今回、今までで一番難産なお話でした。
これからちょこちょこ幕間入れようと思ってたんですが、恐ろしくなってきました(難産的な意味で)
―――人里 とある店―――
「……さて、今日集まって貰ったのは他でもないわ」
昼時も過ぎ、閑散とした雰囲気のとある飲食店。
普段ならばほぼ誰もいないであろうその空間に、今日は三つの影があった。
「えぇ、もちろん分かっているわよ」
「全員共通の話題ですものね」
最初に言葉を発したのは蒼いメイド服を着た銀髪の少女。
それに追従するかのように、兎耳紫髪の少女と二振りの刀を携えた少女が反応する。
「まずはそれぞれの発端と現状を共有しましょう……誰から話す?」
「では私から」
ぐるりと周りを見渡しながら提案したメイド服の少女に、刀の少女が応える。
刀の少女はスーッと息を吸い込むと、静かに語り始めた。
「……おそらくこの三人の中で
そこで一旦切り、メイド服の少女に視線を向ける。
「確かに私は会ったことがあるどころか、同じ場所で暮らしていたものね」
その視線にメイド服の少女は頷きを返す。
首肯を以て同意を示した刀の少女は、さらに言葉を紡ぐ。
「―――神社での宴会の後、彼女は白玉楼に来ました……紫様と共に」
「それは西行寺幽々子の計らいなのかしら?」
「えぇ、そうです。あの時声をかけなければ、紫様とどこかに行ってしまいそうだったので」
「なるほど。で、白玉楼ではどんな感じだった?」
そうメイド服の少女が問いかけた途端、今までの饒舌は何処へやら押し黙ってしまう刀の少女。
不思議に思ったメイド服の少女が覗き込み……ハッと気が付く。
―――刀の少女は小刻みに震えていた。
「―――妖夢」
そこで初めて、メイドは少女の名を呼んだ。
「……ッ、すみません。少し…嫌なことを思い出しまして…」
「……その気持ちは分からないでもないわ。無理しなくていいのよ?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「―――幽々子様が彼女と紫様を連れ、白玉楼に赴いた後。幽々子様の命で、私は何故か彼女と門前で二人っきりになりました」
「!……それで一体何が起こったの?」
「……”喰われそう”になりました」
「!?」
「もちろん比喩表現です。その時は本当に喰われるかと思いましたが……」
そうして刀の少女―――妖夢は事の瑣末を説明した。
◆
「……それはまた何とも……」
「えぇ、恐ろしく感じました―――しかし今になってみると、どうも気味の悪さを覚えます」
「というと?」
「彼女は何故わざわざ言葉に出したのでしょう」
「……」
「本気で喰うわけではなかった、と今では推測出来ますが、あの威圧感や存在感は本物です。では何故あんな事をしたのか?……そればかり考え続けていました」
「―――どんな結論に至ったの?」
「はい。彼女は―――何か探っている…いえ、確認している?……上手く表現出来ませんが、とにかくこちらを観察しているような気配があったように思われます」
「……そう」
「それは私も思い当たるフシがあるわ」
メイド服の少女がスッと横に視線を向ける。
思い当たるフシがある、と同調したのは兎耳の少女だ。
「それは本当?―――鈴仙」
「ええ。私は先日の夜……薬売りの帰りね。竹林の入り口で
「―――彼女たち」
「そう―――紅魔の魔女と妖怪の賢者を合わせた三人、にね」
「……」
「まぁ私なりに抵抗もしてみたんだけどね。そんなに効果はないだろうと思っていたけど、目眩ましくらいにはなるかと思って狂気の瞳を使ったのよ」
「……結果は?」
「ちょっとばかし怯んでくれたわよ―――彼女以外は」
「!!……それはつまり」
「彼女だけは微動だにしなかったわ。それどころかこっちを真っ直ぐ見つめてくるんですもの。そのせいで動くことすら出来なかったわ」
「……聞けば聞くほど末恐ろしい事実が浮かんでくるわね…」
◆
「さて、最後は私だけれども……」
