SAO正規サービス開始からおよそ1か月が経過した。
しかし、このデスゲームが始まってからおよそ1ヶ月が過ぎた。にもかかわらず、未だに誰も―――――――第一層すら突破できていない。
βテストの連中はこの1か月で死んだプレイヤーの中でかなりの割合を占めている。慢心や傲慢が彼らの命を縮めてしまった。
だが、その他にも悲観や脱出を試みた故に自殺で命を落としたプレイヤーも多い。
結果として、この1か月のうちに2000人ものプレイヤーが命を落とした。
しかし、ハチヤ一行はしっかりと自分たちを強化し、生き残っていた。そして本日、この浮遊城≪アインクラッド≫の全プレイヤーの希望をのせて―――――――――
―――――――――ここ、トールバーナで第一層ボス攻略会議が開かれる。
***
《トールバーナ》
「ここで攻略会議が開かれるのね?」
「ああ」
「それにしてもやっぱりこのゲームって難易度高いんだね……」
「まぁ、そうだな。ここがβなら死んでも戻れるから無理やりにでもボスのパターンを解き明かしながらソロで突破も可能っちゃ可能なのだが……このゲームにはそれができない、なにせ《HP0=死》なんだからな。ゆえにこのゲームにおいてボスにおいてはソロ攻略なんてのは不可能に等しい、それこそ何かこう反則級のスキルでもあれば別だけどな。だからソロプレイで経験値稼いだとしてレベルを上げまくっても、それじゃあ一人でボスを突破にはつながらない」
「そうね、経験値を集めてもそう都合よくボスを突破できるわけではないという事なのね」
「ま、そのためにこのトールバーナに来たわけだしな」
「そうだね!私たちもだいぶ強くなったし、ヒッキー……。あ、ハッチーだった。ハッチーのサポートもちゃんとできるもん」
「ああ、でももうだいぶ戦えるはずだ。ガンガン攻めていこう、それでも注意は怠る事のないようにな」
「うん」
そう、この1か月俺は雪ノ下と由比ヶ浜―――――――っとキャラネームはユキとユイの二人のレベリングとスキルの熟練度を上げていた。二人の武器はユキが槍、ユイが細剣。
二人のレベリングの指導をしてボスに挑める程度のレベルには仕上げた。
そして今、俺たちはここトールバーナにて第一層攻略会議が開かれる広場にいるのだった。
広場にて――――――――
―――――――――そこには約20人近くのプレイヤ―達が集まっていた。
「ずいぶんたくさんいるのね……」
「そうだね、みんな怖くないのかな?」
「まあ、怖いのはみんな同じだろうな」
だけどたぶん俺を含めて、それ以上に……―――――
「――――――遅れるのが怖いんだろうな」
ユイとユキノが不思議そうな顔をするのでハチヤはその意味を答える。
「ここは、ゲームなんだ。たとえ命を懸けていても、現実とリンクしていても、それでもあくまでもここはゲームの中なんだ。だから怖い。≪最前線≫から遅れることが」
そう、俺を含めゲーマーなら大体はそう思うだろう。ゲームの攻略をほかの誰かが進めてそいつが自分より早くクリアしてしまうことが怖いのだ。
「そういうものなのかしら?」
「要はみんな負けず嫌いってこと?」
「そうだな、まそういうことだな」
そんな他愛のない話をしていると、青髪のプレイヤーがこの場にいる全員に声をかける。
「皆!今日は集まってくれてありがとう。俺はディアベル、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」
その冗談の入り混じった好感の持てる自己紹介に少し硬かった周囲のメンツから割り声が聞こえ始める。なんだか葉山を思い出させるような奴だな、声は材木座に似てるけどな。
そういや、あいつらもこのゲーム買ったとかって言ってやがったな。まさかいたりするのか?
