駆逐艦響と決闘者鎮守府   作:うさぎもどき提督

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イベント進捗どうですか?

私はダメです。


ラスト・アタックは誰が

「ーーはい、完了しましたよ、暁さん」

 

その声を合図に、ゆっくりと目を開く。

 

鎮守府工廠、その一角。そこで『用事』を済ませた暁は、ベッドから起き上がりながら言った。

 

「まったく……司令官は一体何を考えてるのかしらね?」

 

その問いに、明石は苦笑しながら答えた。

 

「さあ……それは私も聞かされてません。ただ言われたデータを採取しただけですので……ですが、まさかあの提督が何の意味もない指令を出すとも思えませんしねえ」

 

まあそれもそうねー、と暁。その声はどこかそわそわしていた。

 

それに気づいた明石は、クスリと笑って暁に言った。

 

「データ採取も終わりましたし、もう行っても大丈夫ですよ。響さんのこと、気になるんでしょう?」

 

「ほんと!? ……じゃなくて、そうね、可愛い妹が寂しがってたらいけないものね! それじゃ明石さん、ごきげんよう、なのです!」

 

一礼し、ててててーっとかけていく暁。それを手を振って見送った明石は、その背中が見えなくなると、傍に置いていたマグカップにコーヒーを注ぎ、角砂糖を一つ落としてかき混ぜ、それを一口飲んでつぶやいた。

 

「ああ……平和ですねえ」

 

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瑞鶴&睦月:LP2500

川内&響:LP1000

 

タッグデュエルもいよいよ終盤。いつラストターンが来てもおかしくないこの状況で、ターンプレイヤーは川内さん。

 

獰猛な笑みを深くしながら川内さんは言う。

 

「今度こそ決めてやる、覚悟しなよ瑞鶴さん!!」

 

「吠えるわね川内……いいじゃない、やってみなさい!!」

 

先輩同士の激突。その迫力に、私と睦月はただ黙ってそれを見守っていた。

 

川内さんが動く。

 

「私は墓地の《月光香》の効果発動! 墓地のこのカードを除外し、手札を一枚墓地に送ることでデッキから《ムーンライト》を一体手札に加える。《月光白兎》を手札に加え、そのまま召喚! さらに、このモンスターの召喚成功時墓地の《ムーンライト》一体を守備表示で蘇生できる。蘇れ、《月光舞猫姫》!!」

 

再びフィールドに現れた舞猫姫。しかし守備表示ではその威力は発揮できない。

 

だというのに、瑞鶴さんが慌てたようにカードを発動した。

 

「っ、させない! 《BF-星影のノートゥング》をリリースして罠カード《ゴッドバードアタック》発動、フィールドのカード二枚を破壊する。白兎と舞猫姫には消えてもらうわ!」

 

「! チッ……!!」

 

それを受けて川内さんも露骨に嫌そうな顔をする。なぜ?

 

「……白兎にはね、自分フィールドの《ムーンライト》の数だけ相手の魔法・罠を手札に戻す効果があるんだよ。それに、舞猫姫にはまだ仕事があったんだけどね」

 

川内さん本人から解説が入る。確かに強力な効果だし、何よりタッグデュエルの場合手札に戻ったからといって次のターンに再びセットするのは容易ではない。瑞鶴さんはそれがわかっていたから、あの罠を発動したのか。

 

「さあ、どうするの川内。まさかあれで終わり?」

 

「まさか……まだ終われるわけないじゃん」

 

川内さんが冷や汗を垂らしながら笑う。本人はああ言っているが、実際すでに召喚権は使ってしまっているし、厳しいのは確かだろう。

 

「……手札の《月光黒羊》の効果発動。このカードを手札から捨てることで、デッキから《融合》を手札に加える。さらに罠カード《貪欲な瓶》発動。墓地のカードを五枚デッキに戻し、一枚ドローする。《手札抹殺》、《融合解除》、舞猫姫、黒羊、そして《虚空海竜 リヴァイエール》をデッキに戻しドロー……」

 

ドローした川内さんの動きが止まった。

 

(なんだ……? どうしたんだろう)

 

「これは……」

 

呟き、手札のとあるカードを凝視する川内さん。

 

「どうしたんだい? 川内さん」

 

「ああ……ちょっとね。どうするかな、と」

 

そう言って、私にだけ見えるように手札を向ける。先ほどサーチした《融合》、見覚えのないカードが一枚と、

 

「……なるほど。そういうことか」

 