そこまで言って口ごもるメイド服の少女―――十六夜咲夜。
「?どうしたの?」
「―――私の話の前に二人に聞きたいことがあるのよ」
「なに?」
「……貴女たちの主人。彼女と会った後はどんな感じだった?」
その質問に顔の表情を強張らせる二人。
「……幽々子様は最初―――宴会の直後です―――私に”気をつける”ようにとおっしゃいました。しかし彼女と紫様が度々白玉楼を訪れるようになってからは……その……彼女たちに同調するようになってしまい―――」
「私の師匠はもっと早かったわ。竹林で相対した時は一触即発って感じだったのに、永遠亭で私がお茶を淹れて戻ってきたら肩を組み合っているんだもの………正直言って、私の理解を超えているわ」
「つまり二人共、自分達の主人が
「?ええ」
「……私もそう思っていたわ。パチュリー様は彼女らに囚われてしまったのだと。しかし私は見てしまったのよ。パチュリー様に跪く、彼女の姿を」
「……え?」
「どういうこと?」
「……さて、ね。本当にパチュリー様が裏で糸を引いているのか、はたまたこちらを撹乱するための策なのか……私には判断がつかなかったからこの場に持ち込んだのよ。私が言えることとしては、彼女だけに焦点を当てるのはもしかしたら危険かもれないということよ」
「―――それは幽々子様や八意様が元凶の可能性のある、ということですか」
「まさか…師匠に限ってそんな―――」
「無いと言い切れる?」
「……」
「これからはその面も留意していきましょう」
◆
「では、これからはどうしますか?」
「そうね。それは決めておきたいわ」
妖夢と鈴仙はそう言いつつ、咲夜を伺う。
「今のところ、新たな動きは無いわ。でも、このまま終わりだとも思えない」
「何か先手を打つべきでしょうか」
妖夢が若干不安気にそう言う。
「そうね。彼女たちの目的は未だ掴めないけど、何もしないままは嫌だし」
「何か策があるの?」
「そうね……まず今までの事例を考えてみると、まず一つ目。彼女一人で他の勢力には接していない。宴会の時から少なくとも八雲紫は共に行動している。二つ目に今まで行った場所が白玉楼、紅魔館、永遠亭。あぁ、人里での会合も有ったわね―――で、これらから次の目的地がある程度予測出来る」
「なるほど。うーん、その他勢力だと……博麗神社、守矢神社、命蓮寺などでしょうか」
「仙人たちのいる道場もあるかも知れないわね。それで?」
鈴仙からの問いに咲夜は続ける。
「私たちは皆、彼女が各勢力を仲間にしたその瞬間を見ていないのよ。全部なった後。だから現場を押さえて何が起こったか知りましょう。まずそこからよ。はい、これ」
そう言いながら、妖夢と鈴仙に球のようなものを手渡す咲夜。
「これは?」
「以前の異変の際、パチュリー様から頂いた通信機よ。持っているもの同士で会話が出来るわ」
「便利なものね。ありがとう」
「もし紅魔館で何か動きが有ったら連絡するわ。貴女たちも西行寺幽々子や八意永琳に動きがあったら教えてちょうだい」
「えぇ、分かったわ」
「もちろんです」
二人は受け取ったものを懐にしまう。
咲夜は懐中時計にサッと目をやると、二人の方に振り返って告げた。
「今日はここまでにしましょう。あまり長居するのも考えものだし。頻繁に集まると怪しまれる危険があるから、何か渡したいものでもない限り、その通信機で情報共有しましょう」
そうして頷きあうと三人して立ち上がり、手早く会計を済ませるとそのまま声も掛けずにそれぞれの「家」へと帰っていく。
彼女たちの顔に迷いは見られない。
それぞれにやるべきことを成し遂げようというのだろう。
―――果たしてそれが、どのような結果となるか。今はまだ、知る由もない。
はい、今回は従者オンリーの回でした。
前書きの通り、難産でしたので端折ったり、変更した点も多いです。
ちなみに妖夢は真面目系ではなく、辻斬り妖夢に豹変する予定だったんですが踏みとどまりました(チッ