今回含め、追憶話は前作「紅の系譜」における昔語りとリンクしている所もあります。
時系列もそっち寄りです。
具体的にはレミリアが生まれる前~
一応、前作を知らなくても大丈夫な作りにはなっていると思います。
side とあるメイド
「♪~」
私はあの日と同じく、軽く鼻歌交じりに紅魔館近くの林道を通っていました。
あの日―――
私が街へ買い物に出かけ、帰り道で彼女と出会った日。
ここで彼女と出会ったからこそ今のような日々があるのかもしれません。
最初出会った時は身が竦むような気持ちでした。
半分脅されたようなものでしたからね。
その後の騒動の方が大変だったかもしれませんが………
今でも信じられないというか実感が湧きませんね。
旦那様が彼女と結婚されることになるとは。
初めて顔を合わせた時は問答無用で殺し合いに発展したというのにですよ。
あれですかね。
そうやって本気でぶつかりあった方が結果的に仲良くなるのでしょうか。
まぁ………それよりも。
彼女が私に興味を持ったことの方が驚きました。
だってただのメイドですよ私?
旦那様と張り合うほどの力を持った吸血鬼様が目をくれるなんて思いもしないじゃないですか。
そこからはさらに激動の日々でしたね―――
何だかんだあって彼女のことが気に入った旦那様が紅魔館に滞在する許可をお出しになり。
彼女に気に入られた私が彼女付きのメイドになって。
そして彼女は驚くべきことに―――私を「友人」にしてくれたんです。
普通じゃ考えられません。
何故なら彼女は吸血鬼―――それも数多の悪魔を率いることが出来るくらいの力を持った強大な吸血鬼です。
それが私みたいなメイドを使役するならともかく、友人になろうと言ってくれるなんて。
余りにも考えられなさすぎて、最初は疑っちゃいましたよ。
何か企んでいるのではないかって。
私がそうやって疑っているのは彼女も分かっていたでしょうけど。
それでも彼女は気を悪くした様子もなく、友人として接してくれました。
そこでようやく、あぁこの人(吸血鬼)は他の人達とは違うんだなって思ったんです。
だって他の吸血鬼にそんな態度をとったら、その場で引き裂かれてもおかしくないですもんね。
それなのにそんな態度をとるあたり、私も結構うっかりしているのかもしれません。
でも―――結果的にはそれで良かったのかもしれません。
私は彼女の友人になれましたし―――
友人としてとても楽しい時間を過ごすことが出来ました。
しかし―――そんな日々も、ある意味ではこれまでかもしれません。
何故なら彼女は結婚するのですから―――旦那様と。
つまり彼女もこれからはご主人様という訳です。
もちろん彼女はそんなこと関係無しに接してくれるかもしれませんが………
全て今まで通りということはないでしょう。
少なくとも他の人達の目がある所では主人とメイドという立場になるべきでしょうね。
私と彼女の関係を受け入れてくれる人もいるでしょうが、余計な口出しをしてくる人もいるでしょうし。
彼女―――メアリーも、それは分かっているでしょう。
………あぁ、違いましたね。
彼女の名前はメアリーだけではありません。
そう、今日からは。
彼女の名前はメアリー・スカーレット。
私のご主人様であり――――
――――かけがえの無い、大切な友人です。
最終章に入ってから追憶させるスタイル