―――妖怪の山―――
side メアリー
「ねぇ紫」
「何かしら幽々子」
「あとどれくらいかかるの」
「まだ麓に来ただけよ」
「えぇーまだ着かないのー?」
「もう少しよ」
「面倒だから紫のスキマでパッと行っちゃいましょうよ~」
「それは何回も聞いたわよ。偶には景色を見ながら行くのもいいでしょう?」
「……仕方ないわね~」
あ、どうも。メアリーです。
先の会話の通り、妖怪の山の麓に来ています。
この前(永遠亭に行った時)からしばらく経ったので、今度は妖怪の山……にある守矢神社に行くことになりました。一度人里で八坂神奈子には会いましたけどね。
会っただけで碌に言葉も交わしてなかったですし、やっぱり大事な話は他勢力なしでしたいですしね。
こっちは三人、あっちも三人でちょうど良い感じですし。
そうそう。三人で思い出しましたけど、今回パッチェさんは来てないです。
私とゆかりんと幽々子の三人ですね。
パチュリー曰く、「毎回引っぱり出されるなんて冗談じゃない。この前付いて行ったのだから今回はお休みよ」だそうで。
あのゆかりんが負い目を感じるとは思いませんけど、今日は無理強いはしなかったですね。
え?永琳ですか?
蓬莱山輝夜が動かない限り、そうそう出てこないんじゃないですかね。
まぁゆかりんは「本当に必要な時は動いてくれるわよ」って言ってたんで心配はしてないです。
それに対し、今回訪ねる八坂神奈子はアクティブ!
日輪の力を借りて核融合したり、ロープウェイ作ろうとするなど大変行動的!
もし上手くいけばその行動力を遺憾なく発揮してくれる頼もしい仲間となるでしょう。
幽々子は……うーん。行動的って言えば行動的なんですけど……
何というか自分の欲求に素直というか…
やりたいことに一直線!って感じなので期待しすぎは良くないですね。
行動原理が「面白そうだから」みたいなものですから。
それに関しては私とゆかりんも人のことは言えませんけれども。
そんなことを考えていたらいつの間にか、前方の二人が立ち止まっていました。
どうしたんでしょう?
「誰か見ているわね」
「……えぇ」
「呼んでみる?」
「誰だか検討はついているの?」
「何となくね。じゃ、やってみましょうか」
どうやら誰かが盗み見ているようです。
あ、ゆかりんが動いた。
「そこで隠れてるやつー貴方は完全に包囲されているわー大人しく出てきなさーい」
ゆかりん、それで出てくる犯人はいないと思うよ。
実際、辺りは静まり返って何かが出てくる気配はないですし。
木がそこそこ生えてるから隠れ場所は多そうですね……
「ま、出てこないわよね。はい、ダイナミックエントリ~」
そう言ってゆかりんがスキマを開くと中から誰か出てきました。
というかどこにいるか分かってたんですかい。
さて、誰でしょうね?
「―――あやややややや~!」
…………おっと、そう来ましたか。
まぁ好都合っちゃ好都合です。
「あら鴉天狗さん。奇遇ね」
ニッコリと微笑むゆかりん。
「あやや……き、奇遇ですね御三方とも」
若干引き攣った顔のブン屋。
この前の永遠亭でのことがトラウマなんでしょうか。
「ち、ちょっと用事を思い出しましたのでこれで……」
そう言って後ずさりを始めたブン屋の右肩をゆかりんが、
左肩を幽々子が掴みます。
というかこういう時は動きが素早いですね二人共。
「ちょうど良かったわ。私たちこれから守矢神社に行く所なのよ」
「道案内をお願いしてもいいかしら~」
うわぁ二人共いい顔しますね。
絶対道案内なくても平気だと思うんですけど。
ま、面白そうなんで余計なことは言わないでおきましょう。
おや?ブン屋が私に必死そうな目を向けていますね。
あの二人から助けて欲しいってことでしょうか。
よし、なら私が救ってあげましょう!
