思ったより、このデスゲーム攻略は悪くない   作:形右

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遅くなりましたが、圏内事件の第二話です。

何だか思ったよりも長くなってしまい、このままだと全4話恒星くらいになっちゃうのではないかと思い始めています。

ともかく、事件が本格的に開始となります。


それではそうぞ!


『罪の茨』

三人が、悲鳴を聞き広場に飛び出したところ……そこには、胸を貫かれ時計塔に磔になっているような状態のプレイヤーがいた。

 

なぜこんなことが、起きている?

疑問は尽きない、しかし、ここは『圏内』。

間違っても、プレイヤーに()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだ……。

 

 

だがしかし、これにはとある抜け道が存在する……。

 

 

街中、いわゆる圏内カテゴリに分類されるエリアでも……「プレイヤー・キル」――いわゆる殺人は可能だ。

 

SAOには、【デュエル】と呼ばれるプレイヤー同士でのバトルが可能だ。とはいえ、SAOでは『HP0=現実での死』というのが原則且つ理不尽な掟となっており、誰も好き好んでプレイヤー同士でつぶし合うような真似はしないししたがりもしないだろう。

 

だが、【デュエル】にはいくつかのモード選択が用意されており、通常のゲームでよくみられる『完全決着モード』に加えて、『初撃決着モード』という強攻撃ヒット或いはHP半減で決着といったモードが存在しており身内同士でのいざこざの決着をつける時や、ギルド同士いざこざでもこれを使って決めたりもする。

何よりもこれなら、相手を攻撃してそれがヒットしても()()()()()()()()()()()()()()()。なのである意味これがSAOにおける『対戦プレイ』の基本とも言えよう。

 

しかし、このカーソルの色変化の有無は腐った情熱を追い続けるオレンジやレッドといった犯罪者共の要らない努力を煽ることになる。

 

その一つに『睡眠PK』というのがある。

 

ハチヤが、皆が昼寝をしていたときに周りを警戒していたのはこれが理由だ。

 

寝ている相手に『完全決着モード』のデュエルを申し込み、文字通り寝首を掻く。こんなバカげた殺人方法がこの『アインクラッド』で実際に起こっているのだからいただけない。

 

そんな訳で、今回のこの騒動にもこれが関連していたとしたらとんでもないことになる。何せデュエルの間は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

仮にそんな抜け道を用意した上での犯行だったとしたら……。

 

嫌な予感が頭を駆け巡るが、ともかく今は目の前の状況をどうにかしなければならない。

 

そのためには状況を素早くかつ正確に把握することだ。

 

ハチヤは、問題のプレイヤーを見て彼のおかれている状況を素早く見て取る。

 

かなり大柄なプレイヤーだ。武骨な鎧を纏っているから狩りの帰り…とかなのだろう。

加えて、彼に刺さっているあの武器、あれは所謂短槍(ショートスピア)のカテゴリに属するタイプだ。それに気を取られていたが、彼の首にロープがかかっていることにも気が付いた。しかし、これはここ『アインクラッド』ではどうでもいいことだ。

何せここでは『窒息』の概念が存在しない。窒息死はこのSAOの中では死因にはならない。

 

なら解決すべき問題はやはりあの刺さっている武器だ。実際傷口からダメージの継続を知らせるエフェクトが出ているのだから、これは確定した。あれは間違いなく槍系の武器に存在する《貫通継続ダメージ》だ。

 

あの建物の中に人間はいないのか? と一瞬考えたが、これだけの騒ぎだ。気づかない方がおかしい。ならばこちらから動くしかない。投擲スキルであのロープを断ち切るのも可能だが、狙いがそれたらまずい。

事情と状況はいまだ不明だが、今の状況は()()()()()()()()()()()()()()というもの。万が一を考えれば、これは最終手段だろう。

 

ならば、今するべきことは……!

