紅美鈴には秘密がある   作:テッソルムリア

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「笑顔とオールドファッションは基本」

side メアリー

 

―――紅魔館 廊下―――

 

「さて、じゃあ行きますか」

といってもフランの所に向かっているわけじゃないのですけど。

今向かっているのは厨房です。

理由としてはただお話するだけってのも味気ないので、ここは一つお菓子でも作ってから行こうかなーと。

ちょっと母親らしいところを見せられるかもしれませんしね。喜んでくれるでしょうか。

 

こう見えて意外と料理は得意なんですよ。

門番として過ごしていましたから、あまり皆さんの前で披露する機会がなく、知られていないと思いますけど。

 

意外と料理が得意と言えば、ゆかりんもそうですね。

以前ご馳走してもらったことがありますけど、ビックリするくらい美味しかったです。

見た目も綺麗でどこの料亭かと思いましたよ。

 

まぁ長く生きてると暇を持て余しますからね。

時間はタップリあるから色々手を出してみるんです。

人間が極めるのに50年掛かるとしたって、そんなの私たちにとっては一瞬ですからね。

そもそも効率とか手際も違うでしょうから50年も掛からないかもしれませんね。

 

そう考えると咲夜は凄いですね。

能力があるとはいえ、人間、しかもあの若さであれだけ家事が出来るのは驚異的だと思います。

料理も掃除もパーフェクトですし。

 

肝も結構座ってますよね。

人間が吸血鬼の食事を用意するのって、常人はなかなか厳しいと思いますけど咲夜は平然とこなしてますからね。

他にも自分の主(レミィのことです)に対しても物怖じしない所があったりしますね。たまに変なお茶淹れてますし。あれは物怖じしないっていうより天然なのかもしれませんが。

 

物怖じしない繋がりでいくとパチュリーも挙げられますね。ちょっとベクトルは違いますけど。

さっきの大図書館での勧誘(脅し)のときもそれ程動じていませんでしたし、とても頼もしいです。

またゆかりんも交えてお話しましょう。

 

っとそろそろ厨房が見えてきましたね。

おや、あれは……?

あの後ろ姿は咲夜でしょうか。

何か考え事をしてるみたいでこっちには気付いていないようです。

……

……フフフ。ちょっとイタズラしてみましょうか。

気配を消して……そーっと近づきましょう。

……

……

近くまでやって来ました。まだ考え事をしてますね。

じゃあ後ろから声を掛けてみましょう。

 

……あっといけない。パチュリーの言ってたことを忘れてました。

笑顔笑顔。

 

……こんな感じでしょうか。うん良いでしょう。

それでは更に近づいて……よしっ今だ!

 

 

「咲夜」

 

 

 

 

 

 

side 咲夜

 

私、十六夜咲夜は考える。

 

……例えば、例えばの話である。

自分の同僚……仮にMとしておこう。

同僚Mは外勤で……自分の方が役職的に立場は上であるとする。

意図的にキツく当たったわけではないが、それでもそれなりの態度を取ってきた。立場的に。

まぁ彼女が時たま居眠りしていたことも一因と言えるが、それは今は置いておく。

 

……その同僚が急に己の主の親だとカミングアウトされたらどうだろうか。

ハッキリ言って最初は訳がわからなかった。何を言っているのだろうかと。

……だけど、その後のことが強烈すぎて吹き飛んでしまった。

あの宴会の席での暴露。沈黙、威圧、緊張。

そう流れるように場の雰囲気は変わっていった。

私は……動けなかった。

それが単に驚いていたからなのか、あの威圧感に屈してしまっていたのかは分からない。

 

その後、彼女はスキマ妖怪に連れられて姿を消し、数日間紅魔館から離れていた。

その間の紅魔館住人の反応は様々。

パチュリー様はほとんど普段と変わりない様子だった。小悪魔も。

妹様は純粋に彼女の帰りを待ちわびているようで、ウズウズしているような感じであった。

……お嬢様はそれと対照的にというか、同じようにというか。

傍目からも待ち遠しいように見えたが、それを誰かが指摘すると即座に否定するといった反応だった。

私は……その時もまだどうしたら良いか、ハッキリとは分かっていなかった。

 

彼女が帰ってきてから。

みんなの反応は概ね変わりなかった。しいて言えば小悪魔が少し変わったくらい。

パチュリー様は受け入れ、妹様も歓迎した。

お嬢様は突っぱねた……意地を張っているようにしか見えなかったが。

私は、お嬢様の意思に沿うと言った。……どうしたら良いかわからなかっただけなのに。

 

……私はどうしたら良いんだろうか?