「諦めも大事よ、文」
「貴女もですかメアリーさん……」
ガックリと肩を落とすブン屋。
まぁまぁ。何回かの取材で気心も知れていますし、悪いようにはしないですよ。多分。
肩を落としたままの状態で、二人に連行されるブン屋。
私はその三人の後ろからゆっくりと付いて行った。
◆
―――紅魔館―――
side レミリア
今、紅魔館は非常に静かだ。
理由として挙げられるのは、やはりお母様がいないことだろう。
自然とその周りに集まってくるもの……八雲紫もいないし、フランも大人しい。
だが―――だからこそやりやすくなるものもある。
コンコンコン
「開いてるわよ」
ノックの音に応える。いつか見た光景だ。訪問者も同じだろう。
「遅くなって悪かったわね」
入ってきたのはパチェだった。
小悪魔じゃないわよ?
奴に動いて貰うのは必要なときだけだもの。
「いえ、それ程待ってもいないわよ……それで目的の物は?」
手早く本題に入らせて貰う。
お母様はスグには戻ってこないだろうが、時間を掛ける理由もない。
むしろ今後の動きを早めに考えたいところだ。
「………これよ」
パチェがスッとそれを差し出す。
それは本だった。
視線を送り、説明を促す。
「これは約500年程前の家系図……を無理矢理本の形にまとめたものよ。八雲紫から頂戴したわ」
「……あいつは何て?」
「別に何とも。使用目的も聞かれなかったし、
「そうね。理由は分からないけど協力してくれたのだから、利用できるうちに利用しておきましょう」
そういって手元の本に視線を落とす。
まだ中身は見ていないが、パチェの表情から察するに何か掴めたのだろう。
パチェは本を手に取ると、ページをめくりながら説明を再開する。
「さっき家系図といったけれどただの家系図じゃないわ……レミィも予想はついてると思うけど」
「まぁね」
「……これは私たちのようないわゆる裏の存在の家系図よ。様々な種族のものがあるわ」
「よくこんなに集めたわねぇ……パチェのもあるの?」
「あるけど今重要なのはそれじゃないわよ……ほらここ」
今までページをめくっていた手を止めると、一箇所を指差す。
それは吸血鬼の家系図が載っているページだった。
見ると私の名前も載っているし、その上にはお父様の名前もある。
だが―――
「………お母様の名前がない」
そう、お母様の名前が無かった。
正確には、お父様の名前の隣に何か文字があった形跡はある。
しかし、その文字は掠れてしまったかのように判別がつかないものだった。
「その通り。何故この部分だけ読めなくなっているのか……たまたま消えてしまったのか、意図的に消されたのかは分からない。でも一つだけ言えることがあるわ―――言えるっていうより疑問提起だけど」
「……何かしら」
「メアリーは本当に貴女の母親なのかしら?」
「………」
「今のところ、確たる物的証拠はないのよ。八雲紫の証言とか曖昧なものばかり。もちろん全部が嘘とは言わないけれども。それでも疑わしいのは確か。それに例の洗脳的な魔術のこともある」
「…………そうね」
「……大丈夫かしらレミィ?」
そうパチェが心配してくれたが、私はそのページを見た時からほぼ上の空だった。
「まぁ……レミィがそうなるのも無理ないわ。私も―――最初に見た時は呆然としたもの。それから無我夢中で他のページも読み漁ったわ」
―――なるほど。パチェも少なからずショックを受けたのだろう。
言葉尻から必死さが伺えた。
だが……その表情から見ると、見つからなかったようだ。
お母様の名前?
違う、それじゃない。
それもショックを受けたが、ある程度予測はしていた。
私たちは全く予想していなかったものにショックを受けたのだ。
何でかって?
なぜなら
パチェの持ってきた家系図
そのレミリア・スカーレットの隣に
フランドール・スカーレットの名が無かったから
さて物語もそろそろ佳境。
これまでバラマキまくった伏線をきちんと拾えるか……
まぁ大丈夫でしょう(のんき)