 

「キリト、下であいつ受け止めろ!」

 

「あ、ああ。分かった!」

 

ハチヤは走り出し、建物の中に入り武器とロープを吹き飛ばすつもりなのだ。

敏捷極振りは伊達ではないと言わんばかりに彼は超速で男の元へと迫る。

 

その最中にも、ハチヤは事態を早く進めるためプレイヤー自身にも呼びかける。

 

「おい! ぼやぼやしてるとホントに死ぬぞ! 死にたくなかったら早くそいつを抜け!!」

 

そう怒鳴ったが、死の恐怖ゆえか男は手に力が入らないらしく…自分からその短槍を抜けない。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちをしながら、教会の二回へと向かうが……このままだとおそらく間に合わない――ならば!

 

何を血迷ったかハチヤは壁を駆けのぼり始めたではないか!壁走り(ウォールラン)と呼ばれるそれは出来るものなどほとんどおらず、尚且つそれは敏捷値が相当高くないとできない芸当だ。

しかし、それをハチヤは本当にやってのけた。

 

そのまま駆け上がり、駆け上がりざまに剣を鞘から引き抜きロープと短槍を弾き飛ばそうとしたが――

 

 

――時既に遅し。

 

ハチヤがあともう一歩で届くところまで来た直後、男の体はポリゴンの塊となって消え失せた。

 

消滅の直後、ハチヤには男が何かを叫んだように聞こえたが……はっきりとは聞き取れず、断末魔の叫びのように思えてならなかった。そのまま、空中で支えを失ったハチヤは地面に落ちるが、確かに〝痛み〟は感じた。

しかしその直後の自分のHPバーを見たが――それはほんの1ドットさえ減ってはいなかった。

 

となると、やはりあれはデュエルによるものだったのかと考えを切り替えたハチヤは痛む体を無理やり起こしながら、キリトたちに怒鳴るように指示を飛ばす。

 

「おい! どっかにウィナー表示があるはずだ! 探してくれ、そこに犯人の名前がのってるはずだ!!」

 

それを即座に理解した仲間たちは、即座に広場中を見渡しシステムメッセージの有無を確認した。何せシステムウィンドウの表示時間はまずか三十秒なのだ、ぼやぼやしていたら消えてしまい、この事件の真相も闇の中だ。

 

 

ハチヤ達は制限時間の三十秒の間、血眼になって探したのだが―――

 

 

 

――結果として、その広場。果ては町全体のどこにもシステムメッセージは、()()()()()()()()()()…………。

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

その後、ハチヤの索敵スキルで教会の中を捜索したが、誰もいなかった。もちろんまだ見ぬ敵が、隠蔽(ハンティング)スキルのアビリティをもつアイテムを使っていないとも限らないが……現在の『アインクラッド』でハチヤ並みに鍛えた索敵をカバーすることは実質不可能だ。

 

それにしても、事件が起こり犠牲者が出てしまったが……事が一応済んだおかげか、ハチヤの頭はより冷静さを取り戻しており奇妙な点がいくつかあることを改めて認識した。

 

「なぁ、キリト。奇妙だと思わねぇか? このロープ」

 

「確かになんか変だ。このロープ、座標固定オブジェクト指定のテーブルにつけられてるけど……」

 

「ああ、これを使った理由が分かんねぇな……見せしめのためにわざわざ首に結んでから槍を指して窓の外に放り出した、なんて……馬鹿げてるとしか言えねぇよな」

 

この妙に芝居がかった演出は何だ? ハチヤには犯人はふざけてるか面白がっているかのどちらかだとしか思えない……。

 

「おまけにウィナー表示も見つからずじまい……。こいつは明らかにおかしい」

 

「圏内なのにダメージを負い、かつウィナー表示がない=デュエルによるものではない……か」

 

おかしなことばかりが今のところの事実としてハチヤ達に突きつけられる。

不謹慎かもしれないが、これではまるで推理小説の登場人物にでもなったかのような気分だ。

 

不可能なはずの殺人。

 

その方法。

 

その理由・動機。

 

行動の意味。

 

と、挙げればきりがないほど〝出来すぎている〟。

 

誰かが考えたシナリオのにおいがぷんぷん漂う。作りこみすぎてどこか荒い印象を受ける。

 

「……こんな三文小説に付き合ってられねぇな。こんなバカな筋書きを書きやがった誰かさん(犯人)には、たっぷりと話しを聞かせてもらおうじゃねぇか……」

 