だったらただなぁ……。とそんなことを考えていると―――――
「こうして最前線にいる皆はこのSAOにおいてのトッププレイヤ―だ、そんな皆をここへ呼んだ理由はもう言わずもがなだよな」
そういってディアベルは一呼吸おいてから真剣な声色で本題に入った
「今日、俺たちのパーティがあの塔の最上階でボスの部屋を発見した!」
その報告にその場に集まっていた者たちがとざわめく。ついにこの時が来た、このデスゲームにおける最初の関門。このゲームの果てへの最初の階段、第一層のボス攻略。
「俺たちはボスを倒し、このデスゲームにきっと終わりがあるんだということを≪始まりの街≫で待っている皆に伝えなくちゃならない。それが、今このSAOにおける俺たちトッププレイヤーの義務なんだ、そうだろ!皆!!」
ディアベルのその言葉にほかのプレイヤーたちは士気を上げ熱気がこの広場を覆う。喝采の漂うこの広場において俺はこのディアベルという男はこのプレイヤーたちとまとめ上げたことに素直に感心していた。
βの俺にとってなかなか難しいことだが、ディアベルはこの場に集まった全員をまとめた。ここは彼に向かって拍手の一つも送ってやるべきなのか、と思っていると――――――
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
―――――――――1人のプレイヤーがこの場に割り込んできた。そいつは小柄な関西弁をしゃべるトサカとサボテンを合わせたようなとげとげ頭の変ったプレイヤーだった。そいつの乱入で拍手は止まり、この場に緊張した空気が戻りこの場を覆いつくす。
「君は?」
「ワイはキバオウゆーもんや」
キバオウと名乗ったその男は広場に乱入してくるなり、なにやらこの広場にいる俺たちに何か言いたいようだった。
「仲間ごっこの前にこいつだけは言わしてもらわんと気が済まん」
「積極的な発言は歓迎さ。で、なにかな?」
「こん中に、今まで死んでいた2000人に詫び入れなアカン奴らがおるはずや」
「……君が言っているのは元βテスターたちの事かな?」
「そや、こん中にも5人や10人いるはずやで」
そういうとキバオウは粉の広場にいる全員を再び品定めでもするように眺め見ると、再び喋り始める。
「β上がりどもはこんクソゲームが始まったその日にダッシュで始まりの街から消えてうまい狩場やらボロいクエストを独り占めにしてジブンらだけぽんぽん強なってその後もずーっと知らんぷりや。そいつらに土下座さして溜め込んだ金やアイテムを吐き出さしてからでないと命を預けられんし預かれん!」
そういうとキバオウはフンと鼻を鳴らし、腕を組むと名乗りでてくるのを待っているようだった。
それに対する周りの反応は「そうだそうだ」という賛同の声や「んなこと言ったら出てくるかよ」という否定的な意見だが結局どちらもβに対する反感の類であることに変わりはない。そんな感じで周りを見渡してると視界の端にかつて共にβを戦った相棒の現実の方の顔が映る。キリトもやはりここに来ていたようだ、その相棒の青ざめた表情を見て俺は気づくと既に立ち上がっていおり広場中央に足を運んでいた。
「ん?なんや小僧、ジブンβ上がりか?」
「ああ」
その肯定の言葉に周りがざわめたつ。しかしそんなことは気にしない、今は自分の意見を言うことの方が先だ。
「そうか、ならこれまでにズルした分きっちり吐き出せや、そしてこれまでに死んだ2000人に侘びも入れなアカンし土下座してもらおか」
「嫌なこった」
「なんやと!?ガキやと思ってちょーしのりおってからに!!」
「ひとつ目にいうが何故俺が侘びを入れる必要が有る?」
「はあ?なに言っとるんや、そんなもんお前らがビギナーを見捨ててったからに決まっとるやろうが」
「その理屈はおかしいだろ」
「どこがやねん」
「そいつらが死んだのを俺のせいにされても困る。だってそいつらが死んだのはそいつらの慢心のせいだろ?俺たちに責任取れっていうところじゃない」
俺のその言葉に言葉が詰まってしまったキバオウはなにかを言おうとしているがそれを無視して続ける。
「それにお前は知ってるのか?このゲームの2000人の死者のうち約40%は『βテスター』なんだぜ?」
「なっ!?」
