紅美鈴には秘密がある   作:テッソルムリア

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今回はちょっち短め。
その代わり、次話までもそんなに掛からない予定です。






「月の兎は何見て笑う」

私、鈴仙・優曇華院・イナバには一日の決まったサイクルというものがある。

 

 

朝早く起き、当番であれば朝食の支度を。

そうでなければ掃除、洗濯などの家事を執り行う。

 

 

朝食の片付けが済んだら家事の続き、またはお師匠様の手伝い。

昼食は皆食べないことが多いので、用意するのは稀だ。

 

 

午後はお師匠様の手伝いが多い。

偶に人里へと薬を売りに行くこともあるが、あまり気乗りはしない。

が、言われれば行くしかないのでどの道関係はない。

 

 

薬売りから帰ってくれば夕食の準備、または湯殿の用意。

これも当番制だ。

それらが済み、諸々の後始末が終われば一日の終わりも近い。

 

明日の下準備を済ませ、自室で今日学んだことのまとめをする。

それから就寝する。それで終わり。

あとはそれの繰り返しだ。

 

 

もちろん当番の有無や買い出しの日程、お師匠様や姫様からの急な頼まれごとなどによってある程度変化はある。

……そして今日はそんな変化があった日であった。

 

 

今日は人里へと薬売りに行く日。

いつもであれば夕刻には帰路についているのが普通だ。

 

 

しかし既に夜の帳が下り、月が辺りを照らしている。

こんなに遅くなれば普段だったらお叱りは免れないだろう。

 

 

それなのに何故未だ悠然と歩いているのか。

何てことはない。『頼まれごと』があったからだ。

そのため今日の分の家事は免除されている。

もっとも……成果を上げなければ結局は叱られるのだが。

 

 

だからこそ、ここまで遅くなったとも言える。

叱られるのは元より嫌だが、どうせなら最上の成果を上げたい。

そう行動した結果、思ったより時間が掛かってしまった。

 

 

だがその甲斐もあって、概ね満足のいくものは得られた。

後は永遠亭に戻り、報告を完了させるだけである。

 

 

……今日行なったのは、いわゆる聞き込みである。

どうやら先日、人里で何やら動きが有ったようだ。

お師匠様は何か感じる所があったようで、その事について調べてくるようにと頼まれたのだ。

私は薬を売る合間に、世間話のような感じで情報を集めた。

 

 

結果としては、大当たりだった。

お師匠様の勘が見事的中したことに、密かにほくそ笑んだことは秘密だ。

いつもならしないような、世間話をした甲斐があったというものである。

 

 

人里の者たちの話をまとめるとこうだ。

昨日、稗田家に数人の者が入っていくのを目撃した。

それらの者達の特徴を照らし合わせると、誰が現れたのか判明した。

その内訳はこうなっている。

 

 

山坂と湖の権化 八坂神奈子

妖怪寺の魔住職 聖白蓮

聖徳道士    豊聡耳神子

 

 

……この時点でもう面子が凄まじい。

が、更に紅魔館のレミリア・スカーレット、パチュリー・ノーレッジ。

そして……八雲紫とメアリー・スカーレットらしき人物もいたようだ。

 

 

メアリー・スカーレット。

宴会の席で巻き起こした衝撃は、今も記憶に新しい。

あの威圧感は生半可な妖怪が出せるようなものではない。

思わず臨戦態勢を取ってしまった私は悪く無いだろう。

 

 

―――まさかあの門番がああなるとは。

いや、彼女からしたら門番の方が偽りの姿だったのだろうが。

そう思うと、あの人懐っこい笑みも演技だったのかと疑いが湧いて出てくる。

 

 

一応、波長を読み取ってある程度分析しようと試みた。

が、安定しない。

閻魔様のように位相がずれているわけでもない。

結論としては『よく分からない』としか言い様がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかく警戒するに越したことはないだろう。

今は早く戻ることが先決だ。

 

 

そう思って足を早めようとした私はピタリと止まる。

 

 

……先程言ったように、私は人の波長を読み取ることが出来る。

その中でも極端に短かったり、長かったりする特徴的な人物は近くにいるとすぐに分かる。

 

 

そして今。私が感じている波長は。

()()()()()()()()()()()()()ものだった。

 

 

冷や汗が流れる。

思わず膝が笑ってしまいそうだ。

 

 

 

なぜなら

 

 

感じた波長は一つではなかったから。

 

 

 

 

後ろを向く

そこには

 

 

 

 

 

「あら、兎さん。こんばんわ」

 

 

 

艶やかに

妖艶に

微笑む

 

 

 

賢者達の姿があった

 

 

 

 

 

 


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