「は、ハチ……? こえぇぞ? 顔」

 

そんなキリトの突っ込みはスルーして……まるで探偵にでもなったかのような気分でこの《事件》に臨むことになったハチヤだった。

 

 

 

取り敢えず、もっと情報がいる。下で女性陣が聞き込みをやっているから……とにかくそちらの方も聞くとしよう。

 

 

そう思いハチヤが、教会から降りてくると……うちの女性陣に事情を聞かれている一人の女性プレイヤーがいた。

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

彼女の名は《ヨルコ》というらしく……先ほど殺された男性、《カインズ》の友人なんだそうだ。

 

何でも昔同じギルドのメンバーだったらしく、今でもたまにパーティを組んだり食事をしたりする仲で……今日もそんなつもりで集まったのだという。

しかし、人が多くて二人は逸れてしまった。

 

それで彼女はカインズを探していたが、結局見つからず広場の方まで足を運んだところで……カインズが先ほどの状況に置かれているところを目撃したのだという。

 

「なんだか急に協会の窓から人が降って来たんです……最初は、ただの悪ふざけか何かでプレイヤーの人が度胸試しとかをやってるのかなって思ったんですが、その人影は途中で急に止まって、それでロープでつるされているのに気づいて…それが――カインズで……私どうしていいか分からなくなって…………」

 

そのまま彼女は泣き出してしまう。それを女性陣(主にアスナとユイ)が慰める。

 

確かに、彼女にしてみれば何が何だか分からない状況だっただろう。

いきなり友人と逸れ、いきなり広場で意味不明・原因不明の光景を目の当たりにした挙句……その被害者が友人であり、おまけに安全なはずの『圏内』で本当に〝殺された〟のだから…………。

それでも、どうにか泣き止んだ彼女は震えながらもハチヤ達の質問に答え状況の捕捉情報を与えてくれた。

 

「じゃあ……カインズの後ろには、人影がいた……と?」

 

「はい……。はっきりと見えたわけではないんですけど……カインズの後ろに一瞬、確かに……人影のようなものがいた様に見えました…………」

 

「なるほど……」

 

「失礼ですが……カインズさんが誰かに狙われるような理由に、心当たりは有りますか?」

 

ユキの質問に、ヨルコは一瞬硬直し、それから首をよこに振った。

少々配慮に欠ける質問ではあるが、これを省略することは出来ない。それをユキも分かっているからこそ、省略することはなかったのだろう。

 

その後もいくつかの質問に答えてもらい、彼女を最寄りの宿に送り届け……この騒ぎを聞きつけてやって来た攻略組のプレイヤーたちに今回の事件の概要を説明した。

未知の殺人ということで、今後の新たなPK対策が必要になるかもしれないということで一度話は打ち切られ、ハチヤ達もとりあえず帰路につくことになった。

 

またその手には、先ほどの殺人に使われたと思われるロープと短槍が握られていたのだが……。

 

「情報が少なすぎる……」

 

「そうね……それに不可解な点が多すぎるわ」

 

「未知の殺人方法、ですか……」

 

「それにしても、なんでこんなことをする気になったんだろ?」

 

「まぁ、それに関しちゃそんな腐った情熱を燃やしてるレッドの奴らにでも聞くのが早いのかもな……『なんで殺人するんですか?』――『楽しいからです♪』みたいな?」

 

「ふざけないでくれるかしら? こんな状況で、よくそんな口が叩けるものね。デリカシーにかけているにもほどがあるわ、人間失格ね」

 

「人を狂った文豪扱いしたいらしいが、俺たちはどちかっつーとその狂ったシナリオの中に閉じ込められているようなもんなんだが?」

 

「シナリオ……ですか?」

 

「確かに出来すぎてはいるけど……『シナリオ』か……まるっきり裏に『暗殺者』(アサシン)でもいそうな雰囲気になっちまうな」

 

「アサシンねぇ……?」

 

何だか話がそれ始めたので、ハチヤはとりあえず今できる確実な情報を確認することから始めようと思った。

 

「とりあえず、この武器を鑑定することからだな。現状、一番有力な手掛かりつったらこれくらいだしな……」

 

