紅美鈴には秘密がある   作:テッソルムリア

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ここのパッチェさんは超長生きです


「美味しそうね」

side パチュリー

―――紅魔館 大図書館―――

 

「まだ帰ってこないの?……門番は」

「そんな焦らなくても大丈夫よレミィ」

 

あの後宴会もお開きとなり、各自帰宅した人妖たち。

帰ってきてからずっとソワソワしている親友に、パチュリーは溜息を吐く。

 

「それにもう門番じゃなくて、貴女の母親でしょう?」

「……まだそうと決まった訳じゃないわ。八雲と二人で共謀しているだけかも知れない」

「はいはい、そうね」

 

この意地っ張りの吸血鬼はどうにかならないものだろうか。

彼女は、門番が母親であることを期待している。

その一方で「そんなはずはない」という気持ちもある。

妹様のようにすんなり納得してくれれば良いのだが、多少なりとも母親との記憶があるレミィには難しいのかもしれない。

 

「……パチェが何か仕掛けたんでしょ」

「あら分かるのね」

「あまりにも急で不自然だったもの。出掛ける時に紅魔館に結界張ったのも下準備か何かだったんでしょう?それに約束もあったじゃない……それで、何をしたの?教えてくれるのよね?」

「そうね、そういう約束だったわね。正直ここまで効果が出るとは思ってなかったけど」

「いいから早く話しなさい」

せっつく吸血鬼を横目に、私は話し始める。

 

「門番の謎についてはもういいわね。図らずも八雲紫が暴露してくれたもの。本当は何か手がかりでも得られれば 位の気持ちだったんだけども」

そこで紅茶に口をつけ、一息入れる。

 

「……私が行なったのは意識の転換よ」

「意識の転換?」

「そう。例えばレミィは幻想郷の大半の人妖からすれば、『紅魔館当主の吸血鬼』という認識でしょう」

「そうね。それで?」

「でも妹様から見れば『自身の姉』となり、私から見れば『腐れ縁の吸血鬼』となる」

「ちょっと待ちなさい。それはどういうことよ」

「説明の途中よ。とにかく多数の者達の印象の裏に、少数が抱く人物像もあるってこと。それをひっくり返すものよ」

「……」

「本来は特定地域の洗脳とかに使われる魔法よ。そんなことしたら八雲紫が黙っていないでしょうけど。だからそれをちょっと改良して対象を個人に、洗脳ではなくちょっと勘違いさせる程度にしたの。黙っているべきことを話してもいいって感じにね……掛ける相手からしてそれくらい制約を課さなきゃ掛からなそうだったし」

「……八雲紫に掛けたということか。なぜ奴に?直接門番でも良かっただろう」

「立場の問題よ。胡散臭さはともかく、門番が自己申告するのと妖怪の賢者が証言するのではまるで意味が違う。加えてそれを行なった場が数多くの有力者が集まっていた宴会。そこで下手な嘘は言わないと皆認識してるでしょうし」

門番の謎を八雲紫が知ってるかは賭けだったけどね と言って締めくくる。

 

「……なぜ八雲は知っていたのかしら」

「さあそこまでは暴露してくれなかったから分からないわね。聞いてみたら?」

もっとも重要なのはそこではないのだけれど

 

「……門番が帰ってきたら問い詰めよう。八雲も」

一筋縄ではいかないと思うけどね

まぁ黙ってた方が面白そうだから余計な口出しはしないでおきましょう

 

「そうね。そうしてみたらいいんじゃないかしら」

適当に相槌を打っておく

ここからはティータイムと読書に専念させて貰おう

そう思い、私は紅茶と本を手に取った。

 

 

 

 

 

 

side 美鈴

―――白玉楼 門前―――

 

こんにちは。紅美鈴改めメアリー・スカーレットです。

あの後宴会を抜けてゆかりんの家に行こうとしたんだけど、いつの間にか西行寺幽々子が後ろにいました。

「私も混ぜてくれない?」的なことを言ってニッコリしてましたが、あれですね。「連れてかなかったら分かってるわよね」な空気を感じました(冷や汗)