理解した。川内さんが迷っている理由を。

 

そして、それが理由ならば。

 

「川内さん」

 

「……なに、響」

 

体ごと川内さんの方に向き、言う。

 

「私は好きだよ、そういうの」

 

それを聞いた川内さんは、一瞬キョトンとした後、

 

「……そっか、『好き』か。……そう言われたら、やるしかないわね」

 

ーーニッと笑った。

 

「行くよ、逆転への賭けだ! 魔法カード《闇の誘惑》発動!! カードを二枚ドローし、その後手札の闇属性一体を除外する。また、闇属性がいない場合は手札を全て墓地に送る!」

 

「なーーあんた、まさか!」

 

川内さんの行動に、瑞鶴さんが目を剥く。おそらく、彼女も理解しているのだろう。

 

瑞鶴さんの驚愕の声を聞いた川内さんは、自慢げに胸を張って言った。

 

「そう……私の手札に、闇属性のモンスターはいない!」

 

「そんなの、本当に賭けじゃない! 闇属性モンスターを引けなかったら、何もせずにターンエンドするしかないんだから!」

 

瑞鶴さんはああ言っているが、一応《月光虎》と《月光狼》をペンデュラム召喚する事は可能だ。だが、《BF-アームズ・ウィング》が相手のフィールドに存在する以上、守備表示のモンスターは壁にもならないのだから、無意味と同義だ。

 

でも。それでも、私はその賭けに乗ることにした。

 

「川内さん。カードを、引いてくれ」

 

「ええ……行くよ、誘惑の効果で二枚……ドローッ!!」

 

正真正銘ラストチャンス。そんな局面で、川内さんのドローカードは、

 

「……よし! 誘惑の効果で手札の《月光黒羊》を除外する!!」

 

「ハラショーッ……!」

 

私もつられて喜び、思わず小さくガッツポーズまでしてしまう。

 

一気に笑顔が戻った川内さんは、このターンをラストターンにするべく動き出した。

 

「今度こそ決めさせてもらうよ! 私はセッティング済みのスケールでペンデュラム召喚! エクストラデッキより現れよ、レベル3《月光虎》、レベル6《月光狼》!」

 

「ペンデュラム召喚……でも、それじゃあ逆転はできないわよ?」

 

瑞鶴さんの挑発を無視し、川内さんは突き進む。

 

「さらに魔法カード《融合識別》発動! 自分フィールドのモンスター一体を選択し、エクストラデッキの融合モンスター一体を相手に見せることで、そのモンスターはエンドフェイズ時まで見せた融合モンスターと同名のカードとして融合召喚に使用できる。舞猫姫を見せて、虎を舞猫姫として扱う!」

 

「くっ……この流れは……!」

 

瑞鶴さんが顔をしかめる。先ほどからの川内さんの言動から考えると、おそらく舞猫姫を使用した融合モンスターがいるのだろう。

 

そして、再び先ほどまでの獰猛な笑みを取り戻した川内さんは、手札の一枚のカードを高く掲げーー発動した。

 

「私は手札から魔法カードーー《融合》を発動!! フィールドの舞猫姫となった虎と狼で融合!!」

 

神秘的な渦に二体のモンスターが飲み込まれていく。

 

「月の光をその身に纏いて野獣の影は華々しく舞い踊る! 融合召喚! 現れて、レベル8《月光舞豹姫》!!」

 

そうして現れた融合モンスター。その攻撃力は、2800。

 

「さらに装備魔法《パワー・ピカクス》を舞豹姫に装備し、効果発動! 装備したモンスターのレベル以下の相手の墓地のモンスター一体を除外し、装備モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで500アップさせる! ノートゥングを除外!」

 

「攻撃力……3300……!」

 

《青眼の白龍》をも超える攻撃力を持った舞豹姫。単体では相手のライフを削りきることはできないが、

 

(舞豹姫はあの舞猫姫を融合によって進化させたモンスター。おそらく……)

 

その予想が正しいことは、すぐにわかった。

 

「舞豹姫は、相手モンスター全てに二回ずつ攻撃できる。バトルよ、舞豹姫で、まずは《BF T-漆黒のホーク・ジョー》を攻撃!!」

 

「くっ、ぐぅ……!」

 

瑞鶴&睦月:LP2500→1800→1100

 

やはりあった、全体攻撃効果。相手フィールドに残るは攻撃力2300の《BF-アームズ・ウィング》のみだ。

 

(このターンで、決まる……!)