「まずは物証……というわけね?」

 

「ああ、そんなわけでだ。鑑定スキル持ちが必要になってくるな……」

 

しかし残念ながら、現在のこのパーティに鑑定スキルの熟練者はいない。

 

「ヒメナにでも頼もうか?」

 

「あ、それいいですね! ヒメナ先輩ならたぶんできますよ」

 

結衣といろはの提案、だが……。

 

「……あいつらんとこ行きたくねぇな……」

 

戸部うざいし、三浦こえぇし、海老名さん腐ってるし、葉山は……どうでもいいか。それに頼るのもなんか癪な気がする。

 

「はぁ……ハッチーわがままだよぉ~いいじゃん簡単だし」

 

「おーい、ほかに知り合いいないかぁ~?」

 

「ガン無視!?」

 

「あ、私の知り合い……っていうか友達が鍛冶屋やってて、鑑定スキル高いです」

 

アスナの発言にそこにしようかなとハチヤが考え出したその時、アスナは何かを思い出したようにはっとした。

 

「あ、でも……今忙しい時間ただからちょっと断られるかもしれないです」

 

「……うーむ候補が完全についえたか……」

 

「いやいや! だからヒメナのとこ行こうよっ!?」

 

「他に当ては……」

 

「無視しないで! お願いだから無視しないでぇ~!!」

 

何か可愛いですね涙目ガハマさん。前泣かしちまった時は気まずかったんだけどね。

 

「せんぱいよっぽど嫌なんですね……」

 

「ああ、じんましんが立つ勢いで嫌だ。しかもマジでだ、仮想世界なのに病気発症するまである」

 

ちなみに病名はリア充感染症。体制のないものがこれにかかると――死ぬ。何それ恐い。それじゃ世の中の3分の2は消滅じゃないか! え? お前だけだろって? そういうお前こそ、いつから自分は大丈夫だなどと錯覚していた? ……ごめんなさい調子乗ってました、お願いだから缶投げないで、蹴らないで!

 

「無茶苦茶すぎるぜ……」

 

「はぁ……」

 

こらこら、キリトさん? アスナさん? 呆れた目で見るなよな。そ、そんな目で、俺を見るなぁあああッ! (迫真)

 

仕方なく、俺たちはそんな俺のわがままに合わせてくれた皆の了解を得て、とりあえずエギルの店に行き彼の鑑定スキルに頼ることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

第50層 《アルゲード》

 

 

 

猥雑な喧騒でハチヤ達を出迎えたこの街の裏通り的な場所にエギルの店はあった。

 

エギルは良い奴なのだが、商売人としては最悪だと言える。悪徳商売上等な人とでもいえばいいのか、だが憎めないのでどうにもめんどくさい。いや、いい人だけどね? でも、ぼったくられた分は許さねぇ。そこだけは絶許リストに追加しよう。

 

 

あとね? 商売の心得というか心情をさ、堂々と語るのはやめた方がいいと思うんだ。

 

 

一に信用二に信用、三、四がなくて五に荒稼ぎ……なんだそうだ。

 

 

初めて聞いたときは、思わず「うわぁ…………」と思った。

 

まぁともかく、俺たちが来ることを知り、お客たちに早じまいを詫びてる巨漢というのはなんともシュールだと思う。だが、エギルはユキやユイ、アスナにイロハを見るなり態度を変え、デレデレしてるように見える。男というのはなんとも難儀な生き物だと思う。

――そういえば確か……エギルって現実で結婚しているって言ってたような…………よし、現実に変えれたらぼったくられた分の復讐はしよう。お宅の旦那さん美少女にデレデレしてましたよ~って。うん、そうしよっと。

 

「? どうしたハチ?」

 

そんなことを考えていた俺の顔をキリトが不思議そうに眺めてくる。

 

「ん? ああ、いや…… ちょっと絶許リストを追加更新してただけだ」

 

「そうか、ならよかt…………って良くねぇ!? ってか何だよ、そのリスト!?」

 

「ハイハイ、ノリツッコミご苦労さん。落ち着こうなーキリト」

 

「いや、俺!? 俺がおかしいのか!?」

 

「うん」

 