 

そして「場所が必要なら白玉楼をどうぞ(ニッコリ)」に逆らえず、冥界までやってきてしまいました。

……なのになぜ私(と妖夢ちゃん)だけ門前に取り残されてるんでしょうか。

ゆかりんは「幽々子と話をつけてくる」って言ってましたけど、同席しちゃダメなんですかね……

 

あーお腹すいたなー

何かもう雲が食べ物に見えてきました。

あれなんかアイスクリームみたいですね。

 

「美味しそうね……」

あ、いけません。つい口に出してしまいました。

 

すると今まで微動だにしていなかった妖夢ちゃんが動く気配がしました。

見るとこちらをじっと見つめています。

……もしかして妖夢ちゃんもお腹が空いているんでしょうか。

……これはこの話題で気まずい雰囲気を吹き飛ばすチャンス!

さっそく話しかけてみましょう!

 

 

 

 

 

 

side 妖夢

 

「美味しそうね……」

私がどうしたら良いものか思案している時、その言葉は聞こえてきました。

 

見るとメアリーさんは前ではなく空を見ています。

一体何を……?

そしてそれが分かった時、思わず私は後ずさりしてしまいました。

 

彼女が見ていたのは雲でした。しかしその形が問題だったのです。

 

……それは私の半霊にそっくりな雲でした。

そして彼女は今、私のことをじっと見つめています。

 

(く、喰われる!?)

じっと私を見つめる彼女から気迫のようなものを感じて、その言葉が脳裏によぎりました。

あのスカーレット姉妹の母親ということは吸血鬼なのでしょう。

吸血鬼が半人半霊を食べるのかは知りませんが、あり得ない話ではありません。

……何とかしてそらさないと…!

 

「……(私は)冷たいから止めておいた方が良いと思いますよ?」

まずは欠点を伝えてみる。これで諦めてくれないだろうか。

 

「……あら、冷たいのがいいんじゃない」

まさかの欠点を肯定される事態。

吸血鬼は冷たい血の方が好きなのかっ……!

 

「ゆ、幽々子様が認めてくださるかどうか……」

幽々子様の名前を使わせて貰おう。同じく紫様の知古である幽々子様なら……

 

「幽々子も好きかもしれないわよ?」

そんな馬鹿な!

いくら幽々子様が健啖家とはいえ、まさか私の半霊まで食べるはずが……

食べる…はずが…

……

……否定しきれません!幽々子様!

 

「い、今は紫様と幽々子様をお待ちしている状況ですし……」

「なら、後でなら問題ないのね?」

ぎゃあああ墓穴掘った!

万事休すだ……どうするっ……!

 

「二人ともおまたせ……あら、どうしたの?」

あっ 幽々子様!

やった!助かった…!

 

「い、いえ何でもありません」

「そう?それじゃあ門番はもういいわ。通常業務に戻りなさい」

「かしこまりました!」

良かった、幽々子様が来てくれて。これで一安心だ。

……そう思って門をくぐろうとした私の耳に、小さな声が届いた。

 

「……また今度、ね」

……それはまさに悪魔の囁きで…きっと逃れられないんだろうと私は悟ってしまいました……

 

 

 

 

 

 

side 幽々子

 

……どうしたのかしら妖夢は。メアリー・スカーレットと何か話していたようだったけど……

私が声をかけるとパッと表情を輝かせたかと思うと、今度は何か諦めたような面持ちで庭に戻って行ったわ……

 

「ねぇメアリーさん……でよろしいかしら」

「メアリーで構わないわ。それで何かしら?」

「……じゃあメアリー。妖夢と何を話していたの?」

「なんてことはない世間話よ」

「……そう。とりあえずお待たせしたわね。中にどうぞ」

「失礼するわ」

そう言って門をくぐるメアリーを背後から見つめる。

 

……世間話って言ってたけど、あの妖夢の様子からはそうは思えないわ。

紫の話もあったから一応は招き入れるけど……

じっくり観察する必要がありそうね……

そう考えながら、私はメアリーと紫と共に、白玉楼の中に入っていった。

 

 

 

 

 


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