 

「舞豹姫は、相手モンスターを破壊した時攻撃力を200アップさせる。そして、続けてアームズウィングに攻撃!!」

 

攻撃力を3500まで上昇させた舞豹姫の一撃、その貫通ダメージは1200。

 

(決まれーー!)

 

だが。

 

「まだ詰めが甘いわね、睦月!」

 

「はいにゃしぃ! 罠カード《不屈の闘志》を発動! 自分フィールドにモンスターが一体しか存在しない時、その攻撃力を相手フィールドの一番攻撃力の低いモンスターの攻撃力分アップさせるのにゃ!!」

 

今、お互いのフィールドに存在するモンスターはアームズウィングと舞豹姫。すなわち、この効果が通れば私たちはアームズウィングのダイレクトアタックに等しい量のダメージを受けてしまう。

 

通れば、だが。

 

「響っ!」

 

「ああ。チェーンして罠カード《恐撃》を発動。墓地のモンスター二体を除外し、相手モンスター一体の攻撃力をエンドフェイズ時までゼロにする。《交響魔人 マエストローク》と《EM エクストラ・シューター》を除外し、アームズウィングの攻撃力をゼロにさせてもらう」

 

チェーン処理の関係上、アームズウィングの攻撃力は一度ゼロになり、そこから舞豹姫の攻撃力分攻撃力が上がる。

 

よって、攻撃力3500同士の正面衝突。

 

(っ、すごい迫力だ……! 心なしか、風も強くなってる気がするし……)

 

風から眼球を守るために交差させた手の隙間から場を見る。そこでは、今まさに舞豹姫の爪とアームズウィングの剣が、ものすごい勢いで衝突する寸前ーー

 

ーーそのときだった。

 

「私は手札の《BF-極夜のダマスカス》の効果発動! このカードを手札から墓地に送ることで、《BF》の攻撃力を500ポイントアップさせる!!」

 

「なっーー!」

 

無慈悲な瑞鶴さんの宣言。手札も伏せカードもない川内さんは、それを受け入れるしかない。

 

舞豹姫が、アームズウィングに押し負け、破壊される。

 

「くっ、うう……」

 

川内&響:LP1000→500

 

舞豹姫が破壊されたときの風圧で、川内さんは尻餅をついてしまった。

 

「川内さん……大丈夫かい?」

 

「うん、まあ大丈夫だけど……ごめん、響。決められなかった」

 

「気にすることはないさ。今回は、瑞鶴さんの妨害が上手だったんだ」

 

ディスクが自動的にターンを移行する。三回目の、睦月のターンへと。

 

「睦月のターンですね! 行きますよぅ、ドロー!」

 

本来ならアームズウィングのダイレクトアタックで終わりなのだが、睦月的には自分のモンスターでトドメを刺したいらしい。

 

「《H・C ダブル・ランス》を召喚し効果発動! このモンスターの召喚成功時、墓地の同名モンスターを蘇生させるのですっ! よみがえれ、ダブルランス! そして、レベル4のダブルランス二体でオーバーレイ!」

 

戦士族のレベル4モンスターが二体。

 

(これは……さっきと同じか)

 

「英霊たちの魂が集いて、伝説の剣はよみがえる! エクシーズ召喚! 現れよ、ランク4《HーC エクスカリバー》ァ!! そして効果発動! エクシーズ素材を取り除き、攻撃力を二倍にするんにゃしぃ!!」

 

「お、オーバーキルじゃないか……!」

 

思わず引きつった声が出てしまう。最後まで全力投球といえば聞こえはいいが、される方からしたらたまったものではない。

 

「それじゃあ行きます! エクスカリバーで、ダイレクトアターック!!」

 

もう、私たちの場にこの攻撃を防げるカードはない。

 

(くっ……せめてシングルデュエルなら手の打ちようはあったけど……!)