「即答かよ!?」

 

「…………そこの二人、馬鹿をやるのはその辺にしなさい。さもないと――」

 

さもないと、何ですか? ねぇ、ユキさん? なんで黙るの? あの、なんでそんな凍えるような目を……視線で人を殺せそうだ。

 

「ハチヤ君、返事はどうしたのかしら? それともあなたはついに返事もできないほどに退化してしまったのかしら? せっかく両生類程度には進化したというのに、また腐った魚に戻りたいのかしら?」

 

どうやら俺は恒温動物にすら値しないらしい。というか――ヤダ、俺の進化ペース……遅ずぎ? というか俺は彼女にとってカエル程度の存在だったのか? ヒキガエル……比企も取れたただのカエルが、腐った眼の魚に逆進化――何それただの退化。

 

そんなことを考えている間にもどんどん周囲の空気は冷えていく、コイツ…………実は《氷結》的なスキル持ってんじゃねぇの?

 

「……」

 

無言怖えぇ!? は、早く返事をしなければ! 返事を、するのだ! 

 

ハチヤはまるで決闘を闇の帝王に挑まれた半人前の英雄のように、無理やり返事をした……いや、させられた。

 

「い、イエッサーッ!」

 

「よろしい、素直は大事よ? ヒキガエルくん」

 

素直なんて、テメェにだけは死んでも言われたくねぇ。と思ったが、これ以上責められるのは嫌なので黙っていた。

 

「さて、じゃあ話も済んだようだし……早速例のブツ二つを鑑定するとすっかねぇ…………」

 

そういうエギルの手にハチヤは「頼む」と言ってロープと槍を渡した。

するとエギルはメインメニューを呼び出し、スキル項目から《鑑定》を選択しロープの情報を探る。

 

「うーん、残念だがロープからは大した情報は見つかりそうにない。こいつは単なる市販品……NPCショップの汎用品だな、耐久値も半分ほど減ってるしランクも低い」

 

「ま、そっちにはたいして期待はしてねぇよ。本命は…………こっちだ」

 

そういってハチヤはエギルに槍の鑑定を促す。

 

「そんじゃ早速……」

 

エギルはその短槍を鑑定し始める。

 

この槍、ランクやレア度でいえば、はっきり言って大したことはない。ハチヤ達の使っている武器や装備に比べれば、単なる一アイテムに過ぎないが…………重要なのは、そこじゃない。

問題は、これが()()()()()()()本物の《凶器》であるということだ。

 

外観は、大したものじゃない。このカテゴリの武器にしては比較的珍しい黒い金属でできているが、ただそれだけだ。確かに1メートル半程度の刀身には短い逆棘があり、これがあの時カインズが簡単に抜けなかった理由である〝引き抜き防止〟の効果を生み出している。

一度刺さると相当に高い筋力値が要求されるだろう。キリトあたりなら楽勝かもしれないが、俺やアスナの様な敏捷型だとかなり苦労するだろう。だったら、抜くよりも破壊したほうが早い気もする。

何せこの世界では、デジタルの数値が1,2違うだけで可能・不可能が『完全』に決定されてしまう。

 

だから、最初に出来なければ、絶対にできない。

ならば必然的に使うのは……使えるのは、別の手段・方法ということになる。

 

まぁ、今はこの話は置いておくとして……。

今は問題の武器、コイツの情報を確認することが先決だ。

 

その時、エギルの鑑定が終わったらしい。

 

「どうだ?」

 

「ああ、情報は出た。こいつは…………《PCメイド》だ」

 

「! 製作者は?」

 

《PCメイド》のアイテムには、必ず製作者の『銘』が刻まれる。それをもとに調べれば、犯人に辿り着くだろう。

 

「製作者は――《グリムロック》」

 

「グリムロック……」

 

「ああ、綴りは《Grimlock》。だが、聞いたことねぇな……少なくとも一級の刀匠によるもんじゃない。まぁ自分の武器を鍛えるためにスキルを上げている奴もいないわけじゃないが……有名なプレイヤーではないな」

 

「そうか……」

 

