月たちとデュエルの話をしていたんだけど、今は……」

 

そう言って振り返る弥生。それに倣ってそちらを見ると、

 

「よーっし、完成にゃ!」

 

そのタイミングで睦月が大声をあげた。

 

「どうした睦月、急に大声を出したりして……」

 

「にゃ? あ、菊月ちゃんに響ちゃん、おかえりなさい! 実は睦月、こんなものを作っていたのにゃしぃ!」

 

自信満々な睦月が手に持ったものを私たちに見せる。それは、

 

「……てるてる坊主、かい?」

 

「そうにゃ! なかなかうまくできているでしょ?」

 

「なるほど、睦月と如月を模っているのか……上出来じゃあないか? なあ、響」

 

もちろん私も同意見だ。二人をモチーフにした一対のてるてる坊主は、どちらも非常に可愛らしくできている。

 

「確かに可愛……ん?」

 

その感想を口に出そうとした時、睦月の後ろに何かが見えた。

 

人影、というか、

 

「……どうしたんだい、暁?」

 

「ぴゃあ!!? な、ななななによ、ひひ響」

 

「いつから私はそんな愉快な名前になったんだい」

 

言いつつ暁の方を観察する。白い布の切れ端のようなものとちぎられた新聞紙が散らばった机。暁の横にはクレヨン。ということは、

 

「もしかして、暁もてるてる坊主を作っていたのかい?」

 

「!!! え、えと、あの、う、あ……」

 

「ちょっと見せておくれよ」

 

「ま、待っーー!」

 

止めようとする暁の声をスルーして机を回り込む。そして、その机の上にあったのは、

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………あ、ああ、《真紅眼の」

 

「てーるーてーるーぼーうーずー!!!」

 

暁が大声で抗議する。しかし……しかし、絶望的なまでに《真紅眼の黒竜》である。

 

「た、確かに見事なレッドアイズだな……」

 

「………………」

 

「……ま、まだ材料はあるにゃ……!」

 

感嘆の息を漏らす菊月、無言の弥生、まさかのフォローに回る睦月。

 

三者三様な反応を受けて、暁は崩れ落ちた。

 

「違うし……てるてる坊主だし……ちょっと手が滑っちゃっただけだし……」

 

どう手が滑ったらてるてる坊主に羽が生えるんだろう。

 

しかし、さすがにやりすぎたか。反省し、フォローに回ることにする。

 

「まあ、その、暁」

 

「…………あによ」

 

「………………レッドアイズなら、この雨雲も散らしてくれるさ」

 

「雑すぎない!?」

 

ダメだったようだ。

 

(さて、どうしたものか……)

 

と首をひねっていると、

 

「……あのなあ、お前たち。廊下まで声が聞こえていたぞ」

 

「? 長月?」

 

「私もいるわよ〜」

 

玄関から声。振り返ると、そこには長月と如月がいた。その手にはジュースの入ったペットボトルとコップがある。

 

「艤装の点検を頑張ったからって、明石さんが」

 

弥生の補足が入る。

 

「そら、休憩にしよう。机をもう一台出してくれ」

 

「ああ……と、一人じゃ重たいから手伝ってくれ、響」

 

「了解。……っと」

 

その前に、沈んでいる暁のもとへ行く。

 

「暁」

 

「…………」

 

無言。しかし私は折れない。そばに落ちていた《真紅眼のてるてる坊主》を拾い上げ、それを窓の近くにかけた。

 

「……なによ」

 

「きっと、晴れるさ」

 

そう言って微笑みかける。すると、それを見ていた睦月が自分たちのてるてる坊主もその横にかけ、納得したように首を縦に振った。

 

「うん! 暁ちゃんのてるてる坊主、すごく頼もしいにゃしぃ! きっと、すぐに雨も止むよ!」

 

その私たちの言葉を受けた暁は、一瞬目に涙を浮かべた後、

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

グッと顔を上げ、それを堪えた。

 

そして、

 

「……まったく、もう! 人のてるてる坊主を好き勝手言ってくれちゃって! そんなにレッドアイズが好きなら私のデッキが相手になるわ!」

 

ニッ、と。思わず口角が上がった。

 

「望むところだよ」

 

 

 

 

そうして始まった響と暁のデュエルを見ながら、菊月は思った。

 

(二人のデッキの共通点、か……そういえば、どちらも切り札が『眼』に関する『竜』だな。となると、それが暁型の共通点か?)

 

彼女はまだ考えていたのだ。先ほど響に話したことを。

 

そして一つの結論に達しかけ、しかし首を横に振った。

 

(いや、違う……なんだ、この、名状しがたい……しかし、両者のデッキから確かに感じるこの感覚……これは……)

 

その時、菊月の視界の端にあるものが差し込んだ。それは、

 

「……『光』、か……そうか、なるほどな……」

 

「どうした、菊月? ……おや」

 

長月が、三体のてるてる坊主のかかった窓に近づく。

 

雲の隙間から、日光が一筋、差していた。




菊月ちゃんまじポエマー。

時系列は気にしないでください。ある種パラレルワールド的な。

たまには、こういうのもいいでしょう?

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