 

「永続罠《EM ピンチヘルパー》の効果発動!」

 

そう、例えばピンチヘルパーとか……

 

「…………うん?」

 

「どうしたの響。たしかこのカードの発動条件って相手のダイレクトアタックだったよね?」

 

「いや、そうなんだけど……なぜ川内さんが?」

 

ちょっと混乱してきた。そんな私をよそに、川内さんはカード効果の処理をしていく。

 

「改めてピンチヘルパーの効果発動。相手のダイレクトアタックを無効にし、デッキから《EM》一体を効果を無効にして特殊召喚する。現れなさい、《EM トランプ・ウィッチ》!」

 

うぃっちっちー♪ と特徴的な笑い声をあげながら、トランプウィッチが川内さんのデッキから飛び出してくる。

 

「にゃ、にゃしぃ!?」

 

「あんたねえ……そういうことはせめてタッグパートナーには言っときなさいよ。混乱してるじゃない」

 

瑞鶴さんの呆れたような声に、川内さんはニシシの笑いながら言った。

 

「敵を欺くにはまず味方から、ってね♪」

 

この人まったく悪びれていない。

 

「で、でもまだ私たちのフィールドにはアームズウィングが残ってるにゃ! アームズウィングでトランプウィッチに攻撃!」

 

睦月が若干戸惑いながらも攻撃宣言をする。だけど……

 

「ピンチヘルパーの第二の効果。自分のモンスターが戦闘を行うその攻撃宣言時、このカードを墓地に送ることでダメージをゼロにできる」

 

「にゃにゃぁ……」

 

睦月がガックシと肩を落とす。なぜだか少し申し訳ない気分になった。

 

そんな私の肩をポンと叩き、川内さんは言った。

 

「さ、あんたのターンよ、響。思いっきりやっちゃいなさい!」

 

「川内さん……わかった、次のターンで決めてみせる!」

 

今度こそ。今度こそ決める。その運命をかけたドロー。

 

「私のターン……ドローッ!」

 

確認。そのカードは、

 

「……来たっ! チューナーモンスター《調律の魔術師》を召喚し効果発動、相手ライフを400回復し、その後自分は400のダメージを受ける!」

 

瑞鶴&睦月:LP1100→1500

川内&響:LP500→100

 

「チューナー……っていうことは響ちゃんのデッキはシンクロ召喚もできるのにゃ!?」

 

「なるほど、使った素材がエクストラデッキに行くからペンデュラムとシンクロは結構相性がいいのね」

 

意外そうな睦月と、なるほどとうなづく瑞鶴さん。その反応の違いは、見ていて少し面白い。

 

「さらにセッティング済みのスケールでペンデュラム召喚。エクストラデッキより、レベル3《EM ラ・パンダ》、レベル4《慧眼の魔術師》、レベル5《EM ドラミング・コング》、そしてレベル7《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

 

再び私のフィールドをモンスターが埋め尽くす。もちろんこれだけでは終わらせない。

 

「そして、レベル3のラ・パンダ、レベル4の慧眼にレベル1チューナーの調律をチューニング! 清き心を持ちし剣士よ。吹きすさぶ吹雪を裂きて、閃光とともに現れよ! シンクロ召喚! 現れるんだ、レベル8《覚醒の魔導剣士》!!」

 

シンクロ召喚特有の光のエフェクトの中から現れた魔導剣士。相変わらずこのモンスターの謎は解けていないが、使えるものは使おう。

 

そんな魔導剣士をみた瑞鶴さんが小さく顔をしかめながら言った。

 

「覚醒の魔導剣士……? 聞いたことないわね」

 

おそらくシンクロ召喚を主軸で使っているのに一度も聞いたことのないモンスターが出たから驚いているのだろう。しかしその出処に関しては言うわけにもいかないので、聞こえなかったふりをしておく。

 

「魔導剣士の効果発動。《魔術師》Pモンスターを使用してこのモンスターをシンクロ召喚した時、墓地の魔法カード一枚を手札に戻す」

 

とはいえ。

 

(……何を戻そう。特に欲しいカードは……《破天荒な風》ぐらいかな?)

 

そう考え、宣言して手札に戻そうとする。

 

そして口から出たのは、

 

「私は《融合》を手札に加える」

 

「はにゃ!?」

 

「へ……?」

 

「……へえ」

 

私以外の三人が、各々違った反応を見せる。

 

しかし、

 

(……え?)

 

おそらく誰よりも早く、私自身がその行為に疑問を抱いていた。

 

(なぜだ……? 私のデッキに融合モンスターは……そもそも、これは私の意思じゃ……)

 

頭の中をクエスチョンマークが埋め尽くしていく。だが、その間にも体が勝手に動いていく。

 

「さらに私は今手札に加えた《融合》を発動!」

 

(ま……待て待て、何が起きて……!?)