エギルが知らないなら、俺たちも知っている訳はない。こういったプレイヤーの情報は、商人や情報屋系のプレイヤーの方が知っているだろうから、剣士やってるハチヤ達には到底知りえない情報だろう。

 

「でも、これを鍛えられる程度までソロプレイ、というのは絶対的に無理な筈……たぶん中層か下層の街で手分けして聞き込みをすれば、きっとこのグリムロックという人を知っている、あるいは覚えてる人がいるはずよ」

 

「そうですよね、さすがにソロでここまでレベルを上げられる人なんて……いる訳な、い…………」

 

ユキの言葉にイロハがそう返そうとしたとき、ハチヤとキリトの顔を見てみんなが固まった。

 

「……訂正します。いました、そんなおバカさんが……」

 

「おいコラ」

 

「そーだね、確かにハッチーなら一人でもここまで来られそう……」

 

「おい」

 

「確かに……キリト君とハチヤさんなら……これそうですね」

 

「あ、アスナまで……」

 

「まぁ、そんなチート野郎どもは放っておくとして……」

 

「よしエギル、お前死にたいらしいな……表出ろ」

 

「お、おいおいマジになるなよ!? わ、分かった悪かった! だからその剣を降ろせ!」

 

「怖えぇって、ハチ……」

 

「……ともかく。今は手分けしてこのグリムロックという人を探すしかないわね…………それにこの武器は、明らかに《対人用目的》で作られてるわ。情報を得るだけでも、一筋縄ではいかないだろうことは容易に想像できるわ。ここからは、最低二人組で行動をすることを原則としましょう。どこかのおバカさんたちはソロプレイがお好きなのかもしれないけれどね」

 

「……どーせ馬鹿だよ」

 

そんな感じに不貞腐れていたハチヤだったが、発破をかけられとにかく目的のために動き出した。

 

 

「あ、そう言えば…………武器の固有名はなんていうんだ?」

 

固有名は、はっきり言って役に立たない……。ゲームシステムのランダム命名のものでしかない武器名など何の役にも立たないことは必然だそこに、《人の意志》は存在しないのだから……。

 

――しかし、それでも何かの意味が宿っているような、そんな気がするのだ。

 

これは実証の判断材料じゃない、言うなればそう……心の判断材料と言ったところだろうか。

 

実に馬鹿げた考えだが、そこはまぁ気分的なものだ。とハチヤは割り切った。

 

そんな意味も含めて、ハチヤはエギルにこの短槍の固有名詞を聞くと、エギルはシステムウィンドウに再び目を落とし、情報欄に記載されている銘を読み上げる。

 

「おう、武器名は……《ギルティソーン》。『罪の茨』ってとこか」

 

 

――罪の、茨…………。

 

 

「まったく……どこまでも芝居がかってやがるな…………笑えねぇシナリオだ、駄作の匂いがぷんぷんしやがる」

 

 

そう吐き捨て、ハチヤはエギルの店を出る。それに続くキリトたちはハチヤにまずどこへ向かうのかと聞く。

 

「ハチヤ君、まずはどこへ行くつもりのかしら?」

 

「黒鉄宮。まずは死んだかどうかを確認だ…………」

 

その言葉に、みんな少々腑に落ちない表情をしているが……確かに、まだ本当に『死亡』したかはまだ、分かってない。そのための確認だと、ハチヤは言っているのだ。

 

「さて…………このシナリオは俺達で幕引きにしてやろうと思ったんだが、いいか?」

 

「ええ……」

 

「うん、がんばろ!」

 

「やりましょう」

 

「もちろんだ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

こうして、現アインクラッド最強クラスの布陣が…………動き出した。

 

 

 

 

未知の事件の幕を下ろすために。

 

 

 

 

そして、ハチヤのずっと感じている……その裏に潜む〝何か〟の正体を掴むために…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

暗く深い、アインクラッドのどこか。

 

 

「ハハハッ! 面白そうなのが出てきたなぁ……。えぇ? 【影】(シャドウ)!」

 

 

 

この事件の裏に潜むのは…………もっと深く、暗いものなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたでしょうか?

なかなか進まなくて申し訳ありません。



これからも頑張って書きますのでどうぞよろしくお願いいたします。


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