その事実に周囲は再びざわめき立ち、俺の言葉に全員が真剣に耳を傾ける。実際この情報は嘘じゃない、βの時の知り合い『鼠』こと、アルゴからの情報だ。つーかあの野郎、俺の呼び方βんときからずっと『ハッチ』だし、俺はどこぞのみなしごかっての!だいぶ腹が立つ、あのキャラもだが……。
とはいえ、あいつは貴重な情報屋だからな手を出せないことがだいぶ悔しい。クソ、あの鼠野郎。
「そして二つ目に、あんたは俺たちが色々と独占したと言ったが、まぁそれはある意味で正しいかもな。しかし、それだってお前らは知ることができたはずだ」
「ど、どう言うことや!」
「これは知ってるか?」
そう言って一冊の冊子を取り出す。俺と同じ元βテスター、アルゴの作ったこのゲームのガイドブックだ。
「そのガイドブックがどないしたっちゅうんや」
「では、ひとつクイズをしようか」
「クイズゥ〜?おいおいそんなくだらんこと……」
「まぁ聞け。さて、あなたはこのゲーム関するβ時の情報を持っています。さて独占するとするなら何でしょうか?」
1.金
2.アイテム
3.情報
「なんのことかさっぱりわからん。こんな謎かけ遊びになんの意味があるっちゅうんや」
キバオウはそんなことに何の意味があるのだとイラついた声で返してくる。
「では正解。正解は『情報』だ」
この場にいたものは大体?を浮かべているだろう。強力な武器で先へ進めばいいじゃないか、金でより良い装備を揃えれば、など様々だろう。
「情報やて?」
「ああ、このガイドブックは俺たちβテスターの情報で構成されたものだ。ここにはβの時のデータが詰まってる。それを情報屋がまとめたものだ。このゲームにおける情報を金にもアイテムにも変えられるそれを『無料』で提供している」
そう、いきなり全部公開してるわけじゃないが少なくとも重要な情報はかなり乗っている。これを読んでさえいれば少しは死者も減っただろうに……。
「これまでに死んだのはこういう情報を得ようともせず、自分の記憶を当てにして突っ走ったβ、そして他のゲームで上位だったからと言って挑んだ実力者気取りのビギナーだ。誰にでも手に入れられたものを得ようともせずに突っ走った奴らの責任はそいつらにあるはずだろ?」
「くっ……」
「実際にこれはその街や村ごとに情報が置かれ更新されているだろう?βでは最も上がれたもので第9層まで、つまり順々に更新して先に与えた情報だけを鵜呑みにしないようにしてあるんだよ。なにせこれはあくまでもβ時の情報なんだからな」
これで大体言いたいことは済んだ。最後にトドメをさしておこうとキバオウにこう言ってやった。
「これで最後にするがこれは俺個人的な質問なんだが、結局あんたの言いたいことは俺たちに死ぬまで面倒みろってことだよな?」
「な、そ、そんなわけあるかい!」
「そうか、ならよかった。ませいぜい協力しようか、フロアボスに関してはな。遮って悪かったな、ディアベルさん。会議の続きを頼むよ」
「あ、ああ……じゃあまずは6人パーティを組んでくれ。個々のパーティではこのボスは攻略不可能だ。オアーティを束ねたレイドを作るんだ!」
しかし、このセリフがちょっと俺の体をこわばらせた。この場にいるのは47人。6パーティに5人パーティ1つ。というかSAOでは6人で1パーティなので結局あまりになる。所詮ぼっちでしたからね!
かっこつけてもこれは非常にかっこ悪い結末に終わるパターンでは?と懸念していたが、キリトがこちらに寄ってきてパーティにいれてくれというのでその申し出をありがたく受け取る。そして、もう二人せめて一人誰かを見つけないことには、誰か知らないというかめんどくさい奴が入ってきたら困る。
「……ん?」
すると、一人先ほどまでのキリトと同じように孤立している一人のプレイヤーがいた。そのプレイヤーはユイやユキに顔を隠せるようにと着せたフードとにたようなものを着ており(ユイとユキに関しては二人とも美少女なので女性プレイヤーの少ないこのゲームでは目立つので目立ち防止にと着てもらった)一人でぼーっと周りを見ているように見える。
「……お前、あぶれたのか?」
「別に、ただ周りがお仲間同士だったから遠慮しただけ」
それを世間一般ではあぶれたと表現するのではないのだろうか?