 

わからない。わからないしかない。

 

もともと感情表現が苦手な私だが、今回はさらにポーカーフェイスに神経を集中させる。しかしその奥では必死に考えている。今自分に何が起きているのかを論理的に説明できる理由を。

 

考えて、考えて、でも、

 

(……だめだ、全然わからない。なんだ、まさか……)

 

思い、ちらりと自分のフィールドを見る。と、

 

「!……」

 

「えっ」

 

思わず声が漏れてしまった。一瞬魔導剣士と目があった気がしたが……

 

(まさか……いや、そんな馬鹿な……まさか、ね)

 

「ちょっと、響? どうしたの?」

 

「え? ……ああ、いや、なんでもないんだ」

 

隣の川内さんの呼びかけで、思考が戻ってくる。そうだ、今は謎解きゲームをしている場合ではない。

 

だが私のエクストラデッキに融合モンスターが存在しないのも事実。だから、

 

(……もう一度。『あの時』と同じように、ゼロの可能性を信じるんだ……!)

 

エクストラデッキに右手をかざす。一番上のカードはなんだっただろうか? いや、そんなことはどうだっていい。

 

「……行くよ。オッドアイズと魔導剣士で、融合召喚!」

 

次の瞬間ーー

 

『------』

 

あの時と同じ、風景が白く塗りつぶされていく感覚。しかし今度はあの時ほどの驚きはない。

 

「……ふう」

 

直後に視界が元に戻る。すかさずエクストラデッキの一番上のカードを確認すると、それは案の定別のカードになっていた。

 

融合モンスターへと。

 

バッと右手を掲げ、口上を唱える。

 

「ふた色の眼の龍よ。神秘の力をその目に宿し、新たな姿となりて現れよ! レベル8《ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

 

ギャァァァォォォ!! という咆哮とともに、融合の渦の中から現れるルーンアイズ。それを見た睦月は「ふわぁ……!」と感嘆の声を上げ、瑞鶴さんは「わーお……」と驚き、川内さんは「いいねえ、面白い!」と笑った。

 

三者三様な反応を見ながら、私は高らかに宣言する。

 

「バトルだ、ルーンアイズで攻撃! この時、ドラミングコングの効果で攻撃力を600ポイントアップさせる!」

 

「さらに墓地の《スキル・サクセサー》の効果発動! このカードを除外することで、エンドフェイズまで自分のモンスター一体の攻撃力を800アップさせる! 対象はもちろんルーンアイズ!!」

 

「ちょ、川内!? あんたそんなのいつの間に……!」

 

川内さんのアシストが入る。おそらく、サクセサーが墓地に送られたのは《月光香》の効果を使った時だろう。

 

続けざまの攻撃力上昇によって、ルーンアイズの攻撃力は合計4400。エクスカリバーをも超えた。

 

しかし、タダで終わらせてくれる気は無いらしい。

 

「くっ、罠カード《炸裂装甲》を発動! 攻撃モンスターを破壊するにゃし!」

 

「んげっ!?」

 

川内さんが年頃の乙女としてどうなのかというような声を上げる。確かに、ルーンアイズはペンデュラムモンスターではないから《時読みの魔術師》及び《星読みの魔術師》の効果の範囲外だ。が、

 

「ペンデュラム召喚したモンスターを素材としたルーンアイズは、相手の効果を受けない。さらに、レベル5以上の魔法使い族モンスターを素材としたルーンアイズは三回までモンスターに攻撃できる!」

 

「にゃあ!?」

 

「行くよーールーンアイズで、エクスカリバーとアームズ・ウィングに攻撃!!」

 

「にゃああぁぁ……!!」

 

「うくっ、あああああ!!」

 

瑞鶴&睦月:LP1500→0

 

 

 

 

「いやはや、なかなか面白いものが観れたわー」

 

消えゆくフィールドのモンスター達を尻目に川内さんがしみじみつぶやく。それに答えたのは瑞鶴さんだった。

 

「そうね……魔導剣士にルーンアイズ、知らないカードばっかりだったし」

 

「未知とのデュエル、心踊ったのです!」

 

睦月も嬉しそうに言う。やった本人としてはなんとなく反則技を使ってしまったような気分だが、他の人たちが気にしないのならとやかく言うまい。

 

と、そこで睦月がポツリと呟いた。

 

「そういえば……結局、暁ちゃん来ませんでしたねぇ」

 

「あっ……」

 

言われて思い出す。そうだ、暁は司令官からの頼まれごとがあると言っていた。それが終わり次第来ると言っていたが、それほど時間のかかる用事だったのだろうか?

 

いけない、考えるとソワソワしてきてしまった。

 

すると、そんな私を見かねたように川内さんが言った。

 

「暁のこと、気になるんでしょ? 行ってあげたら?」

 

「そう……だね。そうさせてもらうよ。それじゃあみんな、また明日も練度上げに付き合ってくれるかい?」

 

その私の質問に、ほか三人は皆親指を上げて答えた。

 

「「「もちろん!(にゃし!)」」」

 

「……スパスィーバ」

 

そう言って皆に背を向け、私は走り出した。多分、暁は寮の私たちの部屋にいるだろう。

 

ひとまずは、そこを目指すことにした。

 

 

 

 

その、すぐ近く。建物の陰に隠れながら、暁は響たちの様子を見ていた。

 

睦月はああ言っていたが、実際には暁は少し前からここにいた。正確には、睦月の三回目のターンあたりから。もうデュエルも終盤だったようだし、物陰から見守ることにしたのだ。

 

問題は、その次の響のターンだった。

 

(あれは……なんだったの? 慧眼に魔導剣士、そっちは響から聞いてたから知ってた。でも……時読み? 星読み? そんなカード知らない……!)

 

挙げ句の果てには、響すら知らなかった様子のルーンアイズ。

 

(いったい……いったい何が起こっていたの?)

 

わからない。暁にはさっぱりわからない。

 

もっとも、当人すら知らないことを他人が知り得るわけもないのだが。

 

----------------------

 

 

コツ、コツと消灯された鎮守府の廊下を歩く人物。

 

(今日も……異常はなさそうですね)

 

妙高型重巡洋艦一番艦『妙高』だ。響や妙高の所属するこの鎮守府では、当番制で巡洋艦や空母たちが見回りをしているのである。

 

しかし、今でこそ周囲の住民たちから普通の人間となんら変わらない扱いを受けている艦娘だが、実際には皆やはり『艦娘』という存在に心の底では恐怖を抱いている。ましてやその本拠地である鎮守府に乗り込んでくる馬鹿など、一例たりともない。

 

……のだが。

 

「おや……?」

 

妙高が廊下の先の暗がりにうごめく『何か』を見つける。不審に思い懐中電灯でそちらを照らすと、

 

「……………………」

 

(……人?)

 

黒のローブをまとい、フードを被った謎の人影があった。

 

その人物(?)は背丈は妙高と同じくらい、ローブのラインからおそらく女性だろう。

 

(艦娘のどなたかでしょうか……でも、こんなところで何を?)

 

妙高は心の中で首をかしげつつも、その黒ローブに声をかけることにした。

 

「あの……こんな時間に、どうされました?」

 

「………………………………」

 

対する黒ローブは沈黙を貫く。そうしつつも顔を上げ、その目が妙高とあう。

 

(あら……綺麗な顔立ちですね……。こう言ってはアレですけど、この世のものとは思えないような……)

 

黒ローブの下の顔は、あまり血色は良くないものの、とても整った顔立ちをしていた。

 

と、黒ローブが口を開いた。

 

「あなた……妙高?」

 

「え……は、はい、そうですけれど……」

 

なぜか自分のことを知っているーーその不審感から、妙高は軽く腰を落とす。万が一相手が襲いかかってきたりなどしても対応できるようにだ。

 

しかし、黒ローブは優しい口調で言う。

 

「ああ……心配しないで。別にあなたを襲おうってわけではないの。ただーー」

 

次の瞬間、ブゥン、という音とともに紫色の光の板が黒ローブの前に現れた。これはおそらく……

 

(……デュエルディスク? でも私たちのとは形状が違うような……)

 

妙高の感じた違和感など知る由もなく、黒ローブは続ける。

 

「ーーただ、私とデュエルして欲しいだけ」

 

「…………」

 

その言葉を受けて、妙高は考えた。

 

(素性はわかりませんが……一度デュエルすれば納得してくれるでしょうか?)

 

提督への連絡は、とりあえずその後でいいだろう。

 

「いいでしょう。その勝負、お受けします」

 

「……ありがとう」

 

黒ローブは感謝し、ディスクを構える。妙高もディスクを起動し、軽く距離を置く。

 

「……じゃあ、行くよ」

 

「ええ、いつでもどうぞ」

 

「「デュエル!!」」

 

深夜の鎮守府で、戦いが始まった。




読んでいただきありがとうございました。やっぱりチートドローは主人公の特権ですね。

怪しさバリバリ黒ローブ。後々重要になってきます。

それじゃあこの辺で、おやすみなさい。次回、ついにあの人が……!

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