駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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『あのカード』の謎

「連続重巡洋艦襲撃事件?」

 

鎮守府、第二演習場。その片隅にある射撃訓練場で、狙撃銃のスコープを覗きながら私は背後の人物に尋ねた。

 

「ああ。なんでも現場からは硝煙反応は出ず、それどころか血の一滴すらない。被害者に目立った外傷はなく、挙句ーー」

 

わざとらしく焦らす人物ーー長月の言葉を待たず、スコープの中心に的を収める。

 

「ーー直前までデュエルしていた痕跡があるんだ」

 

タァン、という乾いた音の直後、的の中心に模擬弾が吸い込まれた。

 

「……ハラショー」

 

「おい、聞いてるのか響」

 

「聞いているとも。それで、それは実際に起きたのかい?」

 

ある意味当然の私の質問に対し、長月は少しムッとしたように答えた。

 

「あのなあ……確かに怪談か何かのように聞こえるかもしれないが、これは実際に起きている事件だ。それもこの鎮守府でな」

 

「……そんな結構な事件が起きたら、私たちにすぐに情報がくるはずじゃないかな?」

 

「司令官の命令で情報が規制されているんだ。理由は知らんがな」

 

「……じゃあなぜ君は知っているんだい、長月」

 

言いながら台から離れ、手に持った狙撃銃を長月に渡す。それを受け取った長月は、先ほどの私と同じように的に狙いを定めながら言った。

 

「そんなに不思議な話じゃないさ……単に私が二度目の事件の第一発見者だというだけだ。襲われたのは妙高型重巡洋艦の二番艦『那智』。重巡寮の入り口あたりの壁にもたれかかっていた」

 

「よく見つけたね」

 

「毎日早朝にランニングをしていてな。あの辺りはよく通るルートなんだ。……なんならお前もやるか?」

 

「いいのかい?」

 

「いいとも。普段は私以外にも菊月や初霜、日によっては巡洋艦や戦艦もいるんだがな。その日はたまたま私一人だったんだ」

 

タァン。再び的の中心が射抜かれ、長月がその手の銃を私に渡してくる。それを受け取り、またスコープを覗く。

 

「それにしても、那智さんは無事だったのかい?」

 

「ああ、命に別状はないらしい。なんだが……さっきも言ったろう? 那智のは二件目だと」

 

「つまり一件目があったと」

 

「そうだ。被害者は那智と同じ妙高型の一番艦『妙高』。こちらは鎮守府本館の提督執務室付近の廊下で倒れていたのを明石が見つけたそうだ。彼女は前日の夜間見回りをしている最中に襲われたらしく、近くに電池の切れた懐中電灯が落ちていたとのことだ。そしてもちろん」

 

「外傷がなく、デュエルしていた形跡がある、か」

 

タァン。交代。

 

「その通り。そしてここで問題になってくるのは、最初に一番艦、次に同型艦の二番艦が襲われたということだ。……そのせいで、今回の件を知っているものの間では次は三番艦の足柄が襲われるのでは、なんて噂まである始末だ」

 

「まあ、そう思ってしまうのも無理はないね」

 

人間、多少法則性のようなものを見つけると次もその通りになるのではと考えてしまうものだ。

 

(……それにしても、謎の昏倒事件に共通する『デュエル』……まさか)

 

思い、なんとなく自分のディスクに目をやる。

 

ーーデュエルが原因で意識を失った?