お嬢様が態度を変えるまでそれに従う?私だけでも主の母として扱う?

それとも……

 

 

「咲夜」

 

 

その時思ってもみなかった声が掛けられた。

―――瞬間、全身の毛が総毛立つような感覚に襲われる。

……全く気配を感じなかった。そのことに戦慄しながら振り返る。

 

―――そこには満面の笑みを浮かべた彼女がいた。

……声を掛けられるまで、存在を認識出来なかった。

にも関わらず、今の彼女は圧倒的な存在感がある。

だが私が一番恐れを抱いたのはその笑み!

かつて門番だった時の屈託のない笑みでも、八雲紫と帰ってきた時のどこか澄ましたような胡散臭い笑みでもない。

純粋な笑顔。しかしどこか目だけは笑っていないような印象も受ける笑みだ。

何かに意識を集中させ続けている……そんな迫力のあるものだった。

 

「何で……何かしら美鈴」

先ほど考えていたことから自然と敬語が出てしまいそうになり、慌てて言い直す。

……少なくともお嬢様が変えない限り、私も『紅美鈴』として彼女を扱おう。

 

すると彼女はますます笑みを深くし、私に話しかけてくる。

 

「いえ、後ろ姿が見えたから声を掛けただけよ。……ちょっと厨房を借りてもいいかしら?」

「構わないけど……何するつもり?」

「フランにお菓子を作ってあげようと思ったのよ」

そういってウインクを投げかける彼女に呆然とする。

……何だこれは。

まだあの胡散臭い笑みの方がマシだった。それなら八雲紫と同じように対処すればある程度はどうにかなった。

これでは本当にどうしたら良いのか分からない。

彼女は紅魔の母なのか?それとも同僚で良いのか?

以前のようなフランクさを垣間見せる彼女に、判断が付かない。

 

「じゃあ使わせて貰うわね」

「……ええ、どうぞ」

そのまま厨房に入って行く彼女を見送り、厨房の扉が閉まると同時にその場を離れる。

 

……駄目だ。自分一人でどうにか出来る問題じゃない。

誰かに相談するべきだろう。

 

そうすると誰にするべきだろうか?

……実の娘(かもしれない)お嬢様に相談する?

それとも一番冷静そうなパチュリー様?

……

……

ここは……パチュリー様の所に行こう。

お嬢様はまだ母親と認めきれていないだろうから、話がややこしくなるかもしれない。

パチュリー様なら冷静に、第三者視点で見てくれるだろうし。

ある程度仕事を片付けたら、大図書館に向かうことにしましょうか。

そう考え、私は仕事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

side メアリー

 

私は鼻歌交じりに厨房に入る。

やった!やりきったよパチュリー!

ちゃんと笑顔で挨拶出来たし、咲夜も以前みたいに接してくれましたよ!

これはもう咲夜もお仲間で良いんじゃないかな?こんな感じでレミィとも話せたらいいですね!

 

さて、それはともかく。

何のお菓子を作りましょうかねぇ……

幸い材料はたくさんあるので作れないものは少なそうですが、逆に迷ってしまいそうですねぇ

どうしましょうか……

 

 

(フロッキーシュー?何じゃこれ、あり得なくない?)

 

 

……ハッ。今、異世界の同族の声が聞こえた気がしました(ただの妄想)

……作るのはドーナツにしましょう、そうしましょう。

同族も喜ぶかも知れません。

リクエスト通りフロッキーシュー……あとオールドファッションは基本ですね。

とうふドーナツっていうのも面白いでしょうか。何か和風でいいですね。

さて、作りましょうか。

 

 

()()料理中……

 

 

出来ました!こんな感じでどうでしょう!

 

(ぱないの!)

 

喜んでくれたみたいですね。ありがとう、遠い異世界の同族。

では寸劇はこれくらいにして、フランの所に行きますか。

 

 

 

 

 




え?主人公の能力ですか?
全て(の雰囲気)を破壊する程度の能力とかじゃないですかね(適当)





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