「………なら、俺たちんとこ来るか?ここにいる人数的にひとつは5人パーティだし、それにβの俺んとこにはもう誰も来ないだろうしな。それに人数がいないと攻略が難しくなるしな」
「…………わかった」
そうしてこのユイと同じ細剣使いの、少女?に見えるが……まあ多分そうだろう。声的に。
彼女にパーティ申請の申し込みを送るとOKが帰ってくる。プレイヤーネームは………Asuna――――――アスナか。
「よろしく」
「……、」
返事はしなかったがその少女はぺこりとお辞儀をした。
その後、ボスの情報の載った最新版ガイドが発行され、その情報をもとに部隊編成がおこなわれ、ドロップの品の独り占めだの何だのとされると困ると言いがかりをつけられ取り巻きの排除役にされてしまったが、まあそこは別にいい。もっと問題なのは………。
「スイッチ?……potローって、何?」
その言葉に聞き覚えのないらしいアスナは言葉の意味が理解できないらしい。
「もしかして、パーティ組むのって初めてか?」
コクン、と頷くアスナ。そういうわけで大体をかいつまんで説明してあげた後、それを実践して、彼女の武器を《アイアンレイピア》からドロップ品である《ウィンドフルーレ》に変えて、特訓をしていると思ったよりも時間がかかり、特訓が終わったころには既に周りが暗くなってしまっていた。
「もうこんな時間か、遅くまで付き合わせたお詫びに晩飯おごるよ」
「そんなことしなくても……」
「まぁ気にすんな」
「……」
どうやら俺はゲームの中だと多少はコミュ障が治るらしい。そんなことを考えながら街に戻り、アスナに黒パンと小瓶を差し出す。
「?」
「ま、使ってみろ」
周りでキリトやユイ、ユキがやっているのを見て瓶に触れパンに触れてみるアスナ。
「クリーム?」
「ああ、この一つ前の村で受けられるクエストの報酬でな。コツ教えてやろうか?」
「……いい、美味しいものを食べるためにここまで着たわけじゃないもの」
「……。つまりあれか?始まりの街で腐りたくなかった、ってことか?」
「―――――ッ!?……そう、私が一秒でも私でいるために……」
「でもま、気張りすぎるなよ。今はここで生きてるんだからな」
そういって頭を優しく撫でてやる。するとアスナは思ったよりも素直にそれに応じた。
「なんだかな、俺妹いるんだよな。お前と同じくらいの。今中3でな。来年から高校生で同じ学校通えるってはしゃいでたなぁ」
「……そう、ですか………」
その後ユイたちの会話に出てきた『お風呂』のワードに食いついたアスナを俺たちのパーティの宿に案内し、俺はキリトの宿に厄介になった。
その夜、キリトの宿にて
「それにしても驚いたよ、ハチがあんなことするなんて」
「あのキバオウって奴の言い方が気に入らなくてな、柄にもないことしちまったな」
「でも結構カッコよかったぜ?」
「………まぁ、ありがとよ」
「なんつーか、ハチってやっぱ年上なんだな」
「まぁ、お前は中学生だしな」
「そうだな……弟分って感じか?」
「……勝手にしとけ、だがな俺はまだ『義弟』はいらん!」
「ハチはいつもどおりだなぁ~」
そうやって笑いあって穏やかに夜は過ぎていく……。
その頃、ハチヤ達の借りていた宿にて
お風呂に入り満足したアスナとユイとユキが話している。
「ふーん、アスナちゃんは中学生なんだ」
「はい」
「アスナさん色々と気にかかるかもしれないけど、とにかく生きることを考えてみなさい。この世界でも私たちは生きているのだから」
「………はい」
アスナはユキの言葉にまだ迷いを振り切れてはいないが、ふと気になったのかこんな質問をしてくる。
「あの、ハチヤさんって……お二人のお友達、ですか?」
「……そうでもあるし、そうでないとも言えるわね」
「?そういうことですか?」
「あのね、私たちは現実の世界で高校の同級生で私たちは同じ部活にいて色々なことをしてきたんだ。ハッチーは今はかっこいいけど、前まで目が死んでるってよく言われる変わった人で……不器用でひねくれていて友達がいなくてぼっちだったけど、誰よりも純粋で、誰よりも優しかったんだ」
「私たちは彼に救われたの。彼は否定するでしょうけどね?」
「……そうなんですか」
色々あってアスナには全部は把握しきれないところもあるけど、あの人は――――――ハチヤという人はなんというかとにかく優しい人なんだということはわかった。
先ほどのやりとりのときなんだか久しぶりに安らかな気分になった自分がいたこと、こんな優しい二人と一緒にいること。キリトくんというあの片手剣使いの自分と同じくらいの男の子と昔のアインクラッドをかけたということ。
言葉ではまだ言い表せないけれど、お兄ちゃんみたいな人だなとアスナはなんだかほんわかした気持ちでいっぱいになった。
姉のような人たちや兄のような人たちとの出会いがアスナの凍りついていた心をを溶かし、余裕を生み出しこの世界に来てからろくに取れていなかった本当の意味での休息を得たような気分でアスナは夢の中へと飛び立った。
そして翌日10:00よりついに……。全プレイヤーの夢を乗せ、SAO第一層ボス攻略が始まる。
―――――――――――――――この仮想世界における運命というやつが……。動き出す
とりあえず投稿しました。何というか自分の中では二話目のパート1って感じです。