 

……いやいや、まさか。

 

(でも……もしかしたら、あり得るのか? 確かに私たちのディスクにそんな機能はないけれど、仮にそういう装置なりなんなりを持っている人物ならあるいは……)

 

じゃあ例えばそれが誰か、など見当もつかないけれど。

 

とかなんとか考えていると、不審そうな顔をした長月が私の顔を覗き込んできた。

 

「……何かな」

 

「いやな、たんにお前の番だというのに惚けていたからな」

 

「ああ、そうか。すまないね」

 

狙撃銃を受け取り、再び台へ。今度も慎重に狙いを定め、引き金を

 

「そう言えば、《覚醒の魔導剣士》のことなんだが」

 

「!!」

 

その言葉で動揺し、放たれた模擬弾は的の端をかすめていった。

 

「あっ……」

 

「お? どうした、らしくもない」

 

「……なんでもない、ただ手元が狂っただけさ。それより、魔導剣士がなんだって?」

 

外しても一発は一発。大人しく長月に順番を譲る。

 

「魔導剣士といい、慧眼といい。お前とのデュエルの後調べてみたんだが、あれらのカードはやはり実在しないようだ」

 

「……それは、私がオリジナルカードを使っていたと?」

 

「そういうわけではないさ。あのデュエルの最中、一度たりともディスクはエラーを出さなかった。それはすなわち、ディスクの中では公式のカードとして扱われているってことだ。だからこそ、一つ聞きたいんだが」

 

タァン。的の中心を撃ち抜いてから、長月は振り返ってこう言った。

 

「あれらは、結局なんだったんだ?」

 

「………………」

 

銃を受け取り、しかし台には向かわずその場で小さく下を向いた。

 

「……わからない。でも、ああいうカードは実は他にもあるんだ」

 

言って、ディスクにセットしたままのデッキから一枚のカードを抜き取り、長月に見せる。それは、

 

「《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》……ね。これまた聞いたことないカードだな」

 

先日の川内さんたちとのタッグデュエルの時に現れた、ルーンアイズ。これもまた、魔導剣士と似たようなカードだ。

 

魔導剣士の時とルーンアイズの時、どちらにも共通するのは、ピンチだったこと。少なくとも魔導剣士の時はあのターンで決めていなければ負けはほぼ確実だっただろう。ルーンアイズの時はどうだったかわからないが、まあ敗色濃厚ではあった。

 

敗北が近くなると、なぜか書き換わるカード。

 

(まるで私の負けを阻止するような……ん?)

 

しかし、そこでふと違和感を覚えた。

 

(そう言えば……長月とデュエルした時と、この間のタッグデュエル。それ以外では、一回も書き換わっていないな)

 

そもそも。私は無敵の決闘者ではない。事実暁には一度も勝てていないし、私がこの鎮守府に来て間もない頃、病室でディスクを使わずに他の駆逐艦たちとしたデュエルでも、やはり勝率は悪かった。

 

ということは、あの二戦には特別な何かがあった?

 

(あのデュエルとそれ以外の違い……物資搬入用港でやったこと? でもそれは……)

 

でもそれは、一番最初の、暁との決闘だって同じだ。

 

そこでふと、一つの仮説が出来上がった。

 

(……逆、なのか? あの物資搬入用港での三戦、そのうち暁戦を除く二戦が特別なのではなく、暁とのデュエルが特別だったっていうのか……?)

 

となると。その仮説を立証する方法が一つある。問題はそれをどう実行するかだ。

 

「おい、今度はどうした」

 

と、長月がこちらを覗き込みながら言う。それを見て、この話の本題を思い出した。

 

(そうだ……ああだこうだと考えても、結局デッキに入っていなかったカードをそのまま使用して、あまつさえ勝利してしまったのは、私だ)

 

いたたまれなくなり、帽子のツバを軽く下げる。そんな私の様子を見た長月は、私を慰めるような声で言った。

 

「……別に、私はお前を責めるつもりで言ったわけじゃない。あのカード……《覚醒の魔導剣士》が、もし仮にお前だけが持つ特別なカードだとしたら、それを使ってくれたことをいち決闘者として嬉しく思う。まさか、ディスクを改造したとか、そういうわけでもあるまい?」

 

問いに、首を縦に降る。実際、あれを改造できるのなんて明石さんくらいではないか?

 

「ならいいさ。それよりも、今度また私とデュエルしてくれ。お前とのデュエルは楽しかったからな」

 

そう言ってニカっと笑う長月。彼女のこういう部分は見習っていくべきかもしれない。そう思いつつ今度は照れくささから帽子で顔を隠した。

 

「……うん。私からも、お願いするよ」

 

その時だった。射撃訓練場のスピーカーから十二時を告げるチャイムがなった。

 

「おお、もうそんな時間か。……間宮のところに、昼を食いに行くか」

 

「いいね。たまにはボルシチが食べたいな」

 

「ぼるしち? なんだそりゃ?」

 

「……世界三大スープに数えられるほどなんだけど……そうか、あまり知られていないのか」

 

そんな会話をしながら、私たちは射撃訓練場を後にした。

 

--------------------ーー

 

 

「いやー、結構いけるものだな、ボルシチ。正直最初出てきたときはこんなものを食べるのかと正気を疑ったが……あの酸味は癖になりそうだ」

 

「だろう? ……それにしても間宮さんはすごいな。私もここに来てから一度自分で作ったけど、それよりも美味しかったかもしれない」

 

『食事処 間宮』の暖簾をくぐり、日の光の下に出る。その陽気に思わず伸びをした。

 

結局、ボルシチは半分ほど食べられた。逆に長月の頼んだカレーを半分ほど食べてやったが。

 

満腹を示すように軽く腹をさすりながら、長月が言う。

 

「それで、これからどうする? もう一度射撃訓練でもするか?」

 

「そうだね。なるべく早く、君や暁に追いつきたいしね」

 

「はは、私はともかく、暁は難しいと思うぞ? なんていったってあいつはーー」

 

と。そこで長月が言葉を切り、空を見上げた。つられてそちらを見ると、そこには一機のヘリコプターがとんでいた。

 

別におかしな話ではないだろうに、なぜか長月はそれから一切目を離さずにいた。

 

「どうしたんだい? そんなに珍しいものでもないだろう?」

 

「いや……おかしい。来て日が浅いお前はわからないかもしれないが、あれは軍が要人や艦娘を運ぶ時に使うヘリだ。だがそんな話は聞いていない。それに妙だ、この鎮守府のヘリポートは真逆だぞ……?」

 

「この鎮守府と無関係の可能性は? 例えば……この方角だと、東京からあの海の向こうへと向かっている、とか」

 

「海を越えて行こうと言うのなら、わざわざヘリなど使わずジェット機か何かでいけばいい。それに何より速度が遅すぎる……なんであんなに低速で飛んでいるんだ?」

 

そう言われると、確かに違和感だらけだ。

 

「……どうする? 追いかけてみるかい?」

 

「ああ、出来ればそうしたい。……付いてきてくれるか?」

 

その答えは、決まっている。

 

「もちろん」

 

 

 

 

そうして妙なヘリを追いかけてやってきたのは、

 

(ん……? ここは……)

 

見慣れた、特殊物資搬入用港。そして、当然ながらその先は海だ。

 

「……ここまでか」

 

「っ、違う! あのヘリ、この上空で止まってるぞ!」

 

「なんだって……!?」

 

慌てて上を見ると、そこには確かに前進も後退もせずにただババババという羽音だけを響かせているヘリコプターがあった。

 

(なんなんだあのヘリコプター……まるで私たちをここに誘い出すのが目的みたいだ……)

 

などと考えていると、突然視界に何かが映った。

 

おそらくヘリコプターから何かが投下されたのだろう。

 

「長月、見えるかい? 何か降ってきているようなのだけれど」

 

「ああ、見えているさ。というか、あのシルエット……おそらく」

 

一瞬、長月と目を合わせ、

 

「「人が降ってきてる!!」」

 

全力でその場から逃げ出した。

 

(あの人影……良く見えなかったけれどパラシュートをつけていなかった気がする……!)

 

「なあ気のせいか響!? あいつ、ヘリから紐なしバンジージャンプしている気がする!!」

 

どうやら悲しいことに見間違いではなかったらしい。そうこうしている間にも人影はぐんぐん地面に近づいていき、

 

(……南無)

 

ちょうど私が心の中で小さく合掌したタイミングで地面に激突した。

 

ズドォォォォンン……という爆音と同時に、舞い上がった砂埃が視界を埋め尽くす。

 

「えほっ、けほっ、響、ゴホッ、何がどうなった……!?」

 

「わからない……砂埃で、ゲホッ、全く見えない」

 

どうやら長月も砂埃を吸い込んでしまったらしい。二人で咳き込みながらも情報を共有していく。

 

その時だった。

 

モゾリ、と砂埃の中で何かが動いた気がした。

 

「「!!」」

 

長月と二人して息を飲む。

 

「まさか……あの人が生きているのか?」

 

「それこそまさかだな。大和型ですらノーダメージとはいかないだろ、あの高さだと」

 

確かに。いくら私たち艦娘が普通の人間よりも頑丈だからといって、あの高さからの自由落下だと普通に死にかける。

 

しかし、砂煙が晴れていくにつれて、徐々に落下してきた人物の現状が見えてくる。

 

「なーー!」

 

思わず一歩後ずさってしまう。驚いたことに、その人物は全くの無傷だったのである。

 

「……………………」

 

バサバサと、白の軍服に付着した砂を払うその女性。長い黒髪とサングラス、それに火のついていない煙管を咥えているのが特徴的だ。

 

「あ……あなたは……?」

 

開いたままふさがらない口をなんとか動かして質問をする。すると、謎の女性はこちらに視線を向けて言った。

 

「君は……君が、暁型駆逐艦二番艦の響か?」

 

「え? ……あ、ああ、そうだよ」

 

こちらの質問を全く無視した言葉に、思わず戸惑ってしまった。

 

(……ええと、結局この人はどこの誰なんだ?)

 

いまいち目の前の人物の正体がつかめず首を傾げていると、ふと隣にいる長月が目に入った。

 

「…………………………」

 

彼女は彼女で目を見開き、口をあんぐりと開けたまま惚けている。その反応も仕方がないだろう。

 

そちらからの助け舟は期待できそうにない。仕方ないので自力で話を進めることにした。

 

「もう一度尋ねるけど、あなたは一体何者なんだ?」

 

すると、今度は話を聞いてくれた。

 

「ああ、すまない。自己紹介がまだだったな。私は華城(かじょう)。華城型戦艦一番艦の華城だ。以降、よろしく頼む」

 

「こちらこそ。改めて、駆逐艦響だ。よろしく」

 

言って、握手を交わす。しかし、そこでとある疑問が口を突いて出た。

 

「……とはいえ、華城という名前に聞き覚えがないのだけれど……」

 

「無理もない。私は大正時代に作られ、そのわずか数年後にひっそりと沈んだ艦だ。むしろ知っているものの方が少ないだろう」

 

となると、私たちにとっては大先輩にあたるわけか。

 

「えっと……ところで、華城さんはどうしてここに?」

 

「おっと、そうだった。目的を忘れてしまうところだった。私の目的なんだがーー」

 

そう言うと、華城さんは私からある程度距離を取り、

 

「ーー君に、決闘を申し込みたい」

 

ブゥン! と音を立ててディスクを起動させた。

 

「……………………」

 

それを見て、私は考える。

 

(これはまた随分と唐突だな……でも、この場所でのデュエル、それも大先輩とのだ。確実に得られるものはあるだろう)

 

「……いいよ。その勝負、受けよう」

 

私の方もディスクを起動させる。これでいつでも準備オーケーだ。

 

「それじゃあ、行くぞ」

 

「いつでもどうぞ」

 

「「デュエル!!」」

 

始まった私たちのデュエル。そんな中、長月は一人つぶやいた。

 

「なんなんだ、この状況……」




もっと自然な流れでデュエルに持っていきたいんですが……難しい。

次回、デュエルがちょっと薄